インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
兎の戦争が終結して一年が経過し、スコール達亡国機業の残党達はとある人物の助言を受けその勢力を僅かながら広げていた。最も今の彼女達は昔のようなテロリストではなく、世界の復興を影ながら助け、時には復興の邪魔となるものを排除する私設武装組織と化していた。その彼女達が持つ複数の隠れ家の中で最も設備の整った場所に、スコールやマドカは居た。
「どうマドカ、まだクローンの情報は手に入らないの?」
「……まだ情報の手に入らない地域が沢山ある、そこに隠れられていたら見つけようが無い」
薄暗い部屋の中で大きなモニターを前にキーボードをタッチしていたマドカが冷たい口調で答えると、両手にコーヒーを持っていたスコールは苦笑しながらその片方をキーボードの隣に置いた。組織を新しくしてから、マドカは実働部隊には加わらず常にオペレーターとして活動している。半壊したサイレント・ゼフィルスもそのままにし、彼女は前以上に人との関わりを避けるようになってしまっていた。
「そう。……エキドナとミラージュがそろそろ帰って来るわ、彼女達の次の調査先のリストアップ宜しくね」
「……分かった」
短い返答を受けた後、スコールはコーヒーを啜りながらその場から離れた。彼女の自室は別に用意されており、狭いながらもISのコアを利用した観測器が設置されている。それを使い、彼女は全世界の情報を自分の目で確認していた。だが今その部屋に居るのは、スコール一人ではない。
「やっぱりまだマドカは暗いまんま?」
「ええ、まあ仕方のない事よ。あの子は京介が好きだったから」
「それじゃあ早いとここっちに呼んだ方が良いのかなぁ。アタシとしてはもう少しあっちでJEに慣れて欲しいんだけど……」
スコールが普段眠っているベッドの上に座っているその女は、パタパタを足を動かしながら首を傾げた。茶色く短い髪と整った顔立ちに、細いながらも引き締まった体付きから活発そうな印象を受ける。その女の名は浦城夏希、数年前に篠ノ之束と織斑千冬の策により命を散らしたはずの京介の姉だった。
「そのJEという兵器、設計図類は見せてもらったけど俄かには信じ難いわね……。勿論私としては、貴女が生きていたというだけで十分驚くべきことなのだけれど」
「あっはは、そりゃあねえ。だってアタシの心臓は京介の胸の中にある訳だし、その死んだって思われてる京介も実際のところ生きてる訳だしねぇ」
一年前、スコールの目の前に突如姿を現した夏希は、彼女にある計画に参加して欲しいと頼み込んだ。勿論死んだはずの自分が生きているのはおかしいことだし疑うのも分かる、だけど話だけでも聞いて欲しいと言う夏希を前に、戦争が終わり疲れていたスコールは頷くしかなかった。そしてそこから夏希の持ってきた情報を下にスコールは亡国機業の残党をまとめ上げ、再び一つの組織として行動出来るように指示を出してきたのだ。全ては彼女の言う計画の為に。だが肝心のその計画の要を、スコールはまだ夏希から聞かされてはいなかった。
「……それで夏希、貴女や京介を助け、私達という戦力を集めさせた月の兎とかいう存在は何をさせたいの? 今復興状態にあるこの世界で、織斑千冬のクローンのテロに悩んでいるこの情勢で、貴女は我々に何をさせたいの?」
「することは簡単よ、スコール。私達の目的はたった一つ、この世界から全ての争いの種を刈ること。今で言えば、全ての千冬クローンの抹殺。そしてその後復興した世界の中で、私達は裏側から手助けをしていく。二度と束のような災厄を齎す者が出てこないように」
「その為のJE? その為に貴女と京介は生かされた?」
「そうでもあるし、そうでもない。私は兎も角、京介が生かされたのは月の兎の贖罪さ。自分の所為で全てを無茶苦茶にされたあの子のね」
意味深な言葉を吐く夏希にスコールは不安を隠しきれなかったが、かつて亡国機業の一員として共に活動していた時と同じような言い方を思い出しすぐにその不安と呆れへと切り替える。彼女は何時もそういう人間なのだ、変わりない。
「兎に角、とーにーかく、もう少ししたらあの子がこっちにやってくる。私達がやるべきことを教えにね、私が言っても良いんだけど……それじゃあ意味が無いから」
ベッドの上でゴロゴロと動く夏希にスコールがため息をつくと、それとほぼ同時にマドカの居る部屋から机か何かが床に倒れるような大きな音が響いた。その音に反応したスコールは片手にコーヒーを持ったまますぐに腰のホルスターに手を伸ばしたが、それより早くベッドから動いていた夏希によって止められる。振り返るスコールを前に、夏希は何故か笑みを浮かべて首を可愛らしく傾げて見せた。
「大丈夫よスコール、多分あの子だから」
「え……?」
わざとらしく手を耳に当てて聞く素振りを見せた夏希に習いスコールも耳を澄ませると、マドカの居る部屋から聞こえてきたのは彼女の怒声だった。それだけでもスコールにとっては安心出来るようなものではないのだが、マドカの怒声はやがて小さくなっていき、そして最後には大きな泣き声へと変わっていった。初めて聞くマドカの泣き声にスコールは驚きつつもドアへと向かうと、少しだけドアを開き部屋の中を覗く。その後ろに並ぶ夏希もまた、意地の悪そうな顔をしながら続いた。
マドカの居る部屋の中に、見慣れない人影が一つ。マドカはその謎の人物へ向けて声を荒げているらしく、肝心のその人物が誰であるのかはスコールからは見えなかった。だがドアを開けたことによって二人の会話は筒抜けになり、聞こえてきた男の声にスコールは成る程と頷かざるを得なかった。
「分かってる、分かってるからマドカ……けど今はダメだ、今はお前とそういうことをしている場合じゃない。俺だって話していたいさ、けど状況はそれを許してくれない。……ああ、向こうの話が終わればまた戻って来るから。ああ、それじゃあ……」
少し困ったような口ぶりの少年の影が動くと、スコールと夏希はスッとドアから離れた。そして互いに視線を合わせた後、部屋のドアが外側からノックされる。そしてスコールの了承と共に、ドアはゆっくりと開かれた。そしてそこから現れた一人の少年はその左手に拳銃を持ち、視界に入って来た夏希にその銃口を向ける。その目は、酷く荒んでいた。
「……姉さん」
「一年間宇宙で過ごした気分はどうだった? 京介」
「姉さん!」
声を荒げたゴーストが銃のハンマーを起すと、夏希は笑みを浮かべたまま銃のスライドに手を乗せた。その姉の顔を睨みつけるようにしていたゴーストが銃から手を離すと、彼が突きつけていた拳銃は夏希の手の平に吸い付くように浮いている。夏希はセーフティーを掛けると、その銃をそのままテーブルの上へと置いた。笑みを浮かべたままの夏希を前に、ゴーストは疲れきった様子で口を開く。それは彼女を責めているようで、そしてまた多大きな悩みを秘めているように。
「……俺のやって来たことは、全部茶番だったのか?」
「どうしてそう思うのかしら?」
夏希の問いに、ゴーストはイラついた様子で壁に寄り掛かった。そしてその荒んだ目で彼女とスコールをそれぞれ一瞥し、ゆっくりと口を開く。その姿は夏希もスコールも今まで見たことがない程に、彼は疲れていた。
「結局のところ俺は姉さんやアイツに上手いこと動かされていたってだけなんだろう。……俺は実際のところ何も奪われちゃいなかった、俺が奪われたものは俺自身が招いたことだった。俺が奪われたのは、平穏な日常とマリーダだけ。……じゃあ姉さんの仇として俺が織斑千冬や篠ノ之束を殺そうとしたのは何だったんだ?」
「そもそもそんな復讐なんか無かったって言った方が良いのかしらね。……京介が戦った理由は自らの平穏を奪い世界に反逆した二人を倒すことと、最愛の人を殺した織斑一夏を殺害すること。正義と復讐が交じり合って良い具合になってるじゃない」
「ふざけんな! 俺は、俺はこんな……こんな甲斐の無い生き方は望んじゃなかった! ただ堕ちるところまで堕ちて、何も考えずにただアイツらを殺せればそれで良かったんだ! なのにアンタは、俺に無理矢理現実を突きつけて存在理由を揺らがせたんだぞ!? ……それも俺がアンタが生きてるのを知ったのはほんの数日前だ! 俺が悩み続けたこの一年間は一体何だったんだ!?」
「貴方はまだ堕ち続けているわよ、京介。悩み続けて、苦しみ続けて、戦い続けるのが運命付けられたって言われたでしょう? 貴方も私も同じように、死んで解放される事は許されないの」
夏希の言葉に、ゴーストは壁に寄り掛かったまま小さくため息をついた。到底納得出来るような言葉では無かったが、それでも受け入れなければならないこともある。ゴースト自身にもそれは十分理解出来ていたことだったが、かつて自分の行った事が根底から崩れてしまった事実に素直に頷けなかったのだ。結局のところ自分は最初から何も奪われてはなくて、ただ自分が殺されそうになったから復讐に走っただけ。そしてその途中、手に入れた恋人を殺され更に復讐にのめり込むことになった。
「私もそれは同じよ、貴方を利用したと言われても仕方ないもの。亡国機業も、各国の代表も、真実を知らずに死なせてしまったから。彼女達が信じていた正義なんてものは、最初から存在していなかったのよ」
「夏希……」
スコールに一瞬だけ辛そうな顔を見せたものの、夏希はすぐに表情を切り替え手を軽く叩いた。パンッという破裂音の後、ゴーストの視線が彼女に向けられる。
「だけどここで腐る為にわざわざやって来たんじゃないでしょう、京介。これから私達がすべき行動を、やるべき事を指示なさい。これから先私達を導くのは貴方よ」
その言葉を受けたゴーストは再び視線を床に落としたものの、再びため息をつくとスッと壁から離れた。そしてスコールに視線を向け、ゆっくりと口を開く。その目はもう、悩み疲れた少年のものでは無くなっていた。
「中東にある難民街の近くに……織斑千冬のクローンが数名潜伏している。そこを押さえて、他のクローンの足取りを掴む。今から言う座標に、一番近い奴は誰だ」
中東にある難民街のはずれにある古い木造建築の食堂は、街の難民達からは悪魔が住むとして恐れられていた。数週間前から時折女の泣き叫ぶ悲鳴が響き、そして鉄と鉄を激しくぶつけているかのような音が響いているのだという。千冬クローンの残党が潜伏しているという確証を得る為に、ゴーストの指示を受けたスコールはエキドナとミラージュの二人にその食堂の調査を命じた。そしてその二人は、ISは使用しないようにという命令を受けてからその食堂へとやって来ていた。終戦後各地で情報収集の為駆けずり回っていた二人は、久しぶりのまともな任務に少しばかり興奮している。状況が状況とは言え、二人共まだ大事な仲間の一人であるノーラ・ノヴァ・ザカリエフの死を未だ引き摺っていたのだ。
「うわ……汚ぇ……」
ミリタリー風のズボンに黒いタンクトップ、その上にボロボロのポンチョを羽織ってショルダーホルスターを隠しているエキドナは、ボロボロで汚らしく、時折ネズミの鳴き声が聞こえてくる食堂を前にげんなりした顔を見せた。隣に立つエキドナと同じ格好をし、ポンチョの代わりに黒いジャンパーを羽織っているミラージュ・サンガもまた、看板は落ち窓は割れ、僅かながら腐敗臭漂うその食堂の外観に嫌悪感を示している。
「ご飯、あんまり美味しそうじゃなさそう……」
「今は何処で飯食っても変わんないわよ。ほら、入るわよ」
そう言ってエキドナはホルスターからベレッタ社製の中型自動拳銃M84を引き抜いた。スライドがステンレスタイプに交換されていて、弾丸も強装弾にしている為威力が向上している。もう一つポンチョで隠してあるホルスターにも同じ物が入っているが、エキドナは最初に取り出したチーターのスライドを引いて初弾を装填する。それに続いて、ミラージュもシグザウエルP226のスライドシルバーモデルを引き抜く。何とか残っていた亡国機業の隠れ家から見つけたもので、誰かが趣味で購入していた物のようだった。
シルバーに輝く銃を構えながら二人が食堂へと入ると、横に長い長方形状のスペースに椅子やテーブル、割れた皿やコップが散乱していた。入り口から入って左側にはドアの外れた一人分のトイレがあり、正面から見て左右には奥の厨房へと通じるボロボロの木製のドアがある。そしてそのドアとドアの間のスペースにはこれまたボロボロの棚があり、店長の趣味だったのであろう不気味なブリキの人形や古い本が置かれていた。
「奥か……?」
「奥」
通常ならば気味が悪くさっさと退散するところだが、二人は自分達を狙う殺気のようなものをヒシヒシと感じていた。一人ではなく、複数の視線も。そして右側のドアに嵌められている半分割れたガラスから銃声が響くと、エキドナの近くで小さな木片と埃が舞い上がった。
「クッソ!」
悪態をつきながらエキドナは前転ししゃがみ込むと、右側のドアに向けて制圧射撃を行った。それと同時にミラージュも地面を回転し左側へと移動すると、左側のドアに向けて銃を乱射しながらトイレの中へと隠れる。再びドアから銃声が響くと、エキドナは再び前転しドアとドアの間の本棚の間へと転がり込んだ。ドアとドアの間は約5m程、エキドナを挟み込んだ状態で、両方のドアからライフルと散弾銃の銃弾が飛び出してくる。床の木片や割れた皿が粉々に飛び散って行く中、エキドナはもう一つのM84を引き抜くと二挺拳銃の状態で立ち上がった。敵側の壁に背を向けた状態で、左右に腕を伸ばしそれぞれのドアに向けて制圧射撃を行う。
「ハッ! 奇襲掛けんならちゃんと狙っときなさいよ、クソが!」
トイレに隠れたミラージュも左側のドアをメインに制圧射撃を行うと、左右のドアから大量の銃弾が吐き出されてくる。ミラージュが便器の陰に身を隠すと、エキドナが左右それぞれに大量の銃弾を叩き込む。制圧射撃の応酬の中、エキドナは口五月蝿く壁の向こうにいる敵を罵った。
「私に死ねって言うのか!? 手前が死ね、クソが! ミラージュ!」
「大丈夫! 数は……三人!」
「どーもッ!」
右側のドアに向けて銃弾を撃ち込んだ後、エキドナは両方のM84からマガジンを落とした。そして右手の指の間に二挺を挟みこむと、マグポーチから新しいマガジンを二つ取り出し同時に装填する。そして再び左側に向けて弾丸を撃ち込むと、ミラージュが隠れているトイレに向けてライフルの弾丸が撃ち込まれた。身を屈めて便器の陰に隠れるミラージュだったが、弾丸が入り口の僅かな出っ張りやミラージュより遥かに上の壁に当たり彼女への直撃は無い。その事に安堵しつつミラージュもP226のマガジンを落とし、新しいマガジンを装填する。
「敵は三……いや、四人? よく分からない……」
ドアに開いた弾痕から放たれる銃弾に三人目の敵の存在を確認しつつ、ミラージュも負けじと応戦した。そしてエキドナは右側のドアの下側に開いた穴からミラージュに向けて発砲しているのに気付くと、ドアの下側に向けてM84の弾丸を一気に叩き込んだ。穴だらけになったドアの向こう側で誰かが倒れるのが見え、下の隙間から真っ赤な血が広がっていった。
「ビンゴ!」
快哉を叫んだエキドナだったが、直後穴だらけになったドアから大量の弾丸が吐き出されるとすぐに身を屈めて制圧射撃に戻った。災難だったのはミラージュの方で、ドアから吐き出された弾丸がトイレの上の貯水タンクに当たり、砕けた壁や便器の破片で白くなっていた彼女に容赦なく水を叩き付けたのだ。便器の中で無くともトイレの水はトイレの水、ミラージュは珍しくエキドナのように悪態をつくのだった。
「……ビッチ」
それからも銃撃戦は続き、新たにライフル持ちを倒したものの散弾銃を持った敵以外に現れた拳銃を乱射する相手に二人は梃子摺っていた。ミラージュもバックアップとして用意していたM8000クーガーを引き抜き撃ちまくっていたものの、まだ勝負は付かない。
「面倒臭いわね……この!」
下半分が殆ど無くなった状態の左側のドアに銃弾を撃ち込みながら、エキドナは悪態をついた。反対側のドアからも、定期的に散弾が撒き散らされてくる。向こうの残弾状況が分からない以上、不利なのはこちらの方だ。イラついた様子でエキドナが棚を思い切り蹴りつけると、置かれていたブリキの人形や本がドサドサと落下した。するとエキドナは落下した物の中に珍しい物を発見する。赤いスプレー缶のようなものを拾い上げ、そこに印刷されている文字を読んだ。
「催涙スプレー……棚に置いてあったのね。あ」
赤いスプレー缶を持ったエキドナは企んだような笑みを浮かべると、トイレに隠れて応戦していたミラージュをジェスチャーで呼び寄せた。首を傾げるミラージュだったがエキドナが制圧射撃を行った為に仕方なくトイレから飛び出し、彼女の近くへと転がり込む。そのミラージュの前に催涙スプレーをチラつかせると、エキドナは左側のドアに向けてその缶を転がした。
「っ」
すぐにその意味を理解したミラージュは咄嗟に床に寝転がり、敵側に転がっている催涙スプレーの缶目掛けて発砲した。先端のノズル部分を撃ち抜かれた缶から勢いよく催涙ガスが放出され、壁の向こう側からガスにやられて複数の咽返る女の声が響く。そしてエキドナは即座に右側のドアに飛びつくとそのまま蹴り飛ばし、ドアに巻き込まれる形で倒れ込んだ
「ったく、手間取らせてくれちゃって……べっ!」
ドアの下で事切れている千冬クローンに唾を吐き掛けると、エキドナは奥の机の上に置いてあった書類一式と携帯端末を回収した。汚らしい場所に不釣り合いなものだ、恐らく連中が持っている情報が何かしら記されているだろう。そうして片方のM84をホルスターに納めると、エキドナは部屋の左側に倒れている冷蔵庫の陰で何かが動いたのを見た。首の動きでミラージュに指示を出し先行させ、自身もゆっくりと冷蔵庫へと近づいて行く。そして同時に冷蔵庫の陰を覗き込んだ二人の視界に現れたのは、胸や腹を撃たれ息も絶え絶えになった千冬クローンの一人だった。手に持っている拳銃には弾が無く、クローンは苦しそうな顔をしながらも二人を怒りの篭った目で睨みつけている。
「はぁ……まだ居たのね」
呆れ返ったエキドナが視線を逸らすと同時に、彼女とミラージュはそのクローンに向けて引き金を引きまくる。銃声が何度も重なり、その度にクローンは身体を激しく揺らせて血を吐き出した。そして最後の一人を掃除し終えると、エキドナとミラージュは探索も程ほどにその寂れた食堂を後にするのだった。
「……そう、ええ、分かったわ。後でこっちの端末に送って頂戴、それからの指示はまた言うから。ええ、それじゃあ」
場所は変わり、スコールの隠れ家。調査を指示したエキドナとミラージュからの報告を受けたスコールは同じ部屋に居るゴーストと夏希に振り返り、小さく首を縦に振った。それから彼女は持っていた端末を部屋の中央にあるテーブルに置き、ゴーストと夏希はその画面を見ようと身を乗り出した。その画面には、現在進行形でエキドナ達から送られてくる情報が次々に表示されている。
「エキドナ達が手に入れた端末には他のクローン達が潜伏していると見られる地域のデータが入っていたわ。アメリカ、ロシア、中国、世界中の至る所に連中は隠れている。ISを所持していないグループもあるそうだけれど、殆どのグループはISを使わないようにしているらしいわ」
「バラバラに行動を起すより集結した方が良いって考えだな」
「ええ、その情報も書類から手に入ったそうよ。生き残った指揮官タイプのクローンが連絡を取り合っているそうだけれど……これね」
スコールが言いながら端末を操作すると、各地に潜伏しているクローングループのやり取りが表示される。そこには現在の装備や人数、合流日時の打ち合わせといった内容が事細かに記されていた。
「既に幾つかのグループは合流しているそうなのだけれど、エキドナから面白い話を聞いたわ」
「面白い話?」
「ええ、幾つかのグループは自分達の目的を果たす為に結託しているわ。だけどそれを行う為に手を組むグループと組まないグループに分かれているらしいの。エキドナ達が襲撃したところにいたグループも、自分達だけで行動を起そうとしていたみたいね」
スコールが言いながら端末を操作すると、各地のグループの行動を記したリストが表示される。そのリストのグループは、合流と書かれたものと離反と書かれた二つに分けられていた。エキドナ達が襲撃したグループにも、離反と表示されている。
「戦力を蓄えてから行動を起そうとするグループにとって、独自に行動を起そうとするグループはかなり迷惑な存在なはずよ。何しろ合流予定のグループのデータまで持っているのだから何処で足が付くか分からないから」
「だったらどうする、潰し合わせるか」
ゴーストは言うが早く、自身が持っていた端末をテーブルに置き何事か操作すると現在元亡国機業のメンバーが潜伏している隠れ家の情報を表示させた。その中の幾つかは、クローングループから近いところにある。
「独自行動を起そうとしているグループをこちらで監視し、別のグループへ嘘の情報を流し仲違いさせる。クローン同士の内戦を引き起こさせるんだ、元々篠ノ之束の指示が無ければ烏合の衆。上手く数を減らせば決起への準備も遅れるだろう」
「そうしてどうするのかしら、京介」
「連中の数を一定まで減らした後で、少人数になった連中に敢えて決起を行わせそこを俺達が叩く。一気に壊滅させるんだ。例え連中が何機のISを持っていようが俺にはJ-ISAがある。一度纏めてしまえば消すのは簡単だ」
ゴーストがスコールの端末を操作すると、端末に表示されていたクローングループのリストに全て赤いバツが付いた。そして端末の画面を元に戻すと、ゴーストは自身の端末を片付ける。それから、ゴーストは夏希を一瞥して肩を竦めて見せた。それに答えるように、夏希が口を開く。
「その為にも、私達は新しい組織を創るわ。亡国機業残党とか、元亡国機業みたいな中途半端な名前じゃなくてね」
「新しい組織、ね。……私としては構わないけど、今までの私達とどう変わるのか教えてもらえるかしら?」
スコールの言葉にウインクして見せた夏希は、バッと腕を大きく開いて子供のような笑みを浮かべてみせた。
「新しい組織の名は【GRD】。ある時は
「そうして、貴女は何を目指すというのかしら。夏希」
夏希の言葉を聞いたスコールは敢えて何の感情も見せずに、ただの興味本位という体で問うた。それは彼女の本当の目的を聞いた為であり、彼女の思想そのものによっては何時か袂を分かつ時が来るかもしれないという恐れがあったからだ。そんなスコールの心情を知ってか知らずか、夏希はゴーストを一瞥してからニッコリと笑みを浮かべ、そして次の瞬間には身の毛もよだつ程の冷たい表情を浮かべた。
「決まっているじゃない、スコール。私が二度と平穏を手に出来ないようにする為よ。このクソみたいな生命を一生戦いに浸し続けるの。それが私に与えられた責務なんだから。私が目指すのは------自らの破滅よ」
この日、GRDの名の下に最強の組織が誕生した。彼らは正義でも悪でもない存在として、或いはその両方として、世界を影から動かして行く。そして彼らの最初の任務は、後片付けと揶揄される程ちっぽけな掃討作戦なのであった。
そしてGRDの活動開始から一年が経過した時、彼らの耳に織斑一夏が拉致されたという情報が入るのだった。