インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
翌日の朝、日曜日。俺はドアをノックする音で目覚めた。保健室から部屋に戻る時、誰にも何も言わなかったから様子を見に来たのかもしれない。まだぼんやりとした頭を掻きながらベッドから降りてドアの方へ向かうと、再びドアがノックされる。
「はいはい、今開けるから待ってろって」
言いながらドアを開くと、そこにいたのは寝間着姿の一夏と何故か制服姿のシャルルだった。二人共何処か周囲を気にしている様子で、俺は一先ず部屋に二人を入れることにした。
「適当なとこ座ってろ。ちょっと顔洗ってくるから」
「ああ、悪い」
「ごめんね、こんな朝早くから」
洗面台に向かってパパッと顔を水で洗い、タオルで拭きながら二人のところに戻る。冷蔵庫から買い置きしていた清涼飲料水の缶を取り出しプルタブを起こしてから、俺は口を開いた。
「それで、一体何だ? まさかボーデヴィッヒの襲撃があったとかじゃねえだろうな」
「いや、そうじゃないんだ。どっちかって言うと、それより深刻というか……何というか」
やけに言葉に詰まる一夏に首を傾げると、シャルルが太腿の上でギュッと拳を握り締めているのに気付いた。握り過ぎなのか、唯でさえ白いその手が真っ白になっている。
「おいシャルル、手」
「え? あっ、ごめん……つい」
どうにもハッキリしない二人に、俺は少しばかりイラついていた。睡眠時間は十分だが朝っぱらから部屋に来た挙句何を言うでも無く、何かあったのだけれど言い難い雰囲気を醸し出している。言うのなら、さっさと言って欲しいところだった。
「……なあ、何にも無いんだったら帰ってくれるか? 悪いけど、昨日のことで今日はゆっくり休んどきたいんだけど」
「わ、悪い京介。その、な……」
「待って一夏、僕が話すよ。ごめんね京介」
そう言って口を開いたシャルルから語られた内容は、俺の予想を遥かに上回っていた。愛人の子、自分を道具のように扱う父、理不尽な指令、そしてこれからそうなるであろう結末。少なくとも、聞いていて胸糞が悪くなるのは確実な内容だった。
「……それで、それを俺に話してお前達はどうしたいんだ? 話自体は一夏の引っ張り出した特記事項で現状維持出来ているだろうに。三年間もあれば何とかなればの話だけどさ」
「ああ、それで今シャルルの正体を知っているのは俺達三人だけだ。京介には何かあった時のために助けになってもらいたいんだ。正体を知ってる同士なら、口裏を合わせやすいから」
「他の女子連中にばれないように協力しろってことか。……シャルルがそれでいいなら、俺は何も言わないよ。任せとけ」
「ありがとう、京介」
そう言って笑みを浮かべたシャルルは、確かに女の子に見えた。元々中性的だと思っていたし、どちらとも取れる微妙なラインを突いていたのだろう。
「しっかし、何だって一夏にばれたんだ? 聞いてる感じじゃシャルルから話したんじゃなさそうだし」
「そ、それは、色々あったんだよ。色々」
「ふーん。まあ、心配すんなよシャルル。やる時はバッチリやってやるからさ」
「うん、ありがとう。嬉しいなぁ、こんなに優しい人達と出会えるなんて……」
何処か遠い目をしたシャルルに一夏と共に苦笑すると、これからのことを少しばかり相談してから二人は自分達の部屋へと戻って行った。そういえば正体をばらす訳にはいかないから、二人はそのままルームメイトの関係を続けるのか。
「秘密を共有する一組の男女が同じ部屋……うわぁ」
一瞬ピンク色の妄想が働きかけたところで頭を軽く振り、俺は持っていた缶の中身を飲み干した。馬鹿なことを考えている暇は無い。まずは昨日の戦闘で一部損傷した凱龍のデータを確認して、修理しないといけない。トーナメントまでに調整を終えなければ、ちゃんとしたデータが取れないからだ。
「……親か」
ふとシャルルの話を思い返して、俺は机の上に置いていた写真立てを手に取った。今はもう無くなってしまった研究所で、ISスーツの上から白衣を身に纏った二人の女性と、まだ十歳頃の自分が写っている。ブロンドの長髪をした外国人の女性は、姉さんの同僚だった人だ。名前は確か、スコール・ミューゼル。事故が起こってから暫くは連絡を取っていたが、何時の間にか音信不通となっていた。写真の中の俺の頭を撫でるようにしているのが、浦城夏希。俺はというと、頭を撫でられているのが恥ずかしくてそっぽを向いている。
「いるだけマシなもんかと思ってたけど、案外そうでもないんだよな……。姉さんは知ってたのかな、俺達の両親がどうして死んだのか」
物心付いたころには孤児院にいて、姉さんは俺を養う為にISの世界に飛び込んだ。そこで成績を残して、給料を貰って、俺達の家を買って、そして……。
写真立てを机に戻し、俺は握りつぶした空き缶をゴミ箱に投げ入れた。そこでまだ朝食を食べていないことを思い出し、適当に着替えてから部屋を出ようとドアノブに手を伸ばす。
------いってらっしゃい。
「ッ!?」
そして背後から聞こえた声にバッと振り返るも、当たり前というか、部屋には誰も居なかった。無人のベッドに、乱雑にテーブルに置かれている教科書類、そして机の上の写真立て。
「……気のせいか」
寝すぎたかなと呟いて部屋を出た俺は、その後セシリアと鈴の一夏争奪戦に巻き込まれ、結局貴重な休みの殆どを失ってしまうのだった。
翌日、月曜日。男装したままのシャルルと軽い挨拶を交し、心配するなと小声で伝えると、急にセシリアに呼び止められた。前日の件もあって若干警戒の気を見せると、何故か憤慨した様子で否定された。
「今日の放課後ですが、私と鈴さんで模擬戦を行います。なのでその審判役を京介さんにお願いしたいのですが、宜しいですの?」
「ああ、それくらいなら全然良いけど? 他の奴は呼ばなくていいのか?」
「ええ、今日は少しやりたいことがありまして。二組の鈴さんと戦うのが一番良いんですの」
「分かったよ、じゃあ放課後な。場所は?」
「第三アリーナですわ」
「了解。それじゃ」
短い会話を終えて自分の席に着こうとすると、ガラッと教室のドアが開かれる。現れたのはドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒ。一夏を目の仇する軍人だ。相変わらず冷たく刺すような視線をクラス中に振りまいてから、自分の席に着く。その間静まり返っていたクラスメイトが再びざわざわと騒がしくなってくると、俺もまた彼女から視線を外して天井を仰ぐのだった。この時点で俺は、まだ凱龍の
「ダーッ、クソ! いきなり資料運ぶの手伝えーって、織斑先生の人使いの荒いこと! セシリアに怒られるぞ……」
放課後、俺は織斑先生からの指示を受けて大量のダンボールを校舎から第四アリーナへと運ぶ作業を行っていた。御蔭でセシリア達との約束の時間を大幅に過ぎてしまっている。幸いなのは、第四アリーナと第三アリーナが近いことだろうか。兎に角急がねばと走る俺の前に、突然同じクラスの女子数名が第三アリーナ側から走って来ていた。俺を見るなり駆け寄って来た全員が全員焦っているようで、どうも只事ではなさそうだった。
「う、浦城君! す、すぐ第三アリーナに行って! お願い!」
「どうした? 何があった!?」
「セ、セシリアと二組の凰さんが、ボ、ボーデヴィッヒさんに……!」
「ッ! 先生を呼んできてくれ、出来れば織斑先生を! クソ!!」
脳裏に最悪の状況を浮かべながら、俺は必死に第三アリーナまで駆けた。ゲートを通り、客席側ではなくピットへ向かう。開いていく自動ドアの隙間から無理矢理身体を通してピットの発進口に出た俺の視界に飛び込んできたのは、アリーナ中央で黒いISと戦闘を繰り広げているセシリアと鈴の姿だった。いや、あれは戦闘などではない。一方的な
「セシリア! 鈴!」
すぐに凱龍を展開した俺は発進口から飛び出し、腰のビーム砲を起動させた。そのまま上空から一方的に黒いIS目掛けて乱射するも、その黒いISは簡単にビームの嵐を躱し、先端に刃のついたワイヤーを射出して鈴を攻撃した。既に殆ど装甲の無くなり掛けていた鈴が吹き飛ばされ、それを庇うようにビットを展開したセシリアもまた、左肩の大型砲の直撃を受けてアリーナの壁際まで吹き飛ばされて行った。
「何だ、雑魚が一人増えたかと思えば貴様か。死にに来たのか?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」
腰のビーム砲をボーデヴィッヒに向けたまま、俺は背後に倒れている二人を一瞥した。かなりISの損傷が酷いようで、身体にも大怪我を負っているようだった。
「また一夏と戦う為に二人を攻撃したのか!」
「フン、だったらどうだと言うのだ。所詮下らん種馬を取り合うような屑共だ。死ねば少しはまともな連中にISが渡るのではないか?」
「手前ッ!」
怒号と共に放たれたビームを、ラウラは軽い動作で躱してみせる。そうしてお返しとばかりに放たれる砲弾を俺も躱し、実弾と粒子の応酬が続く。
「フン、貴様もこのシュヴァルツェア・レーゲンの前では相手にならない。大人しくしていろ」
やがてボーデヴィッヒがそう言ったかと思えば、俺の身体が凱龍ごと突然
「何だ、これ……ぐっ!?」
そして動きを止めた俺に容赦無く撃ち込まれた砲弾に装甲が砕け、俺の身体ごと吹き飛ばされる。だが前の不意打ちのようにはならない。再び動けるようになった俺は空中で一回転し難なく地面に着地する。そして腰のビーム砲を跳ね上げると、既に向こうは二発目の砲弾を放ってきていた。刹那、俺は腕を顔の前でクロスさせた。砲弾が腕に直撃し、装甲を砕く。躱すのは簡単な射線だった。少し横に動けば最低でも直撃は避けられる。だが俺は、避けてはならない場所に立っていた。
「どうした、避けないのか。……ああ、そうか。後ろにゴミがあるからな、散らばったら困る」
俺の背後、アリーナの壁際には大ダメージを受けたセシリアと鈴がいる。二人共まだ動けないのか、時折起き上がる素振りを見せながらも未だ地に伏せている。俺が避けてしまえば、奴の砲弾が二人に直撃してしまう。ISがあってないような今の二人に攻撃が当たればどうなってしまうか、考えたくもない。
「本気で殺す気なのかよ、お前はッ!!」
「当然だ、織斑一夏を消す為なら私は何だってしてやる。教官の経歴に傷をつけた奴を、私は絶対に許さない」
「その尊敬してる教官の大事な弟を殺す方がよっぽどだと思うがな俺は。かつての教え子に唯一の家族を殺された
「黙れっ!」
シュヴァルツェア・レーゲンから放たれるプラズマ刃を伴った複数のワイヤーが凱龍の至る所に突き刺さり、装甲を削って行く。シールドバリアーが勢い良く減っていき、俺はガックリと膝をついた。
「あのような男が存在すること自体が腹立たしいのだ! 教官は、教官はこんなところで教師としているべき人ではない! こんな極東の地で、腑抜けた連中の指導など教官のすることではない! こんな場所では、教官の能力は半分も発揮されないのだ!」
「盲目的に惚れ込んでいる頭の可笑しい軍人の相手をしながら温いビール飲んでウインナー喰ってんのがお似合いなのかよ、ハッ、大したことねえじゃねえか」
「まだ言うか貴様ァッ!!」
激昂したボーデヴィッヒのプラズマ刃が首元に突き刺さると、無理矢理俺の身体を立たせるように引っ張った。まだ凱龍を維持出来るくらいのエネルギーは残っている。クラスの女子達が織斑先生を連れてくる時間さえ、何とか稼げればいいんだ。それまで目の前のこいつを煽って、煽って、煽りまくって、俺だけを傷つけるようにすればいい。
「じ……実際のところさあ、嫌になったんじゃねえのか? お前があまりにも引っ付いてくるもんだから嫌気が差してよ、へ、へへ、そりゃあ血の通った弟が近くにいる方がいいもんなぁ先生も」
「黙れ……!」
「そもそも経歴に傷って……先生がお前に言ったのか? モンド・グロッソの決勝で不戦敗になって二連覇を逃したのは汚点だって、お前が勝手に騒いでるだけだろ?」
「黙れ、黙れ!」
「だったら黙らせてみろよ! ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
俺の怒号と共に奴の大型砲が火を噴き、俺の身体を吹き飛ばした。完全に砕け散った凱龍の装甲が辺りに散乱し、エネルギーが尽きたのか、身体に残っていた装甲も粒子と消える。まだ動く身体に鞭打って、俺は立ち上がった。目立った外傷は無いものの、大分足がふらついてしまう。
「可哀相になぁ、お前。教官の為教官の為ってやってることが、全部教官に嫌われちまうことになっちまってんだぜ? っとと……暴力でしか訴えられないような思考回路してんなら、今すぐ先生のところ行って来いよ。私が勝ったらドイツに来て下さいってさぁ!」
刹那、瞬時加速を行って急接近してきたシュヴァルツェア・レーゲンに首を掴まれた俺は、無様に四肢を垂らした。息が苦しく、かと言って死なない程度に加減されている。
「不愉快な奴め……貴様も、あそこで倒れている屑共も、まとめて始末してやる!」
そう言って左肩の大型砲の照準がセシリアと鈴に向けられると、俺はそれを阻止しようとボーデヴィッヒの顔に手を伸ばした。
「止せッ! あの二人との戦いはもう終わってるはずだろうが!」
「貴様ら三人を始末して、その後あの黒髪の女も始末する! そうすれば後は織斑一夏と教官だけだ!」
「手を出すなら俺だけにしろ! もし箒に、他の連中にこれ以上手を出してみろ! 殺すぞ手前ッ!」
グッと俺の首を絞める手に力が篭り、ウッと呻いた俺の目の前で大型砲の炸裂音と閃光が弾けた。何処か遠くで花火が炸裂したかのような音が鳴り響き、俺の明滅する視界が暗闇へと墜ちていく。セシリアと鈴が苦しみながら炎の向こうへと消えて行くヴィジョンが浮かび、消え、そして涙を流す哀しそうな箒の顔が浮かび、それもまた炎の向こうへと消えて行く。俺の意識は、そこで途絶えた。
------嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
【
【
【
ギリギリのところでラウラの砲撃からセシリアと鈴を守ろうとISを展開していた一夏とシャルルは、目の前で起こっている出来事に呆然としていた。二人の視線の先にいるラウラもまた、目の前の出来事に呆然をしている。
ラウラに首を絞められていたはずの京介の両腕がシュヴァルツェア・レーゲンの腕を掴み、グッと引っ張っていた。放たれた砲弾はその所為で標的から大きく外れている。だが。生身の人間がISを引っ張るという有り得ない光景に皆目を離さずにはいられなかった。
「京……介?」
一夏の呟きを前に、ラウラが項垂れて立ち尽くす京介から後ろに飛び距離を取った。静寂がアリーナを支配し、一陣の風が彼らの間を通って行く。次の瞬間、血走った目をした京介がバッと顔を上げラウラを睨みつけた。完全な殺意のみで構成された、その鋭く見つめるだけで気を失ってしまいそうな視線に、思わず彼女は後ずさった。
「お前……、ラウラ・ボーデヴィッヒ
何処がくぐもった声、まるで良く声の響く谷底にでもいるかのような冷たい声。
「手前はこの俺が直々に
次の瞬間、真っ黒な粒子の濁流が京介の左手から溢れ出した。まるで嵐のような粒子の流れに、一夏とシャルルは咄嗟にセシリアと鈴の身体を抱えてピットの発進口へと後退した。考える暇も無く、身体が勝手に動いてしまったのだ。
真っ黒い粒子はやがて京介の身体を包み込み、そして消えた。その場に漆黒のISを遺して。
「あれは……一体何?」
全身を染め上げるカーボンブラックの装甲、先日の謎のISと同じ全身装甲だ。頭部を包む装甲はまるで龍の頭を模した兜のようで、京介の口元が確認出来る。そしてゴーグル型のバイザーはエメラルドグリーンの鈍い光を放っており、背中からは真っ黒な悪魔を思わせる機械の翼が生えていた。広げればゆうに6mを越す大きな翼、それを蝙蝠のように前に閉じ身体を隠している。明らかにそれは、異様だった。
「
「な、何だ……?」
一瞬ラウラは、京介の声に被るように女の声を聞いた気がした。だがすぐに意識を目の前の異様なISへと切り替える。奴のISは完全に破壊したはずだ、なのにあのISは一体何なのだと。一人が二つもISを所有している話なぞ、聞いたこともない。ラウラはその思考を振り払うように頭を左右に振ると、大型砲の照準を向け直す。
「何度立ち上がったところで、このシュヴァルツェア・レーゲンの敵ではない……! また粉々にしてやる!」
そうして再び砲弾が放たれると同時に、ラウラは頭部を思い切り殴られ吹き飛ばされていた。回転する視界に、漆黒のISが映り込んでいる。有り得ない、そうラウラが思うと同時に彼女はISごと地面に激突していた。
「瞬時加速? 何なんだよ、あれ、速過ぎる!」
その光景を見ていて何が起こったのかを見ることが出来たのは、一夏とシャルルだけだった。ラウラが砲弾を放つと同時に漆黒のISが翼を広げ、そして
「織斑! デュノア!」
と、ピットに新たな人物がやってきた。織斑千冬だ。その姿を見るなり一夏は安堵のため息をつくも、すぐに表情を切り替えて漆黒のISを指差した。謎のISは、今度は立ち上がったラウラの首を掴みアリーナの壁に押し付けている。
「千冬姉! あれって、あれって一体何なんだよ!? 京介は何を操ってるんだ!?」
「あれは、馬鹿な! 封印が解けたというのか……?」
後半はブツブツと呟くようにしていた為に聞こえなかったが、千冬の反応からあのISが何なのかを知ってることを確信した一夏は、その正体を彼女に尋ねた。
「あれが何か知ってるんだろう千冬姉! 教えてくれ!」
「それは……しかし……分かった。デュノアも聞いておけ」
「は、はいっ」
一夏の視線に誤魔化しても無駄と判断したのか、千冬は傍でオロオロしていたシャルルにも一声掛けてから語りだした。
【伊弉諾】、それは世界初のISである【白騎士】を倒す為だけに開発された戦闘用IS。試験段階の技術すら総動員して開発されたこのISは操縦者を生体ユニットとして起動し、スペック上だけならば第三世代型を遥かに凌駕している。だが安全性は零に近く、正式にコアに生体データを登録した者でなければ少し動かしただけでも大怪我は免れない。登録されている者ですら、身体に大きな負担を掛けることになる。そして初代登録者は京介の姉である浦城夏希であり、事故による彼女の死後、機体は凍結された。それが千冬の語った全容だった。
「じゃあ、何でそんな危ないISを京介が持ってるんだよ!?」
「恐らく凍結を嫌がった一部の連中がコアに手を加えたのだろう。どうやったのかは検討もつかないが、兎に角そのISを浦城が起動させてしまったのは事実だ」
「それじゃあ、今その伊弉諾を動かしている京介の身体は……」
「何時壊れてもおかしくはないだろうな」
そう語る千冬の口元が妖しく歪んでいることに、一夏もシャルルも気付くことはなかった。二人はまだ、目の前で行われている
こちらの攻撃が一切通用しない。その事実がラウラ・ボーデヴィッヒを恐怖させていた。砲弾を放てばその装甲には傷一つ付かず、ワイヤーを飛ばせば逆に引っ張られる始末。自らが窮地に追い込まれているという事実が、彼女を酷く憤慨させていた。
「このっ……、ふざけるなぁ!!」
怒りの絶叫と共に放たれたワイヤー数本が伊弉諾の左腕に巻きつき、そのまま思い切り振り回してやろうとラウラは機体を動かした。だが、動かない。左腕をダラリと下げているだけの伊弉諾を、ラウラとシュヴァルツェア・レーゲンは少しも動かすことは出来なかった。
そして、伊弉諾の右手がワイヤーを掴む。
「あっ------」
と言う間に逆に引っ張られたラウラの身体を、伊弉諾が地面に叩き付けた。そのまま半壊したシュヴァルツェア・レーゲンを抱え上げ、伊弉諾はアリーナの壁に投げ飛ばす。まだ身体を動かせるラウラは空中で機体を回転させて体勢を立て直すと、すでに目の前に迫っていた伊弉諾の拳を紙一重で躱した。背後で伊弉諾の拳の直撃を受けた壁が一気に割れ、砕けて行く光景を一瞥し、ラウラは一気に攻勢に出る。
目の前には壁に拳を突き刺している伊弉諾が背を向けている。がら空きだ。こちらは空中で、向こうは地面。既に大型砲の照準を向けているこちらの方が遥かに有利。そうラウラは確信していた。
事実、その背に砲弾を受けた伊弉諾は僅かに体勢を崩した。初めてまともなダメージを与えたと喜んだのも束の間、再びラウラは伊弉諾に捕らえられていた。そして腹部に強烈なボディブローを受け、絶対防御越しの激痛が彼女の意識を即座に刈り取るのだった。
戦闘終了後、千冬が気を失ったラウラを何処かへと運んで行き、一夏はセシリアと鈴をシャルルに任せ、遅れてやってきた箒と共に鎮座する伊弉諾の前に立っていた。戦闘の時とは違い、今の伊弉諾はまるで銅像のようだった。動かないそれを前に、一夏と箒はどうしたものかと頭を悩ませていた。
「普通操縦者が気を失ったりすると自動で解除されるもんだけど……、京介が起きてるとも思えないし、どうする? 箒」
「もしかすると怪我で声も出せずに動けないということもあるが……。少し待っていろ」
そう言って箒が伊弉諾の装甲をよじ登ろうとすると、突然伊弉諾のバイザーが薄暗く発光した。そうしてその視線が箒に向けられると、ブシュッという圧縮された空気が抜けるような音と共に胴体の装甲が開放される。すると、京介の身体がズルリと滑るように落ちて来た。
「えっ、あっ、ととと……」
落ちて来た京介の身体を思わず箒が抱き止めると、主を失った伊弉諾が粒子と消えていく。そして箒は、自分の腕の中の京介が気を失っているのを確認すると、すぐに一夏と共に彼を保健室へと運ぶのだった。
同じ頃、都内にある高級マンションの一室。そのリビングで一人パソコンのモニターと睨み合っていたスコールの耳に、ピシッという嫌な音が響いた。
「? 何かしら」
音のした方向は、彼女の個室から。スコールはそのブロンドの髪を揺らしながら自室に入ると、壁に掛けている複数の写真入れの中の一つにヒビが入っていることに気付いた。その写真は、この世に三枚しかない大事な写真だった。前に幹部会の会議で眺めたものと同じ写真。今は亡き親友から託されたものだ。
その写真に写っている親友のたった一人の家族である弟の部分が、ガラスにヒビが入って見えなくなっていた。
「どういうことかしら、これ……」
何か嫌な予感がしたスコールは、すぐさまIS学園周辺に配置している構成員達に情報を集めるよう指示を出した。もしかしたら、もしかしたらと、スコールの心は何故か高揚していた。遂に彼が我々の元に来る日が来たのかもしれないと。
たった一機のISを中心に創られていた運命の輪は、ゆっくりと回転しようとしていた。それは大勢の人間を巻き込み、その人生を狂わせていく。
波乱の幕開けは、すぐそこまで迫ってきていた。
遂に主人公機(暫定)解禁です
ゲッ○ーにおけるエ○ペラー、ゼ○ラ○マーみたいなものとお考え下さい
翼のイメージはデス○イズヘルカスタムをイメージして頂ければ幸いです
流石にこのまま使い続けて主人公最強路線への変更はしませんが(汗
次回は今回出来なかったトーナメントと、再び各陣営の動きになると思います
次回もお楽しみ!
P.S. 作者は特に大嫌いなキャラがいる訳じゃありませんので、みんな大好きですよー!←