「やっ、やめて欲しいでござるーっ! 助けてでござるうーっ!!」
そっ、それがしはー! と叫ぶ何か。
黒く濡れた美しい毛並みの狼型魔獣が、巨大な毛玉を甘噛みしながら振り回す。
その度に愛らしいハムスターの悲鳴が森の一角に響き渡り、ぶんぶん動く蛇の尻尾が周囲の木の幹に傷跡を増やした。
「はあ……」
自らの
椅子代わりのクアドラシルが私の横顔を気遣うように見上げたが、それに気付いても何も出来ない。
至高の御方から命じられた、トブの大森林の実効支配。
「はあああ……」
必要ならば、他の守護者へ協力を求める許可もある。
その保障された安全性ゆえ、というわけでは無いが。
大森林の調査と支配を主導する立場に就いたは良いのだけど、ここ数日、ずっと憂鬱な溜息ばかりを吐いていた。
「フェン、もう良いよ。
わふ、と犬っぽい鳴き声で返事をした
常の精神ならば皮を剥いでやろうか、などと考えていただろう程度には良さげな毛並みの魔獣を見送って。クアドラシルの背中で気持ちを切り替えるように身体を伸ばした私は、結局また何時も通りにとある御方の名前を口にしてしまう。
「さば味噌さま……」
任された仕事だ。誇らしい事だ。全身全霊を注ぎ込む姿勢こそが肝要である。
それが分かっていて尚、十全に仕事をこなす以上の事が出来ない。きっと他の守護者達が今の私を見れば言うだろう、怠慢だ、と。私だって逆の立場ならそうする筈だ。
もじ、と立ったまま腰を小さく捩る。
何時まで経っても忘れられない未知の快楽を思う。今も両手が自身の股座に伸びそうになっては自覚して、ぐっと我慢しては動きを止める。その繰り返し。
何もしていないのに首から上へと熱が溜まって、呼吸が強く深く乱れる。
ここ最近、私の頭の中には何時だって至高の御方の御姿があった。
シャルティアと繋がり愛し合う姿。プレアデスや一般メイドと絡み合い、少しだけ意地悪な言葉を使う姿。
――そしてそれを覗き見ながら、必死になって
「あううっ」
思い出すだけで顔が火を噴く思いだった。思わず両手で覆い隠して、それに対して すわ変調か、と心配したペット達が寄ってくる。
こんなのは
さば味噌さまの股間に屹立するモノ。
ナザリックの女達が嬌声を上げる様。
本当に嬉しそうに笑う至高の御方の、陽気な声音が名前を呼ぶ。
アウラ、と。
「あああああああーっ!!!!!」
違う。違う。あんな声で呼ばれた事が私には無い。だって、まだ、一度も。
――私は、して貰っていない。
ぱたり、とクアドラシルの上に倒れる。そのまま横に滑って落ちて、森に生い茂る薬草の群生地にまで転がっていく。ペット達がぎゃあぎゃあ鳴きながら追いかけて来るが、気にしてあげるだけの余裕が無かった。
やがて赤ん坊のように丸まった姿勢で、自分の股間部を意識したまま目蓋を閉じる。
「私だってさあ……」
自分だって。自分だって、彼女達のように――。
そう言って、しかし言葉の続きだけは、未だ口に出来ないままだった。
□
「武技! ――<六光連斬>!!」
全力の斬撃が六度閃く。
しかし、眼前に立つ二足歩行の
敵手は依然無傷のままだ。
ライトブルーに輝く外皮には、未だ一太刀も届いていない。
「っ、まだだ!」
「ウム。来ルガ良イ、戦士ヨ!」
「<急所感知><流水加速><可能性知覚>」
手持ちの武技を三連続で重ね掛け。
今向かい合うのは、手加減など絶対に出来ない遥か格上の相手だ。ゆえに打てる手は全て打つ。
その弱点を調べ。神経系を加速して対応力を跳ね上げる。そして強化された第六感が行動の成功率を補強した。その上で――。
「<能力向上><能力超向上>!!」
更に二つ、武技を重ねた。
効果は単純、肉体能力の強化だけ。それを二つ乗せれば一時的ながら常とは段違いの力が満ちる。
それでも目の前の相手には全く届かないのだが、だからと言って全力を尽くさない言い訳にはならなかった。
そして今日もガゼフは敗北する。ただの一矢も、報いる事無く。
「コキュートス様、お時間です。そちらの
「ム、モウソンナ時間カ」
血と汗と泥に塗れた自分の傍らで、異形達が言葉を交わす。
武技を用いるサンプルとしての時間が終わり、これから日が変わるまでは人皮紙工房で皮を剥がれる家畜としての時間が始まる。何時も通り、此処に捕えられて以降の長い間変わらない、ガゼフ・ストロノーフの日常だ。
それでも諦める事はしない。
己は王の剣であるのだ、今でこそ囚われの身だが、何時までも此処には居られない。
帰らねば、ならないのだ。
王の下へ、己の仕えるべき主の下へ。如何なる痛苦に見舞われたとしても、この忠誠心だけは決して折れさせはしない。
「デハ、マタ会オウ、ガゼフ」
六つ並んだ青の複眼が己を捉える。
彼もまた主君に忠を捧げる
尊敬、している。彼の実力も、その在り方も。
だが、だからこそ自分は此処を出なければならない。
家畜のままでは居られない。俺は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフなのだ。必ずや国王ランポッサ三世の下へと馳せ参じ、人を人とも思わぬ彼等
「ああ、コキュートス殿。また明日、必ず」
未だそのための道など欠片も見えぬが、それでも必ずや成し遂げる。
例えどれほど己の弱さと至らなさを思い知らされたとしても、心だけは決して折れない。
諦める事だけは、したくなかった。
例えこの墳墓を出た先で、――己の護るべき何もかもが終わっていたとしても。
□
「あら。ちゃんと、来て下さったのですね」
出迎えの言葉を無視して家の中を見回す。
小奇麗ではあるが上質ではない、カルネ村の一家屋。内装を一通り観察してみたが、造りそのものは特別なものなど何も無い、普通の民家だ。
だが俺は油断などしない。此処は彼の黄金――ラナー王女の住む家なのだ。
女の子の家に御呼ばれしたからといって、それだけで機嫌の良くなる俺ではないぞ! なんかこの家良い匂いするけど!
フシャーッ、と両手を身体の前に出して威嚇する。しかし相手はラナーだ。俺の精一杯の虚勢にも、くすくすと笑みを零すばかり。実に手強い。
若干椅子を引き気味に、一つしかない卓の前に腰掛ける。そして対面には当然ラナー。
見回してみたが、誰の存在も家中には見えない。俺以外にはラナーだけ。
「心配しなくともクライムなら居ませんよ」
むしろ居ないから心配しているのだが、こいつに
予想外に手際良く用意された香りの良いお茶に口を付けて、ようやく俺は口を開いた。
「で、何の用だよ……?」
実は、カルネ村へ訪れる機会はそれなりにある。
ナザリック内の仕事はほぼ全てがシモベ達に割り振られている以上、俺のやるべき事なんて余り無いのだ。一時期頑張っていた冒険者稼業も、美姫ナーベとの優越感ありありセックスが終わったため、何時やめても問題と言える問題が無い。精々が街中でイチャイチャして見せつけるくらいか。
エ・ランテルの冒険者組合から色々言われる事もあるが、基本無視。ナーベを盾にしての没交渉だ。
ギルド拠点の維持費用に関しても、ユグドラシル時代に貯めた金貨が山とある。ちょっと位のんびりしたって余裕余裕。半永久的にユグドラシル金貨を確保する手段に関しては、出来る限り現地の環境を傷付けない、という条件さえ守れば何でも良い。あとは頭の良い奴等に任せるだけだ。
つまり、暇である。俺が普段セックスしかしていない理由はそこにある。
何ものにも追われない日々というのは実に素晴らしい。素晴らしいが、暇でもあった。
なので空いた時間に、カルネ村の視察という名目で散歩をする日が増えている。カルネ城砦建設現場を のんびり眺めながら、こっそりシモベ相手にセクハラをする俺。至高の余暇の過ごし方だった。
そんな暇人の俺に対して今日、ラナーからの誘いがあった。
正直無視したかったのだけど、俺はコイツに対して微妙に思うところがあるのだ。泣かせた事を未だに引き摺っているとかでは無いが。全然無いが。
そして実際訪れてみれば、これである。ニコニコ笑顔で茶を入れて、俺が口にする様を観察する。……まさか、毒? いや、毒耐性はちゃんと備えている。なので問題無い筈だ。
俺がお茶を味わいながら色々考えていると、ラナーが動いた。思わず肩が震えてしまう。
ふわり、とスカートの裾が翻る。
簡素な衣服だ。王女様が着るには値しない、なんとも素朴な平民服。
真っ白な、生地の薄いワンピース・ドレス。
その裾をそっとラナーが指で摘んで、秘められた奥が晒され、る。
茶を噴いた。
「パぁぁーンツ!!!!」
「うふふっ」
はいてなかった。
ラナーは、パンツを履いていなかった。
なんでや!!!!!!
「何!? 何事なのっ!!?」
まさかパンツ買うお金も無いからお小遣い下さい、とかそういうのか!? いかがわしい!!!
いや違う、そんなわけは無い。だって俺の方からちゃんと生活用の支度金、通称ラナー資金を用意させていた。アルベドに直接言ったので、金か物資か、形はともかく不足があるとは思えない。
じゃあ何だ。今俺は何を見せられている。女の子の綺麗な身体を見せられて、なのに混乱続きで勃起も出来ない。どうすれば良いのだコレは。
「やってみると少しばかり恥ずかしいですね、これは」
じゃあやめてよお!!!!
叫びながらも、俺は視線が離せない。
秘所を晒しながらラナーが近付く。椅子の上で後退りしようとするが、がたりと音が鳴るだけで
椅子に座った姿勢で動けない俺の、俺の膝の上に、ラナーが重さを感じさせない動きで、畳んだ形の膝を乗せた。
圧倒的至近距離、俺の目の前でたくし上げられたスカートの中身が輝いている。
片膝だけを乗せているので少女の股は はしたなくも開かれており、そこの、本来ならば秘められるべき箇所は丸見えだ。
ガラスなどない木枠の窓から差し込む陽光がラナーの真っ白な肌を透き通らせて、酷く神秘的な色を、俺の瞳に焼き付けんばかりに印象深く見せつけた。手が伸びる、いや、伸びそうになって、俺を見下ろすラナーと互いの視線が絡み合う。
「ずっと待っていたのに、来て下さらないんですもの」
だから、お誘いしたんです。
そう言って恥ずかしそうに微笑む黄金が、俺の心臓を暴れさせようと誘惑する。
何を企んでいる、とか言えなかった。胸が痛い。心臓が痛い。興奮が、加速度的に増していく。
俺の太腿に乗せられたラナーの膝が、裸の足が するりと動いて、ズボン越しの股間を撫でる。それに、うあっ、と情けなく呻いてしまった。
優しく触れてくる皺一つ無い膝小僧。手で触れればきっと凄く滑らかで気持ち良い。だけどこれはきっと何か腹黒い意図を隠し持った媚態なのだ、ならば俺は、この誘いに負けるわけにはいかない。
ああそうだ。俺には一端の男としての矜持と、ナザリックの主としてこの背に背負うものがある。
ナザリックの皆のためにも、ラナーなんかに絶対負けないっ!
キスをされた。
射精した。
あっあっあっ、と何処か遠くで喘ぐ
頬を擽る細い金髪の感触が、ぞくぞくと背筋を駆け上ってくる快感と連動していた。
掴まれ、優しく導かれた右手の先には、滾る女の熱がある。その滴りで濡れていく感覚さえもが心地良い。
口元まで捲り上げられた
「――気持ち良いです」
嬉しそうな笑みを含んだ、ラナーの声。
押し付けられてくる胸の柔らかさ、彼女の素肌の瑞々しさが俺を高ぶらせる。口でしゃぶり、右手で熱を宿した秘部を弄って、左手は細い腰を支えながら衣服越しの臀部を優しく優しく撫でていた。
しかしそれに対する不快感など一切感じず、荒々しさもなく互いに求め合うように肌を重ねていた。
「もう十分。そろそろ
うん、と夢見心地で答えを返した。
取り出された一物が雄の臭いを纏わり付かせながら天を突き、そのまま、暫く振りのラナーの中へと還っていく。位置の調整のための支えなど要らない。どちらも真っ直ぐ、上と下から腰を動かすだけで奥の奥まで繋がれた。
内側の熱が俺のモノを揉み上げる。その快楽に三度目の射精をしながら、やがて互いの腰が密着するところで動きを止めた。
ラナー、と呼べば唇が重なる。舌を絡めて唾液を送り込み、彼女が飲み込む音が耳に届いた。
互いに腰を僅かに交差させた姿勢で抱き締め合う。隙間無く密着する股間部で、濃淡に差のある相手の陰毛が絡んでくるのが くすぐったい。
「近く、王国と帝国の戦争が行われます」
耳元でラナーが囁く。
それに、やっぱり裏があったんじゃないか、と薄っすら苦笑した。
「そこに介入しましょう。第三の勢力として、――覇王エンリ・エモットの名を掲げて」
どこか楽しそうに話すラナーの小さな鼻を口先で咥えると、両目を細めて少女が微笑む。
くにくにと微細な刺激が股間を襲う。ろくに腰を動かさないまま、内側だけでの愛撫が繰り返される。
小刻みに射精しながら、ぼんやりと口を開いた。
「ナザリック名義じゃないんだな」
「はい。だって、興味無いでしょう?」
内面の表出した、異形種の視線が俺を見る。何処まで覗き込まれているのかと少しばかり考えるが、実際、俺に支配欲と言えるものは殆ど無い。そんなものはベッドの上、女の子相手の時だけで十分だ。
今だって実質アルベドとデミウルゴス、細かな部分にパンドラズ・アクターを噛ませてナザリックを動かしており、俺自身がやるべき事など頂点に君臨して偉そうに振舞う事くらい。それこそが彼等にとって一番大切な事なのだと、原作知識ゆえに知っているのだ。
俺の、ギルドの名前が世界中に轟けば、
「なんで……、覇王?」
「貴方がよく言っているではないですか」
そうだったっけ。
快楽に茹だった頭で思い出そうとしたが、
ぎゅ、とラナーを抱き締めて射精する。もう出したのが何度目だかも分からない。
「まあ、いいか」
どうでもいいか。
だって気持ち良いし。戦争で何があっても俺にとって損は無い。
それに戦争とか難しい事は面倒臭い、平和な方が、のんびりセックス出来て気分も良いさ。
本当に何か、ナザリック全体に不利益が生じてしまう場合は、俺も本気を出すだけだ。
どうせ誰も、俺に勝てるわけなど無いのだから。
びくびくと、突如ラナーの身体が震えた。
何やら酷く興奮しているらしい。突然の強い刺激。膣内が激しく蠢き纏わり付いてくる。つい、と見上げた彼女は先程のままの暗い瞳で、蕩けるような笑顔を浮かべて俺にその頬をこすり付ける。
「ああ、ああ、ああっ!!! ――好きです」
そう……(無関心)。
これは余りにもあからさまな演技だろう。バレバレなので ちょっと萎える。だってラナーがクライムくん大好きっ子なのは当然の事実、世界の真理。突然の告白に白けた思いを隠しきれずに、いいから腰を振れと伝えるために強く激しく突き上げる。
ひどい人、と言いながらラナーが笑う。笑いながら全身で応えて、そのまま只のセックスへと移行した。
とばっちりで覇王の呼称が広まりそうなエンリに対して、ちょっとだけ申し訳無く思いながら。
□
響く二人の声が、耳に入ってこない。
両の拳を握り締め、噛み潰した唇からも血が滴る。
結ばれる事など無いと知っていた。それでも為し得る限りの全てを捧げ、彼の御方の幸福を守る事こそが己が使命と決めていた。
なのに、苦しい。
心が、苦しい。
風に乗って微かに耳に届く謀も嬌声も、聞こえてはいても頭に入って来なかった。
「らなー、さま」
呻くような呟きにも力が無い。
国のため、民のため。そう言い聞かせられてカルネ村に滞在し、今日も客人を出迎えるというラナーに命じられて家屋の外で待機していた。ギリギリで話の詳しい内容が判別出来ない距離、家の中の二人にも位置を悟られない場所で、だ。
その結果がこれである。
何をしているのか、何が起こっているのか。
だが、何故ラナー様が、という想いがある。今すぐ剣を抜きあの場所に飛び込み、全ての音を止めてしまいたい。だけど出来ない。全てを予測なされていたのだろう主の事前の命令が、己の肉体を縛り付ける。
両目から ぬらりと零れ落ちる重たい何かは、激情から生じた涙だろうか。
何たる不敬。何たる不遜。たかが一従者が、主に対して何を考えているのだろうか。
王国と其処に住まう民のためにと、自分如きには些少も理解出来ぬ思索を重ねてきた黄金の姫。自分に出来る事は御下命に従い殉ずる事のみ。たとえ、例えどれほど苦しもうとも、ラナー様はそんな自分以上に壮絶な覚悟と大いなる愛をもって、懸命に未来を紡ごうと動いておられる。
ごり、と噛み締めた奥歯が幾らか小さく毀れ落ちた。
耐えろ、耐えろと自分自身に言い聞かせ、一歩も動く事無く声が止むまで立ち尽くす。
それが、それこそが、今の自分に出来る唯一なのだから。
□
――その真横、血の涙を流す
「ああっ! そんな、そんな所までっ!? どうして私では駄目なのですか、さば味噌さまあ!!」
ぐちぐちびちびちと、激しい水音を響かせながら両手で股間を掻き回す
「どうして人間なんかとっ。あたしも、あたしだって……っ。さば味噌さま、さば味噌さまあっ!」
土下座するように蹲りながら股間に手を当て腰を揺する、淫魔と比すれば慎み深い自慰をする
他者の情事を遠く耳にして心を震わせる謎の三人組。
そんな異常な有り様を、覇王たる宿命を背負わされた とある少女が「えぇ……」と呟き、冷や汗を流しながら呆然とした表情を隠す事も出来ずに しっかり見ていた。
寝取られオナニー同盟結成。