※この作品はR-18です。

獣帝都学園   作:HAL

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不穏な空気の中、主ではない俺に更なる試練が

 

 

 

雀の鳴き声で起きる俺。目には涙が浮かんでいて、それでいて腫れていた。寝てる最中に泣いていたのかもしれない。俺は欠伸だと装うためにとりあえず1回欠伸をした。隣では明るい声が聞こえた。もしかすると、もう俊幸が来ているのかもしれない。俺は頬をパンッと叩いて、目を覚まし鍵を開けて部屋から出る。そしてまた鍵を閉める。その動作を見てた俊幸が驚いていた。

 

「えぇ!?鍵かけてるんですか!?」

 

「あぁ、改造してな」

 

あるじがやったとは言えないので、俺がしたことにする。今は主の存在を知られても困るので、俺がしたことは嘘だがこの体がやったのは本当なので普通に。トシは俺の顔を見てもすぐ逸らし、飯の支度をする。俺は何も気にすることなくちゃぶ台の前に座る。俊幸が箸を用意してくれたようだった。

 

「はい、腐獅くんのです」

 

「俺の事は呼び捨てでもいい。呼びやすい方で」

 

「あー、じゃあ密くんで!いきなり呼び捨てはハードルが高いので、それで…」

 

「わかった。それでいい。敬語も使わなくていい」

 

「えっと、それはまだ難しいかもです…。身内ならともかく、初対面の相手もそうですが親しくなっても敬語は抜けきれなくて、このままの方が楽というか…」

 

「……、ならそのままでもいい」

 

「!…ありがとうございます!!」

 

という会話をしていたら運び終わったので俺達はいただきますをして、ご飯を食べる。

 

やはり、美味いな

 

だがそれを口にしてしまえば昨日の夜の二の前なので、俺は無言で口に運ぶ。代わりに俊幸がトシを褒める。身内からなら変に思わないだろうと。

 

「兄ちゃん、こんなに美味しいもの作れるなんて知らなかったよ!どうやってやったの!?魔法!?」

 

この世界に魔法はないが、そう思ってしまうくらい美味しかったのかもしれない。俺もそう思う。

 

「ま、魔法は言い過ぎじゃないか?俺はこれでも独学だ。一人で生きていくしかなかったんだ、自炊もしないといけないし…」

 

「あ…」

 

その言葉でシリアスに。話を変えるように俊幸は明るく話した。

 

「で、でも!美味しいのは本当だし!これ毎日食べれてる密くんが羨ましいと思うくらいだし!」

 

「なら、昼以外の飯はここで食べるか?」

 

「えっ!?いいの!?」

 

「お前分を作るのに支障をきたすことは無い」

 

兄弟の会話。まるでレオや照を見てるようだった。レオも親が蒸発して一人暮らし、だが飯を作るの上手かった。

 

あれはまだ教えてもらったりレシピがあったりしたから作れたと言ってたな。主の記憶だが

 

照も俊幸のようにはしゃいでた。嬉しそうにしてたなと思い出す。それをここでまた観るとは思わなかったが、俊幸がいて良かったと思った。俺は食べ終わりごちそうさまをして片付けて、部屋に戻った。

 

理事長に伝えないといけない

 

理事長に電話すると今日は繋がった。

 

『もしもし』

 

「もしもし」

 

『要件は何かな?』

 

「トシ、狼関俊之輔の弟がここにいる。ここの編入を許可するためにそっちに行きたい。話をする時間はあるか?」

 

『午後からは用事があるから、午前中であればいいよ。待ってるね?』

 

「あぁ、また後でな」

 

そう言ってお互い切る。部屋から出て。

 

「俊幸」

 

話しかける。

 

「はい?何ですか?」

 

「支度を終えたら理事長のいる所に案内する。その時はトシも同行してもらう。身内がいた方が心強いだろうからな。それと、案内が終わったら俺は教室に戻る。これでも、1年だからな。出席するためにも担任に話もしなくちゃならん。だからそこは頼んだぞ」

 

俊幸に話をしながらトシにも伝える。

 

「わ、わかった」

 

変に思われないように短く了承してくれた。それから俺とトシも支度をし、俊幸の部屋に行くべく部屋に向かう。鍵はちゃんと閉めてから。

 

確か1階の7号室だったな。カズが2号室、近いな

 

「トシは俊幸の支度を手伝え。俺は担任が居る部屋のところに行く。まだ寝てるかもしれんがな」

 

「わかった」

 

そう言って俺は別行動をした。『コンコン』と叩く。するとすぐに『ガチャ』と開く。

 

「誰だ?」

 

「俺だ」

 

「!…ちょ、ちょっと待ってくれっ…!」

 

ドアを閉めて鍵を開けて中へ招かれた。俺は中に入り、ちゃぶ台の前に座る。カズは正座をして頭を下げる。何か悪いことでもしたかのような顔だ。

 

「何か悪いことでもしたのか?」

 

「い、いや、なんか…、ご主人様の顔が怖……あ、いや…えっと……優れないようなのでどうしたのかと思って…」

 

隠しきれていなかったがそこは保留。俺の目付きが悪かったのかもしれない。

 

「それはすまなかったな」

 

怒られると思ってたのに謝られて拍子抜けするカズ。俺はそんなことよりも本題に入る。

 

「これから理事長の所へ行く。ただの案内だからすぐに終わるが、HRには間に合わないかもしれない。何せあの長い廊下だ。走っては行けないとなると遅れるかもしれない。それを踏まえて伝えとこうと思った」

 

「えっ、ご主人様も行くのか?俺も呼び出されてんだ。理事長に。午前中であればって言われてるから支度してたんだが、ついでに一緒に向かうか」

 

「……、わかった。なら、俺達のことは他言無用な?」

 

「察したら、わかった」

 

「それでいい」

 

話し合いは終わり部屋からカズと出てくると、ちょうど来たであろうトシも俊幸がいた。カズはそれを見て俺にグッと親指を立てた。トシも俊幸もキョトンとしたがそんなことより、理事長室へ向かう。SPの人にこれから理事長室へ向かうと、伝えると後ろから着いてきた。カズは後ろを気にしながら職員室を通り過ぎ、理事長室に向かう通路を歩く。カズがヒソヒソと不意に話しかけてきた。

 

「あのSP、スゲーな。教師が避ける。教頭が見たら殺到するんだろうが、俺も初めて見たからビックリだ。あれが噂の狼関を守るSPかって。ただ見守るSPでも、教師が引き締まるって言っててな。間近で見るのは初めてだから、俺も恐縮する…」

 

「理事長室にもいる。補佐としてだが、秘書が不在だからな。仕方ない」

 

「な、なるほど…??」

 

わかってないのは俺がはぐらかしてるからだ。あの牢屋の話をすれば、秘密がバレる。あと、トシにSPがいることはもう知ってるはずだからそこの説明もいらない。見るのは初めてでもだ。

 

俺にはそういう感情がないだけだが

 

さて、長い通路が終わりやっと理事長室。俊幸は少し疲れてるようだ。俺は『コンコン』と叩く。

 

「どうぞ」

 

と言われたので中へ。3人も入る。

 

「理事長、俺はとりあえず案内だけだから。あとはトシに聞いてくれ。それじゃ」

 

「ん、わかった。ありがとう。ああそうそう、密くん」

 

「なんだ?」

 

「放課後にここに来てくれるかな?ちょっと気になることがあるから。それと今日の感想も教えてくれると嬉しい」

 

「??……わかった」

 

意味がわからなかったが頷いて理事長室を後にした。それから教室へ向かう。この時間はまだ人はいない。俺は自分の席につき、主の小説を読む。少しでも学ぶためにも、BLの全てをしれなくとも主の気持ちが分かるのではと。

 

トシの気持ちもわかるかもしれない

 

やらかしてしまったことはやらかしてしまったこと。気持ちを知らなくては向き合うことなどできない。誰かに聞くのも必要だが、今は1人で学べることを学ぶ。そしてわからなくなったら聞く。その方針で小説を読んでいる。そして気がついた頃には人が集まり、レオと照が話しかけてきた。

 

「熱心に読んでるな?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「それはアイツのか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「それでわかんの?何か」

 

「わからん。だが、これしかない」

 

学ぶのに教科書はない。この小説が教科書代わり。

 

「そろそろHRが始まる。今日は転校生が来るんだと。確か、理事長の甥だとか」

 

「そうか」

 

ん?理事長の?てことはもしかすると…

 

俺は主より先に体験することになるのかと思っていると、カズが来た。席に座るクラスメイト。

 

「HRを始める前に、転校生を紹介する。すでに知ってるやつもいるかもしれんが、理事長の甥だ。失礼のないようにな。では、入ってくれ!」

 

カズに言われた通り、入ってきた。見た目クールのようなやつだった。

 

「自己紹介頼む」

 

カズに言われて転校生は答える。

 

「鬼塚誠(オニヅカ マコト)。鬼の生まれ変わり。理事長の甥。以上」

 

「とりあえずお前は1番後ろの鬼樣の隣に座れ。空いてる席がある所だ」

 

「わかった」

 

口数が少なく謙虚だ。そして。

 

「イケメンだ…」

 

「カッコイイな…」

 

「俺様っぽくないか?」

 

「絵になるなぁ…」

 

周りが言うのだからそうなんだろう。俺はとりあえず学ばなきゃいけないことが増えた。

 

イケメンとか俺様とかよくわからんな…

 

「HRを始めるーー」

 

特に行事はないようだ。

 

まあ、そんな日も経ってないしな

 

別の行事は凄まじかったが、それも心と体が休めれば大丈夫だろう。しかし、何故か俺はとても心がざわざわしていた。なぜだか分からない。転校生が来たことは別に特別な気持ちはない。ただ、嫌な予感がする。

 

 

 

この時に感じた俺の予感は、的中する。そして一日疲れるはめになった。主に火の粉が振りかからないだけマシだと思えばなどと、甘い考えを持ったばかりに。

 

 

 

HRが終わりに差し掛かったところで。

 

「それから学校案内を腐獅、頼めるか?」

 

「わかった」

 

承諾した。HRが終わった後、俺は立ち上がり転校生に話しかける。

 

「学校案内するが、行くか?」

 

「………、あぁ」

 

品定めされた気分だな、一瞬

 

転校生も立ちあがり、俺と転校生は廊下に出る。まず教材を取りに行く前に、とりあえず覚えといた方がいい所を教えようとした瞬間、転校生が消えた。

 

「…………」

 

消えた。方向音痴か?

 

キョロキョロと見て、小説を見ていると。

 

「探した」

 

「お前の姿が見えなくなったからここで待ってた。どこへ行ってた?」

 

「立ち止まってたら見失った」

 

「何を見てた?」

 

「壁」

 

壁が気になるのか?おかしな奴だな

 

「これから食堂に向かう。道がわかってた方がいいと思うからな。そこに行くが、他に何か見たいものはあるか?」

 

「人間」

 

観察か?

 

「それは歩きながらでも出来ると思うが?」

 

「止まってた方がわかる」

 

「ちなみに誰を見たい?」

 

「お前」

 

「なら、歩きながら見ててくれ」

 

「わかった」

 

それからこういうことが続いた。興味を示した者や動く物に目を向けては、消える。最初は探さずに待っていたが、一向に帰ってこないため探しに行くと庭にいたり花を見ていたりチョウチョを見ていたりと前に進まない。まだ食堂にすらたどり着かない。

 

「そんなに気になるのか?」

 

「あぁ」

 

「学校案内はいらないか?」

 

「いる」

 

「なら、行きたいんだが?」

 

「わかった」

 

さっきからこれの繰り返し。何かを見つければ興味をそちらへ向け、前に進まない。こんな時、主なら強引にするんだろうが俺にはできない。そういう性格でもないから。するとそこに、風紀委員が通りかかった。

 

「貴様らここで何をしてる?」

 

「学校案内」

 

「…には、見えないが?」

 

「かれこれ30分、案内できてないからな」

 

「それはどうなんだ…」

 

「学校案内をさせてくれない」

 

「えっ…」

 

「見ていればわかる」

 

そう言って俺はまた同じやり取りをした。転校生が一目風紀委員を見て、すくっと立ち上がり歩き出した。それからすんなり食堂へと行ってくれた。

 

さっきのグダグダ加減はなんだったのか

 

「なんだ、ちゃんと聞いてるじゃないか」

 

「嘘は良くないぞ、貴様」

 

「嘘は言っていないがな」

 

「出来ているのに嘘と言われても説得力ないぞ」

 

確かに。それを言われると反論できない。そして巡回の途中だと言って、風紀委員はどこかへ行った。次は保健室に向かうと伝えると、またあのグダグダが始まった。なんなのだろうかと見ていると、また風紀委員に会った。今度はさっきとは違う者達だった。

 

「そこで何をしてる?」

 

「学校案内」

 

「授業をサボってまでか?」

 

「まだ終わってない」

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

「保健室」

 

「なら、さっさと行けばいいだろう?」

 

「一向に進まない」

 

「はぁ?」

 

また同じように転校生に言う。そしてまた保健室まで歩いた。俺は意味がわからないと顔を傾げる。

 

「ちゃんと着いたでは無いか」

 

「一向に進まないは嘘だったな?」

 

「嘘はついてない」

 

「しかし、現について行ってるぞ?」

 

「本当のことなんだがな…」

 

「早く終わらせ授業に出ろ」

 

そう言って立ち去った。次は職員室に向かうことにした。保健室と職員室まで一本道だ。興味を引くものは何も無い。そう思っていたが。

 

今度は戸棚か…

 

戸棚の中にはトロフィーやらが入っている。ガラスケースの中でもいいが、外にも置かれている。だが目と鼻の先なのに、また前に進まない。少し歩けば止まり、少し歩けば止まりの繰り返し。

 

そろそろ疲れてきたな…

 

そこに教頭が現れた。俺と転校生を見てしかめっ面になった。そして生徒に対してでも嫌味を言ってきた。

 

「こんな所で何をしてるのかね?」

 

「学校案内」

 

「どこへ向かう気だったのかね?」

 

「職員室」

 

「それなら真っ直ぐ行くだけで着くだろうに?」

 

「さっきから止まって進まない」

 

風紀委員と大差ない返しをしていると。不意に関係ない話までしてきた。

 

「ふーん。……と、貴方はもしかしなくとも1年猫組の猫澤先生のクラスの子ですかな?」

 

「そうだが?」

 

「教育がなってませんねぇ?今授業中なのに、サボりだなんて…。これは重罪ですよ?学生は学問習ってなんぼだと言うのに、こんな不良生徒が彷徨いてるなんて考えたくもないですねぇ?そして、貴方はあの狼関くんのルームシェアだと聞いてますよ」

 

誰情報だ?

 

「狼関くんは20歳を過ぎてもまだ、この学園に通ってるそうですねぇ?恥ずかしくないんでしょうか?不良と喧嘩をして謹慎処分になったにも関わらず、未だに卒業もできないとか可哀想に。早く解放されるといいですねぇ?」

 

それはもしかしなくとも、俺に言ってるのか?

 

トシが言うようにこの教頭は頭がイカれてるようだ。

 

「というか、早く消えてくれませんかねぇ?卒業なんて別に受けなくても、人生の汚点が出るだけで何も減りません。まあ、もっともその汚点という名の卒業証書がなければ就職も大学も行けませんけどね?ギャハハハハハ!!!」

 

俺はブチッとキレた。俺が口を開けた瞬間、転校生に遮られた。

 

「なぁ、あんた」

 

「ん?誰のことを言ってます?」

 

「俺の目の前にはあんたしか居ないだろ?」

 

「もしかしなくとも私に言ってます?年上に向かってその態度はなんです?ちゃんと敬語を使いなさい。まったく、親の顔が見てみたいですね?」

 

「親はここにはいないけど、叔父ならいる」

 

「親に見捨てられたんですか?それはお可哀相に…」

 

「生きてる。勝手に殺すな。それから叔父はあんたも知ってる人」

 

「私の知ってる人ぉ?誰です?」

 

「この学園の理事長」

 

「へ?」

 

「俺は理事長の甥」

 

「へ?ちょっ、待ってください…!?」

 

「鬼塚誠。この名前、知らない?」

 

「!!!!鬼塚って……あの有名な家電会社の!!?しかも、その御曹司!!?」

 

「そう」

 

そんなに有名なのか。俺は知らんな

 

「そ、そんな御曹司様が、何故ここに…?」

 

「転校生」

 

「へ?」

 

「学校案内してもらってた。色々見てて興味惹かれる場所だなって思いながら見てた」

 

困らせてただけに思えたがな

 

「けど、その学校でも汚い物見つけた」

 

「そ、それは…?」

 

「あんた」

 

「なっ…!!?」

 

言い切ったな

 

指で教頭を指す。それから。

 

「今さっき聞いた話、俺の叔父に伝えとく。ボイスメモにも残しといた。だから、言い逃れはできない」

 

「お、お待ちください!!?お許しくださいっ!!」

 

「それと、俺あんた嫌い。だから、俺の会社の家電買わないで。そう伝えとくから。羽虫陣三郎(ハムシ ジンザブロウ)教頭」

 

冷たい言葉で放ち、俺の背中を押してその場を離れた。俺はポカンとした顔で教頭を通り過ぎた。

 

教頭の名前ってそうだったのか…。知らなかった

 

「職員室はここだな。次は?」

 

「……………」

 

「おい」

 

「ん?あぁ、次は屋上だ」

 

「わかった」

 

そしてすんなり屋上へ。屋上へ行くと1回目の予鈴が鳴った。1限目が終了した。ここまで来るのに1時間もかかったようだ。俺は疲れて壁側に座った。転校生も座った。あの教頭で精神苦痛を与えられたせいもある。それと、転校生の扱いについても。

 

今の状態を主が受けたらと思うと、精神苦痛で済まなかったな。あそこで俺もキレてしまうくらいなら、主なら記憶が消えるほどの騒動が出たかもしれん。ある意味感謝だが、ある意味疲れた…

 

俺は転校生に聞いた。

 

「転校生」

 

「鬼塚誠」

 

「鬼塚」

 

「誠」

 

「…………」

 

「…………」

 

話が進まない。本題に入る。

 

「なぜ俺の時はグダグダと時を伸ばし、他の者達と行った時はすんなりだったんだ?」

 

「そんなつもりは無い。興味が出たから見てた。それだけだ」

 

「嘘をつくな。学校案内など30分もしないうちに終わる。猫澤先生の案内は30分もかからなかったくらいだ。それを興味が出たから寄り道をする理由にはならない。ましてや、花やチョウチョなどいくらでもいる。それに興味を持ち立ち止まるというのは犬だ」

 

「俺は犬の生まれ変わりじゃない。鬼だ」

 

「知ってる。最初に聞いた。そういうことじゃない」

 

埒が明かない。このやり取りだけでも30分はかかっている。俺に『面倒くさい』という感情が出るとはとびっくりしている。ため息を吐くと。

 

「ため息吐くと、幸せが逃げるぞ」

 

誰のせいだ、誰の

 

ツッコミをしたいが俺はそう言う性格をしてないので、何も言わない。ただ面倒なだけだからと。

 

「お前、名前は?」

 

「腐獅密」

 

「腐獅密…」

 

「獅子の生まれ変わり。初代百獣の王の血を継いでる」

 

主が、だが

 

「獣の王様…」

 

「あぁ」

 

全てのと言っていいかは最中ではないが、動物達は皆主を恐怖心で見てる。そういう意味では間違ってないのかもしれない。

 

ただ、虫や妖怪は動物ではないのでそこは否定する

 

「なんて呼べばいい?」

 

「呼びたいように呼んでくれ」

 

「なら、密」

 

「1つ言っておく」

 

「ん?」

 

「いつかお前をあだ名で呼ぶ時がある。その時はよろしく頼む」

 

「?」

 

「言ってる意味がわからなくとも、後々知る」

 

「………、わかった」

 

この説明も、何度もやると板につく

 

自己紹介が終わると屋上に来た者達がいた。風紀委員だった。また違う。

 

今日は風紀委員に出くわす率が高いな

 

「腐獅」

 

「腐獅くん!」

 

どうやら鷹田先輩とロウのようだった。巡回の途中かと思った。そして先程の風紀委員と同じく。

 

「ここで何をしてる?」

 

「学校案内が終わったから休憩してる」

 

「え!?1時間も!?」

 

「さっき来たばかりだ」

 

「サボりか?」

 

「さっき来たばかりと言ってる」

 

「でも学校案内で1時間もかかるなんて相当だよ?」

 

「グダグダしてたからな。あと教頭にも」

 

食堂までの道のり、保健室までの道のり、職員室までの道のり、そして屋上までの道のりを話した。2人はそれを聞いて納得したような顔で。

 

「あぁ、あの巡回してた仲間の証言か」

 

「嘘をつく1年がいると言ってたアレね」

 

「嘘はついてないんだがな」

 

「でも、今の話の流れでもその時はちゃんと道に沿って行ってたんでしょう?」

 

「あぁ、そうだが…」

 

「それなのに自分達がいた時はできていたっていう話なら、どちらを取るかって言えば嘘をついてるとしか思えないだろうね…」

 

ムッ、なんだ?そっちを信じるのか?

 

「どちらも嘘をついてないという事だ。巡回してた仲間の話も、腐獅の話もどっちもな。ありのまま話したことだ。間違った情報ではない」

 

「僕達は別に、君の話を否定してるわけじゃないよ?ただまあね、僕達もそれに遭遇してたら同じように思ったかもねって話なんだ。腐獅くんが嘘をつくような子じゃないって知ってるけど、ね。みんな君のことを疑うのは当然だよ。あの事もあるし」

 

あの事…、ロウにしでかしたことか

 

「信用してないんだと思う。まあ、僕もどっちかって言うと信用してない。狼が泣いてる姿を見てるんだ、信用も信頼もなくなった君に信じる心なんてないよ」

 

なるほどなと思った。なら俺が何か言えた義理ではない。現にやってしまったのは本当なのだから。

 

「でも、狼だけは真実を聞くって言って飛び出したんだ。それで僕も一緒に行ってここにいるの」

 

ロウが真剣な目で俺を見ていた。

 

「風紀委員の仲間を疑うことはしてないが、真実を見極めるのも風紀委員長の務めだ。腐獅の話が本当なら、俺はどちらの意見も間違ってない。よって、お前達はサボってることにはならない。そう報告書にも書く。それからお前の隣にいる奴は理事長の甥だな?」

 

「あぁ」

 

「あまり腐獅を困らせるな。休んだら授業に出ろ。初日からサボり判定されたくないだろ?」

 

「………、わかった」

 

その返事を聞いてロウ達は屋上を出ていった。シーンと静まりかえる屋上。やっと心が休まると思いきや、今度は大きく『バンッ!』と開いた。扉に近いのでビクッと少し震えたが、誰かわかると目をつぶる。そこに来たのは。

 

「「密!」」

 

レオと照だ。1時間も帰ってこないから心配で来たのだろう。

 

「さっき、風紀委員長に会った。事情はわかってる」

 

「ホッとしたぞ!学校案内で1時間も来ないとか!何かあったんじゃないかって!」

 

「あぁ、すまない」

 

2人は俺の一言を聞いて一安心。すると転校生が2人に質問した。とても突拍子もない事だ。

 

「2人は密のなんだ?」

 

「あ?」

 

「幼馴染みだが?」

 

「2人は密のこと、好きなのか?」

 

「ん?」

 

「どういう意味だ?」

 

「なんでもいい」

 

「まあ、好きだぞ?」

 

「あぁ、好きだな」

 

物好きだな。まあ、それも主人に対してだな

 

「友情?恋愛?」

 

「んん?」

 

「友情だが?」

 

「そう」

 

なんだろうか、この質問の応酬は。なんの意味が?

 

「俺、密のこと好き」

 

「それはどういう…?」

 

「恋愛」

 

「は?」

 

「え?」

 

「む?」

 

「うん」

 

まだ何も分かってない俺にいきなり告白か?これは告白でいいのか?カミングアウトでは??

 

頭の中が混乱してよくわからない。2人も俺もポカンとしていた。転校生は話を続ける。

 

「だから、取らないで欲しい」

 

「この短期間でか?」

 

「あぁ」

 

「どこが好きなんだ?」

 

「全部」

 

「具体的には?」

 

「今はまだ全部だ」

 

「うーん…」

 

照は頭を傾げて考える。レオは即答で。

 

「認めない」

 

「何故?」

 

「俺達は幼馴染みだが、同時に保護者でもある」

 

「認めてもらうには?」

 

「俺たちの信頼も勝ち取れ。そして、密の好きな所をあげれるようにしろ。それから、この学園は恋愛ご法度だ。つまり、恋愛禁止。それを直談判できる所は、お前の叔父に当たる理事長だ。まず、理事長にその気持ちを伝えろ。次に俺達。最後は密だ。密の気持ちも知らずに、OK貰えたと思うな。以上だ」

 

「…………、わかった」

 

俺の知らない話が進められた。照は俺の頭を撫でながら苦笑いで。

 

「頑張れよ、密…」

 

他人事のように言った。それは言われても俺にもわからん。それを丸投げされても困る。とはいえ、なんだかレオ達が見えない雷みたいなのを振りかざしてるので、俺はその中に割って入る。

 

「何かよくわからんが、俺の知らない所で話を進めないでくれ。俺自身、よくわかってない。ただでさえ、昨日もやらかしたばかりだ。……それに、本調子ではない。だから、頼むから…休ませてくれ…」

 

レオと転校生の間で話してると、クラッとして倒れそうになった。咄嗟にレオが支えてくれたので我に返り、ありがとうと言って屋上を出る。が、頭が痛くて仕方ないので保健室に寄った。

 

『ガラガラ…』

 

「ん?腐獅じゃないか、今日はどうした?」

 

保健室か、無事にたどり着いたようだ…

 

「ちょっと……休ませてもらっ……」

 

バタンと倒れた。遠くから聞こえる声が次第に聞こえなくなり、その後意識が飛んだ。

 

 

 

夢の世界へ。

 

ーーここは?……あぁ、いつもの主の部屋か

 

「…………」

 

ーーどうした主?目覚めたか?

 

「…………」

 

ーーまだ話すことは出来なさそうだな

 

「…………?」

 

ーーん?俺か?俺はあんたのドSスイッチから生まれた、もう1人のあんただ。名前が無いので主の名前を借りてる

 

「…………」

 

ーー気を悪くしていたらすまない。主が寝てから俺がこの体を使わせてもらってる。だが中々に、日常は難しい。俺の話を聞いてくれないか?

 

寝起きの主に俺は近づき話し出した。主が寝てからの出来事を、記憶喪失案件以外のことは全て話した。だんだん目が覚めてきた、主は起き上がり話を聞いてくれた。言葉はまだ話せそうにないが、最後まで聞いてくれた。

 

ーーということがあって、今俺自身パニックだ…。主の許し無しで、何かをすることは許されてない。だから、どうしようか悩んでる…

 

「…………」

 

ーーさっきも話したが、転校生。あの転校生に告白のようなカミングアウトをされた。俺としては好意を向けられるは嬉しいし、喜ばしいことだが主と違って恋愛に疎い。だから、今日初対面で対応も出来ないのにどう立ち向かえばいいか…

 

「…………」

 

最終的には俺の悩み相談になってしまった。話せない主に話した所で何も帰ってこないと知りながら。

 

ーー主の小説を拝借し学んでいるが、やはりよくわからない。チャレンジ出来たらよかったのかもだが、主の体でそういうのはしたくない。ましてや、俺の感情で主を巻き込みたくないというのも理由の一つだ

 

「………」

 

ーーもし、主が話せるようになったらそういう相談もしたい。リハビリにもなるだろうしな。……そろそろ目覚めの時らしい。またいつでも呼んでくれ。頻繁は困るが主が呼びたい時に。それではな、主

 

「………」

 

去り際に手を振ってくれた気がした。フッと笑って俺も夢から覚める。有意義な夢だと思った。

 

 

 

これが二重人格の始まりで、その後、病院で出される病名の『解離性同一性障害』と保健室で診断されることになるとは、今の主も俺も伝わるまで知らない。

 

 

 

うっすら目を開けると、そこには松野空がいた。本を読んでるようだった。何やら顔を赤くしているが、何を読んでいるのか。俺は何か言おうとして頭がキーンと痛くて、おでこに手を置くと。

 

「おっ?起きたか?おはよう、腐獅」

 

「………、松野、空……」

 

「先生な?ちゃんと『先生』を付けろ?まあ、それはさておき、ちゃんと眠れたか?おでこを触ってるってことはまだ頭が痛いのか?話せるようなら何があったか言ってもらえると助かるが…」

 

目を開ける動作はまだ楽だが、口を開けて喋ろうとする二日酔いを体験してるかのような頭の痛さが出る。お酒は飲む歳ではない、今は学校内だ。飲んでたら即怒られてる。だが、頭がそれくらい痛い。

 

「内容が話せないなら、今頷いたり振ることは出来るか?最小限でいい。無理に振る必要も無い。できるのであれば、俺の質問に答えてもらいたい」

 

そういうことならと頭を小さく頷く。松野空先生にいくつかの質問をされた。頭が痛いのは見てわかる通りだが、他の痛みを聞いてきた。いわゆる、風邪の疑い。どこの保健室の先生でもやる診断形式。俺は頭以外、痛い所やだるさを感じるようなことは横に振った。熱も測ってみたが正常。今の俺にはそれぐらいしか、答えることが出来ずもう少し寝かせて様子を見ることになったらしい。俺もなんだか眠かった。

 

どうしてここまで眠かったのかはわからない。だが、事実眠かった。昨日は寝れなかった訳じゃないが、ちゃんとした睡眠は取れたかは微妙。まあ、昨日は色々あったからな。一昨日くらいに俺が目ざめ、怒涛の追い詰めが激しかった。今日は生徒会の仕事はできない。レオもちゃんと伝えてくれてるだろう。後は理事長室…。少しでも回復したら行けるだろうか…

 

俺はそのまま何も食べずに眠った。そして目が覚めた時には放課後だった。隣には照とレオ、それから琥珀。後は来るとは思ってなかったトシと、俊幸。それに加えて、理事長と転校生がそこにいた。見舞いだろうとは思うが、人数が多い。しかし、眠ったおかげか少しは楽になった。起き上がるまでには回復していた。俺は理事長達の方を向いて聞く体勢になった。

 

「さて、大丈夫かい?密くん」

 

「あぁ、寝たらそれなりに治った」

 

「それはなによりだ」

 

照達は心配そうに俺を見てる。理事長が続けて俺に質問をしてきた。

 

「さて、今日甥が迷惑をかけたと言う話を聞いた。すまなかったね?」

 

「いや、いい。怒ることでもない。疲れはしたものの気分転換にはなった。一昨日からプチ波乱万丈な生活だったからな。今日はまだ可愛いものだ」

 

「そうか、なら良かったよ。嫌な気持ちになってないか、心配だったものでね。もう感想のようなものだが、今日1日の感想を聞かせてくれ。半分以上は保健室だろうから、甥との感想だけでもいい。聞かせてくれるか?」

 

さっきも話したが気分転換にはなった。それは本当のことだ。多分それ以外のことに対して気になってるんだろう。迷惑をかけたこと以外で。

 

「そうだな。短期間と言えないほどの短期間だが、転校生の行動は協力性や社交性には向かない。それから初対面に対して何も知らないうちからすぐに、自分の気持ちを言うのもいい場面もあるが、今回の場合は悪い場面にしかならない。初対面の相手にもよる。今回は俺だったからまだ許されるだろう。だが、他はどうだろう。俺ではない立場の奴を例えに出すとしたら、照ならイライラするだろうし、レオなら言い合いになる。トシには取り巻きもいるからそこで喧嘩が発生するだろうし、俊幸に至っては来たばかり。戸惑いが隠せずどうしたらいいかアタフタする。さらに琥珀は仕事する上なら申し分ないかもだが、俺よりも時間がかかるだろう。教師は時間が惜しい。よって、俺が1番の適任者だ。それに関して今回は運が良かった」

 

今いるメンバーで考えてみたら結果的には俺の方がスムーズに事が進む。名前を言われた奴は各々納得している。苦笑いする者もいた。自覚があるからだ。

 

「ただ、傍から見れば授業が始まってるにも関わらず学校案内に時間をかけて『サボり』と思われるのは癪だ。もちろん、昼休みの時間にやるとかもある。そこら辺の配慮が足りなかった俺も悪い。だが、過程を見てない者が言う言葉もまた間違いではないから怒っても仕方ない。そういう意味では10分、15分で終わる案内を1時間もグダグダしていれば俺のような長い目で見れる奴でもキレる。俺はそういった感情は乏しくてあまり出さないが、ちゃんとした感情を持ってるやつに対してはやらない方がいい」

 

短時間でここまでのことが言えるのかと、メンバー全員が驚いてる。

 

「……と、思った。ネガティブな話をしてしまったが、俺が思ったことだ。その後は風紀委員長がちゃんと分かってくれたから、それに関しては不問だ」

 

転校生が俺話を聞いて少し顔を俯かせた。俺は語るので夢中になってて気づかなかったが、自分の行いを少し反省してるようだった。

 

「デメリットしか言ってないが、1つだけメリットもあった」

 

ネガティブな発言の中でのメリット。俺は転校生に目がけて話した。

 

「転校生、お前に職員室の行き方を教えようと連れてきた際に教頭との話した件があるだろう?一方的にトシの悪口しか言わない教頭目がけて、知り合いでもなんでもないトシのために守ってくれてありがとう。本当は俺が言わなきゃいけなかったが、俺自身血が上りに上ってて我を忘れる所だった。それを察したわけじゃないかもしれんが、トシのことも俺のことも助けてくれてありがとう。1時間もかかった学校案内だが、それだけは俺にとっては救いだった。お前がいなかったら教頭を半殺しではすまなかったかもしれない。それくらいキレていたのでな、ある意味止めてくれてありがとう。ありがとうという言葉しか表せれないのが悔やまれるが、それが俺にとってのメリットだ。正直あれはスカッとした。前々からトシから聞かせてもらってたが、実際聞くのとでは全然違う。だから、お前がいて本当に助かった。ありがとう、鬼塚誠」

 

頭を下げ感謝を述べ、それから顔を上げて口元を緩ませ笑う。転校生はそれを見て顔を赤くした。俺はキョトンとしながら周りを見ると、みんな俺の顔を見ずそっぽを見る。頭を傾げていると、理事長が話した。みんなを代表してだと思う。

 

「そんな短時間の間でそんなに評価をしてくれたか。やっぱり密くんは密くんだね。中身が代わってようが代わっていまいが関係ない。私の知る密くんも今の密くんも、私はとても高評価だ。甥のためでも甥に対してもそこまでの評価を出した人はいない。ましてや、デメリットしかないと私もそう思っていたがメリットもあるなんて、嬉しいことを聞いた。それを踏まえて、先程の甥が言ってきた『恋愛ご法度』の話なんだけどね?」

 

その話を聞いた周りのメンバーが一斉に理事長を見た。理事長がゴホンと咳払いをし俺を見て話す。

 

「もちろん、恋愛ご法度は代々を継ぐ上でもずっとあるルールだ。私のみでなんとかなる話ではない。だが、そうだね。密くんはまだ恋愛の『れ』の字も知らない子だ。だから、密くんに対しての恋を抱くことは許可しよう。ただし、密くんがときめいたりドキッとするようなことがないと恋愛というのは始まない。ましてや、多分密くんは自分を隠してる。それをも引き出せるほど親密にならない限り、恋は実らないし保護者もいる。そして、密くんの気持ちも成立して初めて恋人だ。道のりはそう簡単ではない。密くんが告白を断ればそこで終了、というわけじゃない。恋愛というのは敗れても敗れても諦めない精神が重要。それを勝ち取れた人が密くんと恋人になれる」

 

熱く語る理事長。難しすぎて頭を回してる者もいるだろう。簡単に説明すると。

 

 

理事長が『腐獅密へ』のみ恋愛解禁

↓

恋愛を知らない『腐獅密』に恋愛教授(実践あるのみ)

↓

保護者の同意(レオと照)

↓

告白して『腐獅密』を勝ち取る

↓

恋愛成立

 

 

……という事だと俺は思う。今の流れで合ってるかは俺自身もわからない。だが、理事長の言いたいことはこういうことだと思う。これでも難しかったらすまん…

 

 

「どう密くんに教えるかは各々の自由。でも密くんが拒否したことを、無理矢理やろうとしたらその時点で失格。そして、その時点で密くんへのアピールも終了。恋愛も終了。これでなら、恋愛ご法度を取ることもないのでいいアイデアだと思うんだよね♪そしてこれは、あくまで密くんに対して恋愛感情を持った人のみが許される話。他の人は今まで通り恋愛ご法度だから、関係ないからね?」

 

ニコッと俺以外を見て言う。その笑顔は少し凍りついた顔で見てるので、ビクッと震える。俺自身はあんまり怖いと感じないのでキョトンとしていたが、自分かもしれないと思うやつはビクッと震えた。

 

 

 

というか、主の知らない所で話が進んでしまった。これを聞いたら、主に怒られそうだ…。なにせ自分ではなく周りならともかく、自分への色恋沙汰だ。意地でも認めないだろう。しかも、主と違ってまず恋愛がわからない。そんな俺を口説くというのだから至難の業だが、それをも越えようとする奴がいる。主のために阻止をしてあげたいが、どこまで持つか…。主よ、俺はこれからどうしたら良いだろうか…。教えてくれ…

 

 

 

そんなこんなで夜も近いということで、お開きに。松野空先生からは、また明日昼休みに来るように言われた。もしかすると、何か言われるかもしれない。それを承諾。そして、理事長から俊幸も寮に住むことを許可、さらに鬼塚誠も寮に住むことになった。とはいえ、部屋番は変わらないしルームシェア相手も変わらない。俊幸と鬼塚誠は同じ部屋に住むことになった。それに対してトシは安全性重視で部屋番だけは要求した。自分の弟に何かあったんじゃ遅いからと。

 

弟を心配する兄としては、妥当な判断だろう。それから、ちなみにこれから転校生ではなく鬼塚誠と呼ぶ。まだちゃんと本人からなんと呼ばれたいか聞いてないのでな。正式に決まったらそっちに移行する

 

それから、俺達は寮へ。照とレオも家に帰り、理事長も理事長室へ。各々帰っていく。

 

ちゃんと松野空先生にお礼も言ってから出たがな

 

内兎から鍵を受け取り、言われた所の番号へと足を運ぶ。鬼塚誠は少しムスッとしていたが、理事長の決めた番号に足を運んだ。俺とトシは何も口を聞かずに4階へ。自分の番号の部屋に着き、鍵を開けて中へ入る。それから風呂に入るために準備をし、昨日のように鉢合わせにならないように聞いた。

 

「風呂はどうする?先に入るか?」

 

「あ、いや、…いい」

 

ぎこちない。歯切れが悪い。それもこれも昨日の俺のせいだ。だから、しかたない。

 

「そうか、わかった。なら先に使う」

 

そう言って俺は先に風呂を済ませる。やることを終えて湯船に浸かる。そして今日の反省。

 

まさか、頭痛くなった上に倒れそうになるとは…。めまぐるしく日々が過ぎていくから疲れているか?それも明日の昼休みでわかるのかもな

 

そう思いながらゆっくり時間をかけて湯船に浸かる。するとそこに、トシが入ってきた。顔を赤くして来たので、俺はこの風呂が暑いから顔を赤くしてるんだと思いトシに聞く。

 

「どうした?後ででよかったのでは?それに暑いんだろ?顔が赤いぞ?」

 

俺もお湯の中に入ってるからというのもあって、顔が赤い。それはみんな思う火照りだと思う。すると、トシが思いがけない誘いをしてきた。

 

「ご主人のせ、背中を!あ、洗ってあげたいと!…お…思いまして」

 

勢いよく言ったその言葉は何を意味して言っていたのか、俺にはわからなかった。だから普通に返してしまう。

 

「背中はもう既に洗ってしまったが?一緒に入らんって言ったからな。湯船に浸かる前にしたぞ?」

 

ガーンという効果音が聞こえるほど、トシはしゅんとした顔になった。ただ全裸にもなってまで入ったわけだし、そのまま出るのも変だと思ったトシはシャワーで洗い始める。俺は今の『背中を洗う』という意味を考えていた。

 

男同士だから恥ずかしがる必要は無い。だが、トシは顔を赤くしていた。そんなに恥ずかしがることなのか??………、もしかして昨日と関係が?

 

そう思い改めてトシを見る。シュンとした顔とため息混じりの音が小さく聞こえた。俺はバシャーと湯船から出た。その音にびっくりしたトシは肩をビクゥッと反応しながら後ろを振り向いた。真後ろに俺がいてさらにビックリしている。俺はキョトン顔で。

 

「背中を洗ってくれるんだろ?」

 

風呂場によくあるイスに座って、トシを下から見る。トシは慌てて俺に質問した。

 

「え、えっ?!既に洗った後では……!?」

 

「洗ってしまったのは事実だ。だが、好意を無駄にするのは良くない。お前が洗ってくれるというのなら、それを断る理由にはならない。それに、顔を赤くしてまで言った言葉だ。年下に対して、まして主人に対してなら恥ずかしくもなる。それにまだ確証がない、俺の出せる思考はこれくらいだ。間違ってたらすまん」

 

俺は先程のトシの言葉を考えての発言だった。トシは一瞬どういうことかと考えたら、自分の行動が主人がそう思うのも一理あると理解しそしてため息を吐いた。どうやら、俺の思考案は間違いらしい。ため息を吐くということは正解ではなかったということだ。

 

ふむ、なかなかに難しい…

 

それから先に進まないので、とりあえずトシは俺の背中や体を洗ってくれた。なんだか奴隷のように動く。考えすぎなのかもしれんがそう見えなくもない。トシの表情は入ってきた時と同じく顔が赤い。これだけで汲み取るのは難しい。主のように知識が豊富であればよかったが、そこは無い物ねだり。そう思った所で何も得られない。俺はトシに聞いてみることにした。

 

「トシ」

 

「は、はい…!」

 

「何故顔が赤い?」

 

「っ!!?」

 

ガバッと顔を上げるトシ。

 

「さっきからずっと顔が赤いからな」

 

「き、気のせいです…!」

 

目を泳がすトシ。

 

「トシ?」

 

「さっ、さあ!まだ洗えてないので!次は足を洗いますね!」

 

ぎこちないがのらりくらりとかわす。俺はずっとトシを見つめる。その視線を感じるトシは焦りからか、ゴシゴシと洗い始める。痛いと感じてきた俺は一言。

 

「もういい」

 

「っ!?」

 

無我夢中になってたトシは、その言葉に青ざめながら顔を上げる。

 

「質問に答えないことはまだ許す。言いたくないんだろうと深くは追求しないつもりだ。だが、主人の肌を赤くするくらい強く洗うならもうしなくていい」

 

「ご、ごめんなさいっ!!ご主人っ…!!」

 

「まだ途中だが洗い流すか」

 

「ま、待ってください!!ちゃんと優しく洗いますからっ、もう一度チャンスをください!!次はこんなことにならないようにしますっ!!」

 

必死に謝罪し懇願するトシ。俺はその言葉に1度は許し、また再開させた。言った通り今度はしっかり優しく洗ってくれた。シャワーも優しく洗い流してくれた。そして終わりの合図を言う瞬間、俺は遮った。

 

「ご主人、終わりま」

 

「次は俺がお前を洗ってやる」

 

「へ?」

 

「交代だ。さっさとしろ」

 

「え?あ、はいっ!」

 

俺の勢いに負けて座るトシ。しかし後からハッと気づいたが、もう遅かった。俺はシャワーでもう一度トシの体を洗う。トシは俺の手が体に触る度にビクンと反応する。時々声が漏れていたりした。石鹸の泡で背中を洗う。最初は緊張と戸惑いと警戒をしていたトシ。しかし、俺の洗い方が気持ちがいいのかそのうち。

 

「ああぁー、気持ちいぃー…」

 

と、おじいさんが言いそうな発言が出た。20歳くらいだと、やはり出てしまうのかもしれない。ちなみに主も出す時がある。だがその時はもっとオッサンぽいと女性に言われてしまうかもしれない。

 

そうじゃなくとも男女問わんかもしれん…

 

背中を洗い思った俺はトシの耳元で。

 

「次は腕だ。腕を伸ばせ」

 

「っ!!?」

 

いきなり現実に戻ったみたいな顔で、顔を赤くしながら言われた通り腕を伸ばしたトシ。シャカシャカと洗いながら、時々トシを見る。すると、唇を抑えて両太ももをモジモジさせていた。両腕を洗った俺はまた。

 

「次は胴体だ。洗いやすいようにしろ」

 

「は、はぃ……」

 

首、肩、脇、胸、腹、横腹というように洗う。どこかの部位では体をビクンビクンさせながら耐えていた。チラッと見ると口元をグッと噛みながらまた耐えていた。それを見ながら洗ってあげる。荒い息を吐きながら時々俺に視線を向けていた。気づいてないフリをしながら次は何も言わずに太ももを洗い始めた。

 

「ひっ…!」

 

びっくりしたのか声に出た。俺は何も気にせずに洗う。太もも、膝、膝の後ろ、足首、足という順番で洗う。それをもう片方にもやる。今さっきの声が出た瞬間、抑えがきかなくて声の漏れ具合が最骨頂だった。

 

「……ひんっ…あっ…アッ……んっ……ふっ…うぅっ…」

 

声を抑えようにも抑えのきかないくらい感じてしまってるトシ。トシの息子もピクピクと震えてる。普段ならくすぐったいと思う気持ちのみだが、どういう訳か電撃が走ったような感覚に戸惑うトシ。俺はその様子を見ながら止めようとはしなかった。

 

「……ご、こしゅ…じん……っ……、こ、この……ままっ……だ、と……んぁっ……。……イ……くぅ……っ…」

 

俺はただ洗ってるだけ。そして泡タオルで触ってる。それに工程的には興奮する要素は洗ってない。からの全て工程を終了した。なので、シャワーで洗うと。

 

「あっ…!あああああっ…!!」

 

『びゅるっ、びゅるっ、びゅるるるっ!!』

 

と、トシの息子から白い濁った液体が出た。ただシャワーで泡を洗い流してるだけなのに。出し終えた息子を綺麗に洗った後、のぼせた顔で俺にすがった。俺もシャワーで洗い流した後、風呂を出た。タオルで自分を拭いてからトシの体を拭いてあげた。それからうちわで頭から首にかけて仰ぎつつ、俺は着替えた。しばらくボーッとしてるトシを看病してると、ハッと気がついたトシがガバッと起きた。ここはという顔でキョロキョロしていると、勢いで横を向いたら俺がいたのでギョッとして後退り。狭いわけじゃないので、幸い物に当たることは無かったが。

 

失礼だな。人を化け物のように見て驚くとは

 

トシの行動にムスッとするとまたハッとして、正座をしそして。

 

「ご、ごめんなさいっ!!ご主人…っ!」

 

直ぐに謝罪してきた。自分の行動が不快に思わせたと思ったトシは慌てたのだ。それから。

 

「昨日はすみませんでした…っ!あれから考えてみて、ご主人に悪い所は一つもなくて俺の早とちりでっ!しかも、恋愛と主従関係は違うのにご主人の何気ない言葉に対して、なんかよくわからない気持ちのまま勘違いして…っ!俺もよくわかってなかったくせに責めて…。今日の話を聞いて俺は何やってんだって思い返して、そんで確かめて確信したけど逆にご主人の手を煩わせて…」

 

風呂場の出来事と昨日や今日の保健室での話やらで、トシの頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。言いたいことがまとまりついてない。落ち着けばトシもそれなりにちゃんとできる。だが、頭がボーッとしてる状態なために上手く俺に伝わらなくて暴走しかけている。ただ、謝罪したいという気持ちだけは伝わる。

 

「なら、1つ聞く」

 

俺は深く追求しない代わりに質問した。

 

「トシの言う確信とは?」

 

昨日も含めて風呂場で何を確信に至ったのかだけ聞きたいと思った。俺自身も当事者だ。聞く権利はある。トシはそれを聞いて顔を赤くし俯いた。

 

「他は追求しないがこれだけは聞かせてもらう」

 

逃げ場を無くしたトシはボソッと話した。あんまりにも聞き取れない声だったので、顎をクイッと上げてトシの顔を見る。トシはビクッと震えてさらに顔を赤くする。それから。

 

「……ご主人のことが好きになりました……」

 

あの転校生である鬼塚誠にも好意を向けられている。その上、ルームシェアのトシにも向けられた。一つ屋根の下に2人もいる。俺はどう答えたらいいのかわからず、ありきたりに「そうか」としか答えれなかった。全く恋愛がわからないがために告白のようなことを聞いても俺にはどうすることも出来ない。

 

ましてや、この体の主はどうなる??俺がもし主の許しもなくそんなことになってしまったら、俺は主の騎士として出てるはずなのにそれはどうなんだ??

 

トシが続けてこう言った。

 

「お、俺が好きになったのは曖昧です!ご主人の秘密は知ってますし、ご主人の主である密様のことも考えないといけない!ただ、俺としては気持ちを伝えたかっただけですっ!なので、俺の好意はご主人の主に害をなす行為です…!どうか、忘れてください!」

 

必死さも伝わる。俺の気持ちを汲んでそう言ってくれてる。そう思うと感謝しかない。俺は体が動くように優しく抱きしめた後、離れて口元を緩ませながら言う。この行動も無神経だと知らずに。

 

「ありがとう、トシ。俺の状態も曖昧だからな。お互い様だ。だが、好意は好意だ。無下にはできない。俺はまだその辺がわからない。主は嫌がるだろうが、恋愛を知りたい。万が一俺に代わる事がまたあったとして、その時恋愛を知らないとなると相手に迷惑をかける。せっかく主が好きになった相手を、泣かせることになる。それは俺の失態だ。そうならないために、俺は知らなくてはいけない。お前の想いは今の俺では叶えそうにない。だた、俺にその恋愛というのを教えてくれないか?お前のわかる範囲でいい、そうすればお前のその気持ちがどういう意味だったのかも理解出来る。そうなればお前の告白も報われる。どうだ?」

 

俺のはあくまで提案。保健室での理事長の話でもそうだ。俺にのみ恋愛を許すということは、トシの気持ちも反映する。そうなればトシの気持ちも捨てずに済むかもしれない。

 

まあ、そうなれば苦痛を強いられる場合もある訳だが、そこはトシの答え次第だな

 

少し考える時間を与えるとトシは少し嬉しそうな顔で了承してくれた。つまり、前向きに考えてくれたのかもしれない。俺自身では決め兼ねるが、それでも俺に『恋愛を教える=もしかしたら結ばれるかもしれない』という期待はできるという事だ。

 

保護者という名の照とレオの了承を得なければならないらしいから、そういう意味では難解だな

 

俺自身は恋愛を知るので忙しいが、彼らは彼らで俺にアタックも講義も保護者の了承も両立しなければならないという壁があるので、その辺は俺に時間がある。

 

トシの場合はまだその辺に対しては有利なのかもしれん、鬼塚誠は今日来た転校生だからな

 

そんなこんなで話がお開きになったところで風呂場から離れ、ちゃぶ台に座り飯を待つ。トシはささっと飯の支度をしてちゃぶ台に置いて行く。そして起き終わった瞬間、『コンコン』とノック音が聞こえた。俺がドアの方へ向かうとそこには、鬼塚誠と俊幸がいた。

 

「どうかしたか?」

 

「こいつがどうしても兄の料理を食べたいと言うから一緒に来た」

 

俊幸を見るとそのようだ。

 

「あと、お前に会いたくて来た」

 

こっちが本命のようだ

 

とりあえず俺は2人を中に入れた。そして2人を見たトシはギョッとする。俊幸はともかくなぜお前までという顔だ。俊幸が慌てて説明するとトシは俊幸が言うならと承諾した。ホッとする俊幸。

 

必死だな

 

急に押しかけたこともあり俊幸がトシの手伝いをしに行った。鬼塚誠は俺に近づき隣に座った。俺が少し離れるとその離れた分近づいた。

 

これは困るな…

 

「もう少し離れてくれるか?」

 

「なんでだ?」

 

「近い」

 

「近くないと観察できない」

 

「近くなくとも観察はできる」

 

「俺は目が悪い」

 

「悪くても近すぎるのはやめてくれ」

 

「……………、わかった」

 

すんなりやめた。理事長の話を聞いてたからか、無理強いをすると即恋愛終了。その事が響いてるようだった。安易に近寄らなくなった。観察は継続。

 

「並べるのを手伝え」

 

「何故だ?」

 

「ここは俺と密の部屋だ。お前の部屋じゃない」

 

「密もしてない」

 

「密はここのルームシェアだ。俺がいいって言ったからやってないだけだ。言えばやる。お前はここのルームシェアじゃないから許可した覚えはない。自分のものは自分で持っていけ」

 

「…………、わかった」

 

言われた通り鬼塚誠は自分の分だけ持っていった。トシはため息を吐きながら箸も鬼塚誠に渡し、席に座らせた。俊幸も自分の分を持って行ったら席に着き、トシも席に着いた。手を合わせて。

 

「「「いただきます」」」

 

食べる前の挨拶をしてから食べ始める。鬼塚誠はそれを見て疑問に思ったが、そのまま食べようとした。俺はそれを見て。

 

「鬼塚誠」

 

「なんだ?」

 

「手を合わせて宣言したか?」

 

「よく分からなかった。みんな食べたから食べようとした。それの何が悪い?」

 

悪気はないようだが…

 

「人が作ったものだ。ありがたく食べるのが礼儀だ。親に教わらなかったのか?」

 

「教わってない。教わったのは仕事のことだけ。ここには学問を学べと言われて来た。俺はそれ従った。ただそれだけだ」

 

つまり、教わってないんだな

 

「そうか。なら、まずそこからだな。俺に合わせて手を合わせろ」

 

「こうか?」

 

俺が合わせると鬼塚誠も手を合わせる。

 

「それから『いただきます』と言え」

 

「いただきます?」

 

「それでいい」

 

「なんの意味がある?食べる前の挨拶に」

 

意味を知らないようだ。本当に仕事のこと以外は教わってないように見える。俺は意味を教えた。

 

「一応これは常識だ。幼児でも知ってる。親に教わるからだ。意味は『生産者に感謝』だ。この料理を作った人はトシだが、この料理になる前の一つ一つは全て畑から取れたり海の生き物だったり、家畜として育てられた生き物から来てる。俺達はその生き物の命を貰って生活している。食べてしまえば同じだが、『感謝を込めていただく』。それが『いただきます』という意味だ」

 

長い話を全員が聞いている。知ってる者は食べてていい気もするが、俺の話は続く。

 

「同時に食べ終えたら『ごちそうさま』と言う。その意味は『生き物達に感謝』だ。さっきは生産者と言ったが、生産者は人間だ。人間がこの料理の原料となる野菜などを作るが、人間を料理に使ってるわけじゃない。だから、人間ではない動物や植物などの命を貰ってるとさっき説明したな?その命にはたくさんの栄養が含まれている。その栄養を俺達がいただき、体を作る。それを貰ってるから『ありがとう』を込めて、『ごちそうさま』と言うんだ」

 

『いただきます』と『ごちそうさま』の意味は確かそういうことだったと、記憶ではある。親達が蒸発する前に母親から聞いた話だ。

 

それをまさか同い年の奴に話すとは思わなかったが、知らないよりはマシだろう

 

「『ありがとう』と言われるのは気分がいいだろ?それは今俺達がその原料となる者達を調理し食べやすくしているが、もとを正せばという事だ。だから、しっかり気持ちを込めて『ごちそうさま』と言うんだ。長い話で分かりにくかったらすまんが、そういうことだ。それを知らないなら教えるが、知っててやるような奴とは友達になりたくはないと俺は思う」

 

俺は食べる事を再開した。トシも俊幸も食べ始めた。鬼塚誠は俺の話を聞いてもう一度。

 

「いただきます」

 

と言って食べ始めた。今まで教えてもらえなかったこともあって、知ってから食べた鬼塚誠の表情はまるで幼児のようだった。これを言えば否定するだろうが、そう見えてしまったのだからしかたない。

 

俺に恋する前に礼儀から学ぶべきだな

 

しばらくして皆食べ終えた。『ごちそうさま』と、全員で言い皿を片付ける。自分のものは自分で片付ける、これは俺もやる。それを見て鬼塚誠も続けてやった。トシと俊幸は苦笑いで見ていた。その気配を感じてトシ達を見ると2人同時に。

 

「「雛みたい(だ)」」

 

と言った。

 

「俺は雛じゃない。鬼の生まれ変わりだ」

 

昼間にも同じような光景を見た。

 

「知ってる」

 

クスッと笑う。それを見た3人が顔を赤くして各々そっぽを向いてしまった。キョトンとしながら3人を見るが、教えてはくれなかった。それから飯も食べたということで俊幸と鬼塚誠は帰って行った。

 

正確には鬼塚誠はここで寝ると言い張って聞かなかったが、自分の部屋へ帰れと俺が言ったらすんなりそうしたな。不服そうな表情だけは変わらなかったが

 

俺が洗面所で歯磨きをしに行こうとした時、トシに呼び止められた。

 

「ご主人…!」

 

「どうかしたか?」

 

「飯中に言うつもりだったが、思わぬ展開になったから言えないでいたけど伝えたいことがある…」

 

「?」

 

俺はキョトンとしながらトシを見つめる。少し顔を赤くして、トシは話し始めた。

 

「あの時の『お前が嫁なら』のくだりの話…」

 

あの時か…

 

「今言わないとモヤモヤして寝れそうにないから言う。何気ない言葉だったとしても、アレは最高の褒め言葉であり口説き文句だったぞ…!」

 

「!」

 

顔を真っ赤にして言うトシ。やっとその意味を理解した俺。

 

俺は口説いていたのか、無神経に…

 

だからあんなに怒ったのかと振り返る。俺の何気ない一言が、無神経にトシを苦しめていたのかと思うと、俺は頭を下げた。

 

「無神経なことを言ってすまなかった」

 

そう言うと、トシは慌てて否定した。

 

「いや!あ、あの時は俺の早とちりもあったから!意味もわかってなかったならしかたねぇと思った!それに口説き文句とも言ったが、褒め言葉でもあるって言ったろうが!褒め言葉として受け取るって意味だ!どっちにしても嬉しかったから、だから謝んねぇでくれ!ご主人…!」

 

トシは戸惑いながらそう言った。俺はトシの顔を見てまたクスッと笑った。面白いと思ったから笑った。すると、トシは顔を赤くして誤魔化すように。

 

「と、とにかくもうギクシャクはしたくない…。また前みたいに接したい。あの時はお互い悪かったということで水に流したい…。ダメか…?」

 

話の話題を変えた。俺はその提案を乗り承諾した。それから2人で歯磨きをし、『おやすみ』と言ってそれぞれの布団へ。俺が目をつぶると、その直後で頭が痛くなった。

 

また頭痛が…、なんなんだこれは…?

 

そう思ってると次の瞬間、ブツッと意識が途切れた。それから気がつけば主の檻の前にいた。俺はまた夢の世界へと入っていたのだ。

 

 

 

この後の語りは話が終わるまでない。たいまない流れにそのまま身を任せて欲しい。事実、隙間がないのも理由の一つ。どこにも語りを入れる隙がない。この注意事項は言っておかねば見にくいかもしれんからな。だが、区切りのいい所では語りを入れるようにする。その点は大丈夫だ

 

 

 

ーー主?どうかしたか?

 

「よっ!もう1人の俺!」

 

ーー主!話せるようになったか!よかった!

 

「お前の奮闘見てたぜ?てか、何ちゃっかり恋を知ろうとしてんだよwびっくりしたぞww」

 

ーーしかし、好意には答えたい。主と違い俺は疎いから。だから、もしまた主が無理をしたらと思うと俺も知っておいて損は無いと考えたんだ。ただ、OKはしない。俺はこの体の持ち主ではない。主のものだ。主を守るのが俺の役目だからな

 

「お前、堅苦しいな?何歳設定なの?」

 

ーー設定?いや、俺は主のドSスイッチからは生まれて来てる。が、少し性格が偏りすぎると思い変えてる。主は主のスイッチがあるからだ。俺はありのままでもスイッチ状態だからな。年齢とかない

 

「ないのか!?俺はてっきり大人の人かと思った…」

 

ーーないな。主が俺の年齢を決めてくれればいい。あと、名前も。俺は今『腐獅密』、主の名前を借りてる。普段ならこのままでも充分だが、さすがに主とだと恐縮する。俺は主に仕える騎士のような存在だ

 

「俺は別にそこまで気にしてねえけど…、まあそうだな。自己紹介も兼ねるとその状態はあまりにも曖昧だよな…。じゃあ俺が色々設定してやるよ!もう決まってんのは性格と口調だけか?」

 

ーーあぁ、そこを変えることはできない。生まれてきてからずっとこの状態だ。性格も含めて。その他に俺の意思はないので、主が決めてくれると助かる。主の許しなくして名前も他も変えられん

 

「よしきた!じゃあまずは年齢からな!」

 

主がとても楽しそうだ。目覚めてから口を開け言葉を発するようになってから、本当に短い期間ではあった。主から俺が生まれたのもまた、ここ最近。最近の出来事が昨日のように思う。選手交代の時間かと、俺は少し寂しい気持ちになった。だが、これは主の体。俺はサブだと心の中でそう考え、主の言葉を待った。

 

「よし!年齢を考えた結果、俺の体感したお前の年齢は20歳以上!25歳は行き過ぎだから25歳未満って所かな!次に名前だけど、俺が新入生歓迎会の時に使ってた名前なんだけど、こっちの名前もなんだかお前にとって女って感じに聞こえちまうかもしれないんだけど、思いつかなかったから理由で『密騎』な。『ミツキ』と読む。『秘密を守る騎士』って意味。意味はお前にぴったりだろ?」

 

ーー密騎…、それが俺の新しい名前か?

 

「嫌か?嫌なら他に考えるけど…」

 

ーーいや、その名前でいい。意味が俺を表すのに一致してる。だからその名前でいい。気に入った。これからは『密騎』と名乗る。ただ一つ、主には使命がある

 

「使命??」

 

ーー俺の紹介も兼ねるがどうしてこんなことになったかという経緯だ。それを伝えなくてはならない相手がいるはずだ。俺はその者達にも伝えていない。俺が言うより主が言うべきことだから。俺が『秘密を守る騎士』という称号があるなら、主の許しなしで秘密を暴露することは決してない。それと同等に捉えるならば、まずやることは主が伝えるべきだ

 

「そっか。本当の本当に『秘密を守る騎士』だったわけか。んでもって、俺みたいに恋愛熟練者とは違って生まれてきちまったのか…。てか、同じ人間なのにこんなに違うんだろうな??よくわかんねぇけど、まぁとりあえずお前の伝えたい気持ちはわかった!もうこういう事態なら言う必要があるし、保護者目線で言うところの照とレオには話さないとだよな!あ、でもどうするべきなんだ??こういう時はまだお前の方がいいのか??動くのに俺だと色々変だし……うーん…??」

 

ーーなら、次に出る時は照やレオに話して、保健室にいる松野空から診断を受けた上で考えればいい。今後どうするか。俺は主が決めたルールに従う。一緒に考えて欲しいのであれば言ってくれればその時は助力する。ただ、疎い俺が提案できるとは思えないが全力でサポートする。その時は言ってくれ

 

「ん!わかった。じゃあ、えっと………あ!そういえば俺の目線からお前の姿見えてないからその設定も考えちゃお!その方がこれからもしかし、共同生活的なことになる可能性があるならそれを決めてた方が楽!よし、じゃあそれも考えよう!」

 

いろんな段取りを決めたが、俺が思うに主はもう外に出てきていいくらいには回復したのかもしれない。俺の出る幕が終わりを告げようとしてる。良い意味でも悪い意味でも、それが俺。少し楽しかった気がするが、俺はあくまで主の騎士。そこにケチをつけようものならと思うと、俺は何も言えない。全ては主の意向のままに。

 

「よし!俺からしてモヤがかかってるから、まずは身長から!俺の身長がレオや照より低いから165cmくらいだと思うんだよな…、ちゃんとした身長測ったことねぇけど。とりあえず背にこだわりねぇから別に良いけど、お前は175〜180cmくらい!もしくはその間!んで、騎士って言ってもごっつい鎧とかは着てねぇよ?ただ普通の成人男性って感じ!んで、イケメン!なんとなく、俺よりも大人っぽいから!あ、でもイケメン過ぎのるはちょっとだな。だって、俺と同じでもブサイクだし顔が整った顔程度のイケメンなら許す!あとは、服装は制服でも俺が着てる私服とかも似合いそう!まあ、その時俺の着てる服をお前も着てる感じで!んで、髪型だけど!俺の体とお前の容姿は比例しないから、ここでのになっちまうけど片目隠れる前髪にウルフカットショートで、ちょっとくせっ毛があると良いかも!寝癖っぽい感じ!そんで、目の色だけど俺は黄緑色の星付だから、お前は夜の月明かりで照らされた青の月付かな!髪の色はグラデっぽい黒よりの青。お前なんだか、夜っぽくて寂しそうだったり静かだったりってイメージだからさ。だからか、すんなりそのイメージが湧いた。てわけで、完成!今日からよろしくな、密騎!」

 

ペラペラと呪文のように話す主の話を聞いていると、俺の体もそのイメージに沿うように作られた。そして完成の合図に俺は、『密騎』という青年に生まれ変わった。よろしくされたので返すと、主が笑った。俺も口元を緩ませ笑うと。

 

「うっわ!お前それ反則!イケメンの顔にみんながメロメロになっちゃうのわかる気がする!それを俺の体でやってたらなおのことだぞ!!けしからん!!」

 

ーーあ、主??

 

「カーーッ!!お前が疎くてよかった反面、無自覚イケメン王子めっ!!俺まで魅了してどうすんだっ!!ますますお前が手放せないだろうがっ!!」

 

ーー手放す手放さないは主が決めるものだ。俺はそれに従うし、主が望めば消える。俺は主の赴くままに従うまでだからな

 

「あー、じゃあ俺は密騎の消える宣言に反対しまーす!親が蒸発して居場所がなかった唯一がそんなことを言うなんて、万死に値しまーす!」

 

ーーす、すまない!主を不快にさせてしまうとは、一生の不覚!主が許してくれるのならば、この先も主の傍にお使いしたいと思ってる。その覚悟は、生まれてきた時から持ってる信念だ。それは強く思う意志だ

 

「なら、もう言わないこと!それ、俺のルールね!それと当分はお前この体ん中に居てもらうから!話し相手にもなって欲しいし、それに相談相手にもなって欲しい!」

 

ーーわかった

 

「あと、お前は俺の唯一の兄弟であり家族だ。親はもうこの世にいない…、蒸発したヤツらは俺の事をもう家族だと思ってない。未練があるくらいなら一緒にいればいいのに、俺を置いて出ていくようなヤツらを家族だと思いたくない…」

 

ーー…主?手を握ってどうし

 

「だから……お前までどこかに行ってしまったら俺は……もう頼るもんがなくなるんだよ…。アイツらは幼馴染みで血は繋がってなくとも、家族だと思う。けど、アイツらはアイツらで家族だ…。俺には入る隙はない。あるのは幼馴染みの枠組みでしかない家族だ…。怒られるかもしれないけど、それでも頼りたいと思っても遠慮しちまう…。だから、お前だけなんだ……。お前だけは俺を見捨てず離れない存在なら、俺にとっての家族はまさに密騎、お前だ…。お前が俺の目の見える奴じゃなくても、俺の中で生きる存在なら俺は寂しくない。消えるなんて言わないでくれ……、俺から離れないでくれ……、密騎だけが俺の心の支えなんだ……」

 

主は泣いていた。俺は主の檻を壊した。この檻を作ったのは俺だ。主を守るためでもあり、主の心の安息地でもある何かを作ってあげたかった。しかし、主が望んだのは檻だった。窮屈ではないかと思ったが、主が満足していたから俺はその意向に従った。そして今、主の中でこの檻から出たがってると思い俺は壊した。それから優しく抱きしめそして。

 

ーー主、独りにさせてしまってすまなかった。これかは俺が主を支える。主も遠慮なく俺に頼ってくれ。俺も主に頼りたい時は、頼ってしまうかもしれんが…。家族だと言うならそれは当たり前かもしれない。だが、俺はこの手のことも疎いから出来ないかもしれない。それでも、自分の中で『頼りたい』と思った時は真っ先に主に聞く。主でも難しいと思えば報告として伝える。そうすれば今の出来事がどういう経緯でというのが分かる。その後、主が出てきても支障をきたさないようには出来るだろう。俺は主と共に人生をもかける所存だ。主の家族であり兄弟であり主を守る騎士だ。主が与えてくれた容姿や年齢、名前に誓う。これからも主を支え、主を守り、主の家族として見守る。そして先程の不快にさせた発言は二度と言わない。主を泣かせた罪として、俺は生涯を駆使してもその誓いを守ると宣言する

 

「あっははは、スゲー重たいなぁ…wけど、お前らしくて好きだなwそういうの嫌いじゃないし!ならお前の傍にいたいから、ここから離れたい…な。1人でここに居ても退屈だし広すぎて寂しいし、何より独りぼっちはもうたくさんだ…。お前の近くにいたいよ、密騎…」

 

ーーなら、外に出ない程度までなら近づけるだろう。それにここは殺風景だ。俺のいない間に何か色々な物を置くといい。今の所、まだ俺が出ていた方が都合が良さそうならそうするといい。ここは、主の心の世界だからな。自分に見合った世界を作って、出れない今を堪能してくれ。俺はその意向にも従う。ただ、こちらの相談相手にもなってもらいたい…。見てるとはいえ、話せるわけじゃない。なら、俺のこれからの行動を観察もしくは監視してくれるとありがたい

 

「相談相手ならまっかせてー♪俺はスペシャリストだかんね!わからないことは聞いてくれよ!とりあえず、俺が必要になったシーンは俺に声かけて!その間、この殺風景の部屋を俺好みにしておくからさ!まさにBLのパラダイスを作るんや!同人誌とか小説とか漫画とか!ありとあらやるもんが近くにあって、俺のお気に入りを増やすんだ!そんでお前の悩みも聞けるようにリハビリもするぜ!俺という腐男子を必ず復活させる為にもな!俺の野望だぜ!!」

 

ーー主の元気は俺にも来る。俺なりに恋を勉強する。これからの主の恋の行方も、主が決めることだが。俺は俺個人的にも恋愛を知りたいと思ってるから。そっちでの恋愛相談をしたいと思う。だが主

 

「んあ?」

 

ーーまずは、照とレオに説明をすることだ。どうしてこうなったのか、どうして言ってくれなかったのかと文句を言われる前に。スッキリさせた方がいい

 

「それはその時になったら代わるよ!他は?」

 

ーーカズには伝えた。担任だからというのもある。事情を知っていれば日常生活に支障を出さなくて済む。変に気にされても困るからな。俺が生まれて体に入った時の目の前の人物もカズだったから。カズには俺の紹介だけでいい。あと、カズがお前に謝りたいことがあるらしいからそういう意味ではカズとも話してくれ。誤解させた部分を謝りたいそうだ

 

「ん、わかった。じゃあお前が会いに行く時にでも話すよ。その方が一石二鳥でしょ?」

 

ーーあぁ。それから鬼塚誠についてだが、それは主の監視と評価を頼みたい。今の所、世間知らずの箱入り息子状態だ。ちなみに有名な家電会社の御曹司らしい。主の記憶にもないから、主も知らなかったかもしれないが。もう1つは理事長の甥という情報。俺の見る目で鬼塚誠はクールな最低限の言葉しか言わない無口、それから気になったら立ち止まる不思議系、あとは先程も言った世間知らずの箱入り息子だ。今日初対面にも関わらず、どこにそんな要素があったか知らんが鬼塚誠が言う話によると秒で恋に落ちたと言える。他の者より鬼塚誠は注意人物かもしれない

 

「的確な情報だねぇ…。他には?」

 

ーー学校案内の際に、教頭に出会った。名前は羽虫陣三郎。その苗字から察するに、羽虫のように鬱陶しかった。トシのことを悪く言う発言に対して、俺の堪忍袋の緒が切れてしまって俺が口を開ける瞬間、鬼塚誠に助けられた。その時の説明が先に話した通りだ

 

「うわぁ…、名前カッコイイのに苗字が残念だぁ…」

 

ーーその残念な教頭を口で負かし、ぐぅのねも出ない状態にさせたために俺の行き場の失った怒りもどこかへ消えた。ある意味スッキリしたと言える。そういう意味では鬼塚誠にもメリットがあった。好きな相手だからこそ守ってやりたいと思ったらしい。まだ俺にはそれを理解するのは難しいが、主を守りたいという意味と何が違うのかわからん…。それはさておき、そういうことで鬼塚誠にはちゃんと感謝の意を贈った。何故か顔を赤くし俯かせてしまったが、とにかくそこから鬼塚誠は俺へのアピールが強くなったと言える

 

「いやまあ、感謝の意は大切でも表情によっては箱入り息子といえど、恋に落ちちゃうかもね〜…。アーーッこの無自覚イケメン王子めっ!!ここでも発揮してしまったかっ!!これは俺も腹を括るしかないと見えるっ!!そのシーンになったら監視をしよう!俺の未来にも影響が出るやもしれん!!他にはある?」

 

ーー鬼塚誠の情報は、これくらいだ。まだ初日だからな。全てを把握するには時間と日数が足らん。あとは、主の目で確かめてくれ

 

「あい、わかった!」

 

鬼塚誠の情報は俺の知りうる限りを出し尽くした。それ以上の情報はまた学校に行ってからになるだろう。主は腕を組み、頭の中で整理をしてからまた質問してきた。好意を寄せてる人物はあらかた調べたいのかもしれない。俺はその意向のままに従う。

 

「じゃあ他に密騎に想いを寄せてる人は?」

 

ーートシだ

 

「おぅふ…、ついには下僕にも魅了を使ってたか…」

 

ーー風呂の時にだ

 

「しかもお風呂シーン!!」

 

ーー最初に一緒に入るか聞いたが断ってきたので、湯船に浸かる前に洗ってしまったんだが、その後体を洗うと言ってきたので、その好意を無駄にはできんと思い行動したら顔真っ赤にしたトシに質問したがその応答には答えず、さらに考えすぎてしまったのかゴシゴシする強さが凄かったので、1度は出ていかせようとしたが気を引き締めた表情だったので許し、その後何も無く体を洗ってもらった

 

「ほうほう、それだけ聞く分には変わらない主従関係の話だねぇ…」

 

ーーその後、俺がトシを洗うと言った

 

「むむ?」

 

ーー半ば強引ではあったが、まずは背中を洗ってあげた。それから耳元で『腕を洗うから腕を伸ばせ』と言った。そしたら顔を赤くし更には体を跳ねさせ口をつぐんでいた

 

「おぅふ…、イケメンボイスと低音ボイスは反則区域に値しますぞ…」

 

ーーそれからまた『胴体を洗う。洗えるようにしろ』と言ったら体を伸ばし股の間に入れてもらい洗った。その時々、肩や腰を跳ねさせていた。チラッと見たら口をつぐむのは先ほどと変わらないが、涙がにじみ出て声もとても小さいが漏らしていた

 

「うぉぉ!!なんだその、エロかわいいトシはっ!!けしからん、けしからんよぉぉ!!」

 

ーーそして何も言わずに片方の太股を洗った瞬間、『ひっ』という声が聞こえた。それと同時に肩と腰の跳ね具合が尋常じゃなかった。それから普通に石鹸の泡で洗っていたんだが、全ての工程を終了していた時には……こういう場合は「出来上がっていた」が正しいのだろうか…??

 

「出来上がっちゃってたのかぁぁ!!そうかそうかぁぁ!!うん、間違ってない!間違ってないよぉぉ密騎くんんん!!」

 

ーー声の呂律も回ってないトシに対して俺はただ洗っていただけだし、あとトシの息子にも触ってない。その状況で何故か『イく』と言われた。どこに行くのか全くわからなかったが、その後はシャワーで流していたら白く濁った液体がトシの息子から出てきた。壁に付いたので洗い流したが、トシはピクピクと体を震わせのぼせてしまったんだ

 

「なんですとぉぉぉ!!!そのシーンを俺は見逃したというのかっ!!俺の体とはいえ、そんなシーンを見過ごしたのか俺はっ!!?トシの言葉でそんな、そんなっ……うわぁぁぁ!!!」

 

ーーお、俺はとりあえず息子もちゃんと洗ってやり、のぼせて気を失ったトシを運び自分を拭いて着替えてから、トシの体の隅々まで綺麗に拭きうちわで煽った。それから目が覚めた時に自分の勘違いによる好意に謝ってきたが、俺も俺で勘違いさせるようなことを言ったことに謝罪をし終わった

 

「なんてことでしょう!!あのエロエロシーンからこんな世界に優しいまとめ方がかつてあっただろうか!?否、俺が見てきたどの小説や漫画にもなかった!!うわぁぁぁ、できた騎士様だよぉぉ!!」

 

ーーあ、主…?

 

「あ、そういえばそのお風呂シーンでトシがどうして恋に落ちた理由になるのか分からないままだわ。それで?」

 

ーー感情の浮き沈みが激しいな、主…。えっと、その質問については本人に聞いた方がいいかもしれんが、俺か言えることは推測でしかない。それでもいいなら話を進める

 

「うん」

 

ーーおそらく、俺でなくとも男に触られて好く男はいない。だが好意を向けてる者は例外である、だ

 

「つまり、密騎が触ってた所が熱くて感じて声が漏れでてしまうほど気持ちよかったってこと?」

 

ーー主のその表現は俺には理解しかねるが、多分その通りなんだと思う。他の男で試すとなるとやはり、あの取り巻き達だろう。その者達とも交流はありスキンシップとは言わないとしても、触られているがそこまで気にしたとこはなくそういう好意もない。しかし、好意を向けてる者に対して触られた時にこうなるのは明らかにおかしい。よって確信に至ったという訳だ

 

「それで好きになっちゃったのか…」

 

ーーそして、その確信に至る前に俺が引き金を引いてしまったらしい。俺の無神経で何気ない一言が、トシを狂わせてしまった

 

「何気ない一言??」

 

ーー『お前が嫁なら毎日、お前のご飯が食べたいな』

 

「( 'ω')ふぁっ」

 

ーーその意味すら知らずに俺は使っていた。その後の言葉でトシをガッカリさせてしまったことも…

 

「ちなみに、そのあと言った言葉って?」

 

ーー確か…、『まあ、ペットと主人の関係からでは恋人になったとしても対応は変わらないだろうから意味は無いがな。それに俺の独断では決めれんしな』だった

 

「おぅふ…、それはだって告白からの落としじゃん…。わかりやすく言うと『期待させといて落とす』パターンのヤツじゃん…。そりゃあ勘違いもされるだろうさ…。てか、一字一句間違えないで言えるなんて記憶力いいね?俺にもその記憶力分けて欲しい…」

 

ーーそのせいで、苦しめて昨日の夜から今日までギクシャクしていた。俺は俺で罪悪感の塊でもあったからな。トシを苦しめた責任もある。だから、今回のトシの告白もちゃんと考えたいと思っている。何気ない一言が無神経な一言に変わるよりは、ちゃんと学びたいと思っている。だから、主の許しを得たい。自分を見極めるためにもトシの好意を無駄にしたくない。恋愛を知る許可をくれ、頼む

 

「……たくっ、そこに制限したらダメでしょうが!密騎の初めての学びでしょ?それをどうこうできるとか思ってないから心配しなさんな!それに恋愛に発展するのと学びは違う。存分に学びなさい!ついでに、勉強の方もお願いしてくれると嬉しいなー…なんて☆」

 

ーー恋愛を知る許可をいただけるなら、その勉強の方もしとく。だが主、それで自分の実力だと鼻を高くすることはないように。あくまで俺の意識と主の意識は違う。同じ体から生まれてきたが、もしかしたらそこの性能は大きく違う可能性もある。それに対して1つだけ確信の持てる情報もある

 

「ん?確信?」

 

トシのことや、恋愛講義については了承を得た俺は一呼吸を置いてからまた話し出した。それは生徒会や風紀委員に呼び出された時のことだ。

 

ーー主があのコンビニ強盗を捕まえた日を覚えているか?

 

「途中から記憶ねぇけど、確かにアレはやったな?それがどうしたんだ??」

 

ーーその後、機密事項だったことが発覚した

 

「へ?」

 

ーー風紀委員の誰かが話してたのを、たまたま生徒会長であるレオが聞いてしまったのが事の発端だ。その機密事項については生徒会長といえど、1年。それに風紀に関わることだ。つまり、風紀委員の中でしか知らない情報。それが漏れ出ていた。そして、それを実行した事によって、呼び出された

 

「ちょっと待った!?てこは俺、余計なことしちゃったの!?」

 

ーーいや、早めの対処ができたことに対して感謝はしていた。だから、風紀委員の誰かが情報漏えいをしてしまった事で不問となった。しかし、生徒会はその不問を1度は認めたがやはり身内がそんなことに手を出したことで、生徒会個人としては許し難い事だったようだ。そしてそれに加担した主、今は俺がその生徒会の会長補佐をしてる

 

「うわぁぁぁ、1番行きたくない場所に転がり込む形になったのかぁぁ…。うぅ、先が思いやられる…」

 

ーー俺には存外悪くないと思ってる。生徒会でも友達ができた

 

「……友達?」

 

ーー書記の犬山琥珀という者だ。俺は琥珀と呼んでいる。琥珀は言葉数が少なく、単語単語で話す。感情もそこまで豊かではないが、友達ができた途端嬉しそうに琥珀なりにはしゃいでた。そして単語で話す割にはよく喋る。人見知りはそこまで無いようだ。警戒心はありそうだがな

 

「その琥珀って子は無害?」

 

ーーそこはまだわからん。だが、友達の枠組みにはいる。この先、恋に発展するかは俺の行動と発言に関わるかもしれん。その動向も知りたければ監視を頼む

 

「わかった…。えっと、俺との違いの話に戻って」

 

ーーわかった。期間は5日間。ただし今日は転校生の鬼塚誠がいたため、半分以上を保健室で過ごしてしまったから今日の生徒会へは無しだった。だが、昨日は書類整理とファイリングをしたのだが

 

「うへー、俺そういうの超嫌い…」

 

ーー俺は割と苦ではなかった。ただ書類の区分けとファイリングを要求されたが、俺はそれと年号に分けてファイリングした。同じ年号は同じところに入れたので何が最初かまでは分からないが、同じところに入っていれば探しやすいだろうとそうした。わからなければ言うだろうしな。それを行い、副会長も目を丸くしていた。いっその事あと1週間はいて欲しいと言われたが却下した。機関を決めたにも関わらず、変更など俺もレオも許さなかったからな。それに関して副会長は少しガッカリしていたが、そこは気にする所ではない。話の流れとしてはこれが以上だ、そして本題だ

 

「うん」

 

ーー先程も俺の内容を話す前に、主は『そういうの嫌い』だと言ったな?

 

「まあ、まず勉強が赤点まっしぐらなくらいには文字とか数字とか見ると嫌いだけど…。自分の趣味以外」

 

ーーその熱意を、勉強にも出せたら良いのだがそれは置いとく…。俺が最初に言った『割と苦ではなかった』という言葉だ

 

「え?まさか、好きってこと?」

 

ーー期間が少ない上に、一昨日の夕方に生まれ昨日は生徒会やらギクシャクやらでそれどころではなく、今日は鬼塚誠に保健室だ。さすがに好きかどうかは、それだけで判断はできない。ただ『苦ではなかった』ということは、『割と好きかもしれない』という仮定が推測される。俺自身もまだ未確定だが、それだけの言葉で言えばの話だ

 

「だとしても、俺の思考と密騎の思考が全く違うって……。えぇ??」

 

ーーそれについては、明日の昼に保健室に行くように言われている。松野空にな

 

「空先生にか。なるほどね、そこでもしかしたら分かるかもってことなのか!」

 

ーーあぁ、この謎もわかるし。あともう1つ

 

「うん?」

 

俺はこの夢の世界とも言える意識の中に入る前に感じた違和感を話し始めた。

 

ーーここに来る際、一瞬頭が痛くなった。かき氷やアイスなどの急に冷たいものを食べた時に出る頭の痛さと同じくらいだ。キーンという音は出てないが、頭の痛い効果音はそれで正解だろうと思う。夢の世界に入るのに頭が痛くなることは絶対にないし、アレはあくまで無意識に見る世界観だ。俺が時々、主に報告する際に意識だけこっちへ来る時もあったが、その時はその痛みは感じなかった。主が起きてからなのか、痛みが増すように強くなった

 

「え?それもおかしいぞ?俺はただ起きただけだし、頭が痛くなるなんてありえないんだけど…」

 

ーーそれも保健室でわかるかもしれないという話だ。今はわからなくてもな

 

「なるほどね。……ん?おっ、そろそろ起きる時間みたいだぞ!」

 

ーーそうか、わかった。なら、その時が来て主を呼ぶことがあったら呼びに来る。それまで待っててくれ

 

「ほーい、わかったよーん!行ってらっしゃい♪」

 

ーー行ってくる、主

 

 

 

そして夢の世界はブツッと切れた。

 





誤字脱字があったら
指摘お願いします!

密騎、そのままの名前ですねw
この先の試練をどう乗り越えるか
温かく見守りましょう(^v^)ノ
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