※この作品はR-18です。

トータル・イクリプス ファーイースタンフロント   作:ロートシルト男爵

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第1話 紅の姉妹 (スカーレットツイン)

 

アラスカ 国連軍ユーコン基地 ソ連租借地

 

 

「ようこそアラスカへ(ダブロ パジャーラヴァチ ナ アリャスク)。同志少佐(タヴァリシ マヨール)」

 

アメリカ合衆国アラスカ州ユーコン川北岸——そこに広がっていたのは見慣れたソ連(我が国)の原風景だった。

 

戦術機整備В(ヴェー)格納庫の巨大な入り口に向けて足を進める俺の後に続く金髪の鮮やかな中尉——イェジー・サンダークは、先程の取って付けたような挨拶と敬礼で俺を迎えるなりまるで従者のように俺の半歩後ろを足並み一つ乱さずに付きまとってくる。

彼の階級は中尉 (レイテナント)だが、中央戦略開発軍団に所属し、同軍団のイーダル試験小隊の指揮官を務めていることから実質的には 大尉(カピターン)待遇らしい。

それでも階級としては佐官である俺の方が上なので、あくまでも慇懃無礼な態度は崩さないつもりらしい。

 

辺りを見回すと、こちらと目が合っても一切愛想笑わない整備兵達。慇懃且つ陰湿な表情を向ける幹部。キリル文字の注意書き、センスや清潔感の欠片も感じられない鉄コンの兵舎群などが目につき、やはりここはアメリカではなく鉄筋のカーテンの東側ではないかと錯覚してしまう。

まぁアラスカ自体もかつてのロシア帝国が二足三文でアメリカに売り払うまではロシア領だったことから、伝統的にどちらの領土かと言われれば返答に苦しむほかない。

ともかく我が国は他のユーラシア諸国同様領土を失い、ここユーコン川北岸はソ連が50年契約でアメリカから租借していることになっている。

冷戦はBETAという第三者の介入で我が邦の戦闘継続が不可能になり、一時休戦しているといった具合だ。

 

ソ連がアラスカを租借する理由…それはかつてナチスに国を占領されたフランスがロンドンに亡命政権を置いたように首都機能の維持が第1目標である。

いかなる国も領土を失えど、主権まで放棄しなければ消滅したとは言えないからだ。

また、「プロミネンス計画」の遂行——つまり、国連軍、日米その他の国々との最新戦術機開発を行うことで来るべきBETAとの戦いに備えるというのが第2目標だ。

 

辺りを見回すとMiG-29ラーストチカ、Mig-27アリゲートルなど第2世代型の我が国の戦術機が格納庫で整備を受けていた。その中にはかつて俺も搭乗していたSu-27ジュラーブリクの姿もある。

その中でも一際目を引くのは紫と白の派手な迷彩色を塗ったSu37UBチェルミナートル。

機体の型自体は見慣れたものだ。しかし両手に装備された凶悪なモーターブレードが、まるで返り血を浴び続けたかのような寒々しさを放っている。

果たしてこれに乗っているのはどんな凶悪な奴なのだろうかとつい勘ぐってしまう。

 

「おや?あれが気になるのですかな?いやはや少佐もお目が高い。実はあの機体の開発は、本計画に於ける我が国の最重要課題なのですよ」

 

「ほう、俺が極東で乗っていたのは Su-27(ジュラーブリク)だ。てっきり見たこともない最新鋭機を期待したのだが…改修機とはな」

 

「俺達居残り組が必死こいて極東を守っている間、揃いも揃ってアラスカに逃げてきた連中が作っていたのはたかだか改修機一体か」と皮肉を込めて俺が吹くと、サンダークはニヤリと笑い言葉を続けた。

 

「いえ、我々の計画の要は機体そのものだけではなく、それを扱う衛士なのですよ」

 

「衛士…?」

 

「そう。少佐をここへ招致したのもひいてはその衛士の開発の為なのです」

 

「何?」

 

「衛士を開発する」——その非人間的な語感に首を傾げているとサンダークは再び言葉を続けた。

 

「少佐も興味あるのでしょう?あの機体を扱っているのが一体どんな衛士なのか……もしおありなら、是非とも案内しますよ。彼女達の元へ」

 

「彼女…達」

 

この時代女性衛士は珍しくない。

二回の世界大戦でもそうだったようにロシアは古来女性兵士の国だ。同時に戦争、アルコール等あらゆる理由で先進国では珍しく男不足の激しい国である。事実、自分の所属していたジャール大隊も衛士の男女比は半々といったところだ。

あの機体に乗る衛士も、おそらくはかつての戦友達のようにテストステロン注射でも受けまくったかのような男勝りな女性衛士なのだろう。

 

「ぜひ会ってやって下さい。驚きますよ?きっとね…」

 

 

 

「さて到着です。是非とも仲良くやって下さい。私は先に帰っておりますので。少佐の宿舎に関しては近くの者にお尋ね下さい」

 

サンダークに誘導されるがままにやってきた兵舎の一角。

古ぼけた自動ドアの前で足を止めると、彼は壁にもたれかかりながら入室を促した。

 

「中尉は入らないのか?」

 

「ええ、私は嫌われていますからね」

 

「テストパイロットと指揮官の関係がそんなんで、この小隊大丈夫か?」

 

「ええ、実験屋としてはモルモットには好かれない方が良いですからね」

 

「散々な言い草だな。中尉。それでも人間か?」

 

吐き捨てるように言うサンダークの口調に若干苛立った俺はつい喧嘩腰な言葉を投げつけた。

だがサンダークはものともせずそれを受け流し、まるで歩哨が居眠りでもするかのような姿勢のままギョロリと片目だけ開き、透き通った青く冷たい視線を放った。

 

「正義感旺盛で結構なことです。少佐。願わくば、この先の敷居を跨いだ後もその正気が失われないことですな。では」

 

「待て!それはどういう——」

 

サンダークの不可解な言い草に疑問を持った俺は奴を呼び止めようとしたが、奴は敬礼をすると回れ左で既に廊下を歩き去り始めていた。

 

「一体何だというんだ…」

 

俺は自動ドアの前に立ち、渡されたカードキーを端末に通そうとして…一瞬躊躇った。

 

奴が仄めかすように扉の向こうの相手が、科学実験の所為か先天性の物か「モルモット」や「出会っただけで正気を失いかねないシロモノ」なら、顔を合わせたフリをしてこのまま宿舎に去るという手もある。しかしそうなると、今後この基地での訓練で顔も知らない化け物の乗った例のチェルミナートルと対峙する羽目になりかねない。

 

全く…今迄BETAという化け物相手にやってきたというのに何を怖気付いているのか…。

 

俺は一呼吸置くと、カードリーダーにキーを挿し込み、一気にスライドさせた。

 

「こんにちは(ズドラストヴィチェ)——なっ⁈」

 

「えっ?」「あっ!」

 

 

扉の向こうで待ち構えていたもの——それは、美し過ぎる大小の肢体だった。

 

二人とも紫がかったプラチナブロンドの髪、シミひとつない乳白色の肌をしており、その美しさはどこか人工的なものさえ感じさせる。

 

2人ともよく似ているが、背の高い方は彫像のような肢体——椀型の大きな胸、その先のツンと上を向いた沈着やモントゴメリー腺の隆起が一切ないピンク色の乳首、贅肉の全く見られない腰、そこから急なカーブを描く肉の詰まった尻、陰毛や陰核(クリトリス)、陰唇(ラビア)の黒ずみやはみ出の一切ないむき卵のような恥丘としなやかな太腿を有している。

 

背の低い方もスタイルがよく、細い線を描いているがやはり年齢は比較的幼いようで、腹筋がまだ完全に発達していないのか所謂「イカ腹」だ。

 

4つの青い視線がこちらを刺す。

2つには敵愾心、残り2つには恐怖の色が感じられる。

 

だめだ…さっきから自分の目が泳ぎっぱなしなのが分かる。

いざ言葉を発しようにも前歯がカチカチカチとカスタネットのような音を鳴らすだけである。

 

(サンダーク中尉め……こういうことか……)

 

ソ連の軍服を着ているとはいえ今の俺の姿は客観的には変質者そのもの。

いざ目の前の裸の少女たちが声を上げようものなら途端にMPか歩哨が俺を捕まえ、明日からの宿舎が営倉に代わりかねない。

 

「貴様……一体何者だ…?」

 

背の高い方が低い方に左腕を抱かせながらゆっくりと後退し、枕の下に手を忍ばせる。出てきたのは黒光りする ПМ(マカロフ)だった。

 

何ということだ…MPに捕まるならまだしもこの場で殺される可能性まで危惧する必要性が出来たようだ。

 

ふと頭に冷たい風が吹く。

戦術機での戦闘でもそうだ。人間、生きるか死ぬかの間際になると途端に冷静になる。

 

俺はなるべく彼女らを刺激しないように且つ早々に退散すべく、姿勢を正し、形ばかりの敬礼をしながら口を開いた。

 

「党の命令に本日付でイーダル試験小隊に配属することになった。イサーク・ローゼンフェルド少佐である。不注意とはいえ今回の非礼は謝罪する。また改めて出直させてもらおう」

 

気を付け(スミールナ)からクルリと回れ左(クルゴム)の動作を行い、俺が部屋を出かけた所でふと声がかかった。

 

「…待て」

 

「ま…まだ何か……」

 

「何って…こちらの自己紹介がまだではないか。ローゼンフェルド少佐」

 

「…え?」

 

俺が恐る恐る振り向くと、二人はいつの間にか黒シャツとカーゴパンツに着替えていた。

 

「イーダル試験小隊所属、クリスカ・ビャーチェノワ少尉だ。こっちはイーニァ・シェスチナ少尉。突然の配属、歓迎させてもらう」

 

クリスカ(ラット)とイーニァ(カワイルカ)…5(ピャーチ)と6(シェスチ)……聞いたこともない姓名だ。その命名にはコードネーム…いや、彼女らがナンバリングされた人工物だといった意味のアナグラムにすら感じられるものがある。

 

(成る程…中尉の言葉はやはり……)

 

一介の衛士——しかも秘密主義の東側ともなると触れられる情報に限りはあるものの、この仕事をしていれば嫌でも耳に入ってくる噂がある。

 

「ソ連科学アカデミーはBETAとの交流を目的としたESP能力者を人工的に養成しているらしい」と

 

それが戦術機の操縦と何の関係があるのかは計り知れないが、ともかく噂は本当らしい。こいつらは我々のように人間の母から生まれ、普通の家庭で育った人間でない事は明らかだ。

 

ふと憐れみを感じる。何故だ…国家のエゴのままに散々虐げられ、人類の平和の為といいながら散々使い捨てられた自分達と彼女らの境遇に少しの違いも見られない筈なのに……この感情も自身のエゴだと感じつつも憐れみを感じずにはいられなくなった自分がいた。

 

「悲しくなんかないよ」

 

「——?」

 

「私はクリスカと一緒だもん。それにミーシャもいるし。ほら、ミーシャ!イサークさんにご挨拶しようね」

 

イーニァはベッドの上に置かれた熊のぬいぐるみ——ミーシャの両手を掴むと、こちらに手を振らせた。

 

「お前…俺の考えが分かるのか……」

 

「うん!あなたは、私のこと、可哀想だって思ってたけど、そんな事ないよ?私はいつも幸せ!そして本当に可哀想なのは…あなた」

 

「何だと?何故そう言い切れる⁈」

 

「わかんなーい。ただ、あなたの色が悲しいって言ってるのが見えるよ。こんな綺麗な色なのに…」

 

「色だと?…成る程……」

 

所謂読心術(リーディング)……イーニァにとって相手の心情は色として反映されるらしい。

眉唾物の噂はいよいよ現実味を帯びてきたようだ。

 

「さて、ビャーチェノワ少尉、シェスチナ少尉。私はこれにて失礼させてもらう。先程の非礼、もう一度謝罪させてもらおう」

 

「気にするな。私も気にしない」

 

「…そう言ってもらえると助かる。ではまた」

 

「ばいばーい」

 

俺は改めて部屋から出ると、自分の宿舎に向かうべく受付に向かって歩き出した。

 

実験動物と不良教官か……お似合いの組合わせになりそうだ…。

 

俺は着隊早々のハプニングにどっと出た疲労感を肩で感じながら、部屋が手配できたら何を食おうかとあれこれ考えつつ殺風景な廊下を進んだ。




おひさです男爵です
今回のTE二次創作、描いた動機が
・スカーレット姉妹とモフモフしたいんじゃ^〜
に尽きます!(不純)
アンリミ、オルタ等も読み直して資料を充実させてって短編ながらも「中身のある」作品にしたいなあと思い〼
でわ
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