インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
IS学園地下特別区画の最深部、そこに篠ノ之束は居た。部屋中に表示されているウィンドウには世界各地から送られてくる情報が記されており、一部の地域を除いて無人機による支配は完全に成功している。だがその一部の地域では生き残りが尚も抵抗しており、他の無人機はそちらに差し向けざるを得なかった。つまり、こちら側に増援は送れない。
「……大丈夫だよ、中に入り込んでるのは一人だけ。きっといっくんが倒してくれてる。外の敵も長くはないよ、だから大丈夫……大丈夫」
震える手を合わせ祈るように俯いていた束の耳に、ズルズルと何かを引き摺るような音が響いた。飛び跳ねるように振り向いた彼女の視線の先には、今しがた逃走に使った通路がある。誰かがこの部屋に来るとしたら、あの通路を使うしかない。
「いっくん……?」
ふと洩らした呟きに答えるように、通路の暗がりから銃声が響いた。そして束の頭につけていたウサミミが吹き飛ばされ、彼女は引き攣った笑みを浮かべて通路の闇を睨みつける。
「悪いが愛しの一夏は馬鹿みたいに気ぃ失ってるぜ。よくあんな未熟野郎を仲間に引き入れたもんだな……っ……お笑いだぜ」
痛みに耐えているのか息が混じったような声を発しながら現れたゴーストに、束は引き攣った笑みを浮かべたまま鼻を慣らした。向こうは銃を手にしているが、その身体はボロボロで血だらけだ。恐らく、止血も行っていないだろう。殺そうとすれば、簡単に殺せるはずだ。何故なら地の利はこちらにあり、ここには
「ふ、ふふふっ、いっくんには投薬処置を施して身体能力を向上させてあるんだ。本当はもう次の薬を打つ時間なんだけど、流石に薬が切れた状態じゃ勝てなかったか……」
「身体以外にも、あの残念な思考回路を考えると何かしらやってたんだろ」
「まあね、けど最終的にはこの束さんが全部元に戻せるから問題ないよ。後は君が死んでくれれば良いだけ」
「ほざけ」
身体を僅かにフラフラと揺らしながら接近してくるゴーストを前に、束はあるものを見つけた。ゴーストの向こうに見えるそれに向かって彼女は頷き、それに首を傾げたゴーストは振り向きもせずに横に向かって走り出した。直後、彼の居た空間を複数の弾丸が通り過ぎる。ゴーストは歯を食いしばりながら飛び上がり、大きなコントロールパネルの裏側に隠れた。そしてすぐに銃口だけを外に向けると、引き金を連続で引き弾丸をばら撒く。
「くーちゃん、殺っちゃえ!」
束の応援を受け、綺麗な銀髪をした小柄な少女クロエ・クロニクルはその体格に不相応な大きさのグリースガンの引き金を引く。四五口径のドングリのような弾丸が連続して放たれ、ゴーストの隠れているパネルを破壊する。やがて一マガジン撃ち切ったクロエがリロードしようとすると、半壊したパネルの陰から飛び出したゴーストが持っていた銃を乱射した。束は物陰に隠れ、クロエもまたそれに習うが新しいマガジンを取り落としてしまう。
「……っ!」
慌ててマガジンを拾おうとしたクロエの腕をゴーストの放った弾丸が掠ると、彼女は腕から血を滲ませながら物陰に隠れなおした。そのクロエを見た束は、悲痛な叫びを上げる。
「くーちゃん!」
「大丈夫です、それより束様!」
クロエは着ていた服の裾を破ると、それを腕に巻きつけて血が流れ出るのを押さえた。そして服の中からコンパクトサイズのワルサーPPKと予備のマガジンを取り出すと、それを床に滑らせて束へと渡す。銃を受け取った束は物陰からゴーストの居所を探すが、クロエが撃たれた時のショックで彼の居場所を見失ってしまっていた。
「何処、何処にいるの……?」
緊張と混乱から上手く思考が回らないことに憤慨する束は辺り一面に向けて撃ちまくるも、何処かからゴーストが出て来る様子は無い。ホールドオープンした銃からマガジンを引き抜いて新しいマガジンを装填すると、彼女の横から二発分の銃声が響いた。そしてそれに反応して振り返った彼女の手から再び拳銃が弾き飛ばされ、その左肩を銃弾が貫く。
「うぅっ!?」
ジンジンと熱を持ち始める左肩を掴みながら倒れ込んだ束の目に飛び込んできたものは、拳銃を自分に向けて歩いてきているゴーストと、喉に風穴を開けられ苦しそうにしているクロエの姿だった。彼女が死んでしまう、そう理解した瞬間束はゴーストに向かって叫ぶ。だがゴーストは無言で引き金を引いて、その右足の太腿を撃ち抜いた。
「俺が憎いか……? 自分の家族を殺されて、憎いか? ああ、そうだ、憎いだろうよ。俺も手前と同じだ、お前は俺なんだよ。俺はお前達にやられたことを同じようにやり返してる。誰が原因か? お前と織斑千冬だクソッタレ」
ゴーストは時折身体を大きく震わせながらも銃口は受けたまま、束を睨みつけている。
「お前の話は聞かない、聞く価値もない。……あの世で姉さんに懺悔しろ」
そしてゴーストが束の額を撃ち抜こうとした瞬間、急に背後からぶつかってきた何かに彼は吹き飛ばされてしまった。壁に叩きつけられ、手から離れた拳銃が床を滑って遠くへ行ってしまう。激痛が走る身体に顔をしかめながらも目を見開いた彼の目に映ったのは、地面に倒れ込んだ銀髪の少女の姿。まだ死んでいなかった彼女が何をしたのかは分からないが、兎に角束を殺すのを邪魔されたというのだけはゴーストは理解した。そして目を真っ赤に腫らした束が、さっき弾き飛ばされた銃を手に自分を狙っていることも。
「クソッタレ------」
ゴーストがISを展開するよりも早く七つの銃声が響き、ゴーストは身体を大きく揺らして口から血を吹き出した。腹部は元より肺もダメージを受けたのか、ゴーストは口の中を真っ赤にしながら何度も束を罵るように呟く。そんな彼の惨めな姿を見下ろし、束はさっきとは逆の立場で笑った。肩や足から血を流しながらも、彼女は勝利を確信している。
「あの世で懺悔するのはそっちみたいだね。ふふふ……その内ここを攻めて来た敵はみんな死んじゃうんだ。そうしたら、私はもう計画を最終段階に移すよ。くーちゃんも死んで、ちーちゃんも死んだ。だから、いっくんと箒ちゃんの為に、私は世界を滅ぼす。そうすれば後は、二人の手でこの世の楽園を創るだけ……」
目の前で赤く染まって行く敵を見下ろし、束は最後の一発を撃つべく引き金にゆっくりと力を込めて行く。そしてゴーストを遂に殺せるといったところで、束の持っている銃以外の銃声が響き渡った。そしてゴーストの目の前で、束の鳩尾の辺りから鮮血が噴出す。既に血だらけのゴーストに血を振りかけながら束がゆっくりと振り返ると、再び鳴り響いた銃声と共に彼女の頭が大きく揺らいだ。
ゴーストの目の前で、篠ノ之束が手を横に広げながらゆっくりと倒れて行く。その額に風穴を開け、血を噴出しながら、世紀の大天災は目を見開いて息絶えた。その向こう側、彼女を射殺したのであろう銃を持った少女は、泣きそうになりながらも束の身体に近づきその身体に何発も銃弾を撃ち込んだ。既に死んでいる彼女が、もう生き返らないように。妹として引導を渡した箒は、最後の弾丸が
「京介……! 京介、京介!」
何度も捨てた名を呼び続ける箒を突き飛ばす余力も無かったゴーストは、そのまま僅かに動く左腕で彼女の頭を撫でた。ただ何となく、こうしなければならないという意識に駆られて。
「……馬鹿野郎、人の仇……横取りしやがって……」
「っ……それは、すまない……だが、お前はもう誰かを傷つけたりするべきではない……っ!」
泣きじゃくる箒をどうしたものかとボンヤリする意識の中考えていると、その視界の縁に赤い何かが映り込んだ。良く見れば、それは自分のクローンが操っている素戔男尊だった。素戔男尊は箒の姿を発見した後、クロエ、そして束の死体を見て、ゴーストへと近づいた。警戒する箒に味方だと伝えたゴーストの前で、素戔男尊を纏ったクラウは声を掛ける。
「酷くやられたようだな……死にそうか」
「……っ、ああ、順調にな……」
ヘラヘラとした笑みを浮かべるゴーストだったが、彼はクラウに自分と箒が持っていた拳銃を拾ってくるように言うと、自分が使っていた姉の形見の拳銃で束の頭部を撃ち抜いた。弾丸が無くなりホールドオープンした拳銃を床に置き、ゴーストは小さく鼻を鳴らして笑ってみせる。これで終わりだと言うように。
そしてクラウがゴーストのダークバレットとシステムを接続しエラーを起していた機能を修復すると、気休め程度だが止血機能が働きゴーストの出血は止まった。それでも彼が受けた傷は酷く、彼は壁に寄り掛かけされると荒く浅い呼吸を繰り返す。そんなゴーストを前に、箒は現れたクラウにあることを聞いた。
「ここに来る途中で、織斑一夏が気絶していたはずだ。奴を見たか?」
「ああ、まだ眠っていたよ。だが……あれは相当酷い状態だ、薬物で無理矢理頭や身体を弄繰り回された形跡があった。肝心の篠ノ之束が死んだ今となれば、奴は廃人確定か……或いは……」
言いながら唐突に振り向いたクラウに釣られて振り向いた箒は、ハッと息を呑んだ。自分達が通ってきた通路、そこからまた誰かが歩いてきている。時間を考えても増援が来た可能性もあるが、響いてくる足音は一人分だ。そうなると、もしかしてやって来たのは------。
「下がっていろ!」
刹那、刀を引き抜いたクラウが通路に向けて飛んで行くと、通路から現れた白亜のISの刀と鍔迫り合いになった。操縦者の顔がむき出しになったそのISは白騎士、操縦者は気絶していたはずの織斑一夏。今にも沸騰してしまいそうな程の怒りに顔を真っ赤にした一夏は、見たこともない太刀筋でクラウを押し退ける。ISのハイパーセンサーを持ってしても裁ききれないその速度にクラウは焦るも、炸裂式クナイを至近距離で暴発させ一夏の視界を奪いながら果敢に斬り込んだ。
「ぅぅぅぅううううううううううッッ!!!」
獣のような唸り声を上げる一夏は、クラウの腹部に一瞬の隙を突いて膝を叩き込むとそのまま零落白夜を発動しそのボディを切り刻んだ。装甲が切り裂かれ、刀から飛び散った磁性流体がまるでクラウ自身の血を表しているかのように周囲に飛び散る。かなりの実力者であったはずのクラウをあっさりと倒して見せた一夏は、不気味な目を箒へと向けた。ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべてゆっくりと歩いてくる一夏を前に、箒は小さな悲鳴を上げてたじろぐ。だがその耳元で、ゴーストが囁いた。
「……箒、お前の……銃のスライドに挟まっている銃弾を取り出せ。スライドを引くだけで良い」
「良いから……っ……そうするんだ……」
「あ、ああ……」
一夏に気を配りつつも箒が持っていたM9の詰まっていた弾丸を取り出すと、ゴーストはその弾丸と自分が使っていた拳銃を拾い上げて箒の身体を抱き寄せた。その身体で作った死角でゴーストはチャンバーに直接弾丸を入れてスライドを戻すと、箒を抱き寄せたことに怒ったのであろう一夏がISを何故か解除しズカズカと近づいてくるのを待つ。彼が何故そうなってしまったのか、彼はこの先どうなっていくのか、そんなことゴーストにはどうでも良かった。ただ彼もゴーストに取っては復讐する対象でしかなく、唸り声を上げた一夏が箒の身体を掴んでゴーストから引き剥がした時、彼は最後の一発を一夏の頭部に向けて放った。
額で言えば左端、側頭部の部分を撃ち抜かれた一夏は地面に仰向けに倒れ込んだ。その頭部からは最初こそ赤い血が流れ出ていたものの、白騎士の力かすぐにその出血は収まった。もしかすれば彼は頭を撃ち抜かれたとしても立ち上がるかもしれないと箒は思ったが、ゴーストは冷たく奴は二度と起きないと言い放つ。遠くで傷だらけの素戔男尊が立ち上がったのを確認すると、ゴーストは全て終わったと小さく呟いた。
「終わったのか……? お前の復讐は、これで終わったのだな……?」
「……ああ、終わったよ。全員死んださ」
「そうか……それでは、私で最後だな」
言うや否や、箒は落ちていた破片を掴み自らの喉を掻っ切ろうとした。自ら命を絶ち、京介の復讐を終わらせる、それが彼女が決めた事だった。だがその腕は、あろうことかゴーストによって止められた。彼は震える手で箒の腕を掴み、何度もゆっくりと首を左右に振ってみせる。そして血を口から吐き出しながら、彼は箒に言い放つ。
「お前は……死ぬな。お前が死ぬ事を、俺は絶対に……認めない。お前は見続けるんだ、この世界を最期の最後まで。お前の所為で世界がどうなってしまったか、それをお前が天寿を全うするその時まで見続け、悩み、苦しみ続けろ……。それがお前への俺の復讐だ」
「っ……ぁ、ああ……お前がそう望むのなら、私には……そうするしかないではないか……」
涙でグチャグチャになった顔を手で隠しながら嗚咽を洩らす箒からクラウへとゴーストが視線を動かすと、彼は部屋にあるコンソールに立ち何か操作しているようだった。その傷ついた頭部装甲が、ゴーストを見つめる。
「たった今篠ノ之束が死んだという情報を流した、そこの死体の写真付きでだ。それと同時に無人機の機能をオフにし行動不可能に、これで残りは織斑千冬のクローンだけだ。……勝ったぞ、俺達は」
「……ああ、そうだな」
全てが終わったのだと彼らが安堵した時、ゴースト達のいる部屋の電灯が一瞬にして赤色へと切り替わりけたたましく警報が鳴り響いた。大小様々なウィンドウが空中に投影され、クラウはすぐにそれが何を示しているのか確認する為にコンソールを操作し始める。そしてゴーストも渋る箒を説得し身体を支えてもらうと、クラウのところへと近づいた。
「どうした……っ、ここが自爆でもするのか?」
「そうならまだ良かったんだが……それより酷い話だ。衛星軌道上にあるトールが起動しやがった。今から三十分後には世界中に核や核に匹敵する兵器が落とされる挙句、ここから指揮系統を乗っ取った全ての軍事基地のミサイルが辺り構わず発射される。……こいつは正義の白騎士が欲しいところだな」
「どうにもならないのか!?」
「軍事基地へのハッキングなら俺が解除出来るが……宇宙にあるトールが厄介だ。ここからの操作で地球に落下させることは出来るが、大気圏で破壊される前にトールはその中身をぶちまけるぞ。……完全に止めたいのなら、宇宙にまで行くしかないな」
「宇宙に……そんな」
絶望した様子の箒の隣で、ゴーストはクラウが流れるように処理していくモニターをジッと見つめていた。ハッキングした軍事基地の一覧以外に、IS学園内に持ち込んだあらゆる装備品のリストも同時に表示されている。その中に気になるものを見つけたのか、ゴーストは手を伸ばしてその表示を拡大した。
「大気圏突破用大型ブースター……?」
「ああ、恐らくトールに手を加える時に使っていたものと同じものだろう。無人機か何かにやらせてそのまま宇宙に放棄すれば証拠は残らないからな。……おい、お前まさか!?」
何かを察したクラウがゴーストに問うように視線を向けると、彼はそうだと言わんばかりに頷いてみせた。お前の考える通りで合っているぞ、と。
「だがそれは……帰って来れなくなるぞ」
「お前はここでやる事がある。
「……? 京介、何を------うっ」
ドンッという鈍い音と共に箒の身体が「く」の字に折れ曲がると、ゴーストは震える腕でその身体を支えながら地面へと寝転がせた。そして一度その血の付いた頬を撫でると、クラウの素戔男尊の装甲を強く叩く。
「時間は取らせねえ、手伝ってくれ」
「……ああ、分かった」
そうしてゴーストは、傷だらけの身体のまま最期の闘いへ望むのだった。誰にも何も言わず、ただ己のやるべき事を成す為に。
数十分後、大型ブースターとあり合わせの装備を装着したダークバレット/マクシムスがIS学園の第一アリーナから飛び上がった。既にトールは射出準備を行いつつ、地球へと落下しようとしている。一発も撃たせずに破壊するには、トールが成層圏を突破する前にこちらが成層圏を突破して攻撃しなければならない。その攻撃は、一発でケリがつく。
「時間にして……十分ねえってところだな……ギリギリだ」
ブースターの推力により大きな衝撃を受けながら、ゴーストは一度だけ空から世界を見た。争いの影が一つもないまっさらな世界が広がっているのを視界に収めると、ゴーストは再び前を見据える。もう遣り残したことは、何もない。しいて言えば、それは------。
(マドカのところには……もう戻れないな)
脳裏に浮かぶ少女の祈るような顔に罪悪感を覚えながらも、ゴーストは耳元で鳴り響いた通信に顔を顰めた。
『ゴースト、間も無くトールとの接触ポイントだ。熱圏か、或いは中間圏で勝負を決めるんだ。そこを逃せば、あとはお前自身が撃ち出されたものをその身で受け止めるしかない』
「ああ、それは避けるようにするさ。……後の事は、宜しく頼む」
『ああ、幸運を』
通信が切れるとゴーストの視界に大気圏を突破する旨を知らせるウィンドウが大量に開き、ゴーストはその全てを一つずつ処理しグッと身構えた。機体の振動が激しくなり、機体表面の温度が上昇していく。ISで宇宙空間へ出るのは、何もゴーストが初めてという訳ではない。だが全身を銃で撃たれている上付け焼刃のブースターで大気圏を突破しようとしているのは、間違いなくゴーストが世界で一番最初で最後だろう。
そしてゴーストは、クラウにある嘘をついていた。彼にはトールを破壊出来るだけのエネルギーがビットに残っていると言ったが、実際にはもうダークバレットに遠距離攻撃を行えるものは何も無い。唯一残っているビットも、ただのブレードだ。だから彼は、自らを武器にするつもりでいた。十分な加速を得た状態で、トールに機体をぶつけ破壊する。そうすればトールと共にブースターも破壊され、しかもダークバレットもタダでは済まないだろう。だがゴーストには、何故か自分かそうしなければならないという思いがあった。自らの復讐に世界を巻き込み、何人も死なせてしまった罪の意識か。それともただ自らが起した惨劇から無意識に逃げたいと思っていたからか。自らの所為で死んでいった人々の為に、自らもまた死ぬべきだからか。
視界の向こうに、巨大な人工衛星のようなものが見える。まだ発射体勢に入っていないトールだ、タイマーではあと数分で発射するようになっていた。ゴーストとダークバレットがトールと接触するのも、あと数分だ。
ジッとトールを見据えるゴーストの脳裏を、まるで走馬灯のように今までの出来事が流れて行く。姉が死に、ISを動かし、仲間達と出会い、福音を戦い、裏切られ、裏切り、恋人を殺され、復讐に生き、果たし、そして今------自らの全てが終わろうとしている。
「うああああああああああああッッッ!!!!」
雄たけびと共に、ゴーストとダークバレットはその口を開いたトールのど真ん中を打ち破った。刹那、内部に搭載されていた核兵器が爆発しあらゆるものを吹き飛ばす。地上からは大きな火の花に見えるような激しい爆発はトールを粉々に粉砕し、その破片は大気圏突破の熱により全て溶かされ消えて行った。そしてその落下していく破片の中には、黒いISの姿は無かった。
爆発により吹き飛ばされたダークバレットは、広大な宇宙を漂っていた。その装甲は焼け焦げ、手足には力が無く、鈍い輝きを放つ左目が青く丸い地球を見つめている。そのカメラアイ越しに見える地球を見ながら、ゴーストはただ流されていた。ぶつぶつと呟いている言葉には何の意味も無く、全てを終えた彼はその青い地球が何かすら分かってはいない。
「ああ、そうさ……これで俺のやることは全部終わったよ……。あとはお前とゆっくり出来る……、そうだ、姉さんとも会わなきゃいけないよな。俺だって久しぶりさ……なあマリーダ……ははは、今は無理だよ。けど向こうに着いたら……何度だって言ってやるさ……ああ、そうさ。だって俺は------」
この日、首謀者である篠ノ之束の死と無人ISの全活動停止により【兎の戦争】は終結した。織斑千冬の死は既に確認されているものの、織斑一夏については未だ消息不明扱いとなっている。彼が何処に行ったのかを知る者は、一握りしかいない。投入された束側のISは600を超え、それらの手によって世界の六割は壊滅状態・復興もままならない状況になってしまった。そしてこの戦争で各国が所有していたIS全467機中約380機が参戦したものの、結果としてほぼ全てである370機が大破。死者及び行方不明者すら不明という有様だった。
そして無人ISは活動を停止したものの、生き残っていた織斑千冬のクローン軍団は逃走しこれが後に小規模な戦争の原因となるのだが、今の世界にはその事に気付ける者は誰もいなかった。あまりにも大き過ぎるダメージに、皆感覚が麻痺していたからだ。それでも生き残った人々は懸命に立ち上がり、再び自分達の日常を取り戻すべくその足元に広がる瓦礫を掬い上げる。
だが彼らは知らない、誰よりも己の目的を追求し続けた男が、結果として世界を救うことになったことを。自分達が再び平和な世界を取り戻す始まりとなったこの日が------。
――――――
次回、最終話