インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
篠ノ之箒は一人だった。かつての寮の自室よりももっと広く豪華な部屋で、大きなベッドの上に体育座りでいる。彼女は今世界がどうなっているか、全く知らなかった。テレビもラジオも無く、外の世界から完全に隔離され人との接触は物言わぬ千冬クローンが食事を運んでくる時のみ。脱出しようにも窓は硬く閉ざされ扉もクローンが来る時以外はビクともしない。一度隙をついて飛び出そうとしたがすぐに取り押さえられ、廊下に並ぶ武器を持った大量のクローンを前にしてからは同じ事をする気も失せてしまっている。
「…………?」
最早言葉を発することすら無くなった箒にとって、廊下を伝わる小さな足音を感じることは至極簡単なことだった。普段は食事を運んで来る台車と一人分の足音だけなのだが、昼食はついさっき運ばれたばかり。一人分の足音が部屋の前で止まると、箒は少しだけ首を動かしてドアの方を見つめた。
ガチャッという音と共に開かれたドアの向こう側から現れたのは、白い飛行服のようなものを身に纏った……もっと言えば不気味な程楽しそうな笑みを浮かべた一夏だった。
「い……織斑……? どうしてお前もここに……」
「何だよ箒、何時もみたいに一夏って呼んでくれよ。らしくないぜ」
「……は? 貴様、一体何を考えているのだ! まさか今何が起ころうと、いや、起こっているのか知らないのか!?」
ベッドから飛び降りるようにして突っ掛かって来た箒の身体をガッチリとその手で受け止めると、一夏は満面の笑みで頷いてみせる。当然だと言わんばかりに。
「当たり前じゃないか。束さんは俺達を保護してくれてるんだぜ? しかも保護してくれた挙句これから先俺達が危険な目に合わないようにしてくれてるんだ。お前もつまらない意地なんて張らずにさ、いい加減仲直りしたらどうだ?」
「な、何を言っているのだお前は! 保護だと? 違う、あの人は私を拉致したのだぞ! お前もそうではないのか!?」
「おいおい、拉致ってそんな言い方はないだろ。幾ら箒でも怒るぞ」
全く噛み合わない話に箒が混乱していると、一夏はそうか分かったと言わんばかりに頷いた。
「分かった、まだ束さんと話してないんだろ。あの人も今は忙しいみたいだし、次に会えるのは何時になるのかな……」
「織斑、お前あの人に会ったのか!? 会ったのなら、一体何を話したのだ!」
「何怒ってるんだよ、箒。だから、束さんは俺達の為に頑張ってくれてるんじゃないか。俺と箒の二人だけの世界を創る為に、邪魔な人達を掃除してるんだぞ」
次の瞬間、箒の硬く握り締められた右拳が一夏の顔面を捉えた。鼻の骨が折れる嫌な音が響き、一夏は痛みに顔を顰め鼻から血を噴出しながらだらしなく尻餅をつく。そして乱暴に手の甲で鼻血を拭うと、相も変わらずヘラヘラした表情のまま折れて曲がった鼻を摘んだ。
「いてて……酷いじゃないか箒。鼻の骨を折るなんてさ」
ペキッポキッという聞いただけで顔を顰めてしまうような音を立てて、一夏は折れた鼻の骨を元に戻した。その顔と行動に箒は言い知れぬ恐怖を抱き、少しばかり後ずさる。そんな箒に近寄ろうとする一夏の鼻からは、もう血は出ていなかった。
「全く、箒だから許すけど他のみんなだったらこうは行かないぜ?」
「お前は、お前は一体……本当に織斑一夏なのか?」
「俺が偽者に見えるか? 正真正銘本物だよ、箒」
満面の笑みを浮かべる一夏とは対照的に、箒の顔は恐怖に染まっている。目の前にいる幼馴染が、得体の知れない何かになっていると感じたからだ。それでも彼女は情報を得るべく、距離を取りながらも一夏との会話を続ける。
「す、すまない。……そ、それで、邪魔な人達を掃除していると言ったが……一体誰のことを言っているのだ?」
「誰のことって、変な事聞くなぁ箒は。俺と、お前と、束さんと、千冬姉……、俺達以外の全人類に決まってるじゃないか。……ただ、千冬姉はもういない」
「え……」
満面の笑みから一転して暗い表情になった一夏と、織斑千冬がいないという発言に箒はまさかと息を呑んだ。
「京介が、あのクズが千冬姉を殺しやがったんだ! 喉の肉を引き千切って! 身体を真っ二つに裂いて! 瓦礫の中に千冬姉を放置したんだ! アイツは俺達も狙ってる、殺す気だ! 他の連中もみんなして俺達を敵視してる、だから束さんは自分達を守る為に先に攻撃したんだ」
「そんなこと……っ! 我々が京介に命を狙われているのは当然のことだ! 私達二人が原因で、京介は家族も何もかも失ったのだぞ。そしてお前は京介の恋人を殺し、私は世界を滅ぼす原因となっている。……自業自得なのだ、我々は」
「俺達は悪くない! アイツが何を失ったかなんて俺は知らない、知りたくもない! 千冬姉や束さんがアイツの家族を殺した? ふざけんなよ、向こうが殺そうとして来るから殺したんだ! アイツは俺からたった一人の家族を奪ったんだ、絶対に許さねえ! それに……」
「うっ!?」
激昂した一夏は突然箒の首をその両手で絞めると、そのままその身体を壁に押し付け持ち上げた。一夏らしからぬその怪力と血走った目に睨みつけられながら、箒は足をバタつかせ一夏の手に自らの爪を食い込ませる。それでも一夏は手を離さず、声を荒げた。
「お前、どうしてあんな奴の肩を持つんだよ! 箒、お前は俺と二人でこれから生きていくんだ。お前は俺のもので、俺はお前のものだ。なのに何でお前は他の男を、しかもあんなクズを見てるんだ! 前からそうだ、お前の幼馴染は俺なのにお前は何時からかアイツを見始めて、アイツの隣にいるようになって……。お前が隣にいるべき男は俺だ、アイツじゃない! いいな! 次に俺の前でアイツの話をしてみろ、幾ら箒でも許さないからな!」
「っ……ぉぉ……」
苦しそうな呻き声を上げ始めた箒の身体を首を締め上げた体勢のままベッドへと放り投げ、一夏は怒り心頭といった様子で部屋を出て行った。残された箒は喉を押さえながら咳をしつつ、一夏の変貌振りに混乱していた。今までの一夏よりも、明らかに思考回路や力がおかし過ぎる。きっと束が、あの人が一夏に何かしたのだろうと予測をつけた箒は、強く咳き込みながらもギュッとベッドのシーツを握り締めた。
(貴女は……どれだけ私達をおかしくすれば気が済むのだ……! 貴女は、私が……!)
ふと目にした爪の間に僅かに付着していた一夏の皮膚に強い嫌悪を感じた箒は、フラフラしながらも洗面台で強く手を洗った。何度も何度も石鹸で手を洗い、擦り、水で流す。一心不乱に手を洗う箒は、流れていく水が僅かに赤く染まっていく光景をただジッと見つめていた。
「…………気持ち、悪い」
その次の日も一夏は箒の前に現れ、昨日の出来事など無かったかのように満面の笑みでこれからのことを嬉々として語った。だが箒には最早一夏の話を真面目に聞く気など無く、彼女に適当に流されていることにすら気付かぬまま一夏は謎の会話を繰り広げるのであった。そしてまた次の日も一夏は箒の下に現れたのだが、その時の彼の表情はとても凛々しいものだった。まるで何か重大な決心を決めたように。
「箒」
力強い視線が自らに注がれるのを、箒は必死に吐き出しそうになるのを堪えながら受け止めていた。両肩を掴まれ、ジッと見つめられる。目の前に居る
「箒、聞いてくれ。今世界中で生き残った奴等が一斉に蜂起し暴れ回っているんだ。束さんはその対応に無人機を回して、ここの戦力は手薄になる。その隙をついて誰かが攻撃してくるかもしれない。だから約束してくれ、箒、何があってもここから出て行かないって。お前は、俺が守るから」
歯が浮きそうになる程臭い台詞を吐いた一夏に箒が適当に頷いてみせると、彼は満足そうな笑みを浮かべて部屋を出て行った。その背を箒の視界から隠したドアに感謝しつつ、箒はドサッとベッドに寝転がる。腕で目を隠し、彼女は涙を流しながら呟いた。
「もう……みんな、死んでしまえば良いんだ。私も、一夏も、あの人も……みんな……みんな死んでしまえ……殺されれば良いんだ……。京介、私を……私を殺しに来てくれ……!」
「この……ッ! 数だけは多い!」
荒廃したロンドンの空を、サラ・アビゲイルとアイアンメイデンはボロボロになりながら飛んでいた。休む暇無く彼女を襲うビームの嵐を両腕の物理シールドで防ぎ、そのままブレードを振り上げて迫る白式の腹部にシールド裏にマウントされたガトリング砲の銃口を押し付ける。刹那、放たれた弾丸が全身装甲化した白式の腹部を突き抜けると、開いた穴から血飛沫を噴出しながら白亜のISは地上へと墜ちて行った。だが続けざまに二機の紅椿が大量のビームを乱射しながら接近して来た為、サラはそれに向けて弾丸をばら撒きながらの急降下を迫られる。
「黄のやつ、私より先に死んだら許さないんだからね……クッ!」
ビームの着弾により巻き上げられるコンクリートの破片を突き抜け、サラは急制動を掛けて接近する紅椿へとガトリング砲を向ける。ばら撒かれた弾丸は紅の装甲を砕き、スラスターをやられた一機はバランスを崩して廃墟へと突っ込んだ。残る一機は尚もビームを放ちながら接近し、サラは左腕のシールドで身体を守りながら右腕のガトリングを撃ち続ける。だが止め切れなかった紅椿のボディがシールドに直撃し、サラの身体はアイアンメイデンごと上空へと弾き飛ばされた。
眼下に広がるのは、数少ない通常兵器を用いて戦ったイギリス軍兵士の亡骸と破壊した敵ISの残骸。サラはグッと歯を喰いしばると機体を反転させ上に上げた両腕のシールドで紅椿を殴りつけた。その頭部に砲門を向け弾丸を放ち、頭部が破裂した機体が膝から崩れ落ちていく姿を見ずに次の敵を探す。
黄儷から生存する全ての国家代表へと伝わった願い。それは出来る限り敵の目を引き付け、敵の本拠地へと攻撃を仕掛ける時間を稼ぐ事。IS学園に居た専用機持ち達がテロリストであるはずの亡国機業と手を組み、篠ノ之束の首を狙う。普通に考えれば無理と断言してしまうはずのその内容に、サラ達は頷かざるを得なかった。まともに動くことが出来ない以上、少しの可能性に掛けるしかなかったからだ。
(セシリア・オルコット、貴女の無事を祈っているわよ……私も、まだっ! 死ねない!)
押し寄せる無人機に真っ向から立ち向かった彼女の首が背後から迫っていた白式に刎ね飛ばされた時、白亜の装甲を持つISは同じ名を持つ拷問の道具と同じように、その身から赤い血を垂れ流すのだった。
その後、上海では全ての敵を倒しきった黄儷の姿があった。周囲に無人機や人の首が転がっている中、黄は瓦礫に背中を預け座り込んでいる。その身体はボロボロで、口の端から血を流しながら彼女は右手で痛む腹部を押さえていた。空は夕焼けに染まり始めており、彼方此方でパチパチと火災が起きている。
「……サーラー……トーニャー……みんな……死んじゃったのかー……?」
ぽつり、ぽつりと乾いた声で黄は仲間に呼び掛けていた。彼女の乗機である梁山泊は大破しており、展開することすら不可能。それでも何とか使える通信機能を頼り他の国で戦っているはずの仲間の無事を確認しようとしている。だが呼び掛けても呼び掛けても返答は無く、彼女の腹部の痛みはただ増していくだけ。
「私はまだ……生きてるぞー……おーい……あつつっ……」
激しく痛む腹部に顔を顰めつつ、黄は空を見上げながら仲間の名を呼び続けた。そして漸く、彼女の耳に別の女性の声が響く。それはイタリアのフェデリーカ・ジャンネッリのものだった。
『黄……聞こえ……? 他の……無事……おい、聞こえ……』
雑音が多くよく聞き取れないながらも、黄にとっては心の底から喜べることだった。だが現状を考え、原因を考え、過去を考えると、彼女は自分達の未熟さを痛感せざるを得ない。だから黄は徐々に視界が掠れていく中、こちらを呼び掛けるフェデーリカに語り掛けた。この戦いすらも生き延びた彼女なら、きっとこの先も大丈夫なのだろうと。
「ねえ、フェデーリカ……私達は、やることが遅過ぎたのかもしれない……。もっと早く千冬の裏に気付けていれば……もっと早く行動を起していれば……こんなことにはならなかったのかもしれない……」
『黄……! 何……っかり……!』
「鈴達は……勝てたのかな……もしそうなら嬉しい、けど……。……悪いけど、後の事は任せたよフェデーリカ……私、もう無理みたいだから」
苦痛に塗れながらも笑みを浮かべた黄が右手を腹部から離すと、今まで覆われていた部分には梁山泊の装甲破片が突き刺さっていた。そこからは大量の血が流れ出ており、黄にはその破片をどうすることも出来ずにいる。
「向こうで千冬に会ったらさ、取り敢えず一発ぶん殴ってくるよ。だから……じゃあね」
『おい……黄……!』
通信が切れると、黄の両手からスッと力が抜けて行った。もう身体を動かすこともままならない彼女の眼はしっかりと空を捉えていて、そしてその空に大きな火の花が咲いた時、ゆっくりとその瞼は閉じられるのだった。
時は戻り、世界各地で生き残っていた兵士達が一斉に抵抗活動を始めた頃。太平洋上を航行していたヴァリアントの甲板上には、二十人のIS乗り達が集合していた。全員が亡国機業の生き残った戦士達であり、有りっ丈の装備を持ち決戦の舞台へと向かっている。
そんな中で、部隊のリーダーを任されていたエキドナは書類を片手に甲板上である作業をしていたメカニック達に指示を出していた。甲板上には彼女達やメカニック達以外に大型のグライダーのような形をしたユニットが並んでいる。戦闘機のエンジンを流用した特攻兵器だ。内部にはISの装甲を容易に吹き飛ばせるだけの爆薬が積まれていて、目標を設定すれば自動でそこへ飛んで行き自爆するようになっている。
「時間が無いんだよ! 下手すりゃこの船ごと沈むかもしれないんだ! ちゃっちゃとやんな!」
エキドナはエンジンの調整に苦戦しているメカニック達を叱咤しながら、それぞれ機体の最終チェックを行っている仲間達を一瞥する。彼女達は全員激戦区を突破してきた強兵達、簡単にやられるはずはない。そう信じているエキドナの前で、ノーラとミラージュの二人がグッと親指を立てて見せた。大丈夫だと言わんばかりの二人の顔に安堵のため息をついてみせ、エキドナは甲板に工具をぶちまけたメカニックの尻を蹴飛ばしたのだった。
そして唯一生き残っていた幹部であるスコールとゴーストから作戦開始の指示を受け、エキドナ達はヴァリアントから特攻兵器と共に飛び立った。編隊を組み、目標として設定してあるIS学園に向けて一直線に進んで行く。彼女達の機体にはスコールから追加情報として自分達以外に味方のデータが送られており、エキドナはリスト化されているIS学園の専用機持ち達の顔を流し見していた。
(とっくに死んだものかと思っていたけど、案外しぶとい連中だね。それに顔は出てないけど三機の謎のIS……まあゴーストが何も言ってこないなら突っ込むだけ野暮ってものか)
IS学園へと近づいて来たところで、彼女達のレーダーがIS学園から発進する敵ISの反応を捕えた。数が少なくなっているといってもレーダー上に広がる大量の赤い点にエキドナはうげっと声を洩らし、すぐに仲間達へと指示を飛ばす。
「敵が来たよ! 全員爆弾を飛ばした後、散開! 数はこっちの十倍だ!」
「了解!」
各機手にしていた特攻兵器のエンジンを掛けて飛ばすと、視界の向こうに広がり始めた複数の黒いシルエットを大きな閃光と黒煙が覆い隠す。だが黒煙の向こうから大量のビームが撃ち込まれると、彼女達は機体を反転させ撃ち返した。様々な姿をした敵ISと亡国機業の戦士達が激突し、遂に最終決戦の火蓋が切って落とされる。
その光景を遠くから見ていたゴースト達もまた、その身をISに包んで出撃の準備を整えていた。その隣には、楯無達の姿もある。彼女達のISは敷島博士の手により更なる強化が施されており、皆己の全てを出し切るべく決死の表情を装甲の裏に秘めていた。
「……行くぞ」
ゴーストはボロボロのマントを翻し、ゴースト・ビットを手に真っ先に飛び上がった。それに仲間達も続き、彼らは束側のISを真横から強襲する。ゴーストは連続して白式や紅椿の首を刎ね飛ばすと、接近するゴーレムの頭部を踏みつけながら展開した二基のビットで味方の背後に忍び寄っていた敵を撃ち落した。レッシィ達バイヴ・カハ三機もその高機動さを生かして敵機の中をかき乱し、肩のバインダーを構え次々と敵機を撃ち落して行く。ゴーレムⅢやダークバレット/マクシムスに搭載されている妨害装置がある限り、彼らの攻撃はほぼ敵に直撃を与えることが出来るのだ。無論それは敵の攻撃もこちらに直撃するという意味でもあり、目の前で腹部をビームで撃ち抜かれ爆散した味方機の破片が装甲に当たる音を聞いたマドカは、強化されたサイレント・ゼフィルスのシールド・ビットを一斉に展開しレーザーガトリングをばら撒いた。
敵ISは腕でボディをガードし攻撃を耐えていたが、そこを別のISが背後から急襲し撃破する。オータムもシャグラン・アヴェルスのレーザーガトリングで敵機の注意を引き付けつつ、スコールがゴールデン・ドーンの黄金の鞭で複数の敵を一気にまとめて潰していた。亡国機業側の戦闘力は高く、数機が撃墜されながらも敵IS部隊を圧倒している。そして楯無達もまた、強化されたISで十分に渡り合っていた。
「ラウラさん、左側に四、右側に六ですわ!」
「なら私は右側をやる、セシリアは左側をやれ!」
狙撃能力とビットの出力調整を受けたセシリアのブルー・ティアーズと、ラウラの砲撃能力と装甲が増設されたシュヴァルツェア・シュタールの二機は少し離れた場所で敵ISを狙撃していた。ISをほぼ一撃で破壊することが出来る今、一方的に攻撃出来る敵を攻撃し数を減らしていくしかない。スコープの向こうで敵機の頭部が消し飛ぶ光景に歯を食いしばりながらセシリアは耐え、次の敵へと銃口を走らせる。ラウラもまた自らの放った砲弾で肉片と装甲が飛び散って行くのを目の当たりにしながら、只管敵を撃ち続ける。
勿論彼女達の攻撃は敵にも察知されており、複数の敵が彼女達を攻撃するべく接近してくるが、それは鈴とシャルロットの二人によって妨害されていた。複数の近接装備を持つ鈴の乗機【麒麟】は手に持った青龍刀型の高周波ブレードで敵の胴体を裂き、全身に大量のサブアームを持つシャルロットのラージュ・ミストラルは有りっ丈の銃火器を手に弾丸をばら撒く。互角のように見えても、セシリア達は自分達の限界をとっくに超えていた。簪が援護としてミサイルを放ち敵機を引き付けると、シャルロットと鈴の間を赤い閃光が突き抜ける。
「------シッ!」
クラウ・アガトラム操る素戔男尊の刀がうねるように動き、固まっていた敵ISをバラバラに斬り裂く。そして刀身から赤い血飛沫のように見せる磁性流体を吹き飛ばすと、その背後から複数のビームが飛来し彼に接近していた無人機を撃ち落した。真っ黒な装甲をした一文字真の操る天照、全身に荷電粒子砲の砲門を備えた高火力機だ。クラウの背後に回った真が敵に向けてビームを放てば、その隙間を縫うように動くクラウが正確に敵を切断する。
そしてそこから少し離れたところでは、敵機に組み付いた白鷺アキラのレイジングブル/ラグランジュゼロがその腕から生やした三本爪のクローで白式の胴体を突き刺していた。真っ二つに切断された白式の向こう側から紅椿が接近しアキラを狙うが、その胴体を螺旋を描くようにした水の流れが貫く。そしてその頭部をランスが潰すと、楯無は眼下で血を飛び散らせていた
「数が減ってないような気がするが……俺だけか、刀奈」
「大丈夫よアキラ君、私も同じ事思ってるから」
「そうか、なら……まだ暴れられるな」
押し寄せる敵を前に、二人はそれぞれの獲物を構え再び振るった。
一機、また一機と味方がやられていく中、ゴーストは全てのビットを使い大量の敵を一方的に撃墜していた。だがそれでも敵の数は中々減らず、もうその全体が見えているIS学園まで到達することが出来ない。寧ろそのIS学園から何度も増援が出て来るところを目撃しており、ゴーストは三基目のビットが破壊された時点でかなり焦るようになっていた。
(まだだ、まだ突破口が開けない。もうすぐそこだと言うのに……あそこに奴が……ッ!)
力任せに振るったゴースト・ビットの刃に複数の敵ISが切断されると、ゴーストは一気に敵の防御網を突破しようと試みた。だが即座に集合した無人機の壁に阻まれ、放たれたビームを纏った対ビームマントで防ぎながらの後退を余儀なくされる。撃ち返そうにも防ぐので手一杯になっていたゴーストだったが、敵より更に上空から撃ち込まれたビームにより何とか体勢を立て直した。視線を向ければ、アナスタシアのバイヴ・カハが片方のバインダーを喪失しつつも彼の方へと向かって来ている。
「アナスタシアか! 助かった!」
「いえ! それより敵機の数が一向に減りません、このままでは------」
このままでは、そうアナスタシアが言い掛けたところで、バイヴ・カハの胴体を横様に飛来したビームが突き抜けた。ゴーストの目の前でアナスタシアのバイヴ・カハが一瞬膨れ上がり、そして爆炎と共に四散する。飛び散った破片がダークバレットの装甲にぶつかり、ゴーストは爆炎を前に叫んだ。
「アナスタシアァァァッッ!!!」
その叫びに呼応するかのように展開したビットが周囲にいた全ての敵機をロックすると、一斉にビームを放った。その光条は敵の胴体を正確に貫通しており、周囲に裂く炎の花を睨みつけてゴーストは再び叫んだ。まだ生き残っている自分の部下の名を。
「レッシィ! ロザミアァ! 援護しろッ!」
「了解」
「り、了解! ……アーニャっ」
ロザミアの悲痛な呟きを無視したゴーストは、ゴースト・ビットを両手に握り締めると一気に学園へ向けて飛んで行った。それを防ぐべく接近してくる白式や紅椿を一刀の下切捨て、再び壁を作りだした無人機をレッシィとロザミアの援護射撃を受けて無理矢理突破する。そしてその全身にビームを受けながらも前進するゴーストに敵はその戦力の大半を差し向け、戦場は強引ながらも大きく動き出した。
「邪魔だ退けぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!」
ゴーストの叫びと共に突き進むダークバレットは鬼神の如く敵を蹴散らし、IS学園から更に現れた敵の軍勢を前に更に加速していく。それに追いつこうとしたレッシィとロザミアを、別の無人機が妨害する。倒しても倒しても別の機体が二人の前に立ち塞がり、レッシィは悪態をついた。敵の思惑が分かったからだ。
「こいつら、隊長を孤立させる気だッ!」
「けどこうも連続して来られると近づけないって! 隊長―ッ!!」
直後、叫ぶロザミアの機体にビームが直撃しその身体が吹き飛ばされると、レッシィは墜ちて行くロザミアを見つつ接近する敵への対応に追われた。今すぐ追いかければ彼女を助けることは出来るものの、敵はそれを許してはくれない。だが彼女の視界の隅で黄色い装甲をしたISがロザミアのバイヴ・カハを抱えるのを見ると、目の前に水を纏ったISが現れた。そのISは両手を広げると水を操り、一気に槍のように尖らせたと思えばそれを撃ち出す。放たれた水の大きな槍は敵の軍団を一気に突き抜け、大きな連鎖爆発を引き起こした。
「このまま前進し戦線を押し上げます! 協力を!」
「貴様に言われるまでもない!」
楯無の身体を押し退けたレッシィはビームを乱射すると、彼女が作った穴を一気に通り抜けた。それに一部の亡国機業の戦士達が続くと、状況はゴーストを追わなかった敵を挟み撃ちする形になる。クラウ達エースが先頭に立ち一気に攻勢に出ると、彼らとIS学園との距離は一気に縮まった。だが彼らの前には未だ大量の敵ISが蠢いており、既にゴーストの姿は見えなくなってしまっている。
「ゴースト……」
シールドビットへのエネルギー供給を行っていたマドカは、敵の軍勢に向け突き進む仲間達の背を見ながら祈るように手を組んだ。出来ることなら、彼が無事に帰って来れるように。出来ることならば、自分が生き残れるように。そしてあの世にいるマリーダが、彼を自らの元にまだ引き寄せないようにと。
眼下に広がる屍を一瞥すると、マドカもまた死地へと飛び込んで行くのだった。