関越自動車道を嵐山小川で降り、ナビに従い国道254号線まで出る。型落ちの古臭いレガシィツーリングワゴンが切り開かれた山肌に挟まれた道を法定速度で走る。
「比企谷さん。もうすぐ着きます」
運転している
起こすなよ、もっと寝かせておけ。大和はそう思った。
比企谷が目を開ける。永い年月をかけて深く堆積したヘドロのような、どろりと醜く濁った眼がレガシィの天井を睨んだ。視覚情報だけで脳が腐臭を感じる
大和は比企谷の眼が苦手だ。
大和と比企谷は高校の同級生だった。比企谷は高校の頃から濁った眼をしていたが、当時はイジけたガキ特有の自己愛と開き直り、自己嫌悪と屈辱を混ぜ込んだつまらないものだった。しかし32歳のときに組の兄貴分である大井の手引きで再会した比企谷の眼は、高校生の頃とはまったく違うものだった。大和には高校の頃の比企谷と同一人物とは思えなかった。歌舞伎町に巣食う悪鬼のような不良外国人や、刑務所で見た凶悪犯罪者のそれとはまた違う昏い意志を秘めており、目が合うだけで精神が摩耗していく。
「大和、今何時だ」
比企谷が振りむきもせず、運転席側後部座席に座っている大和に訊いた。
「9時半を回ったところです」
「俺の時計はまだ28分だぞ。お前の安物時計ちょっと早いんじゃねえのか」
大和が答えると、比企谷は左手に巻いた時計を見て返した。時折自慢しているスイスの高級ブランドの逸品だ。
──くそが。最初から自分で確認しろよ。
そんなこと思っても言えない。比企谷は組の兄貴分である大井と五分の兄弟なのだ。ヤクザとしての
永弦会系のヤクザは他の組織を舐め腐っている
比企谷は本来は白塚組の若頭の
大和と金本が所属している
比企谷はシートを倒したまま懐からメタルフレームの眼鏡を取り出し装着した。眼鏡はテンプルが太い形状をしており、こめかみの傷痕を隠した。七三気味に撫で付けたオールバックのヘアスタイルと、グレーのピンストライプが入った仕立てのいいダークグレーのスーツ。それを着こなす
この風体だけで言うならば体育会系上がりの弁護士に見えなくもないが、眼鏡程度では隠しきれない刺し貫くような鋭い目付きと、見据えられるだけで吐き気を催す濁った眼は堅気ではありえないものだ。
大和の視線をよそに、比企谷は携帯電話──道具屋に調達させたであろうシンプルなものを取り出し電話をかけ始めた。その手はゴツゴツと厳つく、拳だこができている。
「俺だ。そっちは動きがあったか。……わかった。こっちはこれから
比企谷は通話を切るとシートを起こし、ウィンドウを半分下げた。外の景色を眺めながら煙草を咥え、吸いつける。煙を外に吐き、言った。
「埼玉はそこそこ栄えてるイメージだったけど、この辺はなんもねえな」
「埼玉は都心以外はなんもないですよ。もうちょっと進めばゴルフ場やデカイ工場があって、その先には住宅街があります」
「そこに
大和が比企谷に答えると、金本が説明を補足した。とは言っても、元々比企谷が手にした情報を元に周辺地理を調べただけなのだが。
「工場ってホンダのだったか。ホンダの従業員でもねえのに好き好んでこんなクソ田舎に来るとか頭おかしいんじゃねえの」
ホンダ勤めをしていない住民が聞いたら激怒しそうな暴言を比企谷が吐いたが、そこには大和も同意した。
254号を北上していると田んぼ景色の中に家やアパート、町工場がちらほら視界に入ってきた。まさに田舎町といった具合だ。人通りも少なく、寂れている。
町中をゆっくり進んでいくと、黄ばんだ壁に
「あのぼろアパートだ。このまま周りの区画を一周しろ」
比企谷の指示に従った金本がぼろアパートの周辺をゆっくり流す。周辺を見渡しながら比企谷がまたなにか電話をしている。比企谷の指示で脇道に入り、ぼろアパートが見える位置に車を停めた。
「金本はここから見張れ。目付きの悪い連中が来るようなことがあったら大和に連絡しろ」
言うと比企谷は車を降りた。大和も続いて降りた。
比企谷はサイドミラーを覗き込み、一房ハネた髪を手櫛で撫で付けるとぼろアパートの方向にまっすぐ歩き出した。大和は周囲を見回しながら問う。
「羽田のやつ、いますかね」
「若いのに張らせてたが、チンピラが一匹コンビニに行ったり来たりしてるらしい。飯とかを何人分か買ってったってよ。多分清川と羽田の分だ」
「ってことは
「ガードされてんのか軟禁されてんのか知らんがいるはずだ」
「でも、本当に羽田絡みですかね。まったくの別件でここにいるとかは……」
「もしそうなら俺は無駄足を踏まされたことになる。清川が俺に勘違いさせたせいでな。だったら俺には憂さ晴らしのために清川をぶちのめす権利がある。そうだろ」
滅茶苦茶だ。自己中心的で凶暴なのがヤクザの常であるが、比企谷もその例に漏れない。比企谷は表にも裏にも事業をもっており、普段はインテリぶっているが、根っこは輪をかけての暴力の信奉者だ。大井は笑いながら人を殴るタイプの異常者だったが、比企谷は涼しい顔をして人を殴る。
だがここまで来て今更逃げ出すことなどできない。大和は清川が羽田を連れてここに来ていることを期待した。
「羽田は
「要らん。鬱陶しい。羽田に全部吐かせばいい」
「はい」
比企谷の顔が険しくなってきたので話を切り上げた。清川のヤサに近付くに連れて怒りがこみ上げ来たようだ。
羽田は一時期名の通ったファンドを動かしていた投資家だ。今回、羽田は投資話を東京の複数の組に持ってきており、組筋から金を引っ張るだけ引っ張り、姿をくらました。羽田は皆戸一家と道塚組のフロントからも金を引っ張っており、大和も比企谷も羽田を追っていた。組長の道塚に忠誠を誓っている比企谷は何が何でも羽田の身柄を押さえ、金を回収する腹だ。豊富な資金力を持つ道塚組は詐欺師に払った金が戻らなかったくらいで金に困るような組ではないだろうが、舐められたまま引きさがればヤクザは大手を振って歩けなくなる。
羽田が消えるのに前後して渋谷の城山組の組員を見かけなくなったことを比企谷の兵隊が報告したのをきっかけに、二人で城山組の周りを漁りだした。その中で城山組の組長と羽田が旧知の仲であることと、城山組幹部の清川が埼玉の田舎に組員と交代で詰めていることを嗅ぎ当てた。それが日を跨いだ頃のこと。そこから比企谷が聞き出した清川のヤサに見張りを送り、二人で暫く都内をかけ回ってから西新宿にある白塚組本部事務所で仮眠をとり、大和が金本を呼び出して今に至る。
比企谷はアパートに着くと駐輪場の自転車を弄りだし、ハンドルを抜き取った。
「行くぞ」
比企谷は片側の取っ手のゴムを引き抜きながら階段を上がっていく。情報では清川のヤサは三階。二人は目的の部屋の前に立った。303号室。電気のメーターは回っている。
大和がドアに耳を当てると人の声が聞こえる。会話しているのかテレビを観ているのかは定かではなかった。
比企谷はドアから離れたところに壁を背にして張り付くように立ち、大和に向けて顎をしゃくった。「お前が呼び出せ」ということだ。中にいる城山の組員に大和の面が割れてないとも限らないが、どちらにしろ
大和は短い髪を七三気味に左右に流し、ネクタイを締め直し、懐に入れていた黒縁の伊達眼鏡をかけた。着ているものは比企谷のものとは違い安っぽいくたびれたスーツだ。以前大井によく「ガタイの割りに到底ヤクザに見えない」と言われた人相と相まって、体育会系上がりのサラリーマンの風体だ。左手の小指は欠損しているが、右手を上に重ねればドアの覗き穴越しには判らない。
身だしなみを整えて比企谷を見た。比企谷が頷く。右手にハンドルのゴムの付いた側を握り直している。
二回深呼吸してからチャイムを押した。中が静かになる。一呼吸おいてからもう一度チャイムを押した。
「はいどちらさん」
釣れた。
「すいません、管理会社の者なんですが。大家さんからここの上の階の水道管が破裂したと連絡を受けまして、そちらまで水漏れしてないかと確認に伺ったんですが……」
「なにィ!?」
短い茶髪の男が吠えながらドアを開け飛び出してきた。
「まだ漏れてきてねぇけどそれァお前」
茶髪が言いかけたところで比企谷が踏み出し、振りかぶったハンドルを茶髪の頭に振りおろした。ガツッと音がし、茶髪が声も無くその場に崩れかける。倒れるより早く比企谷が腹を蹴り、茶髪はドアの奥、廊下に吹き飛ぶようにして倒れた。比企谷が土足で廊下に上がり込み、大和もそれに続く。
「なんだテメーら!」
奥の部屋から眉を剃ったパンチパーマの男が凄みながら出てくる。構わず比企谷が近付くと眉無しパンチが懐から木の棒きれを取り出した。眉無しパンチが棒きれを持つ手を動かすと刃が現れた。棒きれ──
大和が近付いても、茶髪も眉無しもぴくりとも動かない。
──すさまじい……。
大和は震えた。不意を突いたとはいえ、比企谷はあっという間にヤクザを二人スクラップにしてしまった。しかも一人は刃物を持っていたにも関わらず。比企谷の喧嘩を見るのは初めてではないが、相変わらず際立っている。大井はその腕っ節と容赦の無さで東京最強の名を
比企谷には永弦会会長のガードをしていた21歳の頃に、会長を狙い拳銃で襲撃してきた三人組のヒットマンを素手で撃退し、逆に傷害で逮捕されたという武勇伝がある。武勇伝はとかく誇張されて広まるものだが、この手際を見るとそんな荒唐無稽な話も信じてしまう。
大和がドアを閉めて鍵をかけると、奥では既に比企谷が小太りの中年ハゲ男を殴り倒していた。
「そいつが羽田ですかね」
「知らん。けど多分そうだろ」
大和は親分から羽田の風貌を「小太りの薄らハゲの中年」と聞いていたが、まさにそれに一致する。
「このデブを浴室に運べ。浴槽に放り込んでやれ。俺はこいつらを縛っとく」
比企谷はデブを大和に押しつけ、廊下に倒れている茶髪を奥の部屋まで引きずり込んだ。大和がやっとの思いでデブを浴槽に運び入れると、比企谷が火の付いた煙草を咥えながら入ってきた。左手に名刺を、右手にハンドルを持って入ってきた。ベルトには鞘に戻した匕首を差し込んでいる。小さな浴室に男三人は狭い。
「茶髪はチンピラだな。パンチが清川だ」
言いながら名刺を渡してきた。横書きで『城山総合企画 主任 清川』とある。代紋は入っていない、横書きの名刺だった。
比企谷が蛇口を開き、水の勢いを最大にして浴槽を浸し始めた。大和も煙草を吸い、浴槽が水で満ちるのを待った。比企谷は短くなった煙草を浴槽に放り、新しい煙草に火をつける。漆塗りのデュポンのライターがピンッと小気味いい音をたてた。
「そういえばよ」比企谷が大和に話しかけた。「大和、犬買ってたよな」
「ええ。二匹とも大型犬です。可愛いですよ」
「大型犬か。世話すんの大変じゃねえのか」
「たしかに大変なことも多いですけど、元々が利口な犬種ですしちゃんと躾ければ不要な面倒をかけられることもないし、番犬としてもいいですよ」
大和には籍を入れてはいないが、女と娘がいる。普段は別居しているが、暴対法や暴排条例をかわすためにそうしているのであって家族仲は悪くないと思っている。その家には週に二度三度しか顔を出さないが、そんな大和に尻尾を振りながらかけよってくる犬が可愛くて仕方が無い。女と娘も犬を散歩に連れて行ってはいるが、犬たちは常に全力で遊びたがっており、大型犬のそれを受け止められるのは家族では大和だけだ。
「お前急ににやけんなよ、気持ち悪い」
「え、笑ってましたか」
「ニターッて笑ってたよ、ニターッて。まあいいや。でよ、女が犬飼いたがってんだけどよ、躾って簡単にできるもんなのか」
比企谷は数年前に離婚したが、それからは愛人のマンションに転がりこんでいると聞いたことがある。凶暴なヤクザだが、どういうわけか女がいない期間がない。結局は金を持っている男に女は靡くのだ。
「犬種や個体によって差はありますけど、そんな簡単にほいほい言うこときかすようにはできないですよ。向こうも生き物なんですから」
「だよなあ。愛玩動物欲しいならハムスターでも飼っとけつったんだけどよ、聞きゃあしねえ」
犬の話をしていると、水浸しになったデブが、うう、と呻いた。比企谷はシャワーヘッドを手に取り、デブの顔に水をかけ始めた。デブが震え、目を覚ました。
「なんっ、なんだお前ら」
「抑えつけろ」
比企谷がシャワーを止めると、大和がそれをデブの頭を掴み浴槽に沈めた。デブが暴れようとするが、体格のいい大和はキッチリ抑え込み逃がさない。水がはねて背広やシャツにかかるが、ここで逃がしてしまったら比企谷に何を言われるかわからない。溺死しない程度に沈めてから、首根っこを掴んでひっぱりだす。水を吐きながらもがくデブを見下ろしながら、比企谷は煙草の煙を吐いた。
「答えろデブ。お前が羽田か」
「がはっ、や、やめっやめろ。俺にこん、こんなことして」
「暴れんじゃねえ。水がはねるだろうが」
デブの背中をハンドルで打ち付けるとデブが苦悶に呻く。
「そ、そうだ。俺がはへ、羽田だ。やめてくれ」
「立たせろ」
羽田の首ねっこを掴み立たせると即座に比企谷が羽田の右肩を掴んで捻った。ごり、と嫌な音がして羽田の右腕が力無く下がる。羽田が苦悶の叫びを上げようとした瞬間に比企谷は腹を殴り、羽田は目を剥きうずくまった。空気を洩らすような音を吐き、そのまま胃の中のものを浴槽にまき散らした。
「汚ねえなバカヤロー」
言いながら比企谷は羽田の右肩をハンドルで殴る。自らの吐瀉物が浮いた浴槽に身を沈め、羽田は恐怖と苦痛で涙目になりながら左手で右肩を押さえている。比企谷がその左手にハンドルを振りおろすと、硬いものが割れる音がした。羽田が口の端から吐瀉物と涎まき散らしながら泣き叫んだ。
比企谷は即座に左手で羽田の頭を掴み、ハンドルを羽田の口に突っ込んで黙らせる。喉の奥にまでハンドルを突き立てられた羽田は、んごおっ、とだけ呻いて声を出せなくなった。
「比企谷さん、死にますって」
大和が比企谷を窘める。羽田の顔はひきつり、目を剥いて比企谷を見ている。
「ゲロ
比企谷に言われ、大和は羽田の首をを掴みもう一度吐瀉物まみれの浴槽に頭を突っ込ませた。羽田が力無くもがく。既に弱っている。比企谷もそれを確認したようで、羽田を立たせるとその横腹に煙草を押しつけ火を消し、浴槽に煙草を捨てた。
水と吐瀉物にまみれた羽田を浴槽から引っ張り出し、部屋に転がっている清川とチンピラの衣服を剥ぎ取り着替えさせる。待機させていた金本をボロアパートに前に動かし、抵抗する気力も失った羽田を匕首で脅しながらレガシィまで歩かせ、狭っ苦しいレガシィの後部座席に、呻き声を漏らし続ける羽田を大和と比企谷で挟むように三人で乗り込んだ。
「出せ。高坂SAに行け」
比企谷に言われ、金本は車を走らせた。
比企谷が電話している。見張りに送っていた道塚の組員か、自分の兵隊か、それ以外か。それは大和には判らない。
大和には不安があった。羽田をこれからどうするかとういうことだ。大和は若頭の
大和は隣に座る羽田を見た。力無くうなだれている。縛りもせずに座らせているが、抵抗する気も無いようだ。
大和は緊張しながら話を切り出すことにした。
「あの、比企谷さん。羽田なんですが」
「心配しなくてもこいつは皆戸一家にやるよ」
「え」
予想外の返事に間抜け声を出して固まってしまった。
「オヤジは二億くらい返ってこなくてもいいってよ。子分が稼いできた金をなんだと思ってんだかな」
二億円。大金だ。皆戸一家の出資額の4倍もある。皆戸一家は五千万円で目の色を変えて組員を走らせている。
「ただメンツがあるからな。組に帰ったら捕まえることができたのは道塚組の比企谷さんのおかげですって言っとけよ」
「はい」
「やりましたね大和さん。親分も褒めてくれますよ!」
金本が無邪気に喜んでいる。だが大和は嫌な予感がした。たしかに道塚組にとっては二億円はムキになる額ではないかもしれないが、だからといって組長に恥をかかせた人間をほいほいと余所の組に差し出すものではない。
「ただな、ちょっと訊きたいことがあってな、先に寄りたいところがあるんだわ。高坂PAに俺の兵隊がいるからそっちに積み替えたい」
大和は自分の心臓が大きく跳ねたのを感じた。比企谷が自分の知りたいことを
「ひ、比企谷さん」
「心配すんなって。殺しゃしない。皆戸一家には生きたまま渡す。なんなら一緒に来てもいい」
大和が何を心配しているのかわかっているかのように比企谷はヘラヘラ笑った。
* * *
高坂SAで待っていたのは型落ちの白いハイエースに乗った二人組の若い男だった。一人は青いジャージ、一人はグレーのツナギを着ていた。二人とも精悍な顔付きとがっしりした首回りをしており、ただの喧嘩自慢ではなさそうだった。
ハイエースに羽田を乗せ、金本だけ先に帰らせた。若頭の諸井には「比企谷が後でゴネないようにしっかり説得しておく」とだけ報告して大和もハイエースに乗り込む。さっきまでのレガシィ同様、比企谷と大和で羽田を挟む形になった。
車内の空気は先程までとはまるで違う。羽田が不安に青褪めている。不安に耐えきれなくなった羽田が口を開いた。
「お、俺をどうする気なんですか」
「黙れ」そのひと言で羽田は縮こまり、下を向いた。「言ったろ。殺しはしない。お前には生きたまま皆戸一家に行ってもらう必要があるからな」
比企谷は口の端を釣り上げ
嫌な予感。大和は今の比企谷の言葉の奥にあるものを察知した。比企谷は今回の詐欺の件以外の何かを羽田から訊き出そうとしている。その現場に岐藍連合系組員の大和を居合わせさせ、それを羽田ごと持ち帰らせることが目的なのだ。
よくよく考えればおかしかった。人手に困ることの無い比企谷が、どうして枝内でもない違う系列の組の大和を呼び出し行動を共にする必要があったのか。比企谷ならば道塚組の組員も白塚組の三下も動かせるし、自分の兵隊だっている。事実見張りは道塚の組員に、今現在の移動は自分の兵隊にやらせている。
比企谷は大和に声をかける前に羽田のことを調べるうちに何かを嗅ぎ付け、そのネタを道塚に上げた。道塚は自分でケジメをとることよりもそのネタを割らせることを第一の目的にして比企谷を動かすことに決めた。
金筋の極道である比企谷がケジメをとらせることよりも優先する程のこと。道塚が二億円より優先する程のこと。間違いなく厄ネタだ。それに皆戸一家ひいては岐藍連合まで巻き込もうとしている。大和を介して。
大井さえいれば比企谷も皆戸一家をこうも都合よく扱わなかっただろう。大和はそう思った。悔やんだが、今更逃げ出せなかった。
誤字報告ありがとうございました。