「おなかすいた……」
戦鎌の柄を地に突いて、
気分そのままに項垂れれば、視界の上半分が白黒の前髪によって閉ざされる。視界が僅かに暗くなり、まるで今の私の精神状態を表すかのようだった。
ああ、どうしてこうなった。
意気揚々とスレイン法国を飛び出して、勝手気儘に大地を歩き、――半日ほど経ってから路銀を持っていない事実に気が付いた。
いや、そこまでは良い。良くは無いが、仕方が無い。だって私は箱入り娘、お金なんて使う機会が全く無かった。つまり全ての責任は法国にある。なので問題無いし私に非も無い。空腹に関してだって偶然出くわした親切な
……魔物って食べれるんだろうか。
残念ながら判断材料となるだけの経験が無い。それに生で食べるのはちょっと抵抗があった。今までは聖域に居るだけで勝手に食事が用意されていたし、私の全ては戦うためにあるものだ、料理とかちょっと、無理。別に不器用とかではないけど、うん、今まで必要無かっただけだから。なので大丈夫。法国が悪いんだ法国が。
「だいじょーぶだよおかーさん、わたしはまだまだイケるから……」
このままでは不味いと認識した時点で、連日連夜走り通しで覇王国を目指して進んだ。
だが、現実は厳しい。なんと驚け、身体を激しく動かせば動かすほど比例するように御腹が減るのだ!
まさかの事態。私は驚き、次に焦った。
このままだと、強い男に出会う前に餓死してしまうかもしれない。人類最強の癖に。
国の神人共が数を揃えても単独で勝利し、世界を滅ぼす強者さえ絶死絶命の前では獲物に過ぎない。なのにお腹が空くと動きが鈍って、やがては死んでしまうのだ。無敵の存在など無いのだと、私はこうして旅に出て初めて実感する事となった。
道端の雑草が食えるか否か。毒耐性があってさえ、それは私の知る所ではない。樹木に実った青い果実は、齧ってみたら酸っぱ過ぎて吐き出した。あの時我慢して飲み込むべきだったのだろうか。
人から奪うなんて出来はしない。これでも一応、人類の守護者の端くれだ。とちょっと格好付けてしまって、自分で自分を追い詰める。
都合良く賊の類が襲ってくれば嬉々として殲滅したのだが、何故か誰一人として襲って来ない。美人だぞ、美少女だぞ、それでも山賊盗賊か。外の世界の治安が余りにも良過ぎて、実は今まで受けた法国での教育は全て嘘だったのではないかと疑ってしまった。
人に聞いたら、賊が居ないのは覇王国のお陰らしい。おのれ覇王。私の御飯を奪うとは、なんて悪辣な奴だろう。きっと良い男も独占しているに違いない。
「ううっ、も、無理ぃ……」
一瞬だけだが、冗談抜きで視界が霞んだ。飲まず喰わずで早数日、人生初めての断食だった。
しかし無様に倒れるなど許せない。
近い樹木の根元で戦鎌を両手に抱え、のっそり座り込んで目を閉じた。
――私は、このまま死んでしまうのだろうか。
ぎゅーぎゅー音を慣らすお腹の音を恥ずかしがるだけの余裕も無い。閉じた目蓋の裏で、私を産み育ててくれた母の顔が過ぎって消える。思い出す表情のほぼ全てが
ああ、此処に豪華で美味しい大量の御飯(デザート付き)を恵んでくれる世界最強のイケメンが居たら、私は絶対に惚れてしまう。思い余って押し倒す。命を賭けても良い。
そうだ、命を賭けよう。
此処で餓死する前に突如イケメンが現れて私にお腹一杯の御飯を奢ってくれる可能性に、私は自身の全てを賭ける。
さあ、現れろイケメン――!
「なんだコレ。えっ、リアル行き倒れ? マジで?」
「むむむっ、随分と弱ってるでござるな。これは不味いかもでござるよ、さば味噌?」
――現れた。
□
かつかつと靴音を慣らして墳墓を歩く。
私の視界には居並ぶ
一人、二人、およそ二桁かそれ以上。どれもこれも現地の基準において強者と呼ばれる者ばかり。無論、このナザリックにおいては無価値で無くとも希少ではない程度。ただの家畜で、材料だ。
誰一人として死んだり壊れたりが無いように徹底管理されている。この私、クレマンティーヌもかつては此処の一員だった。今では懐かしい話であるが。
「あ~ら子猫ちゃんじゃないの~ん!」
「うげっ」
暫く目にする事の無かった人型のグロ肉。ぶくぶくに太った溺死体のような、おぞましい化け物。
拷問狂、ニューロニスト・ペインキルが酷く親しげに声を掛けてきた。
死ね、と即座に何時もの挨拶を投げたが、相手は全く気にしていない。相変わらず人の悪感情を欠片も理解出来ない奴だった。多分脳味噌が腐っているのだろう。ああ気持ち悪い、反吐が出そうだ。
実際に殺し合えば私が勝つが、こんな汚物でもナザリックの一員だ。実行すれば罰せられる、……罰せられる筈だ、うん。
至高の御方ならば少しくらいは私を支持してくれるような気がしたが、実行する気には到底なれない。生理的に絶対受け付けない最悪の化け物とはいえ、墳墓の一員を害するなど精神的な抵抗が多大にあった。神を試してはならない、と何処かで習った言葉を念じて必死に耐える。
「御方の御婚礼、ホンっト楽しみよねん。目一杯おめかししなくっちゃ!」
おめかししたニューロニスト。想像するだに恐ろしい言葉を全身全霊で聞き流し、周囲に広がる資源採取の作業風景に意識を逸らす。
人、人、トロール、ゴブリン、
資源は人間のみに限らない。実に種々様々な者達が背の皮を剥がされ骨を抜かれて、鱗や爪や眼球に、捨てる箇所など何も無いと言わんばかりに隅から隅まで、群がるシモベ達によって治療魔法と並行した採取作業を受けていた。
泣き叫ぶ者、狂ったように笑い続ける者、反応が無いようで視線だけが忙しなく動き続ける者など。生ある者を苦しめるための悪意ある知恵という知恵が出し尽くされている。かつては趣味で拷問などを嗜んでいた、ような気のする私だが、コレを見た上で、それでも続けようという気にはなれない。所詮は訓練を受けた趣味人と一流の職人、比較出来ぬほどに次元が違う。
苦しませる事を楽しみながら、しかし作業自体は必要だからと生真面目だ。
全てはナザリック地下大墳墓のため、つまるところ至高の御方のためのもの。必要とあらば喜びの情など かなぐり捨てて、彼等は人形のように無心のままで働くだろう。
うん。――実に素晴らしい。見習いたい、と心底思う。
「私ももっと御役に立てれば良いんだけどなー」
独り言ちて下腹部を撫でた。つい先ほど注いで頂いたばかりの精液が、私の内側でなみなみと揺れるのを感じて微笑む。
この感覚が実に嬉しい。嬉しいのだが、それ以上に、私は喜んで貰いたいのだ、あの御方に。
そう考え始めた切っ掛けなんて竜王国での情事以外に一つたりとも思い出せないが、今が幸せだという事だけは間違い無い。
乱暴に組み敷かれたり、優しく乳房を吸って頂いたりと、もう何度抱かれた事だろう。肉布団として使われるのは至上の幸福だが、競争相手も多いので頻度が少ない。
回数自体に不満は無くて、それ以外の時間でも御役に立ちたいというだけの話だ。
力が足りない。武技は増えたがナザリックの守護者を見れば良く分かる、私は弱い。弱いから、前に出て戦う程度では御方に対する貢献度が全然足りていないのだ。そもそも今現在は戦う敵が居ないのもあるが。
「はぁーっ。何か無いかなあ、私が出来る事」
――くれ、まんてぃーぬ?
憂鬱な溜息を落として呟いた。
足元でびくびくと痙攣する金髪の
――くれまんてぃーぬ。わたしだ、わだ、ああ、ああっ、くれま゛んでぃーぬ゛っ。
「あらん、活きの良い子ねん。ちょっとだけ、採取のペースを上げちゃおうかしら?」
仕えるべき真に尊い方が居て、見上げる壁は数多有り、研鑽の機会だって私が望むだけ与えて貰える。
かつて抱えていた筈の
これが幸福。これが、本当の意味で生きているという事なのだ。
もう何も、無為に踏み躙る事など無いだろう。他者を傷付けなければ満たされないような不完全、彼の御方の下で生きる以上は有り得ない。
――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!
それだけはきっと、このナザリック地下大墳墓に在る限り永遠に変わらない事実なのだから。
□
わたしは確かに
大振りの一撃が、容易く受け流されて音も鳴らせず勢いを失くした。
地に付いた足裏を幾度も擦り合わせ、腰を捻りながら肩を動かす。再度相手に向けられた戦鎌が、手首の動きだけで幾度も刃を閃かせる。――それを、全て体捌きのみで躱された。
隙を突くような一閃が伸びてきた。咄嗟に武器を手放して後退、手傷を避ける。
回避の直後、片足を伸ばして爪先のみで柄を掬うと武器を回収。しかし。その時には既に眼前、足と武器の隙間から伸びた切っ先が私の額に当てられていた。
「――ははっ」
攻撃は、されなかった。
挑み、戦い、当たる寸前で仕切り直し。
それがもう、六度七度と繰り返されている。
「ははははははっ!!!」
口中に居残る、林檎酒の味を舌で舐め取った。先程の食事は美味だった、と満足気に思い返してまた構える。
心身は間違い無く最高潮。ここ数十年は無かった程に、あらゆる全てが充溢していた。与えられた食事の全てが、何らかの力をこの身に与えてくれたのだと理解している。
なのに勝てない。私の側だけ、全然負けてる。
切っ掛けは至極単純、ちょっとした好奇心からの問いだった。
親切な通行人に食事を与えられた後の小休止中、彼が腰に下げた剣を見て戯れに私が訊いたのだ。
自分の事を、どれくらい強いと思う? と。本当に他愛の無い質問で、何と答えても気にしない、そんな事を考えていて。なのに。なのに。あんな事を言われては黙っているなど出来はしない。
彼は不思議そうに首を傾げて、ただ一言。
――せかいでいちばん。
「ふふっ。世界で、」
全身が燃えるように輝いて、修めた九種の武技を同時発動。砦一つだって引き裂く一撃を解き放つ。
なのに、翳された徒手の暗闇に受け止められた。
<次元断層>
「一番?」
知らない武技だ。
が、それ自体が問題では無い。
音も無く無効化された斬撃の直後、こちらに生まれた僅かな隙を突かれてまた負ける。さっきは脳味噌、今度は首の動脈、いや頚椎ごと斬り捨てるための位置取りだ。添えられた刃が、本当に何時でも私を殺せるのだと言葉も無く語っていた。
手加減なんて、していない。最初は冗談混じりにからかって、徐々に真面目な気分になって、もはや装備も武技もタレントも、スレイン法国最強不敗たる自身に許された持ち得る全てを振るっても。
「悪いが」
酷く冷めた表情で、世界最強の男が私を見据える。
銀色に輝く直剣が、私の心臓を狙って無音で駆けた。
「賢者タイムだ。俺の手順に不備は無い――」
そしてまた、私は彼に敗北する。
生まれて初めて、正真正銘、言い訳無用の敗北を喫した。
都合九度。一方的な戦いを、よくも此処まで粘ったものだと苦笑する。
ああそうだ。私は、――自身の惚れるべき番いをようやく見つけたのだ。
□
組み敷く少女の顔を見下ろして、頬に塗られた土を拭った。
白と黒の髪。黒と白の瞳。真っ白な肌とクールな表情。上位の装備。つまるところスレイン法国漆黒聖典番外席次、絶死絶命が此処に居る。
なんでこの人が行き倒れてるんですかねえ……。
しかしちょっとだけヤバかった。事前にクレマンティーヌとセックスしてなかったら気持ちが足りなくて怪我していたかもしれない。戦う度に強くなる、バトル漫画みたいな奴だった。
「んー、ごろごろ」
今は俺の首に抱き付いて、すんすん匂いを嗅いでいる犬か猫みたいな女だが。
どういう事だ。いや待て。番外席次といえば、強ければ誰でも良い、みたいなキャラだった筈。
つまり、モテ期か。
――俺にモテ期が来たのかもしれない。
これは恐らくセックスの流れ。運動してる間に再度充填された俺の股間が見る見る仰角を上向かせていく。
上向かせ、たのだが。
ちょっと臭うな、この子。
いや全然美人だよ? 美少女だけど。でも少し、そう、少しだけ気になったのだ。汗と土の混じった臭いが。饐えた感じの、俺の嗅覚を刺激するものが少しだけ。あくまで微量と強弁するが。
彼女の履いた、土塗れの靴を見下ろす。法国から覇王国に近しい此処まで、ひょっとしてずっと歩いてきたのだろうか。せめて馬を使え、とか。木の根元に蹲っていたから土の匂いが結構濃いな、とか。そもそも何で此処に居るんだ、とか思うところはあるのだが。俺の
申し訳無く思いながらも、恐る恐る訊いてみる。
「あの、前にお風呂入ったのって何時……?」
口にした直後、絶死絶命の動きが止まった。かちりと時間が停止するように。
俺も、訊ねる声が震えてしまう。身体の臭いとか、異性に訊くには非常にデリケートな問題なのだ。俺の心臓がばくばく脈打つ。
僅かに身を起こすと、白黒の少女が服の裾を持ち上げ己の鼻に押し当てた。
そのまま自分の臭いを嗅ぐ音が小さく聞こえて、俺の方へと視線を――いや、視線が若干ズレてるな。
平坦な声音で少女が言った。
「くさくないわ」
……そうだね。臭くないね。花のような香りだよ。と、そういう事にしておこう。
先程までの彼女のように細い首筋へと鼻を擦り付け、これ見よがしに匂いを嗅いだ。
すると幼児が嫌々するように、首を振って身を捩る。
「ねえ待って? ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ待って欲しいの」
うーん、この乙女的反応。さっきまでとは全然違うな。勃起する。
別に臭くは無いのだけどっ、と前置きした上で身繕いの時間を要求してきた。
だが聞かぬ。
この弱気な反応、実に良し。
俺が! マウントを取る好機が巡って来たのだっ! 絶対に逃がさん!!
なので攻める。この機を逃せば逆転されるかもしれないからだ。何時もみたいに。
ゆったりとした余裕のある布地、装備越しの肢体を撫でた。中身は、結構細い。常の外見からは中々分かり辛い少女らしい形を手で確かめて、多分あんまりおっぱい無いな、とか考える。
しかし。
先程まで己の体臭を恥ずかしがっていた絶死絶命だが、今は不思議そうな顔で俺を見ていた。
「……何をしているの?」
ここで無知シチュ、だと……!?
俺は明らかに性的な意図を持って触れているのだが、強い男の子供を欲しがる、というキャラ設定に全く そぐわぬ反応だった。スレイン法国の性教育はどうなっているんだ、けしからん。
待て待て。ひょっとすると、俺は場の空気を読み違えてしまったのかもしれない。
セックスに移行する流れだと思っていたが、それは俺の勝手な勘違いだったのだろうか。
細い腰を上下にいやらしく撫で回しながら考える。俺の股間は、既に勃起を終えていた。先走りだってもう出ている。
「大丈夫だ、すぐに分かる」
「そう?」
至高のイケメンボイスで、力強く断言した。
本当に分かっていないらしい少女の無垢な表情にパンツをびちょびちょに濡らしながら、そっと尻を揉んで反応を確かめる。僅かに眉根を寄せて、けれどそれ以上の何かは見えてこない。気持ち良さそうにも見えなかった。俺の性技が未熟なのだろう、今度シャルティアに習ってみようかと少し悩んだ。
薄い布地に包まれた足を撫でる。細く引き締まった戦士の身体が実に良い。固い筈なのに確かな柔らかさを感じるのは女体の神秘か、あるいはユグドラシル成分のせいだろうか。右足に嵌められた謎のパーツが凄く邪魔だった。
身を乗り出し、左手で胸を、右手で彼女の股間を探る。
「んっ。……ねえ、これってもしかして」
やめろ、俺は今、元世界最強相手の無知シチュを精一杯楽しんでいるのだ。気付いてはいけない。気付かれたら、また俺が性的な意味で負けてしまう、かもしれないじゃないか!
すぐ分かるから! すぐ分かるから! と僅かな猶予を必死に稼ぐ。
土や汗の臭いなんて、もはや気にしている余裕が無い。自身のズボンを下ろして露出する。
ぶるん、と俺の自慢の最終兵器が卑猥な形を世界に晒した。
「うわ」
正負どちらの意味かも判然としない、絶死絶命の声が聞こえる。が、構っている暇は無い。
ズボンなのかタイツなのか不明瞭な彼女の装備、下半身を覆うソレを ぐいっと脱がす。
下着まで白黒に色の分かれたデザインで、ちょっと感心。この子けっこう趣味可愛いな!
気持ちが更に昂ぶったので、嬉しくて先走ったものが彼女の足に少しだけ落ちた。それに、んっ、と小さな反応があって股間が震える。
下着に手を添えて出来るだけ優しく引き下ろす。
「ねえ、これやっぱり。というか絶対」
ぺちぺちと俺の頭が叩かれた。止めようとしている、のだろうか。しかしそこまで強いものではない。抵抗は弱い。ならばイケる。このまま押せば、最後まで。
聞かぬ、止まらぬ、俺はセックスをするのだ。止まるわけにはいかないのだ!
「コラ、聞きなさい。……嫌じゃないから」
――いやじゃない。
びくん、と俺の肉棒が強く震えた。
堪らなくなって、一思いに下着を下ろす。ようやく見えた彼女のソコは、衣服で隠されていたためか目立った汚れが何も無い。
だから口付ける。正直そのまま挿入したいが、流石にそれは痛いだろうと慮ったのだ。
篭った熱気が鼻を炙る。唇で、触れるだけの愛撫を行う。舌で軽くつついて、反応を待った。
頭上から、絶死絶命の漏らした不規則な呼吸が聞こえてくる。相変わらず両手で頭を抑えられてはいたが、強く引き離す事は無い。つまり、このまま口淫を続行して良いという意思表示、だと思う。多分。そういう事にしておこう。
やがて小さく水音が響く。
丁寧に、休む事無く舐めしゃぶる。何時も俺がシて貰っているように、シて欲しいと思うように。男女の違いは当然あるが、痛くしない事だけを肝に銘じて、たっぷりと時間を掛けて愛撫を続けた。
どれくらい舐めていただろうか。半端に下を脱がされた少女の両脚が、気付けば俺の頭を締め上げている。
拘束するように。逃がさないように。もっと続けてと言うように。
顎先まで汁が垂れた。唾液かそれ以外かの判断は難しいが、潤いとしては十分だろう。
はあ、ふう、とお互い息を乱しながら身を起こす。
両脚での拘束を外すのに少々手間取ったが、仰向けに倒れこんだ少女の顔を見下ろせば、軽く指を噛んだまま頬を朱に染めて、虚空に逸らした視線が俺を睨んで僅かに泳いだ。
「ねえ。その、もう少し事前に――」
絶死絶命が言いよどむ。それは、何に対する言い訳だろうか。
潤んだ瞳が可愛かったからどうでも良いが、彼女の声は結構好きなのでもう少し近くで聞きたかった。
口元を大雑把に手で拭って、地に寝転がった少女の上に覆い被さる。
水音が鳴る。互いの股間が僅かに触れた。
「あなたって、けっこう」
人の話を聞かないのね、とそう言われた。
そんな馬鹿なと言い返せば、呆れた視線から漏れる溜息が俺の鼻尖を緩やかに掠めた。
「子供は欲しいと思ってたけど、遣り方なんて良く知らないし。シてくれるなら、まあ、勝手にして貰っても良いけれど」
むにゃむにゃと歯切れの悪い言葉ばかりが紡がれる。視線は再び俺から逸れて、背けられた顔は何も無い何処かへと向けられていた。
腰を前後に動かしながら、俺は互いの性器を擦る。少しだけ、少女の腰も応えるように ひくひく動く。
つ、と二色の視線が躊躇いがちに俺と絡んだ。
「……キスくらい、先にしてくれても良いんじゃないかしら」
射精した。
びゅくびゅくと吐き出しながら、唇を合わせる。
至近距離にある絶死絶命の視線が、比喩表現として白黒させながら下を見ていた。ああ、言いたい事は分かる。分かるけど、言わないで欲しいと切に願った。俺が早いからじゃなくてお前のせいだから! 可愛かったんだから仕方ないだろ!!
真っ白で柔らかな少女の股座、余裕のある衣服に包まれた見えないお腹。それらに向かって止まらない射精を繰り返し、そのまま腰を動かして更なる刺激を求め続けた。
手で探り、彼女の陰部を確かめる。ちんこの先端で目標を定めて、ゆっくりと腰を突き出した。
ふ、とキスをしたままの相手の鼻孔から、大きく息が吐き出される。
構わず舌を絡めて動かせば、そっと伸ばされた手が俺の頭をがしりと掴んだ。
強く互いの口を吸う。
上で激しく求め合い、下もまた確実に繋がり始めた。
入っていく。先ほど盛大に吐き出したばかりの陰茎が、ぐるぐると徐々に吸い込まれるように奥へと向かう。
揉み上げて、嘗め尽くし、膣の入り口が俺のモノを強く激しく呑み込んで行く。
僅かに腰を引いて、すぐ突き出すように繰り返して掘削する。そうやって進むと少量のぬめりが新たに生まれて、俺の陰茎を伝うように外へと向かって流れ出した。奥から溢れ出した愛液か、あるいはそれは処女ゆえの破瓜の血か。どちらだとしても、今はキスで忙しくて確かめられない。
腰を振る。
地面の上で、半端に衣服を肌蹴た姿で。獣のように まぐわい続けた。
衣服の下裾から手を入れて、見えない彼女の胸を揉む。柔らかくてでも小さくて、汗や汚れでちょっとだけ手触りが悪かった。乳首を抓んで軽く苛める。
「こども」
キスの合間に唇が離れて、呼吸と共に漏れ聞こえる声で少女が言う。
「こども、ほしいの。わたしの、」
わたしの、かぞく。強くて、ずっと、傍に居る人。
何を想っての言葉かは考えなかった。初対面同然で彼女の内面を探るのは無遠慮過ぎるし、そもそも口と下半身が気持ち良過ぎて俺の頭が回らない。
だから必死に腰を振る。言葉よりもずっと強く雄弁に、俺の熱意が伝わるだろう。その良し悪しに関しては、また別の話だ。今はとりあえず気にしない。
尻を掴んで、繋がった部分を深く押し込むように腰を突き出す。
噴き出すものを余さず奥へと注ぎ込み、ようやく深く息を吐いた。
額から流れた汗が下へと伝い、少女の顔へと静かに落ちる。俺の頭から離された片手が、その指先が、己の目元を濡らした汗を、流れ出した涙のように口元へ向かって引き伸ばす。
まるで泣いているように見えたが、完全なる錯覚だ。二色が混じった髪を撫でて、湧き上がる胸中の同情を誤魔化した。考えたところで仕方ない。ただ優しくしてあげたいと思って手を動かす。
「――ねえ、結婚しましょう?」
汗で出来た涙跡を何度も何度も なぞりながら、俺の下で空を見上げる少女が言った。
答える言葉なんて決まっている。俺は誠実に言葉を返す。
「ごめん。俺、明日結婚式なんだ」
鋭く輝く戦鎌が、俺の首を狙って翻った。
□
そんな二人から離れた木陰。
「いやー、
それがしもなー、相手が居ればなーっ、と呟く魔獣が一頭。
主君の情交を覗き見て股間を激しく弄り回す