※この作品はR-18です。

獣帝都学園   作:HAL

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長らくお待たせしました
更新です!


風紀委員と生徒会とトシの弟、それぞれと出会う

 

 

 

目が覚めた。頭が痛い。脱水症状並に頭が痛い。水分を取らずに眠ってたようだ。あの2人の胸の中で泣いてから疲れて眠った。眠ってる時に見た夢は主と楽しく会話していた夢だった。現実の世界へ戻った時もう一度主の所に行くが、主はずっと眠ったままだった。やはりアレは夢だったんだと思った。

 

夢の中の主は今みたいに寝てなくて、ずっと俺と楽しく話していた。楽しかったな

 

自分に真っ直ぐな主は『萌え』に関しても真っ直ぐだった。時折見せる主の輝いた顔は眩しくて、目も当てれないほどだが楽しそうだということが伝わる。それ以外の話も楽しかった。が、夢から覚める前の別れ際に見た主の顔は少し寂しそうだった。それが何でだったかは俺にはわからなかった。1つ言えることは、決して話し相手が居なくなるからではなくこれからの主がどう人に向き合えばいいかわからないという感じだった。今は寝てるとはいえ、起きた後のことをどうするべきなのか悩む。といった所だ。

 

わかってないとか思いながら明確な答えが出てる時点で、察せれてると言っていいのでは?俺よ…

 

頭も少し冴えてきて部屋の周りを見るとそこはトシの部屋だった。俺の部屋は鍵を掛けているから入れないはずなので、必然的にそうなる。

 

主がまだあの部屋に誰もいれたくないなら、俺もそれに従う。主の許しが出るまでは開かずの扉を貫く

 

それはさておき、なんだかリビングで美味しそうな匂いを漂わせている。ここのルームメイトで居るのはトシのみ。あと居るとしたらあの4人しか知らない。俺はトシの部屋を出る。少しよろよろしていて歩けているのかさえわからない。

 

まあ、前に進めているのだから歩けてるんだろう…。だが、このままだと転ぶぞ…

 

そう思ってたら本当に転んだ。『ドサッ』という音に反応したトシが駆け寄ってきた。飯の支度を済ませた後みたいだった。

 

「大丈夫か!?」

 

「……あぁ」

 

「飯、食えるか?」

 

「それは大丈夫だ…」

 

「なら、そこまで運ぶ。姫様抱きするぞ?」

 

「あぁ」

 

俺とトシの身長からして見れば間違いなくこれが正解ルートだろう。しかし、俺とトシの関係はそういうものじゃない。ましてや、姫と王子という華やかなものでもない。ただの主とペットだ。表現の仕方がいかにもという感じだ。だが、現状はそんなこと言ってられない。エプロン姿のトシが俺をお姫様抱だっこをして、そしてリビングへ。それからちゃぶ台の前まで。

 

「下ろすぞ?」

 

「あぁ」

 

これも主従ならありえることかもしれない。が、これがノーマルな絵になっただろう。男同士で、しかも主と執事ならまだ許された。トシは執事服を着ても何食わぬ顔でこういうことが出来そうだ。しかし、主とペットの関係であれば非常にシュールな状態。

 

隠していれば何の問題もないが、バレたら色々と凄そうだ。俺は気にしなくとも、トシはシャイだからな。結果が目に見えている。知らないフリか恥ずかしがるの二択だ。とてもわかりやすい

 

ちゃぶ台の前に座らせられた俺。ご飯が昨日より豪華だった。いつものご飯と味噌汁は変わらずあり、その他にだし巻き卵、鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたし等があった。昨日買い物に行ってくれたようだ。

 

ありがたいな…、それに美味しそうだ。だが

 

身体のよろめきと目にまだ意識がなく頭が痛いので、俺はトシの袖を掴みクイッと引っ張る。トシはキョトン顔で俺を見る。

 

「どうかしたか?」

 

「食べたいのは山々だが、頭が痛すぎて手に力が入らん。お前がしてくれるなら、食べさせてくれるか?二度手間ならしなくていい。自力でなんとかする」

 

「…………」

 

さすがに面倒か?ならいい、自力でなんとかしよう

 

俺は箸を持とうとした。しかし感覚が掴めずにご飯に手が当たる。

 

「つっ…!」

 

「!」

 

まだ熱々だったようなご飯の粒が指につきそれを舐めとると少しだけ赤くなった。

 

火傷、ではないか。このくらいなら

 

そう思ってもう一度手を伸ばそうとしたらトシに止められた。そしてトシのあぐらに座らせられた。背中を背もたれにしてもいいと言うように奥の方に座らせられた。キョトン顔でトシを見ると、すぐに頷かなかった自分を恥じているのか申し訳なさそうな顔をしてる。俺はトシの頬を掴んでから頭に手を当てる。それからよしよしと撫で思ったことを口にする。

 

「お前が責任を負うことは無い。面倒だったり戸惑うのは間違いではないし、それに疑うのも仕方がない。本当に手に力が入らんのかとか、実はちゃんと見えてて実演してるだけでは?とか思うのは当然だ。だから、その辺りは気にしないでくれ。俺も自分で食べれるならせめて視界がほやけていなければ、自力でも何かできたと思うんだがな…。目も力も頭もとなると、どうにもできん。悪いな?トシ…」

 

「き、気にすんな…!ご、主人様…の役に立てるなら、こ、このくらい当然だろ?俺に委ねてくれたら頑張るから、な?」

 

顔が赤い。そして言葉もたどたどしい。俺はキョトン顔でトシを見つめる。視線を感じたトシはまたさらに顔を赤くして、目を泳がせる。

 

トシ?

 

「どうした?嫌なら本当にしなくていいぞ?」

 

俺からの視点は顔が赤くなってるのはボヤけてはいるが、見えてる。目まではわからないが、黒目が左右に動くのは見えるので泳がしているのがわかる。言葉は耳で聞くから、という感じ。するとトシは。

 

「いや、違っ…!えっと……、あの……」

 

「??」

 

歯切れが悪い。何かを隠してるようだ。吐き出させるかと思ったが、俺は待つことにした。話すまで何も言わずに、ただトシを見つめている。トシにとってはどちらも苦痛のようなものだが、勇気を出すトシ。

 

「名前…、そう!名前だ!名前どうしたらいい!?」

 

強引に話をそらそうとしてるのが声でわかった。しかし、今の俺と主は違うのは理事長室で知ったトシにとっては重要なんだろう。俺はそれに乗る。

 

「名前か?どちらでもいいぞ?呼び捨てでもご主人様でもな。お前の言いやすい方で頼む。主も腐獅密だし、俺も腐獅密だ。仮だったとしても今はその名前しかない。トシに責任を押し付ける気もない。だから呼びやすい名前で呼んでくれ。あ、ココ以外は下の名前で良い。それ以外はお前が呼びたい名前で呼んでくれ。俺はその名前で満足だ」

 

そういうとトシは。

 

「なら、えっと…、アンタの主の時は『ご主人様』で、アンタの時は『ご主人』って呼ぶ。外では『密』って呼ぶ、これでいいか?ご主人…」

 

「あぁ、それでいい。様付け無しはお互い慣れないかもしれんが、そうしよう。その方が区別つく。いいアイデアだな、トシ?」

 

頭をよしよしと撫でて微笑むとトシはさらに顔を真っ赤にした。そしてそっぽを向いてしまった。

 

何故だ??

 

追求するのも酷なのでとりあえず飯を食べることにした。トシは慌てて箸をとり俺の口にご飯を食べさせてくれた。目の感覚が掴めない視力悪い人みたいな感じだった。

 

視力が落ちてる人の気持ちが少しわかるな。一時的なものとはいえ、これはこれでいい体験だな

 

慌ててたせいもあって気づくのが遅かったトシは俺に提案する。

 

「す、スプーンとかフォークとか使うか?」

 

「あぁ、その手があったか。ならそうする」

 

「わ、わかった…!」

 

お茶碗を置いてゆっくり座らせてくれた。それからトシは立ち上がりスプーンとフォークを持ってくる。それを箸の代わりに置いてくれた。

 

「ありがとう、トシ」

 

「ど、どういたしまして…!」

 

顔が赤いのは変わらないが、嬉しそうだ。俺がどんな顔をしてたかは知らんが、熟されたトマトのように顔が赤くなる。本当に大丈夫だろうか。しかし、同時に自分の行動にシュンとしてしまった。

 

俺よりもかなり重症だぞ?トシ…

 

それから俺はスプーンとフォークを交互に使いながら食べ始める。トシは俺が食べ始めたのを見て自分も食べ始める。空気が重い。俺は今後の事を話し出す。

 

「トシ」

 

「え?……あ、何だ?」

 

気が抜けてたトシはキョトン顔で返事をした。

 

「今後の事を話す。あの4人にはお前から話せ。俺のことは話さなくていいから、自分のことを話せ。それからお前の弟にも会う。その心の準備もしとけ。いいな?」

 

「わ、わかった」

 

雑に話す内容の事をトシの口から4人に告げるように言ってから本題に入る。

 

「理事長から派遣としてSPが来た。そのSPはお前を守るためでもあるが、何か手を加える人ではないだろう。その点に関してはお前がちゃんと気をつけなければならない。ここの寮に来ることは無くとも、何かしらで監視はしてるはずだ。寮内での喧嘩もありえるからな。その辺りもしっかり見守ってるだろう」

 

「………」

 

「お前に課せられてることは大きくわけて2つ。1つは授業日数を稼ぐこと。もう1つは喧嘩しないことだ。これさえ守れればお前は進級できる。それに最高責任者である理事長からの約束がある。これを破るということは理事長の信用信頼はその程度だったってことになる。さらには嘘つきというレッテルもあるだろう。その辺りはちゃんと守る人だと俺は思う」

 

「………」

 

「俺との約束は俺の命令に従うことは大前提だが、それ以外に苦しくなったり辛くなったら無理をしないこと。相談したいと思ったらその日に言うこと。味方がそこに居なくても俺やお前の子分はいつでも、お前の心の支えだ。誰かが何か言ったとしても、誰かが何かしてきてもお前は手も足も出せないが、その代わり俺や理事長がお前を助けてくれる。そのことを忘れるな、お前は厳しい世界から優しい世界に来れた人間だ。もう幸せをもらってもいいと思ってる。結論、俺との約束は『無理するな』だ。わかったな?」

 

「……っ、…はい…」

 

「よし、今日も一日頑張ろうか」

 

「は……っ、おう!」

 

はいと言おうとしたトシだったが、頭を横に振って普段のトシの喋り方で返事をした。目には涙か溢れていて少し流してしまったが、ちゃんと目を拭いた。主と出会った1番最初は、涙腺の『る』の字も感じ取れないほど、イメージになかったが事情を知ってからはトシの涙腺は腹筋崩壊と同じレベルなくらい随時だ。そのうち枯れてしまうんじゃないかと心配になる。

 

まあ、枯れる心配がないくらい出てるから大丈夫か

 

水分さえ摂っていれば問題は無いだろう。俺も後で何か飲まなくては。話が一段落し、ご飯も食べ終えた。主の体は2回目だが、俺は初めてトシの飯を食った。自然と出てくる感想は、それくらい心に残る味だという証拠なのだ。俺は思わず口走る。何の悪気なく。

 

「お前が嫁なら毎日お前のご飯が食べたいな」

 

「っ!!?」

 

何気ない一言だと俺は思って言った。だが、トシはちょうどご飯も食べ終えごちそうさまをした所だった。その後にそんな言葉をトドメにくるので、全身真っ赤で放心状態。俺の何気ない一言がトシの心を恋の病に変えてしまったなど、鈍感な俺にはわからない。

 

「まあ、ペットと主人の関係からでは恋人になったとしても対応は変わらないだろうから意味は無いがな。それに俺の独断では決めれんしな」

 

「……………………………」

 

と、呑気にそう言っていた。その言葉にトシは顔を真っ赤にしてた表情が一気に冷めて、落ち込んでたことと、俺の萌えフラグを鈍感というワードで折っていった俺にはトシの気持ちを理解するのはもっと先で、今は知らない。そして俺は水分を獲るためにキッチンへ。おぼつかない足取りで歩きそれから水道水で水を飲み、少し目も頭も冴えてきた。

 

やはり脱水症状か、今日はこまめに摂ろう

 

ペットボトルに水を入れて蓋を占め、タオルで拭く。それから俺は水入りペットボトルを持ってもふらつかないことを知り、さらに力も元に戻ったようだった。

 

これならトシの力も借りなくても行けるな

 

俺はトシの部屋に入り多分置いてあるだろう腕輪と鞄を取りに来た。が、鞄はあるのに腕輪がない。昨日は付けて行ったはずで、あの2人だって取った痕跡はない。となるとトシしか知らないはず。俺はトシに腕輪はどこかと聞いた。トシは何も知らないという顔で。

 

「学校に忘れたんじゃね?」

 

と返した。しかし、トシの目は俺の目を見ようとしない。俺は力が戻ってきてることをまだトシは知らないため、俺はトシに座るように言った。聞くまま座ったトシの肩に手をポンッと置く。トシは交互に肩を見てから俺を見る。俺はニコッと笑って。

 

「これで立ち上がれるかやってみてくれ。力が戻っているか確かめたいんだ。さっき水を飲んだから頭と目はもう冴えた。あとは力だけなんだ」

 

と言ってトシを試す。そんな水を飲んだくらいでと思ったトシは、言われた通りに体を動かして立ち上がろうとする。が、全然上がらない。それどころか重力なのかわからない力で、ピクリとも動けない。震える振動はあっても、そこから動けない。これはと思ったトシがもう一度俺を見た。俺はずっと微笑んでいた。それはさっきトシが見たような優しいものではなく、とても怖い悪寒がするような微笑みだった。トシはそれに感づき青ざめる。ビクビクして俺の目を合わせようとしない。多分昨日のことだろう。俺が怒ってると思ったのか、手を後ろに持っていった。きっとお尻を隠すためにしたのだろう。

 

昨日はトシにとって、十分すぎるほどトラウマになりかねない種を植え付けた。自分がされてるわけではなかったが、それでも自分と重ねて怖くなったのかもしれない。そうでなくてはここまで震えない

 

「トシ、もう一度聞く。腕輪を知らないか?」

 

「!!」

 

ビクッと震えるトシ。全身をガタガタと震わせる。俺はそれだけ聞いて何も言わない。ジッとトシを見る。トシはポケットから俺の腕輪を取り出す。俺は小さくため息を吐く。それから俺はトシの肩から離れた。それから腕輪を付けて、一言。

 

「次はお前のトラウマをお仕置きに取り入れる」

 

それを耳元で、重低音で囁く。トシのトラウマは昨日のアレだ。トシはそれだけの言葉で自分に何をされるかわかった。頭を横に振って俺の裾を掴む。俺はトシに振り返り、そして見下す。

 

「……ごめんなさい……っ、そのお仕置きだけは…、嫌です…っ…。トラウマは、嫌です…っ」

 

まだ言葉をちゃんと言えてる辺りはまだ意識がある。そして震えてても言葉に出てきている。涙は止まらないが、俺を見て拒否を求めたトシ。俺はなぜ隠したのか理由を聞いた。答えは単純だった。

 

「……嫉妬、しました…」

 

俺は何に嫉妬したのか聞いた。そしたらカズの名前が出てきた。自分以外にもそんな奴がいて、他人のペットになってる俺の事も嫉妬したのだと言う。百歩譲ってちゃんとした理由があったとしても、ムッとしてやってしまった行為なんだとトシは言った。

 

つまり、自分以外の誰かのものになってるのが気に食わないらしい。それは誰が相手でもという事だ

 

「……だ、だから…!」

 

「けど、お前。『なんでもする』って豪語してたよな?アレは?」

 

「……あ…」

 

「『なんでもする』はたとえトラウマでも容易だってことだぞ?それを踏まえて言ってたんだよな?」

 

「……あ、違っ……!」

 

「それとも自分にトラウマが出来ないと思ったか?」

 

「……や、ご主人っ……、待って…っ!話を…!」

 

「なんだ?言い訳か?聞いてやる、何だ?」

 

「……うぅ……、トラウマだけでいいので、トラウマだけは…やめてください…っ!」

 

「それ以外は『なんでもする』のか?」

 

「します!!しますから、どうか…っ!!」

 

「約束だからな?」

 

「は、はいっ!!」

 

トラウマはお尻叩き、それ以外が許されてるなら。今回のお仕置きはアレをしよう。今日のノルマが終わった夜に実行しようか

 

そう心の中で思って、その時だけは許した。トシもホッとした顔をしてる。一時的なものだと気づいてない。それよりもトラウマ回避が重要のようだ。

 

そのためには1回、理事長に合わないとな。今日は空いてるだろうか。空いてなかったらまた今度だな

 

そう思いつつ俺とトシはトシの部屋を出て、寮部屋を出る。そしてトシの鍵で寮部屋の鍵を閉め、そしてエレベーターで降り寮長である内兎に鍵を渡して寮を出る。出ると既にスタンバってたSPの人がそこに居た。黒いスーツに黒いネクタイ、白のワイシャツに黒の靴、それから濃いめのサングラス。主がテレビでよく見た逃亡番組の鬼役を務めていた人。

 

俺が見てた訳じゃないが、それでも似てる

 

そのSPの人と学校へ向かう。学校内に入ると誰もが俺達に注目した。俺達というよりSPに。トシに小声で言う。

 

「トシ。SPの件は絶対に漏らすな。俺とお前だけだ、いいな?」

 

「わ、わかってる」

 

目だけ送って目だけで返した。口もそこまで口角は上がっていない。あくまで呟く程度。それから俺とトシは別々へ。俺の所にSPが来ないため、俺からの注目は終了。代わりにトシへの注目度が上がった。トシは嫌そうだが、俺との約束のために守って昇降口へ。靴と上靴を履き替えて、それぞれの教室へ。

 

今日も通常運転だな

 

教室に入ると校門前までいた人や昇降口で見かけた人が、俺を注目した。続けてその注目してる人の目先を見てさらに注目する。気にせず鞄の中身を出していると横から声をかけられた。

 

「よっす、密」

 

「はよ、密」

 

「おはよう、2人とも」

 

照とレオだった。何も変わらない挨拶。俺も返す。そして視線に気づいた2人は。

 

「何見てんだ?お前ら」

 

照が話しかける。すると1人の生徒が答えた。

 

「いや、登校していきなり黒い人と上級生引き連れて来たから何事?って思ってよ…」

 

「そうなのか?密」

 

「まあ、多方間違ってないが上級生は俺のルームメイトで黒い人はそのルームメイトの付き人だ。昨日から居る。理由は知らん」

 

『……ふーん、なるほどな』

 

レオと照は俺の嘘に気づいた。しかしあえて聞いてこない。察してくれた。他の人は気づいてない。

 

さすが、主の良き幼馴染みだな

 

「だってよ?気にした所で密が知らないんじゃ、聞いた所で何も出ないぜ?見ていても何も始まらないしな、わかったか?」

 

「そ、そうだな。じゃあもう詮索すんのはやめるよ…」

 

すんなり終わった。それ以降は見てくることも無い。照とレオが助けてくれた。

 

「感謝する、2人とも」

 

「良いってことよ♪」

 

「守るのは当然だろ?」

 

これが絆の深さか。俺はまだ浅いからなんとも言えんが、これからそうなるだろうか…

 

それから朝のホームルームとしてカズが教室に入ってきた。みんなそれぞれの椅子に座り、ホームルームを聞いた。

 

「知らせは1つだ。いよいよ、明後日に待ちに待った参観会だ。俺は待ってないし、お前らも待ってないだろうが、やることはいつもと変わらねぇ。授業態度はちゃんとしろよ?まあ、ここにはそんなやつはいないって分かってるけどな。それでもあの教頭の目だけは侮るなよ?てわけで、以上だ。それと腐獅」

 

なんだ?

 

「今から職員室に来い。詰蛇と鬼樣も一緒に」

 

俺達に何か用か?下僕の手伝い、ではなさそうだ

 

ホームルームは終了し、俺と照とレオは顔を見合わせて頭にハテナを浮かべつつ、カズと共に職員室へ。内容も告げずに歩くカズ。そして職員室に着き一緒に中へ入る。そこに居たのは。

 

「風紀委員!?」

 

「それに生徒会勢揃い??」

 

「どういうことだ?」

 

「説明はコイツらがする。俺は連れてくるように言われただけだ。あとは任せるぞ?黒牙」

 

「あぁ、わかってる」

 

そしてそのままカズは退場。そしてここでは話せないということで、場所を移動する。移転場所は風紀委員室だった。

 

確かに広いが招集する程か?

 

何の話をするのだろうと思ったら最近の話だった。それはあのコンビニ事件だ。主が記憶喪失案件になった出来事で、一悶着あった日の事だ。

 

それがなぜ今なんだ?

 

内容によるとレオが独断で、しかも無断で情報を流したことが原因だったらしい。これはまだ1年であるレオには知らせてない事だったらしい。それをレオがどういう訳か、情報を持っていた。それが今回招集をかけた理由。主は当事者で、情報共有した照もということだった。本当は俺だけだったようだが、一般生徒が聞くのはそもそも無理だということらしい。

 

確かに、俺の所まで回るならレオか照のどっちか。しかし、聞くことの無い情報を何故実行できたか。そう考えれば2人が連れてこられるのもわかる

 

レオが前に出て照や俺を庇う。そして話す。

 

「照……いや、詰蛇は関係ない。確かに腐獅密に情報を流したのは俺だ。だが、俺も無策で情報を流したわけじゃない。まあ、これといって策があったのかと言われれば無いが、これは聞いた話だ。偽りではない」

 

みんな聞き入った。レオの言葉をちゃんと話を聞く。生徒会長でもあるレオの言葉。

 

「その日の放課後、生徒会会議だった時に俺が教室に戻る際、風紀委員会の誰かはわからんが巡回してる所を目撃した。それは悪くないが、聞こえてしまったんだ。それがまさか極秘とは知らなかった。その時の風紀委員の言葉こうだ。

 

『最近、コンビニ強盗が多発してるらしい。しかもここの生徒が何度も忠告受けてんのに、辞めないらしい。しかもこの学園の近くにあるコンビニで強盗とか、神経図太い』

 

そう言っていた。人物まで特定はできんから発音や言葉は違うかもしれんが、これは事実だ。聞いた話を横流ししたことは悪いことだが、詰蛇と腐獅は関係ない。俺が巻き込んだようなものだ。許してくれとは言わんが、せめて2人には何もしないでくれ」

 

そう言って頭を下げるレオ。綺麗な90度まで下げていた。自分だけと言わんばかりに言い切った。

 

確かにそれだけ聞けばレオが悪いかもしれない。だがそれは依頼を受けない状態での横流しならという話だ。照になら、間違ってないが俺まで守るのは違う

 

俺は照より前に、レオの腕を振り切って発言する。レオは何を言い出す気なのかと俺を見る。俺はそれを軽くスルーして話し始める。

 

「確かに、それだけ聞くなら鬼樣が悪いことにはなる。実際極秘だというのはわかっていなかったしな。だが、横流しをしていたのは事実かもしれんがそれはあくまでその依頼を蹴った状態でのということだ。つまり、詰蛇はこれになら当てはまる。依頼を受けてるわけじゃないからな。それなら、横流しをした事が成立する。しかし、一方の俺は依頼を引き受けた。それは横流しではない、だったとしてもそれを利用したことになる。隠密で動いたとはいえ、極秘に変わりはない。よって、詰蛇を守るのは同意だが俺まで守るのはお門違いだ。心遣いは嬉しいが、そこまでしなくいい。が、感謝する。鬼樣」

 

「……………、あぁ…」

 

守るつもりが逆に守られてしまったことに気づいたレオは少し悔しそうだった。照はこれに関しては何も言えない。自分が何かした訳じゃないから、しゃしゃり出ることができない。自分の無力さに悔しそうだ。俺は振り返り照に向き直す。照は俺を見てキョトンとする。何を言われるのかと思った顔だ。

 

「確かに詰蛇は何もしてない。情報を聞いただけだ。極秘までは知らなくとも、詰蛇は一般生徒。通常ならそれらを聞くこともないだろう。けど、お前はちゃんと秘密は守る。俺や鬼樣がやった行いは言わなきゃいけない行為だが、それに対してお前は言わなかった。同類といえば同類かもしれない。だが、同類とはまた別にしてお前は『友情』、友を選んだ。大切な友を守ったことになる。俺たちを売り出さず、詰蛇もまた俺達を守ってくれた。鬼樣の行為も俺の行為も言わずに見守っててくれてありがとう、詰蛇」

 

「………………、おう…っ」

 

照は嬉しそうに、そして申し訳なさそうに返事した。守られたと思うより自分にも役割があったということを、俺が見出したおかげで自分をここに立てれる。そのきっかけを作ってくれた、という感じだった。それから俺と照、レオは横並びになり生徒会と風紀委員に向き直す。真剣な目で見る。代表で俺が話す。

 

「今の話の中で、自分は何もしていませんと言う奴はここにはいない。どんな罰も受けよう。それで許してくれるのならな?しかし、極秘を言ってしまったことは事実になるが、それにはまずきっかけも大事だ。鬼樣は廊下でそれを聞いた。それだけ聞くと、鬼樣だけが悪い訳では無い。ここにも自分やってませんという者がいることになる。そして巡回中は2人1組のはずだから、共犯としてもう1人いることになる。つまり、俺達以外にも何かしら処遇は与えなければフェアではない。と、しゃしゃり出る幕ではないことは重々承知の上だがどうだろうか?」

 

みんなは呆然と唖然の放心状態。今のが事実だとしても、自分の所の誰かもということになる。それを今まで知らなかった、聞くまでは。

 

「少し、話をまとめる。その時間は待って欲しい」

 

と、ロウが言った。俺達は頷いて待つことになった。レオと照が申し訳なそうな顔をしてる。理由は違えど同じ顔。俺は微笑みまた話す。

 

「レオの極秘を横流しも共犯、照の俺達を守る行為も共犯、俺の依頼を引き受けたのも共犯。なら、何も恥じることも申し訳ないと思う気持ちも違う。反省はしなくてはいけないが、それはそれだ。気に病むな」

 

『………………………』

 

そうは言っても問屋は降りない。2人は俺の言葉にまた守られたことに、改めて悔しそうだった。主であったとしてもそれは変わらないだろう。俺が言っても主が言っても、何も変わらない。それだけだ。しばらくして審議は終わったらしい。俺達はまた向き直し、相手らも向き直す。

 

「こちらの不手際で、情報が漏れたことについて。お前達は悪くないと判断に至った。誰かから情報を聞き出したとなれば話は別だが、そういう訳じゃない。となれば、お前達の処遇は無しだ。こちらも情報を漏らした者の特定もできた。それはこちらで対処する」

 

そう、ロウは言う。他の関係者も頷いている。しかし、1人だけ納得しない人がいた。

 

「どうした?羽鳥副会長。あんたも同意の上だっただろう?何か不満か?」

 

「私はその件に関しては納得しています。が、鬼樣会長の行いについてはこちら側の問題です。貴方が良くても私達には関係があります。仮にも私達の方が上なのに、会長らしからぬ行動です。ですので、そちらの処遇がなければこちらで判断します。もちろん、会長以外の者達には手を出しません。それは約束しますよ、会長」

 

明らかに敵意剥き出しだ。わかりやすいほどに。自分が会長になるはずがというような殺気さえも感じ取れるかのように。照が何か言いたそうだったが、俺やレオが照を近づけさせないようにして阻む。照は舌打ちをしてその場は収めてくれた。

 

「わかった。応じよう」

 

「物わかりが良くて助かります。では会長は連れていきますね?」

 

「その前に」

 

「はい?」

 

俺がレオ達の前に出る。

 

「自己紹介をしてもらえないか?黒牙先輩と鷹田先輩以外は知らないので」

 

そう言うと副会長は歩く足を止めて振り向く。そして律儀にも自己紹介をしてくれた。

 

「私は生徒会副会長を務める羽鳥柴です。それから書記に犬山琥珀(イヌヤマ コハク)、会計の鳥井季(トリイ トキ)、同じく会計の鳥井慎(マキ)です。これでよろしいですか?」

 

「あぁ、感謝する」

 

用は済んだというような顔でニコッと笑う。そしてそのままレオに目線を向けて。

 

「では、鬼樣会長?行きますよ?」

 

「あぁ」

 

レオを連れて出ていった。俺と照だけが残された。

 

「ついでに俺達の自己紹介もしておく。俺は風紀委員長の黒牙狼、風紀副委員長の鷹田元春。風紀委員の幹部であり情報漏らした細目狐(ホソメ キツ)と共犯の太目万狸(フトメ バンリ)だ。見た目のそのままな2人だ。それ以外は1年で、選抜された者達でこの極秘には関わっていない。幹部と俺達しか知らない情報だ。その辺りは追々だ。とりあえずこんなものだろうか」

 

そしてロウの一言で解散した。が、俺だけ残された。照と教室に戻ると思いきやだった。鷹田先輩もいない。全員出ていった。それからロウは風紀委員室の鍵を全部閉めてカーテンをも閉めた。

 

カズの時に似ているな、主の記憶を見る限り…

 

「何か用か?」

 

「お前は『腐獅密』か?」

 

「そうだが?」

 

「お前はアイツじゃない。俺はお前を知らない」

 

また偏見か。照もレオもそうだったしな。結果は認めても課程は認めれない。これも普通だな

 

「だからなんだ?」

 

「は?」

 

「だからどうしたって言うんだ?俺は腐獅密だ。それ以外に名前はないし、お前に迷惑をかけたつもりもない。そんなに敵意を剥き出しにされても何も返せない。だがどうしても俺が腐獅密じゃないと言うなら、俺が腐獅密だという証明があればいいのか?」

 

「あればな?だが偽物は偽物。俺のことを知ってるなんてありえな」

 

「『ロウ』」

 

「!!……そ、その名前は…!?」

 

驚いてる所で静かに壁に追いやる。そして、気づいた頃には壁ドンされているという催眠術を発揮した。恐るべき名前の効果。そして俺はその状態から耳元に重低音で話しかける。囁くのではなく通常の声で。

 

幸い俺の声は主と違って静かだから囁くのと同じくらいだ、うるさくはないだろう

 

「ロウは耳も弱かったな?」

 

「ひゃっ!!」

 

ビクッと震えて尻もちつく。無意識逃げようとして後ろを振り返ると、そこには壁しかなく俺は両手で壁ドンし、ロウの1番感じる左耳を甘噛みし右耳に人差し指を入れる。ロウはそれだけであっさりとノックダウンしてしまう。俺はまだ続ける。ロウもカズと同じで主のペットだ。つまり、俺のペットでもある。それに牙を向いたのだから当然お仕置きが必要だ。

 

「ロウ」

 

「…あっ、アッ……っ、アアッ…っ…」

 

「これでもまだ認めないか?」

 

「ひっ!!…っ、認めますっ!!認めますからっ!!も、もうっ…、お許しくださいっ、ミツ様…っ!!」

 

「認めてくれたことはありがとう。だが牙を向いたな?『俺は腐獅密じゃない。偽物だ』と。ロウは俺の何を知ってる?何を見て偽物だと思った?」

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!そんなことはありませんでしたっ!!偽物ではありませんでしたっ!!紛れもなく腐獅密様ですっ!!」

 

「よく出来たな。ロウ」

 

右耳から指を外して左耳から口も離す。すると緊張の糸が切れたように倒れる。荒い息を吐きながら身体をビクンビクン震わせる。そして俺はあえて大声で言わせていた。その理由は。

 

「ロウ」

 

「はっ…」

 

「しっ」

 

「っ……!」

 

耳元で囁いたので大きな声で話そうとしたロウの口を塞いだ。

 

「外にお前の身内が聞き耳立ててたぞ?」

 

「っ!?」

 

「今足音が消えたが、聞き耳を立てていたらしい。幸い『俺』の事だから、『俺』に対してなら何も問題は無い。俺に言わせられてることにしておけ。何か言われても言うように脅されたことにしろ。いいな」

 

頭をフルフルと横に振る。それは絶対に嫌だと否定する。俺はロウにわざと脅す。言わせるためにした行為だ。俺がロウを守るためだとは知らない。

 

「なら、お前があの店に行ったことやあの店でどんなことをされたかも暴露していいんだな?あの写真、今でも残ってるが見せてもいいのか?」

 

「!!?」

 

そう言うと全力で頭を横に振る。俺はスマホを取り出し写真フォルダからその証拠写真を見せる。するとロウは顔を真っ赤にして、俺の携帯を取ろうとした。俺はヒョイッと手を上げ、ポケットにしまう。

 

「この証拠を使われたくないなら、言う通りにしろ。何を言われても俺のせいにするように、わかったな?いずれまたお前にも説明する。今だけは従え」

 

そう言うと渋々頷いた。俺は立ち上がり鍵を開けて開き戸から離れるようにして開けた。すると勢いよく風紀委員の全員が中に転げ落ちた。鷹田先輩もいた。ロウは驚きを隠せない顔で見ていた。風紀委員の全員が俺を敵意剥き出しで睨んでくる。

 

「俺を睨むより先に、風紀委員長の看病をしてあげたらどうだ?あそこで転がってる人を優先にしろ。ここで止まってると通行の邪魔だ」

 

そう言うと鷹田先輩以外は一斉にロウに駆け寄った。俺はキョトンとした顔で鷹田先輩を見ると。

 

「君がそういうことする子だとは思わなかったよ。狼の心が唯一許した人だと思ったのに。見損なったよ」

 

そう俺にだけ聞こえるように言った。俺も反論する。

 

「それは悪かったな。だが、目先のことしか見えてないやつにわかられても俺は困るだけだ。…ちゃんとロウを守ってやれよ?鷹田先輩」

 

「えっ?」

 

「それでは失礼する」

 

それだけ言って俺は風紀委員室を出た。振り返らずにそのまま教室の方へ。そして俺は理事長に電話をかける。すると。

 

『おかけになった電話番号は現在電波の届かない所にあるか、電源をお切りになっています。もう一度おかけ直し下さい』

 

留守番電話サービスのような音声が流れる。今は忙しくて手が離せないんだろう。またの機会にすることにした。それからゆっくり歩いてると。

 

「密…」

 

後ろから声をかけられた。振り返るそこに居たのはレオだった。

 

「レオ?」

 

「密、来てくれ」

 

「………、わかった」

 

一応照には『レオと俺、遅れるから先生に伝えといてくれ』と送った。それからレオに付いていくと、今度は生徒会室に連れてこられた。レオは肩を震わせていた。俺はレオの背中をポンポンと叩き。

 

「俺は大丈夫だ。いざとなったら自分の気持ちを大事にしろ。俺を守るでも自分を守るでも、俺はお前を信じてる。どちらを選択しても正解などどこにもない。レオの信じる方を選べ。お前はそのままでいい」

 

「……………、悪い…密…」

 

「気にするな」

 

少しの間話すとレオの震えはなくなった。俺はそれを見て中に入った。

 

「失礼する」

 

ドアを開けてから言った。レオもその後を追って入った。生徒会メンバーは生徒会会長の机の前にいた。

 

風紀委員の次は生徒会か、レオも大変だな。いや、俺もか。人の事言えんな…

 

「来たか」

 

言葉遣いが違う。きっとこれが素の生徒会副会長、羽鳥柴なんだろう。そう思いながら俺とレオは生徒会メンバーに近づく。

 

「俺に何か用か?」

 

上級者だということはわかっても話し方が変わることは無い。主と違い俺に『敬語』という概念は無い。だから失礼な物言いをしてしまう。その辺は気にせずに話が進んでいく。

 

俺にとっては助かるがな

 

「生徒会長の処遇は加担した人間も含まれます。貴方達のもう一人のお友達には手は出さないことは保証します。その代わりということです。この意味がわかりますね?」

 

また敬語に戻った。

 

面倒だな、ある意味…

 

「あぁ」

 

「…………」

 

「生徒会長には既にお伝えしてあります。生徒会長、貴方の口から言いなさい。自分への罰を」

 

俺はレオを見る。レオは申し訳ないという顔で俺を見ている。俺はレオの目を見ていると、レオは意を決して話してくれた。

 

「…生徒会長としての仕事はこれからも継続。これはあっちにも非があるということで、それは許された。本題はここから、お前を呼んだ理由もそれに関わる…」

 

ほんの少し歯切れが悪いが俺はちゃんとレオの話を聞く。唇を噛み締めながらもレオは俺に告げる。

 

「今日から1週間の間、つまり5日間だ。極秘情報以外で俺の…生徒会長補佐に任命する。これが副会長からの処遇譲歩だ。本当なら雑用をさせる気だったらしいが、今回の不手際があるためという名目で決まった。お前に拒否権はない。………悪い…」

 

小さく呟いた謝罪はレオの本心からだった。俺はレオの肩を掴んでズンと落とす。その反動で尻餅するレオ。キョトンとした顔で俺を見るレオに俺は優しく頭を撫でる。

 

「気にするな。それで許されるなら5日間の間、お前の補佐を努めよう。お前が気に病む必要は無い。これに加担した俺も悪いんだ、同罪だ。何も無い方がおかしい。それに、俺一人だったりお前一人だったならどちらとも反論してただろう?だが同時に罰を受けるんだ。それなら何も怖くない、そうだろ?」

 

俺が優しく微笑むとレオは安心したように笑った。それから立ち上がり、俺は副会長の前に出た。

 

「その補佐役は受け入れるが、一つだけ頼みがある」

 

「なんですか?」

 

「雑用は一切しない。あくまで補佐役のみだ。それが今回の処遇だったな?」

 

「はい。そうですが何か?」

 

「それを踏まえて、アンタらの『素』で俺に接して欲しい。もちろん、外部との接触の時は『素』を隠してくれていい。が、ココだけは営業的言葉遣いは無しだ。『俺』は敬語が使えない。だから、これが『素』だ。それだけでいい。他に望むことは無い『俺』からはな」

 

「『俺からは』?」

 

「いつか知る。その時までは言えない」

 

「……訳ありですか?」

 

「そんな感じだ」

 

「わかりました。それでは今日の放課後から生徒会の仕事を手伝うということで、色々覚えておくことがあります。私のこの敬語もその時からは無くしましょう。その頼みだけは聞きます。それ以外はよろしくお願いしますね?」

 

「わかった」

 

そして俺とレオは生徒会室を出て、教室に向かう。弱々しくレオが話しかけてきた。

 

「悪かった…、本当に…」

 

「さっきも言ったが、気にするな。この話は照にも話しておけ。今回何も出来ないと悔しがるかもしれんが、知らないよりは知っておいた方がいいだろ。それに俺は寮で暮らしてる。照に伝えるのはお前の役目だ、いいな?」

 

「わかった……。…密」

 

「なんだ?」

 

「ありがとな」

 

「こちらこそだ、レオ。ありがとう」

 

ニコッと微笑む俺とレオ。そして穏やかな気持ちで教室の前に来た。そして扉を開ける時にはいつもの自分達に戻って行った。

 

 

そして時はもう放課後。時間経つのが早い。レオは照に簡単な説明をして残り説明は帰ってきたら話すことになった。照はやはり不甲斐ないという顔で見てたが、しでかした重みを考えると自分は軽い方だと自覚をし了承してくれた。それから俺達は別々に別れ生徒会室に向かう。途中で会ったカズにも説明をした。カズは難しい顔をしたが了承してくれた。頭を撫でると手を振りほどき顔を赤くしてどこかへ行った。

 

本当はもっと頭を撫でられたいと思っていただろうが、立場上ペットが飼い主の頭を撫でるのはおかしいと判断して、咄嗟に手を振りはたいたのだろう。賢明な判断だ、カズ

 

それから俺達は改めて生徒会室に向けて歩いた。レオは重い足取りで歩いていた。俺は肩にポンポンと叩き俺がいるから安心しろと伝えた。すると俺の頭をガシガシ撫でてそっぽを向く。髪をぐちゃぐちゃにされたが、良しとする。今はそれ所ではないからだ。

 

『コンコン』

 

「どうぞ」

 

「失礼する」

 

ドアを叩くと中から声が聞こえたので、俺達は中に入る。それから副会長に生徒会長補佐の主な仕事や、補佐がやるその他の仕事を教えて貰った。

 

資料集めや資料作り、それから資料区分け、か。それ以外は雑用になるからしなくていいと。なるほどな

 

そして今日はその資料区分けをすることになった。一種の試験みたいなものだった。ファイルから出されたものから、関係ない資料までを混ぜて大量の紙束を机の上に置かれた。

 

なにもそんな大量にする必要があったのか…

 

溜息を出したい所だがぐっと堪えて副会長を見た。

 

「今しがたバラバラにしたこれを関係ない紙とファイルから出したものの区分けをしてもらう。ファイルに入ってたものの年号は気にしなくていい。区分けは全部で3つ。時間制限はない。自分のペースで頼む。ちなみに見本はこれだ。ファイルに入ってたものの中から1枚だけ取り出し、そこに置いた。それを基準に探して区分けしてくれ。説明は以上、では始め!」

 

言われた通り、俺は手を動かす。まず見本の資料2枚と関係ない資料1枚に目を通す。それから大量に積まれた紙類から、区分けしていく。監視として書記の犬山琥珀が俺の仕事を見ている。

 

これは、ここ。これはそっち。これはあっち、と

 

黙々とやる俺に犬山琥珀が話しかける。

 

「黙々」

 

「あぁ、話さないから。仕事はそういうものだろう?」

 

口は動かすが手も動かす。スピードも変えない。

 

「ここ、話す人、多い」

 

「そうか。珍しいか?」

 

「うん」

 

「お前は?」

 

「あんまり」

 

「そうか」

 

そしてまた沈黙の空気。俺はやることしてるから何も考えてない。犬山琥珀は何を考えてるかわからんが、ずっと俺を見てる。また話しかけてくる。

 

「楽しい?」

 

「これを楽しいと思うやつはいるのか?」

 

「いない、と思う」

 

「なら俺の答えもそれだ」

 

「そう?」

 

「あぁ、人間誰しも好き嫌いはある」

 

「そう」

 

「あぁ」

 

また沈黙。そして俺の方は積まれた資料が半分になった。犬山琥珀がまた話しかけてくる。

 

「補佐、楽しい?」

 

「今日初日はさすがにわからん」

 

「ごめん」

 

「謝る必要ないだろ。何もしてないのに謝るのはお門違いだ、犬山琥珀」

 

「琥珀」

 

「そう呼んで欲しいのか?」

 

「うん」

 

「年齢は?」

 

「17」

 

「先輩にタメでいいのか?」

 

「君が、言った」

 

「!……そうだったな。ならよろしく。琥珀」

 

「ん♪」

 

嬉しそうな返事だった。俺よりも年上なのに年下に感じる。これが主の小説でもよく出る書記のわんこ気質。記憶があるからだが無くても気にしないだろう。そしてまた琥珀は俺に話しかける。

 

話したがりか?

 

「僕と話、楽しい?」

 

「楽しくなかったら会話の成立もないと思うが?」

 

「成立、してる?」

 

「してるから、話が弾むのでは?」

 

「ん、そだね」

 

「あぁ」

 

「ん」

 

会話が終わった。同時に積もってた資料も全て終えた。それから俺はファイルに入れる方の、年号を揃え始めた。琥珀が話しかける。

 

「しなくて、いいよ?」

 

「補佐ならこれくらいのことが出来ないのは困るだろ。言われたことしか出来ないのも困りものだ」

 

「そんな、考え、初めて」

 

「ここの奴らはそう見えるな。琥珀は知らんが」

 

「僕も、君と、同じ」

 

「そうか。なら同士だな」

 

「同、士?」

 

「似た者同士って意味だ。話が合うとか、友達に向いてるってことだ。まあ、クラスが違うと友達関係でもないかもしれんがな」

 

「友、達…」

 

話をしながら1つの会話を終える事に年号の資料も終わる。あと1つで終了。琥珀は何を思ったのか、俺に話しかけてきた。今までの会話とは少し違った。

 

「僕、犬山、琥珀」

 

「知ってる」

 

「君は?」

 

「俺は腐獅密」

 

「密?」

 

「あぁ」

 

「密、呼ぶ、いい?」

 

「あぁ、構わない」

 

「密」

 

「なんだ?」

 

「友達、嫌?」

 

「友達になりたいのか?」

 

「うん…」

 

「………」

 

クラスが違うの前に歳が違う。そして先輩後輩の関係で、友達認定が成立しようとしてる。俺は一向に構わないが、主に代わった時に支障が出ないか心配になる。それに俺は気にしないし、多分主も気にしないだろうが、琥珀は俺と主を見分けれるだろう。そうなった時、接し方も変わる。その辺の不安も無いわけじゃない。大丈夫なら俺は承諾したい。

 

「1つ。お前に言っておく」

 

「何?」

 

「俺がお前の知る人間じゃなくなった時、その時も普通に接してくれないか。今はわからなくていい、その時になったらわかる。だが、もしそうなっても琥珀が態度を変えないのであれば友達を承諾する」

 

「…………」

 

「どうする?」

 

琥珀が沈黙した。何を言ってるのかわからないんだろう。無理もない。俺もそんなこと言われたら、は?何言ってんだこいつ?と思うのが妥当な判断。だが、状況的に俺は主じゃない。仮の人間。主に対してもブレない気持ちで接してくれるならと望みをかけて聞いた。俺が資料を年号順に変えた後、資料を置き琥珀を見た。すると琥珀も何かに決心して話した。

 

「約束、する」

 

「わかった。ならよろしくな、琥珀」

 

「ん…!」

 

約束してくれた琥珀の頭を優しく撫でた。それだけなのに琥珀の頬が赤くなった。そして、俺が終わったことを確認してすぐに副会長に報告しに行った。副会長は驚いた表情で俺の所に来て、資料を見る。さらに目を見開いて、俺と資料を交互に見る。そして一言。

 

「…ご、合格だ」

 

「そうか」

 

それだけ言って生徒会長であるレオの元へ行った。レオはニカッと笑って、良かったなって祝してくれた。俺も頷きながら口元を緩ました。それを見た副会長が俺とレオの談話を邪魔するように入ってきた。

 

「1週間と言わずに2週間滞在しなさ」

 

『却下だ』

 

「……っ…」

 

即答されて肩を落とす副会長。契約は1週間。伸ばすことは許さない。そんな契約してないからだ。今度は琥珀が話しかけてきた。

 

「あの」

 

「なんだ?」

 

「会長」

 

「はい」

 

レオの事だった。俺は口を閉ざして少し後ろに立つ。すると、レオが俺のネクタイを掴み引っ張る。

 

「おっと…!」

 

危うく机にうつ伏せにさせられるところだった。というか、痛いし苦しい。口があるなら口で言え、と思う。前のめりになりながら琥珀の話を聞く。しかしその前に、レオの横腹をつねるとビクンと震えてネクタイを離してくれた。レオが俺を睨みながら見るが、俺はその氷点下の如く蔑んだ目で見る。レオが俺の目を見て青ざめ、そして顔を逸らした。勝った。

 

おっと、話を聞かないとな

 

俺とレオは改めて琥珀を見た。待っててくれたようだった。優しいやつだなと俺は思った。

 

「友達」

 

「友達?」

 

「密、友達」

 

「もう友達できたのか、さすがだな」

 

「ただ普通に話してただけだ。成り行きみたいなものだけどな。だが、こんな風に普通に接してくる人間は、レオや照以外に琥珀だけだ」

 

「お前が安心するやつが増えるのはいい事だな」

 

「あぁ」

 

そんな話をしていると琥珀がまた話し出した。

 

「会長、友達」

 

「俺ですか?」

 

「僕、友達、嫌?」

 

「??」

 

レオは琥珀の言ってる言葉がわからないらしい。俺が琥珀の代わりに代弁した。

 

「琥珀はお前と友達になりたいらしい。俺の友達は良い人だとか思ってんのかもな。俺はそんなんじゃないんだが、話が通じるのが好評みたいだ」

 

「なるほどな。……犬山先輩」

 

「琥珀」

 

「琥珀先輩。それでも俺は先輩は抜けれません。その理由は分かりますね?でも、友達になるのは良いですよ。あんたが望むならそれは、全然大丈夫です」

 

「!…ん」

 

嬉しそうに笑う琥珀。レオはホッとする。俺は2人を見て、2人の頭を撫でた。ビックリしてこっちを見るが、琥珀は嬉しそうに。レオは目を逸らしながらだが、少し嬉しそうに。すると、興味を示したのか双子の会計が現れ話しかけてきた。

 

「なんか楽しそう!』

 

『もう仲良くなったのー?」

 

「うん」

 

『いいなー!」

 

「僕らもー!』

 

これは面倒な気がするな。俺は良くても主がいいかわからん。琥珀は無害だろうからいいと思ってるが、双子はわからんから仲良くなっていいもんなのか?

 

「会長ー!』

 

『僕らもー!」

 

「同じ職についてるのに何故しないといけない?」

 

『いいじゃーん!」

 

「同い年なんだしさー?』

 

「接するとこ、ここしかないのになるわけないだろ?鬱陶しい」

 

『鬱陶しいって言われたっ!!』

 

無駄に声が大きい。琥珀が耳を塞いでる。副会長は精神統一をしていた。レオに至ってはイラついてる。俺は真顔で見守っている。

 

双子のポジションは騒がしい奴兼会計ってことだな

 

『そこ!」

 

「会長補佐の君!』

 

『今変なこと考えたでしょ!!」

 

「僕達を変な風に紹介しないで!!』

 

なんでわかった?顔に出てたか?まあいいか

 

『納得するなぁ!!』

 

とりあえずうるさい双子鳥だった。

 

鳥だと副会長も同じになるが、あの人も結構口煩いイメージがあるからまあいいだろう

 

「ん?何でしょう?何かよくわかりませんが犠牲にされた感覚を感じますね。誰か考えましたか?」

 

ここの生まれ変わりは勘がいいのか?考えるのを辞めるか、心の声を出さないようにするか

 

そう思った後から俺は何も考えなくなった。琥珀が俺の後ろに隠れる。頭撫でてあげると嬉しそうに笑う。それを見た双子はずるいと言わんばかりに琥珀を突き飛ばした。突き飛ばした拍子に琥珀は床に倒れた。双子は何食わぬ顔で俺に抱きついた。俺はその双子を引き剥がし、とても冷たい真顔で双子を見る。双子はビクッと震えて、動物本能でもがくがまるでビクともしない。逃げれなくて双子は俺を上目遣いで見る。双子が俺の目を見たので話し始める。レオは椅子から立ち上がり琥珀の救出をしてくれた。

 

「謝れ」

 

『なんでー?!」

 

「別に悪いことしてないじゃーん?!』

 

「人を突き飛ばすことが悪い事だと思わないのか?」

 

「そりゃあダメかもしれないけどー』

 

『独り占めも良くないと思いまーす!」

 

「お前達を友達だと思ってないのに、抱きつかれても迷惑なんだが?」

 

『うぅ…、そんな冷たいこと言わないでよっ!!』

 

「冷たいこと?俺は正論を言ってるだけだが?」

 

『それが冷たいことって言ってんの!!』

 

「お前達は俺がこんなことで怒ってると本気で思っているのか?」

 

『違うならなんなのさ!?」

 

「こんなことされる他にあるの!?』

 

やはり分かってなかった。俺はため息を吐いてそして俺はまた双子を見た。

 

「お前達にとって、琥珀はなんだ?仲間か?」

 

『いきなりなんの質も」

 

「質問に答えろ」

 

「もう!わかったよ!』

 

『琥珀は仲間だけど、庶民だよ!」

 

「庶民はお金持ちには逆らえない!』

 

『だから、琥珀のものは僕らの物なんだよ!」

 

そういうことか

 

俺は琥珀を見た。琥珀は悲しそうな顔で俺を見た。

 

「琥珀はこいつらの奴隷か何かか?」

 

「…………」

 

何も言わないが頭を横に小さく振った。

 

「お前にとってこいつらは仲間か?」

 

「…………」

 

さらに深く沈んだ頭は重く、頷けない顔をしている。すると双子が琥珀目がけて激怒した。

 

「おい!琥珀!』

 

『何でそこで頭を縦に振らないの!?」

 

「仲間でしょ!!同じ職についてんのに!!』

 

『裏切んの!?裏切るんだ!?この裏切り者!!」

 

「…………」

 

琥珀の目の辺りが暗くなった。口元を噛み締めながら耐えている。俺はそれを見てこの双子をソファーに押し付けた。顔面をソファーに付けるように。息ができない状態は苦しいだろう。

 

『むぐ〜〜〜〜っ!!?』

 

「苦しいか?苦しいだろうな?息ができないようにしているんだからな?」

 

『んぐ~~~~っ!!?』

 

「なぁ、双子。お前達のような下品な奴らを誰が友達だと思うんだ?虐げることで友達を作るのか?言葉で脅して友達を作るのか?それとも、奴隷のような下僕のような目で見ないと友達を作れないのか?そして、琥珀が庶民で逆らえないなら俺やレオがお前達に逆らっているのはいいのか?見逃してるようだが」

 

『んん~~~~~~っ!!!』

 

「そんな庶民の俺からこんなことされてるなんて、さぞ屈辱だろ?俺がお前達の友達?俺が誰を友達になっても権利はある。それは琥珀にだってある。琥珀をどんな風に接してきたかは今の短時間では計り知れないが、少なくとも俺の怒る理由は『友達を傷つけた』。俺にはそれだけで怒る理由になるんだよ」

 

「むぐっ!!』

 

『んぐっ!?」

 

「ギブアップ?お前達に謝る精神がない以上、俺はこれを止める気は無いが?それともする気になったか?俺にではなく、琥珀に。お前達が豪語していた『庶民』に土下座をし謝る精神ができたか?」

 

『!!?』

 

それを聞いた双子が激怒した。が、口を塞がれてるので身動き取れない。まず話せない時点で詰んでいる。そして俺は双子を見たあと琥珀にこっちに来るように、顎で指示した。琥珀は頷いて恐る恐るこちらへ来た。双子も琥珀を見た。おそらくこう思っているだろう。

 

『(なんで庶民に頭下げなきゃいけないの!?)』

 

と。

 

当たり前だ。突き飛ばす行為を誰が許す?俺の大切な友達を突き飛ばしておいて心配しないやつなどいない。居たら俺が制裁を下す。今みたいにな

 

双子は再びもがき始めるが、やはり動ける状態ではない。息も随分続くようだ。そしてそれを見かねた副会長が、琥珀に対して同情するように双子に言った。

 

「謝ったらどうです?それで済む話なら安いものでしょう?何に意地を張ってるんです?」

 

普段から仲間と敬語で話してるようだ。

 

「それに自分達で苦痛に耐えるより、犬山書記に謝る方が楽だと思いますよ?私も庶民に謝るのは双子の意見と同じですが、突き飛ばす理由にはなりません。それにあなた達は『貸して』と言いましたか?言っていないでしょう?さも、犬山書記に言ったと言わんばかりに突き飛ばしました。それはやってはいけない行為です。会長補佐である彼が怒っているのは、その事ですよ?」

 

『~~~~~~~~~っ!!!』

 

副会長の言葉を聞いた双子はそれでも何か言いたげだった。俺はソファーに押し付けた頭を、上げて副会長に向けた。すると双子は副会長に訴えた。琥珀は俺の後ろに隠れて聞いていた。

 

『なんで庶民の分際で頭下げなきゃいけないのさ!!する必要なんてないじゃん!!だいたい、庶民が楯突く方がおかしいでしょ!?副会長だってそう思ってるくせに、自分だけいい子ぶってんなよ!!副会長の方が僕らよりも悪いことしてんの知ってんだからね!?それなのにこんなっ……もごっ!?』

 

双子が思いの丈を副会長に言う。すると副会長は双子の口に手を突っ込み、蔑むような目で双子を睨む。その目に当てられてビクッと震える双子。後ろで見ていた琥珀もビクッと震えた。俺は小さな声で顔を出すなと言うと、琥珀はそれに従い後ろに隠れた。一度見た顔は中々頭から離れることは無いが、直面してる双子よりはマシだろう。双子は副会長の顔を直接見てるため、もがいても弱々しい。息が苦しくて気持ち悪そうだった。頭も固定されてるので逃げれない。

 

同情できん程には自業自得だ。そして副会長の裏顔、これが本性か?

 

営業スマイルは分かりきっていたし、作り物の敬語も知っていた。だが裏顔の方がまさかこんな顔をしているとは予想外だった。

 

目を細め眼孔を開かせた上で相手の心臓を鷲掴みするような、そんな気迫だった。通常の人間なら怯えるし、話をするのもできないだろう。それくらい怖い顔をしてるという事だ。俺は気にしないが。

 

「つべこべ言わずにさっさと土下座して謝れ。これ以上仕事を増やすな。それともお前らのことを理事長にでも言うか?これまでの仕事もろくにしてこなかったことも含めて、今回の話も一緒に伝えてこようか?それで不利になるのはお前らだぞ?賢いお前らならどっちか良いかわかるよな?あ?」

 

いつも使う声質の声とは違って、不良高校生のようだった。この部屋が凄く冷めきっていることがわかる。さすがのレオも顔を見ないでいる。琥珀に至っては声で震えてるようだった。俺は真顔で見守っていた。すると、双子が観念したのか弱々しく返事をした。

 

返事と言っても「ん」しか言えなかったんだがな

 

副会長は口から手を抜き手を洗いに離席。俺は双子の頭を離してやり少し離れて琥珀を横に立たせる。双子はしおらしい顔で土下座をして謝った。俺は琥珀を見て自分で選べと伝えた。すると琥珀は。

 

「……庶民、関係ない。……正直、苦手。……だけど、僕。……庶民、関係なく、話、くれた。……嬉しかった…。でも、ココ、入って、2人、変わった。……だから……」

 

単語単語な話し方。でも双子はその言葉を普通に聞いていた。琥珀の言葉は続く。意を決して。

 

「……2人、元に戻る、許したい。……でも、直らない、許したくない。……友達、やめたい……」

 

泣きそうな声、言う勇気に震えて目をつぶっている。そして最後の一言の時に、ちゃんと目を開けて意志を伝えた。『友達やめたい』という単語を聞いた瞬間、双子は体をビクッと跳ねさせた。そして双子は同時に目から涙が出てきた。そして交互に言った。

 

『………ごめんなさい……』

 

『この生徒会に入ってから人の圧力に負けて…」

 

「庶民を甘く見るなとか、庶民は生意気だとか言われて…』

 

『でも琥珀はそんな大人や僕らと同じお金持ちでも…」

 

「僕らの見分けができなかったのに、琥珀は…』

 

『僕らを見分けられた。そして見つけてくれた人…』

 

「なのに…』

 

『…なのに…」

 

『嬉しかったはずなのに、いつの間にか抜け落ちた…』

 

『ごめんね、琥珀…」

 

「ごめんなさい、琥珀…』

 

また頭を下げて謝った。体が震えていた。副会長にされて怯えというより琥珀の言葉に怯えている。双子を見分けられる人はそう居ない。俺は名前を知らない。厳密に言えば紹介されたとしとも本人達が居ての紹介ではないから、どっちがどっちか分からない。それでクイズにでもされたら困る。

 

さて、琥珀の決断は?

 

沈黙してる琥珀はまた手に力を入れて口にした。

 

「2人、改心、なら、仲直り。アレ、やって…?」

 

『アレ』に俺が首をかしげていると双子はすぐに立ち上がって準備し始めた。俺は琥珀に聞いた。

 

「今から何するんだ?」

 

「クイズ」

 

あ……察し

 

さっき俺が『クイズにでもされたら』と考えていたら本当に起こってしまった。今回は琥珀が回答する訳だが、もし俺までとかになったらどうするか悩んだ。そしてそんなに経たないうちに双子が帰ってきた。同じブランド品であろう帽子を被っていた。同じデザインで同じ被り方。そしてハモってこう言う。

 

『どっちが季で、どっちが慎でしょ〜?』

 

そして同じトーンに同じ仕草、同じ笑顔。琥珀はなんの迷いもなくこう言った。

 

「右、慎。左、季」

 

『!』

 

「違うよ、僕が季で』

 

『僕が、慎だよ?」

 

「最初、季。次、慎」

 

『!!』

 

『さっきと言ってること逆じゃん……!」

 

「嘘つかないでよ、琥珀……!』

 

「最初、慎。次、季」

 

『…………ブレないなぁ………、琥珀は……』

 

やっていくうちに双子は泣き出した。琥珀はさらにこうも言った。これは俺に対して紹介してくれた。

 

「右、慎、弟。左、季、兄。最初、話、聞いた。いきなり、ゲーム、した。その前、紹介、あった。覚えた。何度、ゲーム、した。違う人、してた。誰も、わからない。僕、疑問、思った。2人、見分けれない、なんで?季、慎、純粋。大人、言葉、揺れた。生徒会、変わった。現在、至る。僕、悲しい…。寂しい、苦しい。僕、庶民、嘘、違う。僕、最初、言った。『お金持ち、庶民、嫌い…』。2人、否定。2人、聞いた。『庶民、関係ない!僕ら、見分ける、凄い!大人、友達、家族、見分けれない。琥珀、初めて!嬉しい!』。………言った…。嬉しい。今、無い…。……うっ……うぅ……ひっく……」

 

要約すると。

 

読みづらい人のために、な?

 

『右が慎、弟で。左が季、兄。初めて会ったのにいきなりゲームさせられた。でもゲームをする前に自己紹介して貰ったから、それで覚えた。きっとまぐれだろうと思って何度もゲームをした。違う人にもしてた。誰もできなかった。僕は疑問に思った。2人を見分けられないなんて、なんで?

 

 

季と慎は純粋。でも大人の言葉で揺れた。そして生徒会に入って変わってしまった。それが今に至る。僕は悲しい、寂しい、苦しい。僕が庶民なのは間違ってない。だから僕は最初に言った。

 

「お金持ちは庶民が嫌い…」

 

だと。2人はそこの言葉に否定した。僕がなんでと首を傾げて聞くと

 

「庶民とか関係ない!僕らを見分けられるなんて凄い!大人も友達も、ましてや家族でも見分けられなかった。琥珀が初めてだよ!嬉しい!」

 

そう言った。そう言ってくれたのに。嬉しいって思っていたのに。今はその気持ちが無い』

 

という事。

 

 

俺の勝手な解釈だがあながち間違った表現は使ってない。そう言ってただろうと変換した。理解できたら嬉しいが、要らなかったらすまん

 

 

泣いてしまった琥珀はそれ以上は何も言わなかった。俺は琥珀の頭を撫でながら双子を見た。涙が勢いよく流れていた。鼻水も出してる。そこも双子ならではだった。双子は下を向いて自分のした事を振り返ってるようだった。俺はレオを見た。レオがため息を吐いてこちらに来た。それから双子にめがけてこう言った。

 

「今回、羽鳥副会長の言葉と会長補佐である密の言葉を素直に聞かなかった責任、それから友達だと偽って琥珀先輩に対しての暴言。さらに副会長が言う『今までの』仕事量を会計の双子が、全てこの一週間で終わらせること。それから、これから増えていくであろう会計仕事をサボることなく、仕事に徹すると誓うのなら俺からの言葉はこれで免除だ。異論は認めん、いいな?」

 

『はい…』

 

「声が小さい」

 

『はい!!』

 

「仕事のことは羽鳥副会長に任せる。『今までの』鬱憤を晴らすチャンスだ。監視を頼んだ」

 

「わかりました、会長」

 

副会長が会計双子を仕事をさせる方向で連れていった後、レオは俺と琥珀に頭を下げた。まず琥珀に。

 

「琥珀先輩、今日はすみませんでした。琥珀先輩は双子と違いちゃんと働いているにも関わらず、双子の対応まで回してしまい本当にすみませんでした。それから、短い期間でしか見てないので今までがどうだったかは、俺にはわかりません。ですが、今日を見てその今までが積み重なってできたものだと、俺は思いました。なので、最初に伝えた通り敬語を抜くことは出来ませんが、これからは琥珀先輩の友達として助けたいと思います。会長という地位ですが、友達になってくれますか?」

 

「!!」

 

長々と謝罪を伝えるレオ。そして正式に友達にならないかと誘った。琥珀は嬉しそうに笑って一言。

 

「うん」

 

これで2人は正式な友達になった。先輩後輩の立場ではあり生徒会の仲間であるが、確かな絆が生まれた。次にレオは俺を見た。そして、琥珀と同様頭を下げた。

 

今回、レオは何も悪いことはしてないと思うが…

 

「密、初日からすまなかった。こんな騒動に巻き込んで。でも、お前がいなかったら収まらなかった。ありがとう。お前にいつも助けて貰ってばかりだ。守ろうとしてるのに逆に守られる。いつになったら俺はお前を守れるのか、まったくわからん。だが、そんなお前だから感謝してる。お前がいなかったら琥珀先輩と友達になることも、あの双子が改心することも、副会長のイライラが解消していくのも、お前がいてくれたおかげだ。本当にありがとう」

 

レオは今の見てきたものに対しての感謝がすごかった。感謝をされることは何もしてない。それこそ、最後の方は俺は無関係だ。

 

「俺は何もしてない。琥珀の件はあるかもしれんが、他は俺の貢献ではない。感謝されたり謝罪されたりするのはいいが、この連鎖が俺のおかげだというのはおかしい。むしろ無関係だ。そこは履き違えるな。友達を守るのは当然の義務だし、義務がなくとも大切だと思ってる奴を守っておかしいか?レオも琥珀も、ここにはいない照も俺にとって大切な友達は家族同様だ。家族は言い過ぎかもしれんがそれと同等に大事だという事だ。守る守られるの関係はその時の場合だけだ。それはその時、何かしらでピンチになった時がその時だ。強いて言うならその時がお前が守りたいと思える時だと俺は思う。恩返しがしたいならその時にしろ。今の状況からして、その話は今の所無関係だ」

 

レオの言葉に否定から入る俺。レオは否定されて少し落ち込む。俺は続けてこう言った。

 

「だが、感謝されるのは嬉しいことだ。俺にとっては造作もないことだが、お前にとっては感謝するに値することなら甘んじて受けよう。どいたしましてだ」

 

そう言うとさっきよりも少し明るくなったレオは、口元を緩ませた。琥珀は俺とレオの頭をよしよしと撫でた。仲直りができたという感覚だろう。それから俺達は時間を食ってしまった分、取り戻すために仕事をした。意外と早く片付いたが双子はまだ帰れそうにないようだ。俺と琥珀、レオは教室に戻った。琥珀は年齢が違うので階段で別れた。俺達は教室に戻ると照が待っていた。

 

「帰ったんじゃなかったのか?」

 

俺が聞くと。

 

「帰るわけないだろ!俺だけ帰ったって退屈なんだよ!密は寮だけど俺はレオと同じ方面の家なの!話し相手がいねぇと面白くねぇの!わかったか!」

 

つまり、寂しいと

 

「密!俺を今寂しがり屋みたいな言い方で思っただろ!それ間違ってるからな!」

 

なぜ、こうも皆俺の気持ちがわかるんだ。顔に出てないぞ、無表情でよくわかるな

 

じゃれあいを終えて、俺達は昇降口へ。目の前にはトシがいた。その横にはSPもいた。2人はペコッと頭を下げて、俺と別れた。俺達は寮の部屋に向かう前に内兎の部屋をノックした。時間をかけずに出てきた。

 

「何か用か?」

 

「このカバンを預かってて欲しい。今からトシの家に向かう。遅くなるかもしれんがそこは許せ」

 

「ちょっ、おい!何しに行くんだ!?」

 

「野暮用だ」

 

「ちゃんと後で説明するなら行ってもいい」

 

「…………………、わかった」

 

「なんだ今の間は!?」

 

「気にするな、それじゃ」

 

俺達は内兎の言葉を無視して昇降口から出た。それからレオに道案内をしてもらいながらレオの住んでた家に向かう。レオが出てたから引っ越してなければという道順で向かってる訳だが、案の定光があった。それから、苗字を確認すると、『狼関』と書かれた板が付いてた。間違いなくトシの家だ。

 

「準備はいいか?」

 

俺の質問に合図をしピンポンと鳴らす。すると若い男の声が聞こえた。俺はトシに変わる。意を決して言葉を吐くトシ。

 

「俺だ。お前と話したいことがある」

 

そう言うと向こうはプツッと途切れた。それから玄関から出てきたのは、多分弟。それから若い女性。多分母親だろう。卑下そうにこちらを見ている。弟が話しかけるより先に、母親が話しかけてきた。

 

「何かご用ですか?」

 

トシを見下すような目で。トシはその目を逸らす。なので俺が話を進める。

 

「そこにいる弟くんと話をしに来ました」

 

慣れない敬語。だが、慣れてなくても常識は常識。学校ではない、他人の家。なら、やるしかない。弟くんは何かを言いかけてお母さんが返す。

 

「俊幸(トシユキ)には何もありません。それに、そこにいるのは誰ですか?うちには兄弟なんてありません」

 

「!!」

 

トシは実の母親からこんなことを言われるとは思ってなかったのか、去ろうとした。それを止めて後ろに立つように目で言った。トシは渋々と苦い顔をしてそれに従った。母親は話が続いてたようでまた話を再開した。嫌味のようなトシを攻撃するような言い方で。

 

「それに、もしこの子に兄がいるならそんな出来損ないで悪いことしたことに自覚のない子なんていりません。その点、俊幸は素直でちゃんとごめんなさいもできる。とても出来たいい子です。素行が悪そうな人と一緒にしてもらいたくないです。不愉快です」

 

俺は母親の言葉より弟の顔を見てた。自分が褒められてる時、普通は嬉しがるはずなのに複雑な顔をしていた。その顔は罪悪感があると言う表情。母親が邪魔で本震が言えないようだった。俺はまた話した。

 

「それは変ですね?例えばの話なのにそこまで的確に言えるなんておかしいです。少なくともそれをトシの顔目がけて言ってるなんて変です。まるでトシに言ってるかのようです。それに俺はずっとあなたの言葉を聴きながら弟くんを見てましたが、褒められてるのに複雑そうな顔してましたよ?普通は喜びますよね?なのに喜んでませんでした、それよりもなんだか言いたげな顔をしてました。それも、おかしいですよね?」

 

そう言ってニコッと笑うと顔を歪む母親。しまったという顔だった。詳しくそこまで言うつもりはなかったようだが、何かを思い出しそういう質問だったと思い込んで答えてた。母親は口をつぐんで睨む。

 

「それに俺は驚きました。俺はそこまで教えて貰えるとは思わなかったので。俺は『弟くんと話をしに来た』と言っただけで、そこまで飛躍するとはと。それにここにいるトシめがけて言ってましたが、あなたにとっては『赤の他人』ですよね?例えるのにめがけ言うのはおかしくありませんか?『赤の他人』なのですから、誰だってよかったと思いますよ?例えば、俺に目がけてでもあったはずです。それなのにトシ1人に目がけて言うからびっくりしてしまいました。まるで、見てきたかのような口ぶりでしたね?」

 

ぐっと言う声が聞こえた気がした。歪んだ顔と悔しそうな顔が入り交じっている。この好機を逃さない俺はつかさず弟くんに話しかけた。

 

「弟くん。いや、この場合トシとは『無関係』なんだから『俊幸くん』が正しいか?トシとは兄弟の関係じゃないもんな?それに母親の言いなりになって何も言わない。男として情けない。今も複雑そうな顔が出ている。トシに何か話したいんじゃないのか?例えば、『謝りたい』とか」

 

「!!」

 

トシと同じ反応。双子なんじゃないかってくらい似てる。はやり兄弟で間違いはない。そう思った。すると弟くんが言葉を発しようとした瞬間、母親が乱入した。

 

「私の息子にひどいことを言わないでちょうだい!どこの学校の子?それとも警察を呼ぼうかしら!?近所迷惑なのが分からないの!?というかあなたに何がわかるの!?何も知らないくせに!!」

 

「何も知らないのはむしろ、あなたでは?」

 

「何!?」

 

俺は母親の言葉に少し怒りを覚えた。弟くんが話そうとしたのがわかってか、邪魔をした。何かを隠すように、俺は敬語なんて言葉を忘れて我で話す。

 

「あんたが何を知ってるんだ?自分の息子をいかにも1人だと言わんばかりに。何も見てないのはあんただろ?近所迷惑だと言うなら、あんたの声の方がでかい。それに警察?どちらかというと、こっちの方が有利では?俺達は俊幸くんの『友達』だと言って、渡しす物を届けに来たのにいらないと母親に言われたと言われたら、俊幸くんが恥をかくのでは?それを許さないあんたのプライドが許さないのでは?」

 

「っ!!!」

 

正論を言われ言い返せない母親。俺は弟くんの顔を見て。

 

「お前もだ。お前歳はいくつだ?トシといくつ違う?」

 

「3歳違い…」

 

「なら、高校生か」

 

「う、うん…」

 

「それこそ、情けない。お前からして俺を何歳だと思う?」

 

「えっ……、僕よりも年上では……?」

 

「お前が17なら、俺は16だ。この前、入学式をした」

 

「えぇっ!?」

 

「俺よりも年上のお前がこんなに弱くてどうする?しかも年下にこんな風に言われて恥ずかしくないのか?母親に匿ってこれからも生きていくのか?親のレールを歩いて生きていくのか?親が死んだら何も出来ない子供のままでいいのか?それなら、ちゃんと自分の足で自分の手で、自分の口でどうにかしろ。お前はどうしたいんだ?何がしたい?」

 

そう言うと口をつぐむ弟くん。母親が息子を守ろうと乱入しようとした。

 

「あなたね!?私の息子にそんな言い方するなんて、いい加減にっ… !!」

 

「お母さん!!」

 

「!?」

 

「少し黙ってて。僕が話したいの。お母さんに僕の兄ちゃんみたいに出来損ないだなんだって言われても構わない!でも、今言わなきゃずっと後悔するから!だから、お母さんはそこにいて。動かないで!」

 

「俊幸!?」

 

弟くんはお母さんの手を振りほどいてこちらに近づく。俺はトシを弟くんの前に立たせる。俺は逃げないように後ろに立つ。トシは戸惑いながら弟くんを見る。目は泳いでたかもしれない。それでも弟くんは謝罪をしてきた。

 

「ごめんなさい、兄ちゃん!あの時兄ちゃんのせいにして!僕がやってしまったことを兄ちゃんに全部押し付けて、兄ちゃんのせいにさせちゃって本当にごめんなさい!お母さんに見つかって怒られたくなくて、とっさに言った嘘がまさかこんなことになるとは思ってなくて、兄ちゃんを追い出したのは全部僕のせいなのにっ…、ずっと謝りたかった!でも、兄ちゃんのいる場所なんてわからなくて…。ずっと後悔してた…。今日、兄ちゃんが来てくれて嬉しかった…。僕、兄ちゃんのこと好きだったから出て行っちゃった時すごく寂しくて、名前呼んでも帰ってこない声ってこんなにも辛いだって初めて知って…。お母さんには『あの子はあなたの兄じゃない。他人よ』って言い聞かせられて、そう思い込むしかなくて…。でもいつか、兄ちゃんに会えたらちゃんと謝りたいって思ってて…」

 

弟くんは長年に渡る自分の気持ちを殴り書きのように言った。トシは背中からでも感じるほど泣いてた。それは感動のものなのか突っかかりが取れて漏れ出たものだったかは知らない。ただ分かるのは泣くのを我慢するように震えていること。トシも弟をどう思っていようと、好きで心配してたのはあるだろう。嫌いだったとしても泣くことは無いから。トシも言葉を吐く。

 

「………ずっと苦しかった…。帰る家があるのに帰れない、このことがあったせいで学校に通っても卒業できないほど不良の道に進んじまった…。この歳になっても未だに高校2年。けど、やっと前に進むための心の拠り所を掴めた所だ。お前と同年代になるまでずっと喧嘩三昧。そんなことしてればお前に追い抜かれてたかもしれない。それもこれもこいつのおかげなんだ。お前に紹介したいと思ってて、俺の居場所を作ってくれた人だ」

 

トシは俺を前に出させて紹介した。詳しくという訳じゃないが、俺への感謝が伝わる。

 

「寮のルームシェアしてる年下だが、俺の居場所や俺に前を向かせてくれた人だ。俺はこいつが居たから、やっていけるって気がした。ずっと殻の中にいた俺だけど、それを壊して手を差し伸べて引っ張ってお前の所に連れてきてくれたんだ。意気地無しな俺はずっと避けてて、お前に会うのが嫌だった。この家に近づくのも嫌だったから。けど、前に進むのに壁や邪魔が入るくらいなら取り除いた方がいいって言われて、無理矢理だったけどここに来た。本当に無理矢理だったけど、後悔はない。お前に会えて、お前が俺に謝罪してくれて、嬉しかった。心のトゲが取れたように、今楽なんだ。母親はまだ俺にとっては近寄りたくないトラウマだ。見るだけでも苦手と思うほど、鳥肌が立つ。そして生理的に無理だ。それくらいあの時のことを引きづってる。母親は無理でも、お前には会いたかった。お前…、いや俊幸に会いたかった。俺の兄弟はお前だけだから」

 

「兄ちゃん、名前…!?」

 

「俊幸が良いなら、名前で呼びたい。また前のように呼びたい。だ、ダメか…?」

 

トシの提案。弟くんは目を輝かせながら全力で頭を振る。それから弟くんは。

 

「今の学校、正直楽しくないんだ…。お母さんが決めてくれた所だけど友達ができなくて、それどころか平均点や偏差値が高すぎて僕にはついていけないんだ…。頭がいい人達がたくさんいすぎて、話しかけられなかったりするし…。お母さんには笑顔でどう?とか聞かれるから嘘を言うしかなくて…。すごく息苦しかった…」

 

それを聞いたお母さんは震えていた。自分の息子がここまで出来損ないだとはと思ってるみたいだった。俺はそんな母親に言われる前に弟くんに提案した。

 

「それなら、俺達が通う学園に来るか?」

 

「学園…?」

 

「聞いたことはあると思うぞ?お金持ちの集まる『獣帝都学園』、人間は入れない唯一の学校。トシと同じ狼の生まれ変わりなら入れる学校だ。一般人は少ないが、お前の通う所よりは息苦しくないと思うぞ」

 

「『獣帝都学園』って……あの名門校!?そこに兄ちゃんも君も通ってるの!?すごくすごーく有名な所じゃないか!!しこも偏差値も馬鹿にならないくらい高いって…、お金持ちしか通えないような所に」

 

「俺もお前の兄貴も通ってる。トシの実力ならあそこの偏差値は屁でもないが、俺はギリギリだった。ギリギリ入学できた程度だ。一般人でも入れる場所だし、兄弟と言うならお前もそういう学校に通ってたなら知識があるうちにこっちに来るのがいいと思う。家からの通いが嫌なら、寮暮しもいいと思う」

 

魅力的な誘い。弟くんは今すぐにこっちに行きたそうだった。すると母親が弟くんを腕を引っ張り、家の中に入れようとした。すると勇気を出したトシが母親目がけて言った。

 

「そうやって無理矢理自分の鳥籠の中に、弟をしまって出さないように、飛び出そうとしないように囲うのは親としてどうなんだ!息子が大事なのはいいけど、自由を奪う権利はあんたにはないはずだ!俺を『赤の他人』だと思いたければ思えばいい!だが、俊幸を縛る理由にはならない!あんたの行為は虐待と同じで監禁なんだよ!俊幸も人間だ!『赤の他人』である俺と同じな!楽しくない学校に通わせて何が「どう?」だ!答えづらい顔して俊幸の言葉で満足するようなやつだと思わなかった!可哀想な母親だな!」

 

トシは真っ直ぐな目で母親を見ながら言う。弟くんは目を輝かせながら母親の手を振りほどきそして。

 

「お母さん、ごめんなさい!でも僕はあそこに通うのはもう嫌だ!たとえ僕のために出してくれたとしても、僕はあそこに通っても何の成果も出せない。お母さんの期待に応えることが出来ない。だって僕は兄ちゃんじゃないから。兄ちゃんみたいに頭よくないから!本当なら兄ちゃんが通うはずだった学校だから!僕はそんなに頭が良くない、いっぱい頑張ったけど勝てない!だから、僕はここを離れて兄ちゃんの所で学ぶ!それこそ頑張らなきゃいけないかもしれないけど、兄ちゃんが通うはずだった学校は僕には荷が重すぎたので、辞めます!お金は働いた給料でお母さんに返します!なので、ここを出ていきます!」

 

弟くんは自分でそう言って家の中に入り、急いで支度してきたのか荷物が多かった。もしかしたらあらかじめ用意してたものかもしれないが、それが今日になったのかもしれない。鞄を持って母親に。

 

「独断で決めてごめんなさい!親不孝者でごめんなさい!手続きはもう済ませてあります。だから、学校のことは気にしなくていいです。今日までありがとうごさいました。それではさようなら、お母さん!」

 

嵐のような出来事に母親はただただポカンとしていた。何が起こったのかわからないという感じだ。柵の外へ出た弟くんはお母さんに頭を下げてトシの腕を掴み歩き出した。そして、俺もその勢いと一緒に歩いた。去り際にトシの母親を見た。ずっと座りながらポカンとしててずっとあのままだった。俺は振り返るのをやめて学園のある方へと向き直した。

 

主、主の仕事を取って悪い。だが、片付いた。拗ねられせることをしてたらすまない。トシもトシの弟もとても幸せそうな顔をしてる。それで許してくれ

 

俺はそう思ってるとトシに話しかけられた。ついでに弟くんにも話しかけられた。

 

「密、弟を寮に連れていくのはいいが良しとするか心配なんだが…」

 

「そこは俺が説得する」

 

とりあえず内兎に話をつけるしかない。それと、理事長には明日にでも会えるようにしてもらう。そうでもしないと弟くんの行き場がない。

 

「あのー、えっと…」

 

 

「あぁ、俺は腐獅密だ。獅子の生まれ変わりであり、百獣の王の血を継いでる。……本当は俺ではないが…」

 

まだちゃんとしたことを言ってなかったので、俺は自己紹介をした。本当なら主がするのだが仕方ない。

 

「え?」

 

「いやなんでもない」

 

ボソッと言った言葉はトシには聞こえてしまったが、弟くんにまで気を遣わせるのは良くないと思い否定。話が変わるように弟くんはハッと気がついた。

 

「というか獅子の生まれ変わりって凄いことじゃ…」

 

「俺よりも力が強くて適わない。だから、まともに相手をしない方が命の危険にはならない。覚えとけ、俊幸」

 

トシが弟くんに忠告をしていた。俺に関わると死ぬみたいな言い方だった。

 

触るな危険みたいな器物発言はやめていただきたい。トシ、後で覚えとけ

 

俺はトシにギロッと睨むとトシは背筋をピッと伸ばし、肩をビクゥッと跳ねさせた。弟くんはキョトンとしていたが、トシが俺を見て汗をダラダラとかいていた。俺はスンッとした顔で見る。話題を変えるように俺は弟くんに話しかける。

 

「弟くん」

 

「はい。……あっ、自己紹介!僕は狼関俊幸と言います!狼の血は兄ちゃんの方が色濃いけど、僕も少しは持ってるつもりです。僕は人間よりなので…。あ、名前で呼んで貰えると嬉しいです」

 

「なら、俺も俊幸と呼ぶ。いつか話すが、名前をあだ名で呼ぶ日が来るかもしれん。その時はその時でよろしくな」

 

「?……はい、わかりました」

 

またキョトンとしながら了承してくれた。

 

弟くん改め、俊幸と呼ぶ。よろしく

 

それから俺達は学校内にある敷地へと足を踏み入れ、それから寮へ向かった。内兎いる部屋を叩くが応答がない。まだ寝る時間ではないはずなので、『ゴンゴン』と叩く。それでも応答がないので、俺はスマホを取り出し電話をかける。それからトシに目配せをして俊幸の耳を塞ぎそれから。内兎か電話に出た。

 

『ふぁい…?』

 

「俺だ」

 

『おれぇ?オレオレ詐欺かぁ?かえれぇ…』

 

「………。ここを開けないと、お前のアレを暴露するぞ。確かあれは初めてここに来た時にお前の弱点h」

 

ブツッと電源を切って『バンッ!』と扉を開いた。とっさの判断力が早い。息を切らしながら涙目で見つめる内兎。俺は真顔でスマホをしまい、トシに塞ぐのを辞めさせ俊幸を前に出させる。内兎はそれを見て俺とトシを交互に見る。そしてとりあえず中に入れてくれた。中は凄まじく汚かった。

 

主が前に見たよりゴミ屋敷に…

 

「内兎」

 

「は、はい!」

 

「座れるようにゴミ屋敷をどうにかしろ」

 

「あ、はい!!ただいまぁ!!」

 

ササッとゴミを避けて座れる所を確保した。俺はそうじゃないだろという感じでこめかみをグリグリとすると、涙目でごめんなさいと言ってきた。とりあえず後でお仕置きをするとして、今は本題に入る。

 

「内兎。お前に頼みがある」

 

「うぅ…な、なんだ…?」

 

「俊幸、トシの弟を一晩だけ止めさせてあげて欲しい。明日には理事長に話をつけるつもりだが、住む所がない。ルームシェアだからベッドが2つしかない。そうなると1人は床で寝ることになる。そうなると体を痛くさせる。それはあまりにも可哀想だ。どこか空いてる場所があるなら、そこに1日だけ住まわせてあげて欲しい。できれば危なくない部屋が良い」

 

俺は理由を言わずに条件だけを押し付けて話を進める。苦い顔で内兎は否定をしてきた。

 

「それはさすがに無理だぜ…。満たんという訳じゃないにしても俺の独断でそれは決められな」

 

「わかった。しかたない。さっき起こったことを理事長に報告をするしk」

 

「わかった!!危なくない場所は1階の7号室だ!!1番奥なら怪しまれずに住むだろうし、猫澤先生以外はあんまり使ってないから安心だと思う!!これでいいかよっ!?」

 

「よし、あと俺達のカバンと鍵を」

 

「ほらよっ…!」

 

半ば脅しでなんとかこぎ着けた。内兎から鍵を貰ったトシは俊幸を連れて部屋の方へ向かってもらった。俺は内兎にここのゴミ屋敷をどうにかしないと理事長に言うと言って、ゴミ屋敷になってる部屋の掃除をさせる。理事長が来た時に辛いのは内兎だからと。涙目になりながら掃除をしていると、トシが帰ってきた。明日までに終わってなかったら言っておくと言って内兎を残して、俺達は自分達の部屋に向かった。

 

「そういえば、朝はどうする?」

 

「俊幸を飯に招く。それくらいなら許されるだろうからな。その時はお前が迎えに行ってやれ」

 

「わかった」

 

鍵を開けて中に入りカバンを部屋に置いて、服やらを持って風呂場に向かう。するとそこにトシもやってきた。俺は風呂に入るために全裸になってる所に入ってきたので、キョトンとした。トシは歳柄にもなく、顔を真っ赤にして去ろうとしたので。

 

「一緒に入るか?」

 

と誘った。すると、トシは断ることが出来ずに頷いて、全裸になった。それから中に入り各々シャワーでやることをやって湯船に浸かる。風呂場が思ったより広くて、初日に入った時こんなだったかと思い返してみる。が、覚えてないので考えるのをやめた。まもなくしてトシも湯船に浸かった。温かくて気持ちがよかった。ふぅーっと息を吐くと、トシが俺に近寄り話しかけてきた。俺は極楽と思いながら聞く。

 

「き、気持ちいいか…?ご主人…」

 

「あぁ、気持ちがいいな。トシは?」

 

「き、気持ちいい…」

 

「そうか。それは良かったな」

 

「あ、あぁ…」

 

歯切れが悪い。しかも、若干顔が赤くなってる。早くものぼさてしまいそうだった。

 

「のぼせそうなら早めに上がれよ?」

 

「わ、わかった…!」

 

そういうが固まって動けなそうだった。俺はトシの顔をじっと見つめると、もっと顔を赤くした。そして。

 

「お、俺もう出る!のぼせそうだからな。また後でな!飯の用意して待ってるから!」

 

そう言って風呂を出た。俺は「あぁ」と返事をしてから、もう少しだけ湯船の中にいた。しばらくして、風呂から出て体を拭き私服に着替えてリビングへ。ご飯の用意をするトシ。ちゃぶ台の前に座りながらトシを見つめると、集中してるはずのトシの耳が赤い。

 

さっきから顔を赤くしたり耳を赤くしたりと大変だな

 

俺はトシを見てながらそう思い、しかし見てても飯が出てくるわけじゃないのでスマホを取り出してできるまで見ていた。ほぼ、主の趣味であるBLの小説や漫画しかなかったがそれを見て暇を潰した。しばらくすると、出来たのかちゃぶ台に置かれて行った。

 

「今日も美味そうだな?」

 

「ある物で作った即席料理だけどな…」

 

だが、この完成度は褒めるべきだろう

 

「即席料理だったとしても、完成度の高い料理を作れるなら御の字だ。それに精神的にも疲れてるはずが、ここまで出来るのはさすがだと俺は思う」

 

「……………」

 

俺はいただきますをして食べ始める。褒めすぎて顔を真っ赤にし固まるトシ。俺は追い打ちをかけるように俺は言う。無自覚な俺だからこそ言えるのかもしれないが、トシにとっては恥ずかしいことだったかもしれない。鈍感はどこまで行っても鈍感だ。

 

「やはり、お前のような嫁がいたら毎朝が楽しみなんだろうな。これだけ美味しい飯が食えるのは、活力にもなる。それか、誰かの夫になった時とか専業主夫にもなれるだろう。仕事から帰る嫁を支える役目にもなれるとは、できた夫だと思うしな。そうだと思わないか、トシ?」

 

俺は飯を食べながらトシを見ると、頭から湯気が出ていてのぼせたような顔つきだった。そして一言。

 

「……ずりぃ……」

 

と言われた。俺がキョトンとしながらトシを見つめる。トシの話は続く。おぼつかない声で。

 

「……どう思うかなんて、俺がわかるわけないだろ…。そんなこと言われたことも、これからだって言われることなんてないと思ってたわけだし…。褒めてくれるのはスゲー嬉しいと思ってる…。ただ、その後が耐えられないくらい恥ずかしいことを言われた…。それ以上言われたら俺、どうにかなってしまいそうだぞ…ご主人…」

 

どうにかなる、思ってもみなかった言葉を言われた時に自分の気持ちがわからなくなった時とかに使われることもある。あとは手に負えないだとか興奮だとか、様々な言い方はあるがトシはどれも当てはまらなかった。他のことは思いつかない。

 

恋愛や色恋沙汰などのことは、主じゃないからわからない。それにそういう類は疎い。学びたい所だが好意を向けられてもわからないような俺ではどうしようもない。トシの気持ちがわからないと言ったら怒るだろうか、気まずい雰囲気になったら主は怒るだろうか

 

どうするべきなのか悩んでいると、トシが見かねて教えてくれた。かなり顔を真っ赤にして教えてくれた。

 

「だ、だから!ご主人はそんな気で言ってるわけじゃねぇんだと思うのは、わかってる!けど、傍から見たら告白じみた事を言ってんのがわかんねぇのか!?朝だってボソッと言った言葉なのかもしれねぇけど、俺にはちゃんと聞こえたしあれは口説き文句だぞ!!」

 

朝?俺は何か言ったか?

 

朝の出来事を振り返ってみた。セリフも一緒に思い出す。もしかしたら俺の何気ない言葉が、トシにそう言わせてるかもしれないと思って。

 

朝は普通に飯を食ってた。美味しかったから美味しいと言った訳だが、何をそんなに慌ててるんだ??

 

俺はふと思い出したことがあった。会話はそこまで覚えてないが、一言だけ思い出した。

 

『お前が嫁なら毎日お前のご飯が食べたいな』

 

これか?何か変か?

 

俺はふと思い出した言葉をそのまま口にしてみた。答え合わせのように。

 

「お前が嫁なら毎日、お前のご飯が食べたいな?」

 

「!!!!」

 

ブワッと全身を真っ赤にするトシ。パクパクと口を金魚のように開ける。ビンゴのようだ。

 

「この言葉がなんなんだ?」

 

ビンゴだったとしても俺にとっては何気ない一言。トシがこれに対してどんな反応を見せようが、俺にはわからない。だから、聞いてしまう。

 

「………っ…!……それが、口説き文句だって言ってんだ!!」

 

そう言って飯を置いて部屋に入るトシ。俺の何気ない一言がトシを追い詰めていた。そのことに気づいても後の祭り。俺はゆっくり飯の方へと首を向き、1人で飯を食べ始める。全ての料理を食べたら、トシの分はラップで付けて冷蔵庫へ。それからトシの部屋の前に行き、謝罪をする。

 

「トシ、そのままでいいから聞け。俺の一言でお前を苦しめていたのなら謝る、悪かったな。俺は恋愛や人の色恋沙汰には疎くてな。主と違って鈍感なのかもしれない。それに対して無自覚にお前を翻弄させていたのなら、もう忘れてくれていい。気まずい雰囲気にさせたら主に怒られるかもと思っていたが、既になってしまった。俺にはあの言葉の意味も、お前の言う口説き文句もわからない。主の知識を使ってるわけじゃない、だからわからない。お前がどうして顔真っ赤なのかもな。だから気を悪くさせ、嫌な思いをさせてしまったのなら本当にすまなかった。飯はラップを付けて冷蔵庫へ入れて置いた。腹が空いたら食べろ。それから、俺はもう何も言わない。お前の機嫌を損ねたのだ、今更俺に何かを言う権利はない。感想を言っただけでもお前にとって窮屈になるのならもう言わない」

 

俺の蒔く種は、救えないような花が咲く前に萎れる品だったようだ。トシが良い例だ。

 

「俺は人に嫌われやすい人格なのかもしれないな。常に正しいと思って主を守ることや人助けをしていたが、とんだ間違いを犯していたようだ。誰とも話さない方が皆のためになるのかもしれない。とはいえ、もう関わりを持った人とは難しいかもしれんがな。それに俺は偽りだ、主ではない。主のように行動するべきじゃない。俺は今、そう思った。口は災いの元と言うからな、勘違いさせてすまなかった」

 

謝罪をし俺はそろそろ眠くなってきたのでお開きすることにした。

 

「そろそろ寝る。おやすみ、トシ。また明日な。お前はいつものようにしていればいい。もう気にする必要も、忘れてくれていいことも、な。ではな」

 

俺はトシの部屋から離れ自分の部屋へと赴いた。それから主にまだ良しとしていないので、ドアに鍵をかけ、布団の中へ。そして目を瞑り、主に話しかける。

 

主よ、俺は思ったことを実行してしまうタチの悪い人格のようだ。俺自身そんなつもりは全く無くとも、俺と関わる者は皆悪い方へ行ってしまう。今回もやってしまったようだ。主が善なら俺は悪だ。主のように器用ではないから、そうなのかもと思ってな。案の定、トシを違う意味で泣かせてしまい怒らせてしまった。築いてきた信頼を無くしてしまったかもしれない。すまない、主。不甲斐ない俺ですまない…

 

主から離れ深い眠りについた俺。その後は夢を見ることなく眠り朝になるまで起きなかった。

 





今回も長く書きました
文をまとめるのは難しいですね…
それこそ僕には向いてるかもしれないですけど…
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