※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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邂逅

 

翌日、ラウラの暴走によりトーナメントが中止となったことでどのクラスもかなりざわついているようだった。夕べの時点で第一回戦だけは行うとの放送は流れていたが、何故か一部の女子生徒の落胆振りは何かもっと重大なものがダメになってしまったかのような覇気を感じさせる。

 

 

「何だ? あれ」

 

 

呟いてみるも誰かから答えを貰えるはずもなく、俺は自分の教室へと入った。既に何人かは席について他のクラスと同じ様にザワザワと何かしらを必死に議論している。まだ痛むも包帯もほぼ取れかかった左腕の調子を確かめながら自分の席に座り、俺は一夏や箒達がやってくるのを待った。最初にセシリアが来て談笑し、一夏、箒と徐々にやって来て二組だからいない鈴を除いた何時ものメンバーが揃うと、もう他の女子達の話も気にならなくなっていた。

 

 

「あれ、そういやシャルルは?」

 

 

そういえばと、俺は教室にシャルルがいないことに気付いた。フランスから来た代表候補生、父親にスパイとして男装させられて来た可哀相な少女。その正体を知るものは俺と一夏しかいない。

 

 

「ああ、先に行っててって食堂で別れてから見てないんだよな。トイレでも行ってるのかな」

 

 

「ふーん」

 

 

教室に掛けてある時計を一瞥すると、始業時間までもう数分しかない。体調でも悪いのだろうかと思っていると、まだ時間ではないのに副担任の山田先生が慌てて教室に入ってきた。寝坊したかと思って慌てていたか、もしくは緊急連絡事項でも伝えられたのか。一体どっちなのだろうかと先生の顔を見ながら考えていると、山田先生はクラス中の視線を一身に受けた状態で口を開いた。

 

 

「え、えーとみなさん! おはようございます!」

 

 

「「「お、おはようございます……」」」

 

 

何人かの生徒がおずおずと朝の挨拶に返事を返すと、山田先生はふらふらと上半身を揺らしながら乾いた笑い声を発し始めた。正直言ってかなり不気味だ。

 

 

「きょ、今日もですね……、みなさんに転校生を紹介します。はは、転校生と言ってももうみなさん知っている人なんですけどね……ははは」

 

「転校生? ってか山田先生大丈夫?」

 

「はーい、私は大丈夫ですよー。あははは……はぁ。それじゃあ、入って来て下さい」

 

「失礼します」

 

 

ドアの向こうから聞こえてきた声に、俺も含めたクラス一同全員が首を傾げた。その声は聞きなれたもので、今は空席の場所に何時も座っている人と同じものだ。

 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、また改めて宜しくお願いします」

 

 

そう言ってぺこりとお辞儀したのは、女子の制服に身を包んだシャルルだった。いや、今シャルロットと言ったのだったらそっちが本名になるのか。兎も角突然の自体は俺達は皆呆然とするしかなかったが、少しずつ、確実に、騒ぎの足音は近づいてきていた。

 

 

「え、デュノア君って女の子だったの……?」

 

「び、美少年が美少女だった……? あぁ、一体私は何を言っているの!?」

 

「ちょっと待ってみんな!確か昨日は男子の大浴場が解禁された日よ!」

 

 

ザワザワザワッとクラス中が一気にざわめくと、突然俺の机の上にドンッと何かが突き立てられた。ギギギ……と首をゆっくり動かしていくと、何故かシャーペンが机に突き刺さっている。それを握っている手から腕へと視線を動かしていけば、額に青筋を立てている箒さんのお顔が。

 

 

「……なあ、京介」

 

「な、何だ、箒?」

 

「昨日、お前は大浴場を使ったか?」

 

 

メキッと、箒の手の中のシャーペンから嫌な音が鳴った。何故かは知らないが、彼女が物凄く怒っているということは理解出来る。これはよく一夏が鈴やセシリアといる時に起こるのと一緒だ。選択肢を間違えれば即バッドエンド。だがここで冷静さを失ってはいけない。戦場では臆病なのが丁度良いのだ。未だ喧騒に包まれている教室の中で、俺は余計な騒ぎを起さないように箒に小声で囁いた。

 

 

「使ってねえよ。そもそも昨日は夕飯食べてから、お前も俺の部屋に来てただろうが。シャワー浴びた後の俺の包帯取り替えたの、忘れたのか!?」

 

「っ、そ、そういえばそうだな……。いや、すまない。どうも一夏のことを考えると京介も似たようなことをしたのではないかと……」

 

「だからって昨日の今日だぞ!? もう少し信用してくれって、何を信用して欲しいか分かんないけどよ」

 

 

等とコソコソ箒と話していると、突然教室の扉が大きな音を立てて吹き飛んだ。

 

 

「いぃぃぃぃぃちかぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

怒号と共に殴りこんできたのは、二組の鈴だった。しかも校則上アリーナやグラウンド以外でのISの使用は禁止されているというのに、甲龍をフル展開。衝撃砲の砲門も開いている、完全に殺す気満々だ。多分、一夏を。

 

 

「やばっ------」

 

 

こんな狭い教室で衝撃砲なんざぶっ放されては堪らない。一夏どころか他数名が悲運な死を迎えてしまう。俺は咄嗟にISを展開しようとして、そして左手にソ・レ・が無い事に気付いた。そういえば先生が預かったまま、まだ返されていなかったな……なんて思っていると、間に一夏を挟んだ向こう側にいる鈴が衝撃砲を放つのがスローモーションで見えた。弾道は見えないはずなのに、何故かその時の俺にはそれが見えている気がした。

 

 

 

そして------------。

 

 

 

「ハッ!? 俺生きてる!」

 

 

気がつくと、シンと静まり返った教室の中で俺は近くにいた箒と数人の女子生徒に覆い被さる様にしていた。彼女達も下を向いて震えているところを見ると、無事のようだ。箒が慌てた様子で顔を上げると、俺もそれにならって背後に振り返った。

 

 

「……おっと、こいつぁまた」

 

 

一夏と鈴の間に、見慣れた黒いISが割って入っていた。ラウラ・ボーデヴィッヒと、シュヴァルツェア・レーゲン。恐らくAICで衝撃砲を相殺したのか、中々素晴らしいタイミングでやってきたものだ。そのボーデヴィッヒが一夏と何事か話している間に、俺は猫のように肩を怒らせている鈴の傍まで駆け寄り、その頭部を思い切り叩いた。ペチッと軽い音が鳴ると、ISを展開していながら鈴は頭を押さえて俺を睨みつけてくる。

 

 

「ちょっ、アンタ、いきなり何すんのよ!」

 

「そりゃこっちの台詞だ、この馬鹿! 一夏だけなら兎も角、俺ら以外も殺す気かよ!」

 

「んな訳ないでしょ! 兎に角そこ退きなさいよ! 一夏のやつ、ギッタギタに------」

 

「ほう、校則を破ってまで人を殺めたいそうだなお前は」

 

 

刹那、ふいに現れた第三者の声に鈴の表情が一瞬で固まった。先程の俺のようにギギギ……と首を動かし、鈴は背後に振り向く。するとスパーンッという鋭い破裂音が響き、鈴は頭を押さえながらISを解除した。そうして漸く、甲龍の影に隠れて見えなかった人物が姿を現した。その人物、というより織斑先生は珍しく怒ったような表情をして、その右手に黒い御馴染みの出席簿を持っていた。

 

 

「凰鈴音、中国政府に報告されて代表候補生としての立場を没収されたくなければ今すぐ自分の教室に戻り、明日の放課後までに反省文百枚の提出と、今日から一週間の教室掃除及びグラウンド三十周だ。いいな」

 

「え、そ、それは……」

 

「二度も言わせるな、いいな」

 

「は、はい……」

 

 

トボトボと肩を落として去って行く鈴の背中を見ていると、大きくため息をついた織斑先生と目が合った。やれやれと言った感じで肩を竦めた先生に苦笑すると、またまた背後から爆弾発言が飛び出してきた。

 

 

「お、お前は私の嫁にする! 決定事項だ、異論は認めん!」

 

 

「……は?」

 

 

振り返れば、ISを展開したままのボーデヴィッヒに抱えられ呆然としている一夏の姿。セシリアを一瞥してみれば、顎が外れそうな程にあんぐりと口を開けている。箒を一瞥すれば、何故か頬を若干赤くしている。他のクラスメイト達を見ても、皆がみなアホみたいに口を開けている。何が起こったのか一人だけ理解出来ないでいると、鬼神と化した織斑先生の制裁を受けたラウラはISを解除し、呆けていた一夏は頭を叩かれ、立ち尽くしていた俺も何故か出席簿で叩かれ席に着かされるのだった。

 

 

その間、ずっと教室の前に立っていたシャルロットが半泣きだったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

「……それで、俺がボーデヴィッヒを許すのかって?」

 

 

数日後、週末の日曜日。俺は箒と共に駅前にやってきていた。駅前、というより駅と一体化している大型ショッピングモール【レゾナンス】、ここには初めて来たのだが、一夏の話だとどうもここに無いものは何処を捜しても無いと言われる程の品揃えらしい。箒は前にここにあるスポーツショップに来たことがあるようで、そこで俺の竹刀を買うのだと何故か気合を入れていた。

 

 

そして俺が開口一番嫌そうな声を上げたのも、箒が俺にある事を聞いていたからだった。ラウラ・ボーデヴィッヒ、彼女をお前は許していないのかと。

 

 

「そ、そうだ。あのシャルロットが女と判明した時、奴は一夏の……その、く、唇を奪ったではないか。それから奴は比較的他の生徒達と打ち解け始めたと思う。確かにセシリアや鈴は未だ警戒心を抱いているようだが、二人の事情を考えればそれは仕方のないことだ。だがお前は一度奴に勝っている、お前は覚えていないと言うが、それでもずっと敵視し続けるのか?」

 

「うーん……敵視って言うかさ、興味無いって言うか、俺も良く分かってないんだよな。アイツのことどう思ってるのか」

 

「と、言うと?」

 

「いや、一夏がもういいって言ってるんだから俺としてももう許す許さないの話じゃないんだけど、なーんか気になるっていうか、見てると頭がザワザワするというか……。ああもう! 終わり終わり! 折角買い物来てんのに、面倒臭えこと考えてられっか!」

 

「あ、もう!」

 

 

乱暴に会話を終了させると、俺は肩に掛けていた鞄を斜めに掛けなおした。久しぶりの寝間着や制服以外の私服を着ているのもあって、身体が軽い気がする。Tシャツに黒いチノパン、腰にパーカーを巻きつけて靴はミリタリーブーツと少し適当な感じだが恐らく大丈夫だろう。ふと隣に並ぶ私服姿の箒を一瞥すると、彼女は最初こそ先程の話を無理矢理終わらされたことに腹を立てていたものの、既に何処か上機嫌な様子でレゾナンス内を眺めていた。

 

 

(……何で今ボーデヴィッヒの話なんか)

 

 

腑に落ちない部分もあったものの、俺と箒はブラブラとレゾナンス内を散策しつつも昼前には目当ての物を購入し終えていた。ついでに、来週ある臨海学校の為の水着も一緒に買っている。実を言うともう一つあるものを買っているのだが、これは箒には秘密だ。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「さてと、まさか本当に竹刀が売ってあるとは思わなかったけど、色々買えたな」

 

「うむ、私も丁度良かった。すまないな、私の分の荷物まで持ってもらって」

 

「気にすんなよ、久しぶりに友達と買い物に来てるんだから嬉しいんだ」

 

「……友達、か」

 

 

聞こえない程の小さな声で箒が何事か呟いたみたいだったが、聞き返しても彼女は何でもないと言って答えてくれなかった。仕方ないからそのまま適当な定食屋で昼食を取ることにし、支払いの割り勘を迫る箒と俺の奢りにしたい俺で小さな口論をしたりしつつあっという間に夕方を迎えた。

 

 

「ったく、俺の奢りでいいって言ってんのに、箒も強情だなぁ」

 

「今回は私から話を持ちかけて約束したのだ。荷物まで持ってもらってその上昼食代まで払ってもらおう等と、そこまでやましくはない!」

 

「やましいって、お前なぁ……」

 

 

帰りの電車を待つホームの上で、俺と箒はベンチに座って未だ昼飯の代金について言い合っていた。合計二千円にも満たない値段だったから俺が纏めて払うと言っても箒が納得せず、レジのおばちゃんの前で数分間言い合いをした挙句割り勘ということになってしまった。あの時のおばちゃんの甲斐性なしとでも言うような視線がまだ脳裏にこびり付いている。

 

 

「じゃあ、次買い物行く時は俺が奢るからな」

 

「だ、だからそれは……!」

 

「俺から誘ってんだから問題無いだろ。それに女子に金払わせたままでいられるかよ。少しは格好つかせてくれ」

 

「わ、分かった。じゃあ……また次の機会に、宜しく頼む」

 

「おう」

 

 

そうやってまた次に遊びに行く約束を取り付けると、急に箒の携帯が鳴り出した。何故か慌てた様子で携帯を取り出した箒は俺を一瞥すると、すぐにそれを耳に当てた。誰からの電話だろうか、顔を俺とは反対方向に向けて小声で話しているところを見るとあんまり知られたくない感じに見える。仕方なく視線をホームの向こう側へと向けてジッと待っていると、ふいに見知らぬ誰かに声を掛けられた。

 

 

「あの、すみません」

 

 

「はい?」

 

 

視線を上げると、俺の隣に一人の少女が立っていた。黒い大きめのキャスケット帽を被ったその少女は、半目というか、ジト目で口元に僅かに笑みを浮かべている。肩辺りまである栗色の髪に、スッとした目鼻立ち。日本人にしては整い過ぎている気がする、外国人だろうか。

 

 

「君、浦城京介だよね。世界で二番目にISに乗れる男の子の」

 

 

その少女は俺のことを知っているのか、俺の名を言うと共にスッとその右手を差し出してきた。

 

 

「私、君のファンなんだ。握手してもらってもいい?」

 

 

「え? あ、ああ、俺なんかで良ければ」

 

 

そう言って手を差し出し返せば、少女はグッと俺の手を握ってきた。よくよく考えてみれば、俺や一夏は世界的に見てかなり珍しい存在だ。IS関係のニュースでは一時期毎日のように報じられていたし、大多数の人に顔を覚えられていてもおかしくはない。寧ろ今日一日歩き回って誰にも反応されないという方がおかしいのかもしれない。最もそれはIS学園の制服を着ていた場合だけなのかもしれないが。

 

 

「ん、ありがとう。良い人だね、君」

 

「まあ、握手するだけですし良い人も何も……」

 

「ふふっ、思った通りの人だ。ありがとう、今日のこと忘れないよ。私」

 

 

やけに大げさな台詞を残して少女が手を振って去って行くと、今度はいきなり首を反対方向に向かされた。グキッとかバキッとかいう嫌な音を立てて視界が移り変わると、去り行く少女の代わりに額に青筋を立てた箒の顔が目の前に来た。かなり怒ってらっしゃる。

 

 

「私を放っておいて他の女に現を抜かすとは……覚悟は出来ているのだろうな京介」

 

「ちょっ、馬鹿、お前電話してたじゃねえかよ! それにあの人、俺のファンだって言うし、握手したくらい良いじゃねえか。箒が俺の彼女って訳じゃあるまいしさ」

 

「そっ、それは、その……」

 

 

急にモジモジと人差し指同士を合わせブツブツと何かを呟きだした箒に首を傾げると、俺達のいるホームに電車がやってくる旨を知らせる放送が鳴った。兎に角立ち上がって荷物を持ち直すと、箒も遅れて立ち上がる。すると何故か彼女は少しばかり俺に寄り添うように近寄り、そのままやってきた電車に乗り込んだ。

 

 

そして互いに無言のまま電車は走り出し、俺はドアの窓から見える夕日を眺めながらコツンと壁に頭をもたげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、スコールのマンションには二人の少女がやって来ていた。リビングのソファーに座るその二人に飲み物を運んできたスコールは、それをテーブルに置くと自分の分を持って二人の反対側に座り込んだ。リビングの隅には、オータムが腕を組んで壁に寄り掛かっている。

 

 

「二人共、遠いところお疲れ様。久しぶりの日本はどうかしら?」

 

 

「……別になんとも。相変わらず勘違いした女共が目障りな国だ」

 

 

黒髪の、野球帽を目深く被った少女がコップを口元まで持っていくと、その隣に座っていた黒いキャスケット帽を被った、夕方に京介のファンだと名乗った少女がクスクスと笑った。

 

 

「またそんなこと言って。本当は彼に会えるから嬉しくて仕方ない癖に」

 

「五月蝿いぞマリーダ。それに、彼とは誰だ」

 

「うーん……織斑一夏、かな?」

 

 

恍けるようにしたマリーダの言葉に、野球帽の少女はムッとした様子でコップをテーブルに置いた。その男の名は、彼女に取って最も忌々しいものだったからだ。

 

 

「冗談だよマドカ、ごめん。浦城さん家の京介君だよね、もう私は会って来たよ」

 

「何っ!」

 

「あら、事前の接触は許可してないわよ。マリーダ」

 

 

驚いた様子を見せるマドカと呼ばれた野球帽の少女とスコールがそれぞれ反応を示すと、マリーダはむふふと口元を綻ばせた。

 

 

「ごめんね、スコール、マドカ。私、どうしても我慢出来なかったから。ファンですって、握手してもらっちゃった」

 

 

「全く、貴女っていう子は……」

 

 

やれやれと言った様子で額に手をやったスコールに、マリーダは恍惚とした表情で言葉を続けた。まるで憧れの人と初めて喋ったかのように、長年待ち望んでいたことがやってきたかのように。

 

 

「だって、漸く会えたんだよ。ずっと、ずっと待ってたんだもん。あの人の、サマーズさんの弟に会う時を」

 

「だからと言って独断での行動は許されないわよ、マリーダ」

 

「それは分かってる。大丈夫よスコール、任された仕事はきちんとこなすわ。私のシャグランもマドカのシャグランも、整備はバッチリだし」

 

「それならいいわ。表立った行動をする訳ではないけど、場合によって現状の戦力でIS学園を襲撃する」

 

「ほう」

 

 

IS学園の襲撃、その言葉に反応したのはマリーダではなくマドカだった。口元を歪に歪め、ギラギラとした眼光をスコールへと向ける。

 

 

「状況如何によっては、貴女の望みも果たせばいいわ。その場合、つまり織斑一夏を抹殺した場合は必ず白式を手に入れることが条件よ」

 

 

「無論だ。アイツの所為で……私は」

 

 

グッと拳を握り締めたマドカを見て、マリーダはそっと自分の手を彼女の手に重ねた。マドカの出生の秘密を知る人間は、限られた人数しかいない。そして彼女を慰められるのは、それよりもっと少ない。マドカの様子を見てか、スコールはゆっくりと席を立った。

 

 

「兎に角今日はもう休みなさい。お風呂にも入れるようにしてあるし、部屋も用意してあるわ。あとはお願いね、オータム」

 

 

「ちっ。分かったよ」

 

 

恋人の気だるそうな返事を聞いてから、スコールはニコッと笑って自室へと消えていった。その背を追うように首を動かしてから、オータムはその黒い長髪を掻き上げて二人の仲間を風呂場へと案内するのだった。

 

 

 

 

 

同日、未明。世界中の誰も知らない研究室に、そのカプセルはあった。全長2m程の大きなカプセルの中には、謎の緑色の液体が満たされている。正確には、一人の少(・)年(・)と共に。

 

 

プシューッ、という圧縮されていた空気がカプセルから抜ける音と共に液体がカプセル下部から排出されていき、やがてカプセル内部には全裸の少年が横たわるのみとなった。続いてガコンという音と共にカプセル下部がスライドし、カバーのように上へと開いて行く。外気に晒された少年は何度か身体をブルブルと震わせると、ゆっくりとその目を開いた。

 

 

その目覚めた少年に、何処からか現れた一人の少女が大きめのバスタオルを持って近づいて行く。小学生程の少女はその長く綺麗な銀髪を太い三つ編みにしていて、何処か脅えている様子だった。

 

 

「あ、あの……」

 

 

そして目の前でゆっくりと上体を起こして行く少年に向けて、少女はおずおずと声を掛けた。少年は最初こそ焦点の定まらない目をしていたが、やがて少女の存在に気付くとギロッと目を大きく見開いて彼女を睨みつけるように顔を動かした。

 

 

「ひっ……!」

 

 

その動作に思わず少女は悲鳴を上げて後ずさるものの、すぐにグッと表情を強張らせながらも少年にバスタオルを差し出した。震える手から差し出されたバスタオルを少年はマジマジと見つめていたが、すっとそれを受け取るとすぐに濡れていた身体を拭き始めた。一通り身体を拭いた後、未だカプセルによって少女からは死角になっている下半身にバスタオルを載せ、少年はゆっくりと口を開き、言葉を紡いだ。

 

 

「君、は、誰……?」

 

 

「わ、私は、クロエ。クロエ・クロニクル。……あ、貴方は誰?」

 

 

クロエ、と少年は少女の名を復唱すると、何か考え込むような素振りを見せてから口を開いた。

 

 

「お、俺は……京介。うう、う……浦城、京介、なの? かな」

 

 

浦城京介、そう名乗った少年を前に、少女クロエ・クロニクルは頷いて見せる。その首の動きを見て、もう一人の京介はまるで赤子のような笑みを浮かべるのだった。




遂に今回から挿絵が付きます!
私が書いたのではなく、友人に書いて頂いたものでこれからも何枚か掲載していく予定です。

今回の話の裏でシャルロットが一夏と同じ更衣室で着替えとかしてる訳ですが、京介達とばったり合わなかったのは絶妙なタイミングでニアミスしてたからですと補足を入れてみたり。

次回から現時点での最大イベント・臨海学校です、お楽しみに!
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