※この作品はR-18です。

トータル・イクリプス ファーイースタンフロント   作:ロートシルト男爵

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一話投稿の時点でコメント、評価頂き感謝感激です。
仕事の合間or晩酌後の勢いで書いているため亀更新ですが、ぜひとも今後ともお読み頂けたら幸いです…


第2話 皆既日蝕計画(プラン・ポールナィ ザトミニィ)

第2話

 

アラスカ 国連軍ユーコン基地 市街地演習場

 

 

「くっ…何て早さだ‼︎この動き…本当に例の姉妹が動かしているというのか⁈」

 

轟音と共に火を噴く敵機——Su37UB(チェルミナートル)のA-97突撃砲の 銃口(マズル)。何とか自機のSu37M2を遮蔽物に隠し、こちらも反撃すべく半身を晒し突撃砲の対空射撃で応戦しようにも、上空の敵はひらりと躱してどこかへ消えてしまう。

 

(この高機動戦でここまで的を絞らせないとは…化け物か⁈)

 

「戦ってはならない相手」——そんな言葉が脳裏によぎる。

 

俺は力の論理の信奉者だ。祖国ソビエトの国家戦略がそうであるように即ち俺は「弱い奴とは話をせず潰し、強い奴とは戦わない」のである。

これは民主主義選挙や起業など西側では一般的な手段で努力したとしても党員の肩書きなしには決して上へ上がる事の出来ない我が国のシステム、そして「どうあっても弱い者から喰われ、そこに同情や弁明は存在しない」過酷な対BETA戦を経て得られた教訓である。

 

訓練用のペイント弾とはいえ亜音速で飛来する突撃砲の弾幕をかいくぐりつつ、俺の射撃偏差地点を予測して自機を射線軸からずらす——凡そ人間の脳の情報処理能力は不可能な芸当だ。

 

だが相手——昨晩出会ったクリスカとイーニァと名乗った少女達はそれを易々とやってのける。

それは相手の機体が複座式であるからだけではないだろう。

事実、複座式戦術機は射撃と操縦、其々に特化した衛士2人がチームワークを発揮することで単座式より効率の良い戦闘が可能となるのだが、2人の衛士の息が合わなければ互いに足を引っ張り合い自機を危険に晒すという欠点がある。

だが目の前の機体はそんな欠点など微塵も感じさせないような挙動をし、まるで射撃と運動を分担する2人の搭乗者が同一の個体であるかのような印象さえ持たせる。

 

『…気持ちいい……』

 

「⁈」

 

『気持ちいいって…こういう感覚なのかな……』

 

ソ連軍の89式衛士強化装備のヘッドセットを通して彼女らの声が同時に響く。

しかしその声色は冷たく、まるで機械が喋っているかのよう——少なくとも以前聞いた人間らしい声色とは似ても似つかぬ様子で、恐怖すら覚える。

 

「 畜生っ‼︎(ブリャーチ)」

 

制圧射撃で使ったこちらのA97突撃砲の残弾は4割——度重なる回避行動で浪費したためか残る推進剤も僅かだ。

 

俺はこれ以上の撃ち合いを避けるべく、ビーコンを撒きつつ市街深部まで自機を後退させ、両腕の突撃砲を格納してから腕部のモーターブレードを展開し、建物の陰に自機を隠した。

所謂ゲリラ戦だ。狙撃、近接戦と並ぶ、ソ連軍のお家芸である。

 

「…200(ドゥヴェースチ)…100(ストー)……50(ピッディシャット)……‼︎」

 

レーダーに反映される敵機と自機との距離を数える淡々な作業。チャンスは一瞬。

 

俺は接近する敵機が等速飛行から急加速を行うのを目で確認し、急いで近接戦の姿勢で待ち構える。

 

 

チュイイイイイィン‼︎

 

 

近づいてくるモーターブレードの振動音。俺はそのけたたましい奇声に突き動かされるように自機のモーターブレードを起動した。

 

狙うは一瞬——奴が姿を現した瞬間だ。

 

 

チュイイイイイィン‼︎

 

 

ガリガリガリガリ

 

 

「⁈」

 

 

突如目の前で破裂するビルのコンクリ壁。

 

奴はあろうことか、こちらへの加速中に俺が隠れている遮蔽物ごと俺の機体を切り裂いた。

 

当然目の前で吹き上がる土煙に対し俺が取れたのは腕を上げての防御姿勢くらいで、敵機は俺の機体の肘から胸元にかけバッサリと撫で切りにしていた。

 

『イーダル2。コクピットブロックに被弾!イーダル1の勝利』

 

 

負けた……。

 

 

最前線でBETAと戦い、小便を漏らしながら死の8分を生き残り、後の世代に前線での生き残り方を教えてきたこの俺が……。

 

尤も対人戦となると話は違うが、それでも俺に勝てる衛士を少なくともソ連国内では見たことがなかったが故に、この結果は衝撃的だった。

 

『イーダル1よりイーダル2。模擬戦の参加に感謝する』

 

「イーダル1、こちらこそ。…まあ、なかなかやるじゃないか」

 

突如耳に入るクリスカの無機質な声に、俺は負け惜しみを込めて返した。

 

『イサークさ〜ん!こんにちは〜(プリヴェート)」

 

「ああ、イーニァか。今の挙動、目覚ましいものだった。しかしあれだ…模擬戦とはいえ、俺が乗っていると分かっていながら何もコクピットを滅多斬りにすることはないだろうに…」

 

『私がイサークさんを…?ううん…何言ってるかわかんないよ〜』

 

 

……?

 

 

成る程、戦闘中はそれのみに集中するよう何かしらの精神操作を受けているとでも言うのだろうか…。

 

まあいい、現時点で詮索しても実験の当事者である本人らから返ってくる返答はたかが知れている…。後でサンダークにでも尋ねてみよう。

 

この完璧な姉妹の訓練に俺なんかを関わらせる真意を…。

 

 

俺は半壊状態のSu37M2を駆ると、整備格納庫へと足を進めた。

 

 

 

* * * * *

 

 

「紅の姉妹(スカーレットツイン)との模擬戦、ご苦労でした。同志ローゼンフェルド」

 

アラスカユーコン基地北岸 ソ連租借地。

 

例の姉妹との模擬戦後俺を召還したサンダークはおもむろにそう切り出した。

 

 

「礼には及ばない。同志サンダーク。だがこれだけは聞かせてもらう……俺をこの演習に呼んだ訳は何だ?」

 

 

「単刀直入ですな……」

 

 

「当たり前だ‼︎あいつら——ビャーチェノワ、シェスチナ両少尉は現時点では我が国最高の衛士だ。それがなぜ俺のような三流衛士と模擬戦をする流行になる?例の人体実験と何か関係があるのか?」

 

俺はサンダークの労いの言葉も受け取らずに矢継ぎ早に己の心の内を全て晒した。

 

「……同志ローゼンフェルド。貴官は数年前、我が国のウラジオストク市で起きた民主化暴動の鎮圧に当たったそうだな。経歴にある」

 

「⁈」

 

1983年、国家人民軍第666戦術機中隊——通称黒の宣告(シュヴアルツェスマーケン)の衛士達により引き起こされた蜂起を発端とする、東独民主化の波は東側陣営各国に伝染。その後東欧諸国はBETA侵攻を受けながらも部分的に政治的自由を達成し、東欧州社会主義同盟の結成に至った。

そして我がソ連邦は西進するBETAの侵攻により欧州部の大部分を喪失し、その首都機能を極東部に移した。

 しかし、80年代東側で起こった政変は社会主義の総本山である我が国にも波及。労働者や知識人階級を中心に現体制への不満が募りはじめていた。

同時に過去四半世紀、対BETA戦への必要性から西側に身を置いた軍幹部や高級幹部の一部は同地のリベラルな政治システムを目の当たりにし、自国の掲げる社会主義イデオロギーの後進性を実感し始めていた。

彼らは現体制への不満を抱える大衆に迎合しし、一党独裁体制への反旗を翻す準備を着々と進めていた。

 かくして1991年のウラジオストクで、かつて83年のベルリンと同様の事態が再現された。

軍将校、大衆、進歩派の高級党員からなる反動分子による、大規模な軍事クーデタ——即ち8月クーデタ。

忘れもしない。俺はそこにおり、自らの手で彼らを鎮圧したのだ。

 

 

俺は腐ってもソ連軍の衛士として……いや、そうする以外に己の立場も人類の将来も確かではないのではないかという不安感を押し殺しながら必死にプラカードを掲げる彼らに銃を向けたのだ。

 

反乱軍は鎮圧され、数多の憂国の士の命と引き換えに我が国の崩壊は避けられた。

 

だが、それが正しい判断だったかと問われれば自信を持って答えることは出来ない。

 

さしずめ、70年前クロンシュタットで我が国の行く末を案じた水兵達に銃を向けた赤軍兵士の心情とたとえられよう。

 

俺の駆る巨大な戦術機を、まるで怪物でも見るかのような目で睨みつけながらなけなしの武器を捨て、立ち去って行った若者達のルサンチマンに満ちたあの視線は今でも忘れられない。

 

 

「……昔の話だ。それに、そんな話、今の俺に関係ないだろう」

 

 

「いえいえ、同志ローゼンフェルド。我々が貴官をこのアラスカに招聘したのは、貴官がそこまでして祖国の意向に従ってくれる存在…そう判断したからですよ。たとえそれが、義憤の余り部下を殺傷するような劣等教官だったとしてもね」

 

「昔の話はもう十分だ。そろそろ本題に入ってくれ。同志サンダーク」

 

部下の殺傷……これについては思い出すのも嫌な思い出として避ける他ない。

俺はソ連(この国)の情報収集能力に腹を立てつつもそれを顔に出さず詰問を続ける。

 

 

「で、そんな劣等教官とあの天才姉妹が関わらねばならない理由とはなんだ?同志サンダーク」

 

「簡単ですよ同志ローゼンフェルド。貴官もご存知の通り彼女らは普通の出自ではない……さしずめ、BETAと戦う為に作られたモルモットと言っても差し支えない。だがそこには致命的な欠陥がある」

 

「欠陥…?」

 

「二人のうちシェスチナ少尉——イーニァは我らがポールナィザトミニィ(トータル・イクリプス)計画に参加する以前、オルタネイティヴ3——つまりBETAとの意思疎通を目的として作られた第六世代型人工生命体なのですよ」

 

なるほど。それで6(シェスチ)という訳か。

道理で彼女が俺の心を読めるのも理解できる。

 

話には聞いていたが本当だったとは…。

オルタネイティブ計画…人類の救済を目的としているとはいえ我ながら自国の決断の非人道性に目を覆いたくなる。

 

「で、そのBETAの心が読める女の子が現在直接戦闘に転用されてるとなると、例の計画は失敗だったようだな。で、そんな不思議少女を俺に引き合わせる理由とは?」

 

「簡単ですよ。同志少佐。そのイーニァは、その戦闘能力を維持する為に誰か他の人格への依存を必要としており、それを断てば自動的に暴走するようです。現在はクリスカ——ビャーチェノワ少尉がその役を請け負っていますが肝心の戦闘力に近頃陰りが見られる……そこで我々は、衛士教育のエキスパート且つ愛国心も十分な貴官にその役目を代行して頂きたいのです」

 

「成る程。実験動物を繋ぎ止める為の軛になれという訳か、スキャンダルを起こした教官のお払い箱には丁度いい」

 

「無論彼女らの人格面の維持の他にも対BETA戦やサバイバル訓練も教えてもらいますよ。なにせ彼女らは完璧ではない——いかに対人戦や模擬戦で高特点を出しているとはいえ、インプット出来る戦闘技術はまだまだありますから」

 

「……そういう事なら仕方ない。少なくともあの二人、俺が受け持ってきたジャール大隊のクソガキ共よりは物分かりがよさそうだからな。悪くない仕事だ」

 

「くれぐれも…揉め事などは起こさぬように……新しい教官を探すのは骨が折れますから……」

 

「下手をしたら俺が八つ裂きか……まぁ心配なさんな。あんな事にはならないようにするさ」

 

 

俺は制帽(フラーシカ)の鉢に指を当て敬礼をすると、クロム革長靴(サパギー)の踵を返してサンダークの部屋を出、自室へと向かった。

 

夕日の差し込む窓の外へと目をやると、赤紫色(マゼンタ)のペイント弾の弾痕でベタベタになったSu-37M2が格納庫前に棒立ちになり整備兵達のかけるホースの水を浴びながらその身を清めていた。




余談
シュヴァケンでは83年に東西ドイツ統一がありましたが、2000年代までソ連が存続してる裏には何があったんかなぁって考察(独自設定)を加え入れてます(現実世界では1991年8月保守派クーデタが起こり失敗している)
当時、そして教官時代のイサークが何してたかは今後明らかになると思い〼
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