※この作品はR-18です。

トータル・イクリプス ファーイースタンフロント   作:ロートシルト男爵

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ふとしたことから足負傷してしまいゲンナリ(早く治れ)
最新話。
フサードニクについては漫画版マブラヴオルタの社霞の過去のシーンで出てきましたね(マインドシーカー割と好き)



第16話 騎兵(フサードニク)

第17話 騎兵(フサードニク)

 

『フサードニク1、こちらイーダル1。感明おくれ』

 

『イーダル1、こちらフサードニク1。感明よし。こちらの感明送れ』

『・・感明よし。終わり』

 

昼下がりのユーコン基地、ソ連領A(アー)01市街戦演習場より北へ10km地点。

 

イーダル1——即ちSu-37UBを駆るクリスカの発する無機質な無線交話を聞き流しながら俺はSu-37M2の姿勢制御を行いつつ、予め取った楔参形(アローヘッド・スリー)を崩さぬよう、先頭で引率を行う紫のチェルミナートルに随伴する。

 

両翼はイーダル3から4までの同試験小隊の面々の乗る二機のMiG-29ラーストチカ。そして、それに随伴するフサードニク中隊——ソ連軍特殊戦術情報部隊所属のF-14 AN3マインドシーカーが一個小隊分。即ち4機。

 

フサードニク中隊。

 

人工ESP発現体によるBETAの思考探査を目的とした、オルタネイティブ3計画の一環で創立された部隊である。

同中隊で配備されている戦術機——F-14AN3マインドシーカーは米軍のF-14トムキャットをベースとした特殊偵察機だ。

配備されている機体の名、そして露語で騎兵を意味する部隊名から分かるようにこの機体は複座機で、本来長距離誘導弾を扱う筈の前席の兵器官制士官席は人工ESPである特殊偵察要員を乗せられるよう改造されている。

 

尤も同中隊は94年のスワラージ作戦で主目的であるハイヴ内でのBETAとの交信には失敗し、以降同計画のオルタネイティヴ4への接収と共にお払い箱になったようで、98年現在までは目立った活動を行なっていないと聞く。

我が小隊と同中隊との合同演習が企画されたのも、ハイヴ内における実戦経験豊富な彼らと連携しての対BETA集団戦訓練が主目的であり、同時に同じくオルタネイティブ3計画の過程で生まれた紅の姉妹の二人のサポート並びに戦闘データ収集が副次目標となっているようだ。

 

故に兵装も偵察仕様から元の長距離戦闘仕様に換装されており、ゴテゴテと装備されていたセンサー類もぶっとい6発のAIM-54フェニックス——米国製の長距離誘導弾に置き換わっている。

 

 

しかし急な話だ……。

確かにお払い箱になったとはいえ、オルタネイティブ3に於ける実戦経験のある歴戦の衛士達が、共産党上層部の鶴の一声でそう簡単に召集できるものなのか……?

 

確かに俺はともかく彼女達に小隊規模以上での戦闘経験はない。

それに、現在アラスカに駐留しているソ連軍の中には我が小隊の面々も含め対BETA戦を経験した衛士が少ないのは事実だ。

 

大方、人民の税金でタダ飯を食うだけのお荷物に辟易した党中央が体のいい当て馬としてあてがったというのが実情だろう。

 

 

『フサードニク1よりイーダル2、こちらユーリ・デグチャリョフ少尉だ。ローゼンフェルド少佐だっけか』

 

『フサードニク1、私語は慎め。管制官に聞かれてる』

 

『いや、構わんさ。そういえば貴官は、ハイヴ内への吶喊経験はあるか?』

 

『否だ。俺の戦場はブリヤートやカザフの平原だった。ハイヴに入った事はねぇ』

 

『そうか……なら覚えとくといい。ハイヴは恐ろしいぜ?何というか……全身の皮一枚一枚がピリピリして今にもコクピットごと押しつぶされるような感じがした。おまけに偵察機だからマトモに武器は使えねえし、前席には気色悪い超能力者。もうあそこには行きたくないぜ』

 

『……そうか…貴重な体験談、聞かせてくれて助かる』

 

 

フサードニク1のユーリ少尉の話に耳を傾けながら、俺は考える。

 

オルタネイティブ3——BETAとの意思疎通の失敗は即ち彼らとの徹底抗戦を意味する。

 

同計画の残滓であるイーニァ、クリスカの存在意義もまた、オルタネイティブ4への方針転換に伴い「BETAとの意思疎通」から「BETAの殲滅」に変わった。

 

だが人類は依然として負け続け、日に日に住める場所を失っている。

 

ならば……もしこの計画も失敗したら…?

 

南北アメリカ大陸、オセアニア——最後のエデンを喪った人類はこの星を放棄し、宇宙へと旅立つだろう。

しかし飛び立てるのはおそらく上層部の人間だけ。

残された者は最後の一人になるまでBETAと戦い続けるのだろう。

 

オルタネイティブ5——即ち地球の放棄と一部人類の宇宙空間への脱出。

最近国連やソ連共産党の高官達の間で実しやかに囁かれているという噂だ。

あくまでウワサ程度にしか知らないが、これだけ階級が上がれば少なからず耳に入ってくるし、実際にあり得る話だと俺は思う。

なにせ我が国はヨーロッパロシアの陥落に伴い大多数の人民を見捨て、党上層部の人間や支配民族であるロシア人のみのアラスカ疎開を平然とやってのけたのだ。

特権階級のみの地球脱出——うちの国ならやりかねない。

階級や格差を否定しながらも、生まれの良し悪しで全てが決まるこのソ連という理不尽な国で少数民族として育ち、党の命令でなければこのアラスカの地に本来居てはいけない人間だという自覚がある分、そういった抑圧の構造に対しては人一倍敏感な自信がある。

 

『俺はもう、前線で戦いたくない』

 

思索に耽る俺の耳に、俺と同じく最前線で戦い続けたユーリのそんな呟きが入ったのは気のせいだっただろうか……。

 

 

 

『イーダル2よりフサードニク1。これより目的地への降下を行う。小隊の各員に指示を頼む』

 

『………』

 

⁈

 

俺は降下地点のA01市街戦演習場上空にて後衛のフサードニク1に無線を送る。

だが、相手からの応答はない。

 

 

 

電信機器の故障……?ジャミング?いや、あり得ない。先程まで俺はユーリと話していた。この短時間でそんな事ははあり得ない。

 

 

 

『イーダル2よりフサードニク、どうした?応答せよ』

 

俺は頰にあてがわれた衛士強化装備のヘッドセットに手を当てながら繰り返し叫ぶ。だが返事は一向にない。

 

俺はチェルミナートルの頭部カメラを後方に向け、フサードニク中隊のマインドシーカーを確認し始める。

 

『——⁈』

 

 

後続する4機の青い機体を見て俺は瞳孔を見開いた。

 

各機の両腕、そして双肩のガンマウントに装備されたWS-16C突撃砲の銃口がこちらを狙っていた。

 

突如鳴り響く警報。俺達は既にロックされている。

 

『フサードニク1‼︎今回の演出は対人機動戦ではない。いかにペイント弾といえど銃口を易々と味方に——」

 

橙に光る銃口。鳴り響く破裂音。

 

それを確認する間もなく俺は殺気を感じ、すぐさまチェルミナートルを緊急停止させ、コブラ機動を行ってマインドシーカーの後ろに回り射線から外れる。

 

(奴ら……何故実弾を⁈)

 

目の前を飛び交う36mmチェーンガンの曳光弾。

先頭の3機から発せられた数珠繋ぎの弾幕は、先程まですぐ隣を飛行していた2機のラーストチカに向けて迫り来る。

フサードニクの正確な偏差射撃の照準に入ってしまったイーダル3、イーダル4の二機は推進剤のタンクや跳躍ユニットに何発も被弾し、各所から黒煙と火炎を出しながら錐揉み回転し、地表へと自由落下してゆく。

 

『イーダル1!助けてくれ(パマギーチェ)‼︎跳躍ユニットが動かない‼︎たすけ——』

 

咄嗟に回避できた俺、そして先頭切って飛行していたため射線に入らなかった紅の姉妹の機体はなんとか助かったものの、他の2名については悲惨だ。

 

二人とも味方からの急な発砲に反応できぬまま駆動系をやられ、脱出もできずに高高度から機体ごと叩きつけられたようだ。

 

『クソっ‼︎イーダル1!退散するぞ‼︎市街地演習場まで降りろ‼︎』

 

『『了解』』

 

降下する俺たちの機体を追ってブーストしてくる4機のマインドシーカー。

 

警告音が誘導弾の被ロックを伝えるけたたましい音に変わる。

俺は急激なGに耐えながらもチェルミナートルを宙返りさせ、白煙と共に迫り来る無数のフェニックスミサイルをチェーンガンの弾幕で一つ一つ迎撃しにかかる。

 

「くっ⁈撃ち落せない‼︎」

 

マインドシーカー1機につきミサイルは6発装備されている。

即ち6×4——計24発ものミサイルに狙われている状態だ。

だが俺達の突撃砲に装填されているのは36mm、120mm共にペイント弾。反撃しようにも出来そうもない。

更に厄介なことに装備されているのは対BETA用のクラスター弾ではなく完全に対人機動戦用の撃ち放し式空対空ミサイル。

躱しても躱しても追尾してくる。

 

『イーダル1!ひとまず市街地へ飛び込め!俺も行く』

 

俺は全力でペダルを踏みつけて跳躍ユニットを吹かしつつピッチ、ヨーを繰り返しながら地表——訓練用遮蔽物として使用されているビル群の陰に機体を突っ込ませる。

 

「——ッ‼︎」

 

俺は手近なビルを遮蔽物に決め、左側から身を隠しにかかる。

だが、捌ききれなかったミサイル群のうち先頭の1発が、まだ隠れていなかった機体左翼で爆発した。

 

『父さん‼︎』

 

『パパ‼︎』

 

左舷被弾。

幸いコクピットに異常はない。

しかし爆発の衝撃で左跳躍ユニットが咳き込み出したのに加え、左腕部がモーターブレードごと吹き飛んでしまったのは痛い。

 

『……イーダル1。心配しなくても大丈夫だ。それに、ここならミサイルも当たるまい。今度は我々の番だ』

 

近接戦はソ連軍戦術機の十八番。

一機一機誘い出しつつゲリラ戦法で挑めば勝機はある。

 

俺は残された右腕のモーターブレードの作動点検を行い、ЯСС(敵味方識別装置)をオフにすると、大通りの向かい側で同じく身を潜めるチェルミナートルに向けて、同じ作業をするよう指示した。

 

 

切り替え可能な敵味方識別装置——昔起きたきたソ連軍衛士の亡命事件の教訓から配備されるようになった新システムだ。

 

10年程前、ウラジオストク近郊チュグエフカ基地から発進したMiG-25スピオトフォズのうち一機が演習空域へ移動中にコースを離脱。

同じく演習空域に向かっていたソ連軍衛士達は亡命機に対し長距離誘導弾の発射を行おうとしたものの、敵味方判別装置が味方と識別してしまい撃墜には至らず、その後の日本帝国、函館空港への強制着陸、搭乗衛士の米国への亡命、そして当時西側で最新鋭の秘密兵器と噂されたMiG-25の西側への性能諸元漏洩などを許してしまい、我が国にとって手痛い損失だけが残る結果となった。

 

その教訓から現代では今俺の乗るチェルミナートルも含めて殆どの戦術機に対しオン・オフ切り替えが可能な識別装置が組み込まれたとか…。

 

尤も、その装置が組み込まれているのは敵——フサードニクの機体も一緒であり、そのせいで我々はミサイルに撃たれ放題の現在の状況を許してしまっている訳だが…。

 

 

『イーダル1、こちらイーダル2。中央道!北から2機、こっちへ来るぞ!俺が引きつけるから例の作戦でいこう‼︎』

 

『『了解(ポーニャル)』』

 

敵は当初、入り組んだ市街演習場のビル群に逃げ込んだ俺たちを誘導弾で炙り出そうとしていたようだが失敗し、しびれを切らしたのか2機のマインドシーカーを斥候に出したようだ。

だがいくら火力や員数を揃えようと、いくらこちらが手負い且つ遠距離兵器を持たないからと、たかだか米国製の旧式機体で近接戦に特化した我々の最新鋭ソ連機を墜とそうと考えたのは流石に敵側の判断ミスと言ってよいだろう。

 

俺は相手の見せた隙ににつけ込むように、大通りを進むマインドシーカーに対し右腕と双肩ガンマウント突撃砲のペイント弾を浴びせる。

 

『ハッ!馬鹿なことを。可汗(カガン)と恐れられたあのローゼンフェルドもとうとう血迷ったか!』

 

『……別に血迷っちゃいないさ。後ろ見てみな‼︎』

 

ペイント弾に塗れつつも一切慌てず、こちらにゆっくりと銃口を向けてきた2機のマインドシーカー。

その胴体がモーターブレードの唸り声と共に火花を上げながら真っ二つになり、切り離された上半身が椿の散るようにガシャリと地に落ちたのは同時だった。

 

コクピットごと切り裂かれ、下半身だけの状態で直立した2機のマインドシーカーの向こうでは、戦術機から飛び出した機械油を返り血のように浴びたまま両腕のモーターブレードを構えるチェルミナートルの姿があった。

 

『イーダル2、こちらイーダル1。目標2機撃破』

 

『よくやった(マラッツィ)。直ちに武器弾薬を鹵獲して現座標より退却!この調子で残りも片付けるぞ。』

 

『『了解‼︎』』

 

 

 




Suシリーズを登場させるなら是非ともコブラ機動からの追尾回避をさせたいと思ってました(夢叶ったり)
ソ連戦術機の亡命で識別装置が云々の話は独自設定。元ネタはこっちの世界での某重大事件。その因子がオルタ世界ではどう作用したかを考えてみました)
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