※この作品はR-18です。

トータル・イクリプス ファーイースタンフロント   作:ロートシルト男爵

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今回は長めになるので分割。
相変わらずミリネタ……特に軍装ネタが多いですが興味ある方はソ連軍の装備とか色々調べてみると面白いと思います。

そいやシュヴァケンでは衛士達が着てる東独の迷彩がレインドロップだったりその手の人には思わぬ所で細かい芸が入るのでやっぱ好きです。マブラヴ。
(冒頭の戦車級に襲われる衛士のヘルメットがマッシュルームじゃなくてナチス式なのは???となりましたが…)



第7話 演習(パドガトフカ)(1)

1998年 8月

 

アラスカ ユーコン基地

 

 

閑散としたロッカールームの中、俺は歩兵用装備を身につけている。

 

まず星のレリーフが彫られたバックルの付いたゴム引き帆布(キャンバス)製ベルトを床に敷き、そこに左からAK-74用のナイフ型銃剣(シュティク・ノーシュ)、Ф(エフ)1手榴弾が2発入る手榴弾嚢(グレネードポーチ)、ベルトと同生地のY字サスペンダーの左端、X字の綿製吊革が特徴的な水筒、サスペンダー後端、円匙(ラパータ)、弾倉嚢(マグポーチ)、サスペンダー右端を通し、フローラの野戦服を着込んだ肩にサスペンダーのクッションを載せ、バックルを締める。

右肩から左肩にかけてはПГ(ゲーペー)5の入ったガスマスクバッグを吊るし、背中のサスペンダー後端には防水布のロール——プラシ・パラトカと呼ばれるテント兼雨合羽を差し込み、その上から鉄帽(カースカ)やら食料、替えの下着、タオル、飯盒やらが詰め込まれ、プラシ・パラトカ同様ロール状に巻かれた外套(シネーリ)の縛着された重い背嚢(ヴェシメショク)を担ぐ。

 

完成だ。

訓練兵時代はともかく、衛士になってからはあまり着る機会がなかった我がソ連軍の一般的な歩兵用完全装備である。

ベストにマグポーチだの水筒だの好きなものを好きな位置に装着出来る西側の装備に比べると、ベルトに装備を通しサスペンダーで吊るというスタイルはやや古臭く感じる。

戦後の1958年にこの装備規定が決められて以来、74年の新式銃採用などに連なる小改定はあれど50年もの間使われ続けている装備であるため時代遅れなのは当然だろう。

無論、どんな物でもただ新しければいいというものではない。

例えばこの長靴(キルザチー)。

新隊員に支給される長靴は本来のサイズより1サイズ大きめだが、そんな時はポルチャンキという綿製の伝統的な巻き靴下を巻き、新聞、藁などを詰めることによりサイズを調節出来る。

勿論ポルチャンキはきちんと巻かないと簡単に解け、靴擦れを起こしてしまうのが欠点だが…。

 

背嚢もまた、頭陀袋の底にU字のループを縫い付けただけの簡単な構造であり、背負う時には口の部分をループで縛るだけであるため、部品の欠損を心配する必要はない。

我が国の主力小銃AK-74の設計にも通ずる、ある意味での「ロシア的合理性」とでも言うべきか…。

 

ともかく装備一式を身につけた俺は、指定された集合場所まで足を進めた。

 

 

* * * * *

 

「これより、戦術機が不使用な状況下での対BETA戦演習を行う。イーダル1より各員、用意はいいか?」

 

 

「イーダル1、問題なし」

「イーダル2、大丈夫だよ〜」

「イーダル3、問題なし」

 

ソ連領演習場。

草原の一角に建てられた拡声器を通じて管制官の声が響き、クリスカ、イーニァ、俺の順に返答する。

 

いつもはイーダル1である紅の姉妹(スカーレットツイン)のコールサインは、1,2に分割されている。つまりイーダル1がクリスカ、イーダル2がイーニァ、イーダル3が俺というわけだ。

 

つまり最先任はクリスカとなる訳だが、生身での実戦経験のない二人のことだ。指揮権は実質俺に一任されるといっていい。

 

隣をチラリと盗み見る。

一般歩兵用装備を身につけた二人の姿は新鮮だ。

クリスカはともかく、イーニァは銀髪の小さな頭に分厚い野戦色のSsh68鉄帽を載せており、その細い身体に重厚な装備を付けているためなかなかにミスマッチな格好である。

その姿は、ちょっと肩を押したら倒れ、そのまま起き上がれなくなってしまうのではないかという不安感さえ与えてしまう。

 

「本演習の目的は事前に通達した通り。一つは衛士の基礎体力の向上。2つ目は生身でBETAと擬似戦闘を行うことによる衛士の精神力向上。3つ目——これが最も重要なことであるが、何らかの理由で戦術機が使用できない際の、衛士の生存可能時間の増大だ」

 

死の8分——初陣を迎えた衛士に与えられる平均寿命と知られている。

しかし、戦術機のない衛士の寿命は、戦車から降りた機甲科の兵士と大差なく、退路や十分な火器、見方の援護なしには大抵2分……持って4分くらいと見ていい。

 

 

「予定の方も確認しておこう。まずはその草原の先にある塹壕にてBETA群を迎撃。その後は森林地帯を抜け、市街地演習場の目標地点に到着した時点で合格とする。弾薬、水と食料は中継地点の森林を始め各所に投下済みだ。制限時間は現刻0900より24時間。一人でも脱落者が出た時点で失格とする。何か質問はあるか?イーダル3」

 

「こちらイーダル3。質問はありません」

 

「よろしい。では早速演習に入ってもらおうか。良い旅を(シスリーヴァヴァ プチー)」

 

 

「状況開始!同志諸君(タヴァリシ バイツィ)!行軍開始(シャガーム マルシ)」

 

俺と二人は、1km先の塹壕に向かって足を進める。

 

「クリスカ、イーニァ、大丈夫か?歩けるか?」

 

「同志ローゼンフェルド。心配はいらない。これでも行軍や射撃、白兵戦等の基礎訓練は受けている」

 

「そうか…ならいい。イーニァはどうだ?」

 

「だいじょうぶだよ〜。ちょっと重いけど、普段いっぱい歩いてるからね〜」

 

冷涼な朝のアラスカの気候だ。熱中症になる心配は殆どない。

装備の重さにだけ気をつければ、あとは大丈夫だろう。

俺は過去の異名よろしく殿でクリスカ達の歩調に合わせて歩幅を調節する。

 

 

 

暫く行くと塹壕が見えた。

塹壕といってもいつ構築したかわからないお粗末なもので、大分浅くなっている。

イーニァならやや屈めば入れるかもしれないが、俺やクリスカの身長で完全に身を隠すにはやはり浅すぎる。これでは手直しが必要になるだろう。

 

 

* * * *

 

 

「いつぶりだろうな……こうして穴を掘るのは……」

 

俺は手に円匙を持ち、クリスカ達と塹壕の手直しを行なっている。

 

ザクザクと地表にMPL-50(歩兵用スコップ)の刃先を突き立て、崩れた土を壕の外に掻き出す。

最新兵器である戦術機を扱うために選ばれた衛士達にとって、このような泥臭い作業をさせられるのは屈辱的だろう。

だが、自分含め現人員にそんな不平を漏らす奴が居ないのは幸いだ。

 

「あなほり、たのしいね」

 

「そうだねイーニァ。みんなでやるともっと楽しい」

 

それどころか、イーニァ達はこの地道な作業を楽しんでいる節さえある。

 

だが俺もその点に関しては同意見だ。

以前のように前線に出て命のやり取りをしたり、年端もいかぬ新隊員に対し声を枯れさせながら怒鳴りつけるよりは幾分平和的な仕事だ。

 

しかしまぁ…上層部の準備もお粗末なものである。

 

やった事といえば物資の空中投下だけで、工兵の派遣は行わなかったようだ。

 

お陰で塹壕は風化し放題。

掩体の堀り直しに加え、銃眼まで作り直すことになった。

 

しかし不幸中の幸いか、空中投下された物資の中にはRPG-7やNSV重機関銃銃、その弾頭も含まれていたため、これで戦車(タンク)級の襲撃を受けたとしても多少は気休めになるというものだ。

 

 

「…………くる!」

 

 

「何?」

 

イーニァが円匙を握る手を止め、遠くを見つめる。

俺も手を止め、手元のドイツ製双眼鏡を握り、双眸に当てがう。

 

「……距離5000……敵影概ね100!大多数が兵士(ソルジャー)!うち戦車(タンク)級10。戦闘準備!イーダル1は 機関銃(プレミョート)に!イーダル2は弾薬の装填を担当しろ!」

 

「「了解‼︎」」

 

俺の命令通り二人は先程構築した機銃壕に飛び出す。クリスカはNSVの銃把(グリップ)に手をかけ、イーニァは三脚に組みつき、セージ色の弾薬箱から機樹の機関部にかけて伸びた真鍮の弾帯を小さな手でちょこんと支える。

 

勿論実物のBETAではない。戦術機訓練に用いるのと同様のVR(空中投影)の虚像だ。

しかし、彼方から迫ってくるBETA群のうち、先陣を切って突進する赤い多脚の個体——戦車(タンク)級を見た俺は反射的に戦慄する。

東欧やシベリアの地で、俺は奴に飛びつかれコクピットごと喰われた衛士の断末魔を幾度も聞かされた。

奴らの行動パターンは極めて単純。

通常光線(レーザー)級と共に大群で現れ戦術機の空中退避を不可能にすると同時に、その侵攻を捌ききれなくなった衛士に飛びかかり、コクピットごとその大きな口で噛み砕くのだ。

 

故に、光線級に制空権が奪われていなければ航空機による絨毯爆撃。奪われていれば砲兵による間接射撃で大部分を無力化した後、そのお溢れを戦術機や戦車、或いは歩兵の大部隊で迎撃するのが定石だ。

 

兵士級——これに関しては発見が1995年……俺の現役時代には無かった個体であるため資料でしか見たことがない。

教本では小銃弾や小火器による射撃が有効な反面、対人探知能力や機敏性は非常に高く、近づかれるとその強靭な顎や腕でバラバラにされると言われているため、十分に距離を取っての火器による頭部への射撃が定石である。

 

「距離2000で戦車級から狙撃しろ。兵士級が小銃の射程圏まで来たら俺も攻撃に参加する」

 

せめて一個小隊分の歩兵と迫撃砲(ミナミョート)でもあれば一網打尽なのにな…。

 

と俺は一瞬考える。

だが本演習の目的はあくまで「手元にある武器を用いての対BETA戦」

戦術機から投げ出された衛士は常に単独行動になる上、与えられるのは精々PDWか拳銃のみ。

むしろこれだけの大盤振る舞いに感謝せねばならぬというものだ。

 

「2100……2000!発砲しろ(アゴーヌィ)!

 

 

タタタタタタタッ‼︎タタタッ!タタタッ!

 

 

合図と共にクリスカが機関銃を発砲。

機関部右側から押し出される空薬莢の数だけ弾帯の12.7mm弾が薬室に吸い込まれる。

イーニァはその弾帯が絡まらないよう手で支える。

 

 

腕は確かなようだ。

 

彼我の距離がまだ2km弱だというのに、クリスカが放つ大口径弾は確実に戦車級の頭部に吸い込まれて行く。

戦車級の体格というのは胴体に人間の物に似た巨大な口があり、その上に頭部に似た複眼の感覚器があるといった感じだ。

 

その鉄をも噛み砕く歯は強度が高く、口が開いていれば体内にダメージを与えられるものの、閉じている口に弾を撃っても跳ね返されてしまうおそれがある。

故に要撃(グラップラー)級同様、感覚器を狙えば無力化できると言った具合だ。

 

クリスカもそれを理解しているようで、バーストを繰り返しながら確実に奴等の弱点を狙撃し、その残数を9、8、7と減らしてゆく。

 

「距離900。兵士級への発砲を加える」

 

俺はAK-74のコッキングレバーを引いて初弾を薬室に送り込むと、照尺(リアサイト)を9の位置に調整し、ゆっくりと接近する兵士級の腹に向けて単射(セミオート)で発砲した。

 

AK-74の有効射程は500m。やはり威力不足と弾丸の落下が起きたようで、兵士級は膨らんだ胴体下腹部に弾を受けて怯みつつも、なお大群で押し寄せてくる。

 

「距離500…400!」

 

タタタッ‼︎タタタッ‼︎タタタッ‼︎

 

俺は右手でセレクターを中間のод(単射)の位置から一番下のдв(複射)の位置まで下げ、タンジェントサイトを調整すると、先程よりくっきりと見えるようになった兵士級の胸元に向けて三連射した。

 

反動を利用した、縦軸の偏差射撃だ。

三連射したうち1〜2発は頭部に当たったようで、兵士級は次々と倒れて行く。

 

地球がBETAに侵攻される以前、中東戦争やベトナム戦争などでは我が国の銃——俺が撃つ74より1世代前のAK47が大量に配備されていた。

勿論同地には軍事顧問が派遣されるのだが、戦争の激化に伴い教える相手は少年兵という場合も少なくなく、銃のような精密機器を扱う知能も反動に耐える体格も足りない彼らには「とりあえず敵がいたら脚か股間を撃て」と教えていたと、ある歩兵将校から聞いたことがある。

反動での銃身の跳ね返りを見越し、予め照準を下げるのだ。

 

無論現行の74も1世代前の47も西側で言われるように「壊れづらいが当たらない銃」ではないし、ちゃんと整備してちゃんと狙えば当たる。

 

現に俺はこうして長距離射撃に成功している。

 

戦前、自国の赤軍兵士の射撃能力を高めようと尽力したヴォロシーロフ曰く

 

「Нет плохого оружия, есть плохие стрелки」

(悪い銃はない。悪い射手が居るだけだ)

 

 

整備、調節、正しい射撃姿勢それら諸要素が全て条件を満たして銃は初めて射手の命を守ってくれる。

故にその手入れは、新婚まもない妻の機嫌を取る以上の入念さを以って望むべきである。

尤も、俺に嫁が出来たことはないが…。

 

 

バーストを10回程繰り返し、兵士級を撃ち殺してゆく。

じきボルトストップがかかり、俺はマガジンキャッチのベロに右腰の弾倉ポーチから取り出した新しい弾倉を当てがって弾き飛ばし、再装填して再び射撃を再開する。

 

クリスカの方も順調で、戦車級の数も5を切ったといった具合だ。

戦車級はおよそ時速80kmで歩き、兵士級はそれよりも遅い。

つまり俺が接敵する兵士級を射程圏内に収めるまでには、クリスカ達は戦車級を先に攻撃しているといった算段である。

勿論、迫り来る戦車級を1体も撃ち漏らさないずクリスカ達も常人離れしているというか…今まで見てきた衛士達が皆持つ恐怖心や生存本能というものを全く備えていないかのようだった。

 

勝てる……俺たちならば勝てる…!

 

 

 

 

タタタタタタタッ‼︎タタタッ———

 

 

………⁈

 

 

 

俺がそう確信したのと、残り一体の戦車級を目の前にして機関銃の発砲音が途切れたのは同時だった。

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