※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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乱入

 

五月、クラス対抗戦を間近に控えたこの日、俺や一夏達は第二アリーナで一夏の特訓を行っていた。だが今回は、少し目的が違っている。

 

 

「悪いな、俺の新装備の試しに付き合わせちまって」

 

 

「いや、気にするなよ。射撃戦もセシリアとばかりやってるとどうもワンパターンになるからな、ありがたいよ」

 

 

先日のセシリアとの戦闘の詳細を日本重化学工業共同体に送ったところ、機体の担当官から急遽新型装備を送られることが決定した。何でも元々装備予定のものだったらしいが、叢雲の拳と同時に試験を行うのは危険と判断され外されていたものらしい。だが戦闘の様子からやはり徒手空拳だけでは無理があると考え直され、説明書と共に送られてきたのだ。

 

 

「腰部固定式大型ビーム砲、高出力の荷電粒子砲か。当たったらやばそうだな」

 

 

一夏がISを展開した俺の背中の方に目を向けると、俺も腰の両側よりやや後ろの位置に装着されている二つの荷電粒子砲に目を向けた。楕円状の粒子加速器からやや細めの長方形の砲身が伸びている形で、背中を通してISのコアから直接エネルギーを得る形で作動する。射撃時以外は銃口が下を向く形で、使用する時は腰で構えるようになるらしい。

 

 

「凱龍の試作兵器、本命はこっちらしいんだ。何でもISのコアが常に生成しているエネルギーを利用した固定装備らしいけど……」

 

 

ISのコアには、ISの装甲や武器等が量子変換し保存されている。普通はそれらを展開し戦う訳だが、その際生み出されるシールドエネルギーには機体ごとに違うが上限がある。それを回復させるには外付けのエネルギー・パックを使うしかない。だがISのコアはそれとは別にエネルギーを生成し続けていて、それを何とか利用出来ないかと考えられたのがコアとの直接接続方式を取ったこのビーム砲という訳だ。この武装自体は装甲と同じように量子変換されているがエネルギーは通じておらず、展開してから内部エネルギー・パイプをコアと接続することによってエネルギーを供給される仕組みらしい。

 

 

「正直セシリアのBT兵器とかの方がシールドエネルギーの使いまわしとかで危険度は低そうなんだけどなぁ……。戦闘中に暴発してコアがやられました、とかになったら俺死んじまうっての」

 

「まあ、未だISに関しては謎の部分が多いですから。勇み足になってしまうのは仕方のないこと。京介さんなら大丈夫ですわ、きっと」

 

「他人事だと思って」

 

「他人事ですから、ライバルでもありますけど」

 

 

業と大きめのため息をセシリアの前でついてみせると、俺はビームカノンを作動させる。バッと砲身が跳ね上がるように位置につくと、その上部に上向きに付けられたトリガー付きのグリップを握った。このトリガーは非常時用のもので、通常発射時にはイメージ・インターフェースで行う。

 

 

「兎に角何回かぶっ放してみないとどうにも言えないよな。飛行しながらの射撃練習か……また山田先生のとこ行かなきゃ」

 

「山田先生なんかよりも、この私を頼るという選択肢はないんですの?」

 

「出力はこっちが上だし、BTみたいに複数を一度に操るような複雑な思考もいらないからな。単純な火器として考えれば先生に習う方が早いぜ?」

 

「なら、今度は実弾の雨に飛び込むことは無さそうですわね!」

 

 

言うが早く、セシリアはその身に青雫の鎧(ブルー・ティアーズ)を纏い跳び上がった。何処となく言外に不機嫌さが漂っているのは俺の気のせいだろうか。

 

 

「何怒ってんだセシリアの奴……? 一夏、先に飛んでるぞ」

 

 

「ああ、箒との話が終わったらすぐに合流するよ」

 

 

そう言ってアリーナの端の方で竹刀を持って仁王立ちしていた箒の方へ一夏が向かうのを確認してから、俺は機体を飛び上がらせてセシリアと高度を合わせた。既にセシリアの周囲には八基のビットが浮遊している。今回のテストに使う練習用ビットを態々持ってきてもらったのだ。

 

 

「最初は固定式のターゲットを撃ってもらいますが、その後は私が操るこのビットを全て撃ち落してもらいますわ。いいですわね?」

 

「まず固定式のターゲットに当たるかどうかが問題だと思うんだけどな……」

 

「複雑な思考は必要でないのでしょう? なら殆どはIS側が調整してくれるはずですわ、止(・)ま(・)っ(・)た(・)ま(・)ま(・)撃つのですから」

 

「りょーかい……。取り敢えず、撃ってみるか!」

 

 

視界に四角いレティクルが表示され、アリーナの壁沿いに設置された固定式のターゲットを自動でロックオンする。視界の両側に表示されるエネルギーゲージが点滅し、やがてチャージ量が満タンになったことを知らせてくると、俺はトリガーを引くべくスラスターを一瞬だけ噴かした。

 

 

「ISのエネルギーを直に使うとどういうことになるのか、見せてもらうよ!」

 

 

刹那、視界の下で閃光が瞬き、二本の黄色い光条が迸った。反動で機体が大きく後退し、それを抑える為に更にスラスターが自動で噴かされる。衝撃に機体全体が激しく揺さぶられる中、俺はビーム砲へのエネルギー供給を強制カットした。威力が強すぎて、砲身が持たない可能性があったからだ。それと、俺自身がこれ以上姿勢を維持出来ないと悟ったからでもある。

 

 

閃光が収まると同時にビーム砲を待機状態に戻し、俺は詰まっていた息を大きく吐いた。目の前には砲身の加熱やバイタル異常を示すウィンドウが赤い警告と共に表示されている。ターゲットに目を向けると、ロックオンしていたはずのそれは跡形も無く消滅していた。その周囲に設置されていた他のターゲットも、僅かに融解している。

 

 

「ぷはぁ!! はぁ、はぁ……何だこりゃ、凄い威力だ……はぁ」

 

 

頭部装甲を解除し汗に塗れた顔を外気に晒しながらセシリアの方に向くと、僅かながら彼女は青筋を立てて俺を睨みつけていた。何故だか怒ってらっしゃる。

 

 

「貴方ねえ、一体何を考えていらっしゃいますの!? 試射だというのに最大出力で撃つなんて、お馬鹿さんにも程がありますわ!」

 

「え、ダメだった!?」

 

「ダメに決まっています! もしそれで武器が破損して怪我でもしたらどうするつもりですの!?」

 

「わ、悪かったよ……。ごめんセシリア」

 

「全く、仕方ありませんわね。今日の一夏さんの特訓は箒さんに一任するとして、京介さんにEN兵器のイロハ……で合ってますわね、それを叩き込みますわ! このままではご自分の攻撃で自分を殺しかねません!」

 

「は、はぁ」

 

 

一通りセシリアからの説教を受けた俺は、そのまま彼女と実戦形式による講習を受けることになった。シールドエネルギーを消費しないEN兵器、使い方を誤れば確かに危ない。完成すれば雪片の零落白夜のような特異なものとして扱われるであろうこれを物にするのが俺の役目。

 

 

「まずは出力を絞ることからですわ。反動や射撃時の姿勢制御等が最も小さくIS側で------」

 

 

セシリアの言葉を聞きながらの実践。その最中視界に入り込む雪片弐型を振るう一夏と竹刀を持った箒。相手をすると約束していた一夏に申し訳なさを感じつつも、ビーム砲の調整をし、照準、射撃。迸る光条がターゲットに直撃し、更に次のターゲットへ。

 

 

結局この日の特訓は俺と一夏がそれぞれのコーチから指導を受けるだけで終わり、俺が一夏の特訓相手になったのは、クラス対抗戦の二日前だった。役に立てなくて、正直申し訳なかった。

 

 

 

 

 

試合当日、場所は第二アリーナ。第一試合から新入生同士、しかも片方は世界初の男のIS操縦者ということで客席は満員だった。溢れた一部の生徒は廊下で立ち見、アリーナにすら入れなかった者は外部モニターでリアルタイム配信される映像で見るらしい。

 

 

かく言う俺は特等席ともいえるピットで箒やセシリア、織斑山田両先生と共にいた。既に一夏も凰鈴音……鈴も自分のISを展開してアリーナに立っている。中国の第三世代型IS【甲龍(シェンロン)】、セシリアのブルー・ティアーズ同様両肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が特徴的だ。浮いている棘付き装甲(スパイク・アーマー)が痛そうだ。

 

 

「結局奴(やっこ)さんのISも近接メインみたいな感じだな。あれだとちゃんと立ち会えればいけるんじゃないのか?」

 

「確かに箒さんの指導で剣術を、私の指導で基礎運動をミッチリ教えましたから前よりは格段に動けるようにはなっているはずですわ。京介さんがお教えになったのは……さて、何だったでしょう?」

 

「超至近距離での拳の使い方です、オルコットせんせー」

 

 

ふざけるように返した俺の背中をバチンと叩いたセシリアを尻目に、箒は顎に手を当てたまま何処か不安げな様子で口を開いた。

 

 

「しかし相手も第三世代型だ、セシリアのビットのように何かしらの特殊兵装があるはずだ。それが何なのか……」

 

「【衝撃砲】ですわね。空間自体に圧力を掛け、砲身を生成、余剰で生じる衝撃を砲弾化して撃ち出すものですわ」

 

「知っているのか!?」

 

 

セシリアの言葉に驚いたような反応を示した箒に、彼女は勿論と言わんばかりに頷いた。だがそれと同時に、何処か怪訝そうな表情をしている。

 

 

「先日申し上げたと思うのですが……聞いていらっしゃいませんでしたの? 確かにその時の箒さんは生身の一夏さんに竹刀を振るうのに夢中なようでしたけど」

 

 

うっ、と言葉に詰まる箒。やれやれとため息をつくセシリア。実は俺も聞いていなかったなどと言い難い状況になってしまった時、アリーナに試合開始を知らせるブザーが鳴り響いた。

 

 

雪片弐型を振るう一夏と両端に刃のついた青竜刀のようなものを回転させる鈴の斬り合いが始まり、客席や通路からの歓声にピットが僅かながら震える。だが甲龍の肩アーマーがスライドし一瞬輝くと、何故か一夏が何かに殴られたように弾き飛ばされた。しかも二度も。

 

 

「あれが衝撃砲か! うわ、痛そ……」

 

 

「砲弾も砲身も見えないというのは回避するのも難しいということですから、ISが大気の歪みを感知しても躱すので精一杯のはずですわ。問題は如何に早く、速く一夏さんが相手の懐に飛び込み零落白夜を叩き込めるかに懸かっていますわ」

 

 

アリーナ上で見えない砲弾相手に立ち回る一夏、直撃はしていないようだが着実にダメージは重ねられていっている。そして遂にチャンスを見つけたのか、一夏が雪片を握りなおすのを俺は見た。スラスターを噴かし、一気に瞬時加速と呼ばれる技能で接近を図り------突然の強い衝撃がアリーナ全体を揺らした。

 

 

「きゃっ!」

 

 

バランスを崩して倒れそうになったセシリアの手を思わず掴んで引き起こすと、ピット内の明かりが真っ赤に切り替わった。アリーナの中央からは、もくもくと煙が上がっている。一体何が起きたのだろうか。アリーナの遮断シールドが破られたことを知らせる表記を前に、山田先生がオロオロとし、織斑先生は腕を組んだまま一夏達の姿を隠す煙をジッと見つめている。

 

 

「大丈夫かセシリア? クソ、何があったんだ?」

 

 

「ええ、ありがとうございます。外部からの攻撃? 一体誰が?」

 

 

次の瞬間、俺は背後に鋭い殺気のようなものを感じ取った。思わず振り返ってみても、そこには同じように戸惑っている箒の姿があるだけ。感じたはずの殺気も無くなっていた。

 

 

「い、一夏達は無事なのか? 確認出来ないのか京介!?」

 

 

「あ、ああ。ちょっと待ってろ、今センサーで……」

 

 

ゾクッとした明確な殺意、それが再び全身を駆け巡る。思わず両膝をついてしまうと、傍にいたセシリアが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

 

「ど、どうしましたの京介さん!? 大丈夫ですか!?」

 

「どうした、京介!?」

 

「い、いや、凄く嫌な感覚が何処からか……殺意のような、怖い気持ちが俺に」

 

 

再び身体を突き抜ける殺意に顔を上げると、一瞬だけ織斑先生と目が合った。先生はすぐにアリーナの方へと向いてしまったが、変な違和感だけが俺の内に残る。

 

 

「殺意って……っ、あれを見ろ!」

 

 

背中を擦ってくれていた箒の言葉にモニターに視線を向けると、さっきまで上がっていた煙は無くなっていた。そして見慣れぬ深い灰色のISがポツンとアリーナ中央に立っている。その姿は、異様だった。

 

 

「全身装甲? そんな、一体誰があんなものを……」

 

 

腕が爪先よりも先にあるほど長く、その全長は2mを超えている。むき出しのセンサーレンズが不規則に並んでいて、全身にスラスター口、両腕には二門ずつ砲門がある。見たこともないISだった。

 

 

「と、とにかく織斑君と凰さんを避難させないと……」

 

 

山田先生が慌てながらも二人に対して呼び掛けを行うが、既に二人はその謎のISとの戦闘に突入していた。謎のISの両腕から放たれるビームは、見るだけでセシリアのBTよりも出力が上だということが分かる。俺のビーム砲と同じ形式ならば分からないが、通常のISの装備と同じなら、撃ち合いに持ち込めば勝てるかもしれない。

 

 

「……セシリア、俺も行って来る」

 

「な、何をおっしゃっていますの!? お止めなさい、危険です!」

 

「向こうが遠距離に特化しているのなら、誰かが援護すればあの二人なら容易に近づけるはずだ。俺のビーム砲なら、恐らく……」

 

「馬鹿も休み休みに……ああもう、箒さんも何とか……あら?」

 

 

素っ頓狂な声を上げたセシリアに連られて視線を箒のいた方向に向けると、既に彼女はピットからいなくなっていた。まさか、下に降りたのか?

 

 

「ッ、捜してくる!」

 

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

 

セシリアを振りほどくようにしてピットから出た俺は、箒を探すべく階段から飛び降りるようにして下へ降りた。他の通路へと通じる道は隔壁が下ろされて通れなくなっている。だからピットから出たところで進めるのはピット下部の発進口か中継席だけだ。

 

 

「どっちだ……クソ、近い方から……ッ!」

 

 

まず発進口の方に向かおうとした途端、そこへ通じる隔壁が下ろされてしまった。最悪のタイミングだ。いきなり出鼻を挫かれてしまったものの、俺はその場で凱龍を展開する。

 

 

「修繕費用は学園持ちでお願いします!!」

 

 

叢雲の拳を作動させ、左手の手刀を隔壁に突き刺す。放出される高熱が隔壁を溶かし、その一部が崩壊する。そこから無理矢理発進口に侵入すると、目の前で閃光が瞬いた。外れた謎のISのビームが発進口付近に直撃したのだ。

 

 

「箒は……いない!? 一夏達は、まだ無事か」

 

 

ハイパーセンサーの拡大映像で一夏と鈴がまだ謎のISと戦っているのを確認すると、どうやら二人が何か作戦を立てているのを二人の動きから感じた。何か奴の弱点でも見つけたのだろうか。鈴が一夏の後ろに回り、一夏が雪片を握りなおし突撃するような姿勢を取る。そして攻撃が始まろうとした途端、箒の叫びがアリーナ中に響き渡った。

 

 

「一夏!」

 

 

「しまった、中継室の方か!」

 

 

慌てて飛び出すも、箒のマイクを通した叫びは止まらない。

 

 

「男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 

そのハウリングを起しながらも響く声は、俺や一夏達以外にも謎のISの注意すら引いている。馬鹿だ、あんな行為、自分から撃ってくれと言っているようなものだ。案の定、凱龍のセンサーが謎のISが箒をロックオンしたことを知らせてくる。

 

 

「馬鹿野郎っ、箒!」

 

 

叫びながら腰のビーム砲を展開する俺の脳裏を、突然四年前の光景が過ぎった。小さな部屋で、強化ガラス越しにISで飛んでいる姉を見ていた自分。その姉が背中から火を噴きながら墜ちていく光景。その炎に包まれる姉を前に、必死に叫んでいる自分。そして燃え盛る部屋の中、俺の胴体を貫いていた鉄骨が------。

 

 

「ぅぅぅぅうううああああああッッ!!」

 

 

中継室を庇うようにして飛んだ俺は、叫びながらビーム砲のトリガーを引いた。出力を抑えたものの威力は十二分にある閃光が何度も瞬き、迸る。視界の向こうにいる謎のISは、全身のスラスターを利用した図体に似合わぬ高機動で俺の攻撃を避けている。定まらないレティクルを必死に目で追いかけながらトリガーを引き続け、砲身の加熱を警告するウィンドウすら無視して俺は撃ち続けた。

 

 

「一夏ッ! 斬れぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

ダメ押しと言わんばかりに最大出力のビーム砲を放つと、一瞬の間に反撃として放たれた敵のビームが凱龍の右肩を焼いた。バランスが狂い、そのまま背後に飛ばされた俺は中継室の強化ガラスを打ち破って部屋の中へと転がり込む。凱龍を緊急解除すると、床を転がりながら打ち破った強化ガラスの破片が手や顔に刺さり、僅かに痛みが走った。

 

 

「っクソ! やったのか!?」

 

 

壁に叩きつけられながらも箒の方に向いて問うと、膝をついてこっちを向いていた彼女は弾かれるように割れたガラスの向こうを覗き込んだ。そして俺の方を見返すと、小さく震えた声で「やった」とだけ答えた。それに安堵すると、俺は顔に刺さった……というよりは引っかかっていたガラス片を取った。手についている破片も深く刺さっているものは無く、パッパッと取っ払う。

 

 

「……おい、箒」

 

 

そして立ち上がりながら箒の名を呼び、彼女も立ち上がって近づいてくると、俺はその頬を思い切り左手で引っ叩いた。乾いた破裂音が響き、打たれて赤くなった頬を押さえた箒が呆然とした表情を俺に向けてくる。

 

 

「な、何を------」

 

「楽しかったか? 勝利の女神ごっこは」

 

「え……」

 

 

グイとその胸倉を掴み壁に押し付けると、俺はそのまま心中を吐露した。

 

 

「ISも持ってない、出て来れば何も身を守るものが無い状態でやった邪(・)魔(・)は楽しかったかって聞いてるんだ俺は。あそこでお前が出ても的が増えるだけ、それも何の抵抗も出来ない、味方には邪魔でしかない存在になることにどうして気付かなかったんだ!」

 

「わ、私は! 私だって、それくらい……」

 

「分かっててやったのかお前は! もし俺が出て来ずにあのISがお前を撃っていたらどうなってたと思う!? この中継室ごとお前は消し炭になってたかもしれないんだぞ! それも分かってたっていうのか!?」

 

「そ、それは……」

 

 

下を向いて黙り込んだ箒を前に、俺は空いていた右手で思い切り壁を叩いた。顔の近くを殴った俺の拳に、少しだけ箒の身体が跳ねる。彼女をあの姿を見ていると、かつての自分を見ているようで嫌だった。何も出来ないくせにただ叫んでいて、その結果一つの命を失う切っ掛けを作ってしまった自分に重なって見えるから。

 

 

「……ごめん」

 

 

小さく謝った後箒の胸倉から手を離すと、彼女は壁に背を預けたままズルズルと床に座り込んだ。俺もこれ以上言葉を続けられず、反対側の壁にドッと背中をぶつける。するとそのタイミングで、ブルー・ティアーズを展開したセシリアが中継室に現れた。俺が破壊したピットから出てきたのか、隔壁が開いたのか分からないが、彼女は俺達の無事を確認しに来たようだった。

 

 

「京介さん、箒さん、ご無事ですか!?」

 

「セシリアか……。ああ、俺も箒も大丈夫だ。一夏と鈴はどうした? 勝ったんだろう?」

 

「え、ええ。京介さん、顔から血が……」

 

 

彼女を押しのけるようにして外に出ようとすると、一夏達がいる方向から突如爆音が響き渡った。見れば、真っ二つに分断された謎のISにもたれ掛るように一夏が倒れている。一体何があったというのか、鈴が慌てて駆け寄る姿が拡大して視界に映し出される。

 

 

「あいつ、大丈夫なのか? ったく、先生達は何して……」

 

 

一夏の様子を見に行こうと凱龍を展開して飛び出そうとしたが、一瞬視界が暗くなり、そのまま足元がふらついた俺は壁に肩からぶつかってしまった。前にセシリアと戦った後の時と似ている。目の前にいるセシリアの顔がぼやけて見え、次にハッキリと見えたのは近づいてくる中継室の床だった。

 

 

 

 

 

 

『女の子の顔を叩いたのは、お姉ちゃん感心しないな。心配だったのは分かるけどさ、フォローも大事なんだから後でちゃんとしときなさいよ? ただの暴力野郎は弟なんかじゃないんだから。……でも、誰かの為に戦うのは良い事よ。京介はただ自分に重なって見えたあの子が嫌で助けたんだろうけど、自分の為に戦ったんじゃないでしょう? それでいいのよ、誰かの為に何かを犠牲に出来る人はあらゆる事を可能にする力を得る。私はそれが出来なかった、だから伊弉諾は私を拒絶した。でも京介なら大丈夫、あの力は、きっと貴方を助けてくれる。私が出来なかったことを、京介がやるのよ。止めて、あの二人を。……それと、私があの時ああなったのは京介の所為じゃないよ。あの事故は私一人の中だけで終わるはずだった。そこに京介が偶然巻き込まれてしまっただけ。だから自分の所為で私が死んだなんて思い詰めないでね、何時までも。私は見守っているから』

 

 

 

 

目が覚めた時、俺はまたかと呟いた。保健室の白い天井、カーテンで仕切られたベッド、顔や手に絆創膏が幾つか貼られている感覚がする。前に目覚めた時よりは動く身体を起してカーテンを開くと、窓から差し込んでくる夕日に僅かに目を細める。

 

 

「……姉さん」

 

 

また訪れた懐かしいという感覚に、俺は戸惑いながらも立ち上がった。多分学園は今あのISの乱入事件で大慌てのはずだ。一先ず織斑先生か山田先生に会いに行こうと扉の方へ向かうと、俺がノブを掴む前に向こう側から扉が開かれた。現れたのは、暗い表情をした箒だった。

 

 

「っ」

 

「京介、お、起きたのか?」

 

「あ、ああ。……それじゃ、俺行くから」

 

 

乱入事件の最中、彼女の頬を打ってしまったことを思い出して、俺はその気まずさからそそくさと保健室から出ようとした。が、箒に右手を掴まれ、俺はその場に留まらざるを得なくなる。

 

 

「ま、待ってくれ! その……私は」

 

「あの時打ったことは謝る。理由はどうあれ、女に手を上げちゃいけなかった。すまない」

 

「そうではない! あれは、私も考えが足りていなかっただけだ。謝らなければならないのは、私の方なのだ。お前まで巻き込んでしまってすまなかった、京介」

 

 

俯き、彼女に掴まれていた手の力が弱まると、俺はその手を左手で優しく外した。そしてそのまま左手で、箒の頭を撫でるように動かした。

 

 

「謝らなくていいよ。巻き込まれたっつーか、巻き込まれに行ったようなもんだし……その、お前が無事で良かった、うん」

 

 

自分で言っていてはずかしくなるけど、何故だか今はこうしていたくなった。箒も頭を撫でられるのは恥ずかしいのか俯いたままだけど、無理矢理振り払う素振りも見せていない。結局セシリアと鈴が扉を破壊する勢いで保健室にやってくるまで、俺は彼女の頭を撫で続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、IS学園の地下深くにある特別区画。

 

 

そこでは、織斑千冬が一人破壊された無(・)人(・)I(・)S(・)を前に、何者かを怒鳴りつけていた。相手の姿は無い、ISによる通信だ。

 

 

「この馬鹿者が! 誰が一夏を殺すような真似をしろと言った!?」

 

『それは束さん的にも大誤算だったんだよちーちゃん! まさかあのダメージを受けてもまだ戦闘を継続しようとするなんて思わなかったんだよ! もうあのタイプの無人機は作らないから安心して、ね?』

 

「……次に一夏に大怪我をさせてみろ、お前を殺す」

 

『うん、ごめんね、ちーちゃん。本当、ごめんなさい』

 

 

虚空に響く篠ノ之束の声に不機嫌さを隠そうともせずに舌打ちをした千冬は、無人機の破片を見下ろしながら口を開いた。

 

 

「それで、そっちの準備はどうなんだ? お前の妹用の籠(・)は」

 

 

『それは大丈夫! 何度も何度もテストしてるから、完成まであと少しだよ! でもちーちゃん、籠じゃなくて紅------』

 

 

途中で通信を切断すると、千冬はため息をつきながらその黒髪を掻き上げた。どうも昔から、自分の弟のことになると抑(・)え(・)が効かなくなる事がある。そんな自分に嫌気が差す。だが彼女には、彼女と篠ノ之束には何者にも邪魔されずに遂行したい野望がある。その為にはそれぞれの弟妹が強くなる必要があった。誰にも敗北せず、互いを最期の最後まで守りきれる力を。その為の剣を束が作り、それを振るう身体を千冬が作る。

 

 

「もう少しだ、もう少しで二つの剣が揃う。待っていろよ一夏、すぐにお前の望むものを手に入れてやるからな」

 

 

独り呟き、道化のように笑う。乾いた笑いが反響し、消えていく。

 

 

そしてバラバラの無人機を見下ろす千冬の前にはもう一つ、橙色をしたISが鎮座していた。

 

 

「我々の邪魔をするものは、全てこの【暮桜】で叩き潰してやる。どんな手を使ってでも……」

 

 

グッと握られた拳からポタポタと赤い血が滴り、床を汚していく。そしてそのまま、千冬は地下区画を出て行くのだった。背後の無人機のまだ生きていたハイパーセンサーを通し、何者かが自分を見つめていることに気付かぬまま。




何だかんだで5話目に突入しました、沢山の方にお気に入り登録して頂いて凄く嬉しいです


原作準拠で進む話はあと3~4話くらいでしょうか、次回は遂に正(?)ヒロインコンビの登場です


お楽しみ!
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