※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

31 / 39
前後編同時投稿です。
こちらは後編なのでお間違えのないようお願い致します。


千の冬終わりし時-後編-

 

両者の間を、一陣の風が吹き抜ける。

 

 

その身を漆黒の装甲とマントで覆った少年は、両手に楔型の獲物を持ちジッと宿敵を見つめている。その双眼のカメラ・アイ越しから向けられる憎しみの感情は、織斑千冬を震えさせる。今まで感じた事のないプレッシャー、かつて世界を相手にした時よりも昂ぶる感情、最大級の障害をこの手で叩き潰せるという恍惚感が彼女を満たす。

 

 

「行くぞ、亡(・)霊(・)」

 

 

「来いよ、最(・)強(・)」

 

 

何処かで鳥が鳴き、太陽の光がビルの窓に反射する。木の葉が風に舞い、亡霊のマントが靡く。刹那、超高速で移動し激突した二機の衝撃により、周囲に存在するビルの全ての窓ガラスが粉々に砕け散った。刃を押し付け合いながら凄まじい速度でビルの間を飛び抜ける二機の動きは、ISのハイパーセンサーを持ってしても追い続けることが難しい。ゴーストと千冬の動きを楯無達の視線が追い、途中、体当たりにより粉砕されたビルの破片が地面へと容赦無く降り注いで行った。ビルを突き抜け、空に飛び、太陽の光の中で火花が飛び散る。

 

 

ゴーストが手に持ったゴースト・ビットの先端から放たれたビームを暮桜は身を逸らすだけで躱し、反対に千冬が真下から振り上げられた雪片をダークバレットはビットで受け流した。鍔迫り合いの状態で二機は高層ビルの天井を突き破り、床を打ち抜き激しく斬り合いながらビルの中層から飛び出してくる。空中を舞っていた大きめの破片をゴーストが千冬目掛けて蹴り飛ばすと、千冬は一刀の下その破片を粉々に粉砕した。だがその粉塵を突き抜けて飛来した六本のビームが迫ると、彼女は雪片の面を向けてビームを受けながら最小限のダメージに留め直撃を避ける。そして雪片から顔を覗かせたところで次に目に入ったのは、急接近していたダークバレットの足の裏。その蹴りを装甲の無い腹部に受け、千冬は蹴りの衝撃に身体を回転させながらビルの壁を突き抜けた。だが次の瞬間には両手でしっかりと掴んだ雪片を構え瞬時加速を行い、強烈な突きをゴーストへと繰り出す。展開していたビットを正面に集めて重ね盾を造ったゴーストだったが、一番最初に直撃したビットが粉々に砕けたのを見るやいなや即座にビットを散開させ千冬が飛び出してきたビルの上層をビームで撃ち抜いた。

 

 

「っ!」

 

 

崩壊したビルの上層部分がそのまま千冬目掛けて落下し、千冬がそれを切り裂いた時には既にゴーストは身を隠していた。だが千冬は自らを狙う複数の気配を感じており、事実今しがた切り裂いたはずのビルの破片の中から複数のビームが飛び出して暮桜の脚を僅かに焼いた。そしてそこから飛び出してきた二基のビットは千冬目掛けて直進し、破壊しようと振るわれた雪片を横向きに回転して避ける。そしてその二基が黒い粒子と消えると、千冬は突如真上に向けて雪片を持つ腕を振り上げた。その太い刃に黒いビームで覆われたビットがぶつかり、更に真上からは両手にビットを持ったダークバレットがビームを放ちながら降下して来ている。

 

 

千冬は雪片を振るいビットを弾くと、ゴーストの斬撃を受け止めた。余裕を持って片手で雪片を持っていた千冬だったが、僅かに刃が押し込まれるのを感じるとすぐに両手で柄を握り締め力任せに相手を押し出した。押されたゴーストはそのまま後ろに向けて飛び上がるとクルッと機体を反転させる。はためいたマントの中には腰に接続されたビットの砲門が千冬を向いており、そこから放たれたビームを千冬は再び雪片の面で防ぐ。だが敵のいる上側に意識を集中させていた千冬を、真横から飛来したビームが混乱させた。右の脇腹を焼かれ体勢を崩したことで、続けざまに放たれた上からのビームを防ぎきれず肩を焼き、千冬は身を捻りながら真横から来たビームの出所を一瞥する。そこにあったのは、ビルに半分突き刺さった状態で千冬に砲門を向けていたビット。ついさっき弾き飛ばしたばかりのものだ。

 

 

「姑息な真似を------ぐっ!」

 

 

そのビットが粒子と消えたと同時に千冬に真上から強い衝撃が掛かり、彼女は血走った目で視線を背後へと向けた。そこではダークバレットがピッタリとくっ付いており、ゴーストがそのまま地面に自分を叩きつけるつもりなのだと理解した千冬は瞬時加速により無理矢理軌道を変えると、ビルの壁を突き破ると同時に脚を振り上げて黒い装甲を蹴り飛ばした。そしてすぐさま振るわれた雪片が二つ目のビットを粉砕すると、ゴーストが持っていたビットから放たれたビームが三度暮桜の装甲を焼く。

 

 

「チマチマチマチマと攻撃して、このブリュンヒルデを倒せると思っているのかぁ!!」

 

 

叫ぶ千冬を前にゴーストは無言で飛び上がり距離を取ろうとすると、激昂した千冬もまた加速し雪片を勢い良く振るう。それをビットで受け流そうとしたゴーストだったが、雪片の刀身が妖しく輝くのを見るやいなや上体を逸らして一気に地面目掛けて後ろ向きに降下して行った。それを追う千冬の口元は、歪な笑みに歪んでいる。

 

 

「中々良い判断だ。だがこの零落白夜から逃れられると思うなよ、亡霊(ゴースト)ッッ!!!」

 

 

ゴーストを追い掛ける千冬は零落白夜を発動した雪片を握り締め、ゴーストを追い込むようにその刃を振るう。ビットで受け流すことをせずに回避に集中しようとするダークバレットのマントを、雪片の刃が容赦無く切り裂いていく。端の部分からボロボロになっていくマントを見ながら、千冬は雪片を打突の構えで突き出し笑った。

 

 

「死に損ないにはお似合いの格好だ、もっと汚してやるぞ!」

 

 

「お断り------だッッ!!!」

 

 

突き出された雪片の先端を上体を逸らして躱したゴーストはそのまま千冬の腕を取ると、左手で雪片を掴む手を押さえながらその顔面に右肘を叩き込んだ。目を覆っていたバイザーが砕け、飛び散った破片で皮膚を傷つけられた千冬の素顔が露になる。その目がゴーストを捉えると、押さえていたはずのゴーストの身体はISごと押し出された。怒り心頭といった様子の千冬を前にゴーストは獲物を両手に握りなおし、彼女が再び襲い掛かってくる前に口を開いた。

 

 

「自分の弟を世界で唯一の存在にしたかったそうだが、その方法がこれじゃあな。後世の歴史家に笑われるぜ、織斑一夏は姉の力でのし上がった最(・)弱(・)最(・)悪(・)の(・)軟(・)弱(・)者(・)ってな」

 

「ふん、安心しろ。後世の歴史家なぞ生まれない」

 

「ああ、そうだな。お(・)前(・)ら(・)が(・)死(・)ん(・)だ(・)後(・)に(・)生(・)ま(・)れ(・)る(・)か(・)ら(・)な(・)」

 

「ほざけ!」

 

 

千冬の腕から振るわれる雪片の鋭い斬撃を受け止め、或いは受け流しながら、ゴーストは僅かに冷や汗を掻き出していた。少しずつダメージを与え押しているのは自分のはずだったが、それでも千冬の動きは遅くなるどころか洗練され始めていて段々と装甲を刃が掠る回数が増えてきている。新しくダークバレット/マクシムスに搭載された妨害装置を使えばシールドバリアーは正常に機能しなくなり、全身装甲で無い暮桜の腹にでもビットを突き刺せば恐らくその肉体を容易に切断するだろう。だがそれは自らのシールドバリアーを消滅させる事と同じで、世界最強の近接戦闘が得意な相手に近づかねばならないことに他ならない。もし不用意に発動し隙を作りでもすれば、真っ二つにされるのは自分の方だ。

 

 

(タイミングを誤ってぶった斬られるか、このまま動きを読まれてぶった斬られるか……どっちもどっちも------ッ!?)

 

 

思考の合間を突くように突き出された雪片から逃れようと飛び上がったゴーストを嘲笑うように、一瞬にして暮桜がその更に真上へと飛び上がる。そしてゴーストが振り返るよりも先にそのマントを突き抜けた雪片が背中に突き刺さり、ゴーストの身体はそのままビルの屋上を突き破り一気に地上まで全ての階層を破壊しながら押し付けられた。その衝撃で更に雪片の先端が刺さり、装甲を貫通した僅かな部分がゴーストの背中を傷つける。

 

 

「ッ! ビットォ!」

 

 

苦し紛れに口から吐き出された言葉に機体が反応しゴースト・ビットを展開すると、ゴーストはビームを避けた暮桜ごと雪片が離れたのと同時に崩れいくビルから飛び出してすぐ近くのビルの中へと飛び込んだ。ISを解除し、生身のままただっ広いオフィスの中で身を潜める。その身を包むISスーツの背中からは、僅かに赤い血が流れ出ていた。

 

 

(っ、クソ……止血機能を作動、同時にレーダー範囲を縮小し精度を------)

 

 

傷口の軽い治療を行うゴーストを誘き出す為か、突如ゴーストが隠れる為に飛び込んだ階層が吹き飛び大量のコンクリート片やデスクの残骸がその傷を負った身体を覆い隠した。そして壁ごと内部の一部を吹き飛ばした雪片を肩に担いだ千冬もまたゴーストが隠れた階層に降り立つと、装甲を解除してゆっくりと彼を捜す為に歩き出す。その階は一部の壁の殆どが吹き飛び光が差し込んでいたが、奥の方はまだ残っていた上の階の天井とショートし消えてしまった電灯により薄暗くなってしまっている。その中を千冬は進み、楽しそうに声を上げた。まるで自分の友人や兄弟と公園で遊んでいる、幼い子供のように。

 

 

「どうした、かくれんぼか? 勝手に鬼にされたのは気に入らないがまあ良い、付き合ってやろう。一度きりだぞ」

 

「……ハッ、良いのかい? ISを解除してホイホイ乗り込んで来るなんてよ。俺のビットが手前を狙ってるかもしれないぜ」

 

「その時は貴様ごとこのビルを崩壊させるだけだ。例え貴様が先に撃ってきたとしても、私には通じんよ」

 

「そうかい、なら------ッ!」

 

 

何処かから聞こえてくる声を捜しながら、千冬がある部屋の半壊したドアを蹴り外し中を覗いた途端、別の物陰から飛び出してきたゴーストが手に持っていたものを千冬の後頭部に叩き付けた。それは千冬の後頭部に叩きつけられると同時に砕け、小さな粉塵となって舞い上がる。ゴーストが使ったものは、崩壊した壁の一部だったコンクリートだ。硬いそれを頭部に叩きつけられた千冬はガクッと膝をつき振り向いたが、既にゴーストの姿は視界には無く、千冬は顔に血が流れ出ているのを指で触れて確認して声を荒げた。

 

 

「ふふふははははは! 痛いじゃないか浦城、生身でなら私を倒せるという確信でもしたか? 良いぞ、何度でも殴り掛かって来い。私もお前をこの手で絞め殺したいと思ったところだ!」

 

 

返事は無くとも千冬はゴーストが何処かで自分を見ている気配を感じており、それから不意を突かれ二度程彼の攻撃を受けたが髪が血と粉塵で汚れるのも構わず、千冬は階の一番奥まで到達した。そこは丁度彼女が吹き飛ばした壁の反対側で、明かりも無く真っ暗だ。

 

 

「さあ、どうする浦城? 私には何も見えないが貴様には見えているのだろう? その機械の右目で、私の姿を捉えているのだろう? 遠慮することは無いぞ、ほら、掛かって来い!」

 

 

小さめのコンクリート片を片手に持ち腕を広げながら千冬がそう言った途端、ガタッという音と共に暗闇の中で何かが倒れる音がした。千冬は一旦そちらへ注意を向けるものの、すぐに音がしたのとは逆方向に向けその手に持ったコンクリート片を振るう。すると鈍い音と共に手の中でコンクリート片が砕け、同時に男の呻き声のような音と共に何かが暗闇の中で倒れた。

 

 

「おや、適当に振るったのだが当たってしまったかな? これで同じだな、私もお前も」

 

 

「っぐ……」

 

 

呻き声を上げながら地面を這っていたのであろうゴーストの位置をまるで見えているかのように千冬は歩いて追い、彼が若干ふらつきながらも光の下にその姿を現すと、千冬は即座に暮桜を展開し直し生身のゴーストに向けて雪片を振るおうとした。だがゴーストも先にゴースト・ビットの展開を終えており、複数のビットに挟み込まれるように雪片を止められた千冬の前で、ゴーストはその身を黒い粒子で隠し黒い装甲を装着し直す。そして再び纏ったISの力を使い、ぶつかり合った衝撃で半分崩れかけていたビルが完全に崩壊することになった。

 

 

二機は刃をぶつけ合いながら上空へと上昇していき、二人の戦闘によりボロボロになった街を眼下に壮絶な近接戦を展開する。ゴーストはマントを靡かせ、両手に持ったビットと周囲に展開したビットによる射撃を織り交ぜながら雪片の装甲を削っていく。千冬もまた雪片の柄をしっかりと両手で握り締め、ビームを刃の面で防ぎながらダークバレットの装甲を削る。エネルギーも著しく消費されていき、その点で言えば全身装甲であるダークバレットの方がまだ余裕があった。だが千冬には零落白夜があり、その直撃を受けてしまえば幾ら装甲が残っていたとしても何の意味も無い。それはゴーストが妨害装置を起動させても同じ事で、ただどちらかが確実に敗北する結末だけが確定していた。

 

 

「世界を騙し、共犯者を騙し、弟すらも騙し通して、お前には一体……何が残る!」

 

「心理戦のつもりか? 甘いぞ浦城! 私には一夏さえいれば後は何もいらない、一夏さえ無事ならばそれで良いのだ! アイツを傷つけるモノは全て私が消し去ってきた、両親も、旧友も、そしてこの世界も! 一夏を危険な目に合わせる原因を作ったのはあの束だ、奴がISなどという不完全なものを作り上げ興味本位で私と一夏を祭り上げようとした! 一夏は優しい、だが歪んでいる。私がそう育てたからだ! 私の、私の為の一夏でいさせる為に! そんな一夏が世界で唯一の存在になるのなら、私はその立場を守らなければならない! だから他の男共を抹殺し、その存在を絶対のものに仕立て上げた! だが貴様が現れた! 貴様がいなければこんな事にはならなかったというのに!」

 

「そうだ! 手前が姉さんを殺し俺を殺そうとしなければ、こんな事にはならなかったはずだ! 結局手前は自分のエゴを振りかざし、家族を道具として見つめて欲求を満たそうとしていたに過ぎない!」

 

 

雪片を弾き、ビットの表面を覆うビームが暮桜の装甲を焼く。

 

 

「自分の理想を追い求めて何が悪いという! 私からすれば復讐に駆られ堕落した貴様の茶番劇に付き合わされているだけなのだがな!」

 

 

「賢しいフリをしているだけの女が、偉そうに踏ん反り返るな!」

 

 

ビットを持った腕が雪片に弾かれ、がら空きの胴体をその刃が裂く。

 

 

「家族の幸せを願う事の何処が悪い!? 何を拒む!? 私の全ては、一夏の為にある!」

 

「その家族に自分の思いを話したことがあるのか! 心の中で決め付けて、勝手に行動して、家族だから分かってくれるとでも思っているのか!」

 

「分かるさ! 家族なのだから、一夏も! たった二人の家族の絆は、確かに存在している! 私の心に!」

 

 

二つの刃がぶつかり合い、二人の人間の思いもぶつかり合う。傷だらけ血だらけの二人は何度も弾き合いぶつかり合いながら、確実に互いの命を削り合っていく。

 

 

「自分の家族の為に! 自分の一方的な自己満足を満たす為に家族を欺くような奴と共に居て幸せだと! だからお前は賢しいフリをしているんだ、織斑千冬!」

 

 

「貴様に何が分かるというのだぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 

絶叫と共に振るわれた雪片の刃がダークバレットの装甲に直撃する。その時千冬は、確実に自分が勝ったのだと確信していた。このまま腕を振るえば、目の前にいる邪魔者は真っ二つになり死に絶える。その光景を思い浮かべ、現実のものとする為に千冬はグッと腕に力を込めた。だが。

 

 

「な、に……?」

 

 

どれだけ力を込めても、彼女の腕と雪片はダークバレットの装甲を断つことが出来なかった。良く見てみればダークバレットの右手が刀身を掴んではいるが、それだけでは全く刃が動かない理由にはならない。千冬の中に初めて疑問と焦りが生まれ、ゴーストの左手が自分の首に掛けられるのをただ見ることしか出来ないでいた。

 

 

「これは……どういう……っ!?」

 

 

そして千冬は気付く。最初に彼女が追っていたIS学園から逃げ出した専用機持ちと謎の男二人による一団がこの崩壊したビル群に到着していたことに。眼下に広がるビルの残骸の上にISを展開して並び立つ彼女達の中でも一際目立つ、黒く分厚い装甲を持ったIS。その自らを見上げる長い銀髪をした、かつて自分のことを教官と呼び慕っていた少女の決意を込めた眼差しに。ラウラ・ボーデヴィッヒの思いの篭ったシュヴァルツェア・シュタールのAICが、自分の腕を静止していることに。

 

 

「ラウラぁぁぁぁっ!!」

 

 

千冬の脳裏に最初にAICで動きを止められた光景が蘇る。出力が上がり自由度が増したAICから逃れるのは、彼女にとっては難しくも無い。だが、今の彼女にはその僅かな時間すら残されてはいなかった。

 

 

「卑怯だと言うのなら、地獄で喚け。織斑千冬」

 

 

「わ、私は、私は------」

 

 

ギリギリの状況で妨害装置を起動させたゴーストは左手で千冬の首を掴むと、グッと力を込めて思いきりそ(・)の(・)喉(・)の(・)肉(・)を(・)引(・)き(・)千(・)切(・)っ(・)た(・)。鮮血が噴出し、ダークバレットのそのマントと黒い頭部装甲を赤黒く染め上げていく。左手の中にあった肉片を投げ捨てたゴーストが雪片の刃を握っていた右手を離すと、呆然とした顔のまま喉から大量の血を噴出している千冬の身体は展開した暮桜ごとゆっくりと墜ちていき、そして地面に叩きつけられた。PICすら満足に利用出来ない程のダメージ。咳き込みその口と肉の無い喉から血を吹き出す千冬を楯無達は見下ろし、ラウラはゆっくりと脚を動かしてかつての恩師へ近づこうとした。

 

 

だがその腕をシャルロットが掴んで引き止めると、彼女の目の前で急降下してきたゴーストが地面に降り立った。凄まじい勢いに砂埃が舞い、衝撃が彼女達の足元を揺らす。ゴーストのその手には楔型のゴースト・ビットが握られており、そしてその先端は織斑千冬の上半身と下半身の繋ぎ目があ(・)っ(・)た(・)場所に突き刺さっている。目を見開いたラウラとシャルロットを鈴とセシリアが後ろに下がらせると、アキラに身体を支えられた楯無が二人の視界を遮るように前に出た。二人の視線の先には、ビットにより切断され吹き飛ばされた千(・)冬(・)の(・)下(・)半(・)身(・)が地面に転がっている。

 

 

「ハァーッ、ハッーッ……ハァ、ハァ……ふぅ……!」

 

 

楯無達の目の前でダークバレットを解除したゴーストは息を荒くしながら立ち上がると、その左手に拳銃を呼び出した。姉の形見であるベレッタ92G エリートIA、何時でも使えるように量子変換していたものだ。その銃口を、ゴーストは静かに地面に仰向けに倒れている千冬の顔に向ける。喉を引き千切られ呼吸もままならず、更に下半身を分断されても彼女はまだ何とか生きており、ゴーストはその止めを刺すつもりだった。自らの手で、復讐の為に。

 

 

眼下で血塗れの顔をして震えている千冬を見下ろし、ゴーストはカチッと銃のセーフティを解除しハンマーを起す。その焦点の合っていない目をした千冬に向け、ゴーストは力の篭った声で呼び掛けた。息混じりの、震える声で。

 

 

「織斑千冬。……おい、こっちを見ろ。こっちだ、俺を、俺を見るんだ。俺を見ろ! 織斑ァ!」

 

 

「っ……く、ひゅ……っ、ぁ……」

 

 

僅かに動いた千冬の目がゴーストを捉えると、ゴーストはその身体を震わせながら引き金を引いた。バンッ! という乾いた銃声と共に千冬の脳天に風穴が開き、ビクッと跳ねた上半身と共に見開かれた千冬の視線が空に固定される。続けてバンッ! バンッ! と銃声が響き、千冬の上半身がビクビクと跳ねる。ゴーストは弾が無くなってもまだ引き金を引き続け、そしてカチカチと引き金を引く虚しい音だけを響かせていたゴーストを止めたのは、専用機持ち達の誰でも無く、何処からかやってきたマドカだった。元々彼女はスコールとゴーストからの命により専用機持ちを監視しており、織斑千冬が現れた事をゴーストに報告したことからこの最初の復讐を果たす戦いが行われたのだ。哀しそうな表情をした彼女はゴーストの銃を持つ手を優しく自分の手で包み込み、その拳銃を受け取るとギュッとその身体を抱き締める。マドカの腕の中でゴーストは身体を震わせ、その腕でマドカの身体を抱き締め返した。縋るように、助けを求めるように。

 

 

「終わったんだな、最初の復讐が。終わったんだな、ゴースト」

 

 

「ああ、終わった。終わったよ、マドカ。……あと、二人……あと二人だ」

 

 

かつての仲間達が見守る中で、ゴーストはマドカから離れるとドサッと千冬の上半身だけの亡骸の傍に両膝をついた。そのおぼろげな瞳は額に風穴が開き、白目を向いて、胸にも多数の弾痕のある身体を順に見つめ、ゴーストはポツポツと小さな声で呟き始めた。誰に言うでもなく、自らに言い聞かせる訳でもなく。

 

 

「見てみろよ……。あんなに、あんなに綺麗だった人が、こんな酷いことになって……こんな、こんなに……俺が、俺がこんな目に合わせたんだ。この人を、こんな酷い身体にして……ハハハ、ハハハハハハハハ! ククッ、クフフッ、フフフフフフフフフフフフ」

 

 

「京介……?」

 

 

シャルロットが急に壊れたように笑い出したゴーストを前にして彼の本名を口に出すと、ゴーストは強く地面を殴りつけて叫び始める。その姿は幽霊ではなく、まるで浦城京介としての彼が戻って来たようであった。彼の慟哭が、虚しく響き渡る。

 

 

「ハハハハ! ハハハハハハ! っ……はは、は…………そうだよ、アンタは……アンタはァ! アンタはただ一夏と二人で暮らしていけるようにしていれば良かったんだ! それをあんな束みたいな奴を利用しようとして、不恰好な力を持って、それで自分達以外を皆殺しにしようなんて! 家族の大切さが分かっているのに誰かから家族を奪って! そうやって……そうやってお前は束程度の女に唆されて! アンタはそんな人じゃないって信じたかったんだぞ俺はぁ! うわああああああああああああああっ!!」

 

 

涙を流しながらの絶叫、それを聞いたシャルロットがゴーストに近づこうとしたが、それは拳銃を構えたマドカによって止められた。言葉は無くとも、彼に近づくなという強いメッセージを秘めた眼差しに押されたシャルロットは小さく頷いてその場に留まる。その場にいた誰もが、追い詰められた少年の思いが果たされた瞬間の証人となった。

 

 

「ゴースト、もう戻ろう? みんなが待っている。今日はもう休むんだ」

 

 

「俺は……畜生、畜生! まだだ、まだ終わってねえ、アイツも、篠ノ之束も、一夏の野郎も、殺してやるっ! こいつみたいに、俺がこの手でぶっ殺してやる! クソォォォォォ!」

 

 

未だ不安定さを見せているゴーストにマドカが語り掛けながらその身体を立たせると、そのマドカに向けて楯無があるデータメモリを投げ渡した。突然のことに一瞬呆気に取られたマドカだったが、すぐにハッとするとゴーストを庇うようにしながら楯無へと銃口を向ける。だがそんなマドカを前にしても、楯無は冷静な口調で語り掛けた。

 

 

「大丈夫、私達に敵対する意志はないわ。そのメモリには私の連絡先とこちら側で入手したデータが入っている。そっちが知っているものもあるかもしれないけど、良かったら使って頂戴」

 

「……分かった」

 

「それと……もし誰かの力が欲しくなった時には私に連絡を。出来る限り協力出来ることはさせてもらうわ、今のところ目的は同じのようだし」

 

「ふん、どうだかな」

 

 

マドカは楯無の言葉に冷たい返事を返すと、サイレント・ゼフィルスを展開しゴーストの身体を抱え込んだ。そして楯無達を一瞥すると、何処かへと飛んで行ってしまった。後に残された楯無達は千冬の亡骸を囲み沈痛な面持ちになり、一人その輪から離れたアキラは離れたところにあった下半身を元の位置に戻すべく手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

この日、織斑千冬の死の報は世界中を駆け巡った。この時点で既に世界の約三割を壊滅させられていた世界は更に奮起し、戦況は五分五分へと縺れ込む。だがこの結果が束の激しい怒りを買い、戦いがより熾烈さを増していくのは誰の目にも明らかなのであった。

 

 

戦いはまだ、終わらない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。