「あっ、あの辺りだったらゆっくりと休めそうだよ。」
未希が木陰に設置されたベンチを見つけ、小走りで駆け寄って座り込み、ゆっくりと歩を進めいる慧に手を振る。
「ほら、慧くん。ここでしばらく休んでいようよ。」
「は、はい。……ふぅ。」
慧も未希の隣に腰を下ろし、2人は並んで遊び疲れた心身を休ませる。しばらくすると未希が何気なくつぶやく。
「こんなに遊んだのも……久しぶりかな。」
「坂下先輩、やっぱりいつもは部活で忙しかったりするんですか?」
陸上部に所属する未希に与えられた休日は、吹奏楽部に所属する慧と比べると少なかった。しかも彼女は部内はおろか、学内でも実力が認知をされ、結果を出している選手でもある。夏休みといえども相当な練習日数を予定に入っているのだ。
「うん、そうだね。でも、自分が好きでやっていることなんだから、嫌だとも辛いとも思わないよ。」
「でも、うちの学校の陸上部って、女子は先輩1人……」
あからさまに不安そうな顔する慧。男子だらけの部内において、唯一の女子部員という存在となっている未希に対して一抹の不安を抱いていた。そんな彼の表情を目の当たりした未希は、微笑みながら慧に答える。
「私は、跳ぶことが……陸上が好きなんだよ。キミだって、そんな私が好きでデートに誘ってくれたんじゃないのかな?」
「そ、それは……」
不意に自らの核心を突かれ、言葉を詰まらせる慧。不安を拭うことが出来ずにいるようであった彼を見て、未希はあることを切り出す。
「そうだ、私のことを先輩って呼ぶのはいいんだけどさ。いつまで苗字で呼ぶつもりなんだろうなぁ……とか思っていたりするんだ。」
「えっ?あっ……」
慧の不安の表情が一瞬、呆気にとられたような顔へと変わる。さらに続けて未希は言う。
「私だけ名前で呼んでいるのに、キミは全然私のこと、名前で呼んでくれないよね。ねぇ、名前……呼んでくれる……かな?」
「うっ……ぐっ……!」
物欲しそうな顔で見つめてきながら、慧の顔へと自らの身体と顔を寄せる未希。意を決して彼は口を開く。
「み……み、未希……先輩。」
「……」
「……」
「……ぷっ、ふふっ、あははははっ!」
しばらくお互いの沈黙が続いた後、真顔だった未希が噴き出すように笑う。
「な、なにがおかしいっていうんですか!?」
「だって……名前を呼んだ時の慧くんの顔、デートに誘ってくれた時よりも必死だったんだもん。面白いっていうか可愛いって感じで……ふっ、ふふふっ!」
「うっ……ううっ……」
笑いを堪えれずにいる未希に対して、顔を真っ赤する慧。からかわれたという怒りと同時に、可愛いなどと言われ喜びの感情が湧いてきていた彼は、ただその場で笑い続ける未希を見つめるだけであった。
「なんか……笑っていたら、休めたって感じがしなくなっちゃた。ごめんね、あんなに笑っちゃって……」
「いや……全然大丈夫です……よ。」
「このまま何もせずに休んでいるのも時間がもったいないよね……。ねぇ、何か冷たいものでも飲んだりしようか?」
「そうですね。何か冷たいものを……あっ。」
未希の意見に賛成した慧の目にちょうど良い店が入る。大きなクーラーボックスを置いて、冷たい飲み物やアイスを売っている出店であった。
「あっ……飲み物もいいけど、アイスもいいかも。」
「俺、買ってきましょうか。先輩はここで休んでいてください。」
「うん。あっお金渡すから……」
「いいですよ。アイスくらい俺が奢りますから。ちょっとくらいはそれらしいこと、させてくださいよ。」
「う、うん。ありがと。」
慧の言葉に、未希は若干の戸惑いの表情を見せるも、素直に感謝の言葉を述べる。
「はい、どうぞ。」
「ありがと。早く食べないと、溶けちゃうね。」
袋から棒状のアイスを取り出すと、未希はその先端を口に含む。
「んっ……はぁむ。んんっ……冷たくておいしい!」
棒状のアイス……アイスキャンディーを咥え込む姿に、慧は自分が飲むために買ってきた飲み物に口をつけることも忘れ、未希のアイスを食べる姿に釘付けとなっていた。
「んっ……んちゅ……れろぉ、ぢゅぶ、んっ……れろぉ……おいしい。」
先端を咥えたまま、未希は口内で舌を使い、アイスの味を楽しむ。そうやって先端を舐めていると、柄のほうからアイスが溶け出し、水分となって地面へと落ち始めようとする。
「あっ……だめっ……れろれろぉ……じゅるるるっ!あむっ……!ずじゅうぅぅぅぅ!!!!」
アイスの根元の方へ舌を這わせ、溶け出していた部分を舐めて吸い取る。しかし今度は先程まで舐めていた先端のほうから液体が垂れ始める。
「ああん……もうっ!……はむっ!んじゅ、んぢゅ、んぶっ、れろれろれろぉ……ぢゅるるるっ!」
痺れを切らしたように、未希はアイスの中程までを咥え込み、激しく舐め回す。その姿は、もはやアイスキャンディーを食べている姿とは思えない光景として、慧の目に映っていた。
「未希……先輩?」
「んちゅ……んちゅ、おいし……え?」
目が半開きとなり、頬を赤らめてアイスを舐め回していた未希が、慧の声で我に返ったかのように、アイスを咥えたまま彼のほうを見る。
「ぷはっ……、あ……私……アイス食べるのに夢中で……なんか、変だった……かな?」
「い、いえ……別に……」
すでに慧の下半身へは血液が集中を始め、男としての意識を目覚め始めさせていた。そんな彼の腰付近へと目を向ける未希。そして、ゆっくりと口を開く。
「あ、あのさ……」
「は、はい!」
声を掛けられただけで、身体をビクつかせて返事をする慧。
「慧くんは、自分で飲んだりはしないのかな?せっかく買ってきたのに飲んでないみたいだけど……」
「えっ……?」
いまだに自らが買ってきた飲み物に手を付けてない慧。それを不自然に思った未希が、自らのアイスを食べる光景を見ていただけの彼を問い質す。
「あっ……の、飲みます、飲みますよ!いや、ちょっと考え事をしてたら、手が付かなかっただけですよ。」
慌てて慧は飲み物の蓋を開けて、中の炭酸飲料を口にしていく。
「ちょ、ちょっと……そんな一気に飲もうとしたら……」
「……っ!ゴホッゴホッ!」
「ほら……もう……。ほら、これで拭きなよ。」
「す、すいません……」
むせ返り飲み物を零した慧に対して、未希がポケットティッシュを手渡す。申し訳なさそうにそれを受け取り、零した飲み物を拭き取る慧の姿を、未希は口元だけ笑いながら見ているのであった。
その後いくつかのアトラクションを回っていると日は傾き始め、2人のデートの時間は終わりを告げようとしていた。
「そろそろ……帰ろっか。」
「はい……そうですね。」
多少の口惜しさは残るものの、2人とも夜遊びが出来るほど自由を家庭から与えられているわけではなかった。
「ねぇ、今度はどこに行こうかな?」
「え?今度……ですか?」
当たり前のように次のデートの予定を聞いてくる未希に対して、慧は間の抜けたような声で聞き返す。
「うん。今日は私の行きたいところだったんだし、今度は慧くんが行きたいと思っている場所がいいかな。」
「俺の行きたいと思っている場所……どこでも、いいんですか?」
「うん!どこでもいいよ。また休みがあると思うから、それまでに考えておいてね。」
「は……はいっ!」
屈託のない笑顔で次のデートを楽しみする未希に対して、慧は喜び声を上げて返事をする。しかし、そんな会話をしていたの束の間。帰り道で2人に災難が襲い掛かる。
「まさか、帰りのラッシュに巻き込まれちゃうなんてね……」
「もう少し……早く電車に乗るべきだったんですかね……」
帰りの電車内。他の乗客と同様にすし詰め状態なる2人。お互いに距離を置くことも許されず、降車するまでは密着した状態が続こうとしていた。
「ご、ごめんね。私、けっこう汗かいたから、少し匂っちゃってるかも。」
「そ、そんな……。だったら俺だって汗臭いかも……」
囁くように小声で会話をする2人。向かい合う格好となっていたため、未希の身体は慧の身体に密着しそうなまでに接近していた。
「もう少しの辛抱だから……我慢、しようね。」
「は、はい……」
2人とも吊革を掴み、窮屈ながらもどうにか体勢を維持する。ところが車両が揺れたことで、慧が右手で掴んでいた吊革を離してしまい、未希のほうへと倒れ込むような格好となってします。
「あっ……!」
「きゃっ……!」
左手で吊革を掴んでいた未希が、右手で倒れ込んできた慧の身体を支えるような体勢となる。
「本当に……すいません。」
「う、ううん。大丈夫……だよ。」
抱きかかえるような格好となったため、当然2人の身体は密着することとなり、未希の乳房が慧の身体で押し潰されることなっていた。
「んっ……ふぅ……慧……くん……」
「へっ……せ、先輩?」
腰を持って慧の身体を支えていた未希の右手が、少しずつ下へとずれていき、尻を撫で回し始める。それと同時に彼女から艶めかしい声が上がり、慧に女を意識させてくる。
「ちょ、ちょっと先輩……!」
「はぁ……はぁ……はぁはぁ……」
ぎこちない手付きで慧の尻を撫で回していた未希の右手は、肘を曲げて器用にそのまま下半身の前方へと回り込み、股間へと延びようとしていた。
「ねぇ……慧くんは……エッチなこと……嫌い?」
「なっ……!そ、そんなことは……」
動揺をしながらも否定の石を示す言葉を口にする慧。すると未希の右手は彼の股間へと到達し、そこへ手を添える形となる。
「じゃあ……エッチな女の子は……嫌い?」
「……うっ!」
上気した顔で慧を見上げながら、未希は彼に問い質す。これまで見たことのなかった未希の妖しげな表情に、慧の頭の中は欲望で支配され始めていた。
「未希……先輩。あの、俺……俺……」
彼がそれを口にしようとした直前、車内で最寄り駅へと到着するアナウンスが流れた。
「あっ……」
異常な行為をしていた2人がその音声で我に返る。そのまま2人は身体をわずかに離し、降りるドアのほうへと向かう体勢を整え、駅に到着をすると満員の電車から降りるのであった。
「先輩……その、さっきことは、別に何も……」
「えっ……?あ、う、うん!なんか私、普段しないことばかりしていたから、ちょっと変になってたのかもしれないよ。」
苦笑いを浮かべながら言葉を返してくる未希。その顔は僅かではあるが赤みを帯びていた。
「デート、楽しかったよ。今度はキミが、私を行きたいとこに連れてってよ……ね。」
「わ、わかりました……」
楽しかった、という言葉も満足に耳に入っていないのか、生返事ようなに言葉を返してしまう慧。先程の未希の顔と言葉が、頭から離れないのであった。
「それじゃあ、またね!帰ったらメールするよ。」
「は、はい……!気を付けて。」
そう言うと未希は、上の空という感じの慧を残して、駅のホームを降りて帰っていった。ホームに1人で立ち尽くす彼に残されたのは下半身の疼きと、凄まじい興奮の残滓だった。
駅を出て帰路を歩みながら、未希はつぶやく。
「部員以外の男の子に……シャワー室の外であんなことしちゃうのは、初めてだった……よね。」
自らの行いを思い出し、そしてため息をつく。
「はぁ……初めてのデートだったのに、なんてことしちゃったのかな……私。」
自分のやってしまったはしたない行為に対して、呆れる言葉を口にするのであった。