※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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覚悟

 

「ちーちゃん」

 

 

IS学園の地下特別区域、その一番奥の部屋に篠ノ之束はいた。真っ暗な部屋にある巨大モニターの明かりが、彼女のその虚ろな顔を照らしている。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

巨大モニター一杯に映し出されているのは、無残な姿で廃墟の中に放棄された織斑千冬の姿。既にゴーレムがその遺体を回収するべく行動している。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

束の背後には、大きなカプセルのようなガラス容器がある。それは緑色をした液体が満たされ、中に身体を抱えるように一夏が浮かんでいた。目を閉じ呼吸器を付けられたまま、一夏は静かに眠っている。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

更に容器の奥には広大なスペースがあり、そこには所狭しとISが並んでいる。ゴーレムとは別に開発された大量の無人機。一機一機が違う姿、性能の第四世代型IS。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

そのISが一斉に起動する。立ち上がり、武器を構え、主の指示を待つ。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

束がすっと手を動かすと連動して天井が開き、IS達は一斉に飛び出して行った。その目的は、世界の破滅。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

空っぽになった空間に、新たに紅いISと白いISの軍団が現れる。それは千冬クローンの乗る量産型【紅椿】と【白式】。量産に伴い全身装甲化し一部の機能をオミットした紅椿と白式は膝を付き、束に頭を垂れる。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

自らを護る騎士達に振り向いた束の表情には、何の感情も無かった。右手を振り上げ、それをただ真っ直ぐに振り下ろす。それに合わせ、紅と白の戦士達は一斉に飛び上がり世界へと向かって行く。全ては世界を滅ぼす為に、全てはオリジナルの無念を晴らす為に。

 

 

「ちーちゃん」

 

 

乾いた言葉が、虚しく響いた。

 

 

 

 

 

織斑千冬の死から一週間、世界はその六割が壊滅状態にあった。死者及び行方不明者は今尚増え続けている為不明であり、現存するISも約半数が失われ各国軍もほぼ全滅状態に近い。国家代表も半数が死亡し、世界は終焉の時を迎えつつあった。新たに現れた高性能無人機が各国軍を攻撃し、量産型紅椿と白式が国家代表を次々と討ち取っていったのである。

 

 

 

「------私達幹部も、もう半分もいないのね」

 

 

ドイツ・イゾルデ社。社長であり亡国機業幹部会の一人であるイゾルデは、傷だらけの身体で自身のオフィスの椅子に座っていた。亡国機業の一員として部下を率いドイツに侵攻してきた無人機と戦っていたが、部下は全員死亡し自らも大きなダメージを受け命辛々撤退することに成功していたのだ。だがイゾルデ自身も、もう長くないと悟っていた。無人機の攻撃を受けた際、絶対防御を貫通した攻撃が彼女の内臓を激しく傷つけている。口の端から血を流すイゾルデは、デスクの上にある端末の弱々しく指で操作していた。

 

 

「我々の資金、名簿、技術は全てスコールに……。研究施設も爆破、今なら無人機の所為に出来る。後は……後は」

 

 

後は。自らの死によって亡国機業が受けるダメージを最小限にしつつ、イゾルデは自らが遣り残したことは無いか考えていた。まず脳裏に浮かんだのは、自らの全てを注いで完成させたダークバレット/マクシムスのことだった。無人機から得られたシールドバリアー妨害装置を組み込み、更に対ビーム用マントの試作型を搭載、武装はゴースト・ビットのみ。自らが今まで開発してきた中でも最も優れたISは、この戦いを勝ち残れるのか。愚問だとイゾルデは内心吐き捨てるが、それでも自らの死が近づいている状況では不安になるのも仕方がなかった。

 

 

「願わくば……基礎の基礎から、あの伊弉諾も……私の手で創り上げたかった。だが、あの月の兎が……私の思っていた通りの存在なのならば、この戦争も、全て……」

 

 

血と埃で汚れた長い銀髪を手で掬い上げ、イゾルデは端末の操作を終了させた。これでこの家や会社から外部に亡国機業の情報が漏れることはなくなった。後は自分の生命の終わりを迎えるだけ。かつて自身を見下しあざ笑った連中を全て消し、自らの力を存分に発揮し見せ付ける為に亡国機業に入った過去を思い出しながら、イゾルデはデスクの棚の中から一枚の写真を取り出した。家族などいらぬと唾棄し、一人の科学者として生きようとしていた彼女のたった一人の娘。写真に写っているそのたった一人の娘の姿を眺めながら、イゾルデは珍しく柔らかな笑みを浮かべる。

 

 

「ふふふ、この私が……今更ながらもう一度会いたいなどと思うなんて。……なあゴースト、お前がもし表に戻るのなら……娘に、ラウラに……」

 

 

力の抜けた右腕がダラリと垂れ、手から離れた写真はヒラヒラと舞うように地面に落ちる。写真には、シュヴァルツェア・シュタールをその身に纏うラウラの姿が写っていたのだった。

 

 

 

 

 

「イゾルデが死んだ?」

 

 

無人機の攻撃により隠れ家を追われ、次の隠れ家に移動中だったゴーストにスコールがそう告げたのはすぐのことだった。

 

 

「ええ、さっき私の端末に金とデータ一式が送られてきたわ。それにイゾルデ社の工場も吹き飛んでいる。彼女がやったのよ」

 

「……そうか、死んだか。イゾルデでも、死ぬのか」

 

「織斑千冬でも死ぬのよ。不思議ではないわ」

 

 

目の前で揺らぐ焚き火を瞳に宿し、ゴーストは自身の左手を見つめた。一週間前の戦いで彼は仇であった織斑千冬と戦い、勝利し、殺害した。その時織斑千冬の喉の肉を引き千切った感触は、まだその手に残っている。殺害直後こそ過去の記憶に混乱し錯乱したものの何とか持ち直し、ゴーストは前よりも荒んだ目をするようになっていた。

 

 

「……そうだ、世界最強でも死ぬような世界だ。誰が死んだっておかしくはない」

 

「ええ。……けれど困ったわね、このまま行けばやがて物資が足りなくなり私達は戦うことが出来なくなる」

 

「織斑千冬を殺した後から現れる無人機の数が極端に増えたからな。篠ノ之束がぶち切れたんだろう」

 

 

焚き火から少し離れたところで眠っている自分の部下三名を一瞥し、ゴーストは壁に寄り掛かっていたスコールへ視線を向けた。彼女の近くにも部下であるマドカとオータムが眠っており、着ているISスーツもボロボロになっている。

 

 

「最近入って来た情報では、IS学園に大量の無人機が配備されているそうよ。もしかしたら、彼女はそこにいるのかもしれないわ」

 

「可能性はあるが、な。スコール、亡国機業の残存戦力は」

 

「今日本にいるのは私達八人、太平洋上には貴方のヴァリアントにいるエキドナ達三人で……後は各地にいるのを合計して……二十八名ね」

 

「ほぼ半分か……」

 

 

悩む素振りを見せたゴーストにスコールが首を傾げると、彼は突然立ち上がり腰のホルスターに入れていた拳銃を引き抜いて弾数を確認し始めた。そして左手の人差し指の腹で耳元を押さえると、何も無い方向に向けて喋り始める。

 

 

「……俺だ。明日そっちに向かう、敵対する意志はない。以上だ」

 

 

簡潔な内容を言い終えた後振り返ったゴーストは、スコールに向け力強い視線を浴びせる。その目は覚悟を決めた目であり、スコールは何も問うことなく頷いてみせた。例えどんな内容であろうが、貴方の考えに乗ろうと。

 

 

「まだ生き残っている仲間をヴァリアントに回収させろ。一週間以内にケリをつける」

 

「IS学園を攻撃するつもりね」

 

「ああ。俺は奴があそこに居るという確証を得てくる」

 

 

焚き火の火花が一度大きく跳ね、ゴーストの顔を照らす。それを寝たフリをして見つめていたマドカは、ギリッと歯を喰いしばるのだった。

 

 

 

そして翌日、敷島博士の研究所前には楯無達専用機持ちとアキラ、クラウ、真が並んでいた。目の前で織斑千冬が死んだのを目の当たりにしていた彼女達は、そこからより激しさを増した無人機達の攻撃から何とか逃れて目的地へと到着していた。だが世界中が混乱状態の中で国に帰ることも出来ず連絡も取れなかった為、彼女達は敷島博士による改修を受けた戦闘用へと調整された愛機を手にしていても行動が出来ていなかったのである。

 

 

そして昨夜、楯無がゴーストからの連絡を受け、彼がここへ来る。かつての友人達と、クローンと、複雑な関係を持つ者達が漸く顔を合わす時が来たのだ。

 

 

「……あ、あれ!」

 

 

そしてシャルロットが声を上げ空を指差すと同時に、彼女達の頭上に二機のISが姿を現した。一機はボロボロのマントを纏ったダークバレット/マクシムス、そしてもう一機は装甲とシールド・ビットを増設されたサイレント・ゼフィルス。二機はゆっくりと地上に降り立つと、その装甲を粒子と変えてその生身の姿を現した。飛行服のようなISスーツを身に纏う二人の男女がゆっくりと近づいて行くにつれて、楯無達の間に緊張が走る。

 

 

「あの女の子、本当に織斑先生に似ていらっしゃいますね」

 

 

「うん、やっぱりクラウが言ってた通りあの子が……」

 

 

スッと扇子を上げた楯無に合わせてセシリアとシャルロットが口を閉ざすと、ゴーストとマドカが遂に彼女達の前までやって来た。鋭く冷たい目をしたゴーストが彼女達を見回し、そしてアキラ、真、クラウへと視線が移ったところで彼はバッとホルスターから引き抜いた拳銃をクラウへと向けた。それに反射的にアキラも拳銃を抜いてゴーストへ向けると、マドカもまた取り出した拳銃をアキラへと向ける。シグザウエルP239、装弾数が少ないもののコンパクトで取り回しの良い拳銃だ。一気に緊張感の走る状況に、クラウは慌てることなくスッと両腕を上に上げる。何もしないという意思を示す為のポーズだ。

 

 

「警戒しないで欲しい。アキラも銃を下ろしてくれ」

 

 

「浦城君も銃を下ろして頂戴。彼に関する話は中でするから」

 

 

クラウに言われアキラが拳銃を下げると、楯無がクラウの前に出て両手を広げた。ゴーストは変わらず鋭い視線を向けていたが、やがてスッと銃口を下ろすとマドカに向けて右手を上げた。それを受けた彼女は不満そうに銃口を下ろしたが、ホルスターには戻さずしっかりとグリップを握っている。

 

 

「中に入ってくれ、詳しい話をしよう」

 

 

そう言ってクラウはセシリア達を中へと先に入れると、ゴーストとマドカにも入るよう促した。その姿に警戒したままのマドカを連れ、ゴーストもまた研究所の中へ入るのだった。研究所の中は一見すると廃墟のように見えたが、クラウが壁に掛けられていた壊れた電話を弄ると床の一部が開き地下へ降りる為の階段が現れる。彼らがそこを降りて行くと、一人の老人と小柄な少女が待っていた。

 

 

「じいさん、来たぜ」

 

 

その二人に向けて真が声を掛けると、小柄な少女は真の傍まで駆け寄りその背中に隠れた。彼女の妹のような存在であるミリィだ。彼女は真の背に隠れたまま、ジッとゴーストを見つめている。その目の間を、クラウに案内されたゴーストが歩いて行く。瓜二つのその姿に、彼女は混乱しているようだった。

 

 

「兄ちゃん、あの人、クラウ兄ちゃんの兄弟?」

 

「ん? あ、ああ……まあそんな感じかな。ほら、今からアイツら大事な話するみたいだから向こう行ってようぜ」

 

「うん……」

 

 

そう言ってミリィを部屋の奥へと連れて行った真を一瞥し、クラウは大きな部屋の中央にあるテーブルへとゴーストとマドカを誘導した。席に座ってもらうよう促し、自身もまた席に着く。他に席に着いたのは、楯無とアキラの二人。他のメンバーは、テーブル傍に立っていた。ゴーストとマドカが席に着くと、まずクラウが一番最初に口を開いた。自身の正体を話す為だ。

 

 

「まず俺の事を話そう。恐らくその隣にいる少女から聞いたことはあると思うが、俺も彼女同様篠ノ之束によって生み出されたクローン人間だ。開発目的は本物の浦城京介に代わり学園に潜入し、来る時に内部から占拠する際の駒となる為だった。だが------」

 

「だが織斑千冬が先走り俺を殺してしまった為、代わりに潜入する計画は無くなった」

 

「……ああ、そうだ。そこから俺は奴の下でISのテストパイロットをしながら操作技術を学んできた。だが俺と同じ顔をした人間を殺したと笑いながら言えるような連中とは一緒に居られなくなり、篠ノ之束のラボからデータ一式を持ち出して逃げ出したんだ。そうして------」

 

「お前が俺のクローンかどうかも、お前の逃げ出す経緯も、俺にとってはどうでも良い。俺が知りたいのはたった一つ、シンプルな情報だ」

 

 

テーブルの上で足を組んでみせるゴーストに、楯無やアキラは警戒する。左の太腿に付けられたホルスターから銃口が覗いており、クラウに向けられている。そしてゴーストはそのホルスターから見えるグリップに指を這わせており、その気になれば何時でも発砲出来るようにしていたからだ。ただ指を遊ばせているように見せて。

 

 

そんなゴーストを前にしてもクラウは表情を崩さず、一度大きく息を吐いてから改めて問い直した。

 

 

「何の情報が欲しいんだ?」

 

 

「篠ノ之束の居所。それ以外に何かあると思ってんのか間抜け」

 

 

大きくため息をつきながら頭を振ってみせるゴーストにシャルロットとラウラが不安げな表情を浮かべる中、鈴が突然彼にズカズカと近寄りその胸倉を掴んだ。

 

 

「アンタねえ、一体何様のつもりなのよ! 今の状況分かってるんでしょう!? なのに自分のことだけ考えて、世界のことはどうでも良い訳!?」

 

「自分のこと? ああ、確かにそうだがこの戦争の原因の居所を聞いてるだけだ。それが何か問題か?」

 

「それは……っ!」

 

「良いからこの手を離せってんだよクソ野郎。俺はお前達と仲良く雑談しにここに来た訳じゃない。そこの優しい生徒会長が情報が欲しければ来いと行ったから来てやったんだ。違うか?」

 

「ええ、違わないわ」

 

 

鈴の腕を乱暴に振り払うと、ゴーストは楯無へ視線を移した。彼女はテーブルの上に端末を置き、スッとゴーストに向けて押し出す。それをゴーストが受け取ると、端末の画面にはIS学園の現状を示す衛星写真が表示されていた。

 

 

「貴方にも大よその予測はついていたんでしょうけど、篠ノ之束は今IS学園にいるわ。配備されているISの数にしても、クラウ君が持ち出した計画書を参照しても間違いないわ」

 

「計画書……か。奴等……、いや、奴はIS学園に隠れて何をしようとしている?」

 

「篠ノ之束は、IS学園を大きな城にするつもりだ。自分達が住む為の一番安全な場所として」

 

 

楯無に代わり口を開いたクラウにゴーストは視線を上げ、再び端末の画面へと視線を戻す。そこはIS学園の画像から篠ノ之束の顔写真に切り替わっており、写真が縮小されて画面の左側へと移動すると空いた右側のスペースにある人工衛星のようなものの設計図が表示されていた。中にはミサイルか何かを思わせる細長い物が何本も搭載されているようで、ゴーストは首を傾げながらクラウへと視線を移す。

 

 

「米軍が秘密裏に開発していた軍事衛星の皮を被った宇宙兵器だ。米軍は神の杖と呼び、篠ノ之束はトールと呼んでいた。元々は核兵器に代わる戦略兵器として計画されていた兵器で、タングステンやチタン、ウランからなる全長6m程、直径30cmの金属棒に小型推進ロケットを取り付け、高度1,000kmの低軌道上に配備された宇宙プラットホームから発射し、地上へ投下するという代物だ。落下中の速度は約マッハ9.5に達し、激突による破壊力は核爆弾に匹敵するだけではなく、地下数百メートルにある目標を破壊可能だとされている」

 

「そんな大層なものを奴が持っているというのか?」

 

「ああ、何時手に入れたのかは分からないが俺が生まれた時点で奴はそれを何時でも起動出来るようにしていた。そして厄介なことに、奴はそのトールの中に数十発の大量破壊兵器を混ぜている。これが何を意味するか分かるか」

 

「奴は世界各地を一方的かつ一撃で消滅させることが可能、だろ」

 

 

そうだと頷き、クラウはゴーストに端末を返すよう手を出し、ゴーストはフンと鼻を慣らして端末を投げ返す。そしてゆっくりとした動作で立ち上がると、そのままクラウ達に背を向けて部屋を出ようと一歩踏み出した。マドカもそれに続くも、彼女は周囲のセシリア達の視線が気になるのか一度足を止めた。それに気付いたゴーストもまた、振り返り自身に注がれる謎の視線に顔を顰める。

 

 

「何だ、まだ何か言いたいことでもあるのか」

 

「……京介はさ、今ここに居るメンバーを見てなんとも思わない?」

 

「何?」

 

 

シャルロットに問われたゴーストは怪しんだ様子のまま一人ずつの顔を見ていき、そしてそういえばと言うように口を開いた。知っている顔が二人分足りない。

 

 

「ああ、織斑と篠ノ之がいないな。何だ、二人で仲良く逃避行でもしたのか?」

 

「違うよ、京介。箒が行方不明になったニュースは全世界で報道されたんだ、知らないとは言わせないよ」

 

「……チッ、分かってるさ。で、一夏のクソ野郎は一体何処に行ったって言うんだ?」

 

 

鋭い視線を向けてくるシャルロットに舌打ちしたゴーストが肩を竦めてみせると、ギュッと拳を握り締めた鈴が答えた。その顔は怒りに染まっているものの、その矛先が一体何処に向いているのかまでは分からない。

 

 

「一夏は……アイツはね、私達の敵になったのよ」

 

「……敵?」

 

「あの日、学園が無人機に襲われた日に、千冬さんと一緒に居た一夏は白騎士っていうISを使って他の生徒達を攻撃しようとしたの。アタシ達で止めたから誰も大怪我はしなかったけど、一夏はそのまま千冬さんと何処かに行ってしまった。今までに一夏と違って凄く強くて、でも表情は何時ものままで、アタシ達の知ってる一夏じゃなくなってたの」

 

 

鈴の語る内容に訝しげな視線を向けていたゴーストだったが、セシリア達の表情から事実だと判断するとふっと鼻で笑った。髪を掻き上げ、それが何だと言わんばかりにため息をつく。

 

 

「それじゃあアイツは人類の敵になった訳か。シスコンここに極まるってやつだな」

 

「織斑一夏の変貌に関しては幾つか思い当たる節がある。恐らく白式の中に隠されていた白騎士を通じて何らかのマインドコントロールを行い、正常な判断力を奪ったんだろう。原因である篠ノ之束を倒せれば彼も元に戻るはずだ、そうすれば------」

 

「うるせえよ」

 

 

一夏について自分の知っている情報を出そうしたクラウの言葉を強い口調で遮ると、ゴーストは楽しそうに口の端を吊り上げて歪んだ笑みを浮かべた。まるでその状況がとても喜ばしいことのように。

 

 

「アイツが元に戻るとか戻らないとか俺には関係ない。寧ろアイツが人類の敵になってくれたのなら、俺は何の憂いも無く奴を殺せる」

 

「殺すって……友達だよ、一夏は!」

 

「それはお前らの、って意味だろう。俺にとってアイツは唯の復讐対象だ、味方だろうが敵だろうが殺す。必ず殺す」

 

 

信じられないといった表情を見せるセシリアやシャルロットの中で、鈴とラウラだけは彼がそういうのも分かる、分かってしまうという顔をしていた。楯無達は何も言わず、ただ彼らを見舞っている。

 

 

「そもそも世界がこうなった原因はアイツと、箒と、不愉快な脳みそしたアバズレ二人だ。その内三人は俺から大切なものを根こそぎ奪っていったんだ。そして世界をここまで滅茶苦茶にしたのなら、責任を取ってもらわなくちゃならないだろう?」

 

「責任って……確かにそうだけど!」

 

「織斑千冬と篠ノ之束には、俺の人生を滅茶苦茶にした責任を取ってもらう! そして一夏には、自分の家族が引き起こしたこの惨劇の責任を一身に受けてもらう。姉の敵として戦うことをしていないのなら、奴には死をもって全人類の恨みを晴らしてもらうさ。俺のこの手で殺してな!」

 

 

ゴーストの後ろに立つマドカが彼の腕を引くと、ゴーストはそれを振り払い鈴達にズイと近寄った。

 

 

「お前達に文句は言わせない、誰にも言わせないぞ。これは俺だけに許された権利なんだ、俺が俺自身の救済を行う為の殺しの権利。……近いうち俺達亡国機業はIS学園に向けて一斉攻撃を仕掛ける。そこで俺は決着をつけるぞ」

 

 

「決着……。じゃあ、じゃあ箒はどうするつもりなの!? 箒も、殺すつもりなの!?」

 

 

シャルロットの悲痛な叫びにも似た問いにゴーストは嫌そうな顔をすると、顔を逸らしながら答えた。振り返る彼の背中は最早これ以上話すことはないと語っており、彼女達はこれ以上何も言うことは出来なかった。

 

 

「箒は殺さない。アイツには、自分の家族が仕出かした事の大きさを一生見続け、そして苦しんでもらう。……アイツは、俺には殺せない」

 

 

その背にかつて見た背を重ねても、元には戻らない。ラウラは一人その場を離れ、鈴もまた楯無の傍へと寄る。かつての友人の言葉を聞いた彼女達もまた、自らの信じるものの為に戦うことを決意したのだった。彼をこれ以上傷つけさせないように、もう一度あの日常を取り戻す為に。

 

 

 

 

 

 

「……そっか、それが鈴の決めた事なら私は何も言わないよ。ちょっと辛いけど、鈴達がやろうとしていることに比べたら全然楽さ。分かった、その頼みは必ず果たすよ。国家代表は嘘つかないからね。うん、それじゃあ、気をつけて」

 

 

中国・香港。荒廃した街の地下にある秘匿されたシェルターの中で、黄儷はプライベート・チャンネルの通信を切った。そして次に複数の仲間に向けて通信を飛ばすと、彼女は自分達に託された任務を伝えるのだった。生存確率はほぼゼロに近い、最期の反抗作戦を。

 

 

「無謀なのは分かってる。けどね、私達よりずっと小さなあの子達が命を掛けて全てを止めようとしているんだ。だったら私達がこのまま潜伏しているなんて、許せないでしょ? 国家代表は腐っても強いんだってこと、あの兎さんに見せてやろうよ。うん、ありがとうサラ、フェデーリカも。……決行は彼女達が行動を起す三日後、それまでに自機の整備を終わらせ有りっ丈の装備を量子変換しておくんだ。生き延びられたら、私が腕によりを掛けて中華料理のフルコースをご馳走してあげるからね。……うん、うん。それじゃあみんな、幸運を」

 

 

通信が終わると、黄儷は自分をジッと見つめていた二人の部下に笑い掛けた。二人共射撃特化型甲龍を所有しており、今までの戦いも何とか生き延びた精鋭である。身体はボロボロながらも、その目からはまだ闘志は失われてはいない。

 

 

「二人にさ、ちょっとお願いがあるんだ。私の最期のお願い、聞いてくれる?」

 

 

そう言う黄儷の顔は、まるでお祭りを前にした子供のように明るいものだった。

 

 

 

 

この三日後、世界各地に潜伏していた国家代表と各国軍の生き残りが一斉に蜂起した。彼らは激しい抵抗を繰り広げ、各地に配備されていた束軍のISの多くはその対応に割かれることとなる。

 

 

そして同時に牙を向いた猛獣達が、遂に獲物を狩ろうと動き出した。

 

 

 

人類最後の攻撃(幽霊の復讐)が、今始まる。

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