インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
戦争が終わって、もう一ヶ月が経とうとしています。各地で復興が進む中、アタシ、凰鈴音は中国の病院で療養生活を送っていました。あの決戦の日、セシリアと共に撃墜されたものの一命を取りとめたアタシ達はそれぞれ本国に帰り、離婚していたはずの両親と再会した。二人が生きていた事に喜んだのも束の間、アタシは二人が再婚するという話にもっと喜びました。一度離れ離れになった家族が、もう一度集ることが出来るのだから。
今の楽しみはあの時最期の戦いに望んだ仲間達との短い会話と、時折見舞いにやって来る両親との時間です。勿論ボロボロの身体でのリハビリは大変だけど、その二つがあればアタシは大丈夫。ただ一つ問題なのは------。
「ねえ鈴ちゃーん、林檎食べさせてー? お腹減っちゃったよ」
「……またですか、黄儷」
隣のベッドで同じように傷だらけでいる、黄儷が毎日喧しいことだった。重傷を負っていた彼女だったが何とか一命を取りとめたようで、アタシが入院して数日後に彼女も目覚めた。戦争の終結と真実をアタシが伝えると、彼女はホッとした様子でお疲れ様と労ってくれた。だけどアタシは知っている、彼女の親友だったサラ・アビゲイルの戦死を聞かされた彼女が、夜中に一人で涙を流していたことを。誰も傷つかずに終わったことなど、無いのだ。
アタシは両親が持ってきてくれた果物の中から適当に選ぶと、それを皿に置いて黄儷のベッドテーブルに載せた。嬉々とした様子でバナナを頬張る黄儷の姿を一瞥してから、アタシは窓の外を見る。中国らしいというか、とても綺麗とは言えない空を見上げた。
(これからの事なんて……分かんないわよね、誰にも)
林檎林檎と囃し立てる黄儷に目当ての物を投げつけたアタシは、ため息をつきながらベッドに寝転がった。もう暫くは、ゆっくり出来そうね。
あの戦争が兎の戦争と呼ばれるようになって、もう一年が経とうとしています。私は更識楯無として、また刀奈という一人の女として、アキラ君と共に彼の母親の研究所にいました。その地下には、脳を損傷し植物状態となった織斑一夏が安置されています。戦争が終わった時、クラウ・アガトラムが彼を織斑千冬のクローン達の目の届かないところに隠しておくべきだと提案し、それにアキラ君が賛同した為です。彼が目を覚ますことは恐らくないでしょうが、何時の日か彼が再び世界に牙を向かされることが無いよう見張っておく必要があります。だから私は名ばかりとなった生徒会長の座を降り、日本を離れロシアを離れ、このアメリカにまで来たのです。
「刀奈、夕飯にしよう」
研究所の一室で織斑一夏のバイタルデータを確認していた私を、アキラ君が呼びに来てくれました。その腰の部分には、彼の歩行を手助けする為の機械が装着されています。今から三年程前に織斑千冬は正体を隠した状態で私達の前に現れ、彼が二度と歩けなくなる程の重傷を負わせました。その時から私は彼女が使っていたISを追う為にIS学園に入り、そして生徒会長としての立場を手に入れたのです。あの場所ならば、きっと何かしらの情報は手に入るはずだと。結果として言えば確かに織斑千冬は私の敵で、彼女は私とは別の恨みを持つ少年に殺害されました。
「ええ、今行くわ」
その事について、もう私は何も言いません。戦いが終わり、目の前には長い長い平和への道のりが続いているからです。私に出来ることは、不幸な少年がこれ以上誰かの戦いの道具にされないよう目を光らせ続けること。そして私は、愛する人の隣でずっと笑っていたい。
平和を享受する資格が私にあるかどうかは、何時の日か誰かが証明してくれると信じて。
兎の戦争が終結してから二年、全体の凡そ二割の復興を遂げた世界の中で、僕とラウラは新たに設立されたEU治安維持部隊に所属しています。時折起こる織斑千冬のクローンによるテロ事件を未然に防ぐ、或いは戦って倒すことが目的の少人数のチームです。セシリアも現在は昔のカンを取り戻す為に改良されたブルー・ティアーズで特訓を行っていて、近いうちに僕達のチームへと組み込まれます。
最初はデュノア社のスパイとして性別を偽り学園へと入学した僕だったけど、父が殺され会社そのものが他企業に買収され、更に戦後のゴタゴタもあって僕は自分でも驚く程アッサリと自由を手にしました。けれど家族もいない僕にやれることは少なく、もしラウラが部隊への参加を誘ってくれなければどうしていたか分かりません。戦い続けることは苦痛ですが、それでもラウラと僕にはこの戦いを続けなければならない責任があると感じていました。あの最期の戦いに参加した一人として、全てが終わるまで逃げてはならない。それが僕とラウラ、そしてセシリアが決意したことでした。
そして今、僕達は大きな問題に直面しています。アメリカに居る白鷺さんと楯無さんの監視下に置かれていた一夏が、姿を消しました。忽然と、音も無く。そしてその事件から、クローン達による攻撃がピタリと止んだのです。あの戦争のような恐ろしい何かが起こるのではないかと、僕は不安で仕方がありません。僕は------。
「シャルロット、上からの呼び出しだ。行くぞ」
自室のパソコンで日記にようなものを書いていると、ラウラが顔を見せました。長かった銀髪を肩口で切り揃え眼帯を外した彼女は、部隊のリーダーとして活躍しています。昔の部下の人達も部隊に参加している御蔭で、今まで見ることの出来なかったラウラの一面を見ることが出来ています。僕を呼びに来た彼女のことを色々と思い返していると、首を傾げたラウラに額を叩かれてしまいました。
「何をボケッとしている、大丈夫か」
「あ、うん、大丈夫だよラウラ。ちょっと懐かしい気持ちになってたからさ、ほら、行こっ?」
「ん? う、うむ……」
ラウラの背を押しながら部屋を出る時、僕は電灯のスイッチを押しながら机の上を一瞥する。そこには大切な友達から貰った写真立てが置いてあって、その中に入っている写真は僕達にとって忘れてはならないものが沢山写っている。その写真に笑みを浮かべてから、僕は僕としてラウラの隣を歩く。
世界を守った彼のようになれればと、心の中で願いながら。
兎の戦争が終結してから三年が経過した七月のある日、遂にそれは起こった。世界から隠されていた織斑一夏を見つけ出し、回収したクローン達が有りっ丈の戦力を掻き集めて再び世界への攻撃を始めたのだ。植物状態だった一夏を無理矢理目覚めさせ、崇め、彼の為と言い拳を振り下ろす。織斑千冬と同じクローン達は一夏こそを絶対と信じ、未だ廃墟と化したままのIS学園に再び砦を作り上げた。
兎の戦争から三年が経過していても世界の力は未だ弱く、残された数少ないISでは抵抗は難しかった。互いにボロボロの状態のまま続けられた戦争は一ヶ月間続き、世界は何とかIS学園を包囲するところまで攻め立てていた。そして世界がIS学園へと攻撃を加えようとした時、その
ISよりも遥かに大きなボディを持つそのロボットは、音も無く空中を移動しIS学園へと近づいた。周囲を固めているシャルロット達の目の前で、その謎の黒いロボットは突然IS学園へと突っ込んだ。激しい衝撃と共に廃墟と化していたIS学園の建造物が完全に崩壊し、中に隠れていたクローン達がISを纏い飛び出して行く。その中には、量産型白式を纏う一夏の姿もある。彼らは謎の黒いロボットに向けて一斉に攻撃するも、黒いロボットは怯む様子も無く背中側から取り出した大型のキャノン砲のようなものを構えた。そして両肩から二本ずつ垂れているチューブのようなものが空中に
そしてシャルロット達の目の前で砲門から竜巻のような何かが閃光と共に放たれると、次に彼女達が目を開けた時には謎の黒いロボットもクローン達のISも何も残ってはいなかった。残されていたのは、視力すらも失い再び植物状態に戻った一夏だけ。
敵の首領が一夏だったことや開戦から終戦までが丁度夏の一ヶ月間だったことから、後に【
一夏の戦争が終わり、数ヶ月が経過した日本。今や人類史上最大の戦争犯罪者となった篠ノ之束の生家である篠ノ之神社は、初めこそ一部の心無い人々からの嫌がらせを受けていたもののすぐに世界の憎悪は一夏へと向き、今では平穏足る日々を送っていた。そして毎朝、その境内には一人の女性が現れ空を見上げている。兎の戦争が終結してから毎日のように、その女性は空とその先に広がる宇宙を見つめていた。気がつけばいなくなってしまっていた最愛の人が散って行ったその広大な空を、ずっと彼女は見つめている。
「……私は、何時までも見続けているぞ。この世界と、お前の居るこの空を」
篠ノ之箒は一人呟き、踵を返して神社へと戻ろうとする。するとその頬を一筋の風が撫で、彼女を振り向かせた。
「……っ」
振り向いた先に居たものは、8m程の大きさをした謎の黒いロボット。彼女は初めて見るものだったが、それは一夏の戦争を突如終わらせたものと同一のものだった。
その黒いロボットはジッと箒を見つめているかと思えば、スッと片膝を付いて頭を垂れる。そしてその全身から蒸気が噴出し、下腹部の装甲がゆっくりと開いていくと------。
「あ------」
箒の目から零れ落ちた涙が、そっと風に飛ばされていくのだった。
これにて完結です、これからの事については活動報告などて発表させていただきます。
今まで応援してくださった方々、本当にありがとうございました。