信じて送り出したド淫乱幼馴染みが真人間になって戻ってきた件 作:ナマクラ(18禁)
僕が高校に入学して、半年が経った。その間僕は、彼女と関わらなかった。
関わる理由がなかった、それが一番の理由だろうか。クラスも違う、部活も違う。
彼女は第1学年にして既に生徒会役員に選ばれていた。ゆくゆくは会長だと、周囲に期待されているらしい。相変わらず、優秀な奴である。
一方で僕は、平和で平凡な日常を享受していた。数人のバカな男友達がいて、女子グループに毛嫌いされているわけでもなく、かといってクラスの中心人物と言う訳でもない、まさに凡庸な生徒だった。
このクラスでは、誰も僕を腫れもののように扱わない。辺に同情的な視線を向けられることもなく、ガラの悪い生徒のブラックジョークのネタにされることもない。夢にまで見た、普通の学園生活だった。
進学校だけあって、校内の治安も良かった。明らかに反社会的な人間はクラスに見当たらない。お陰で僕の精神的なコンディションは良好と言えた。
ただ。女性に対する恐怖は消え去ってくれたものの、僕は未だに女性に対して興味を抱けないでいた。性欲、というものに対する忌避感は、僕の中に根強く残っていた。
タマなし野郎、などと級友達は僕をからかう。しかし別に腹は立たない、僕の性欲が薄いのは事実なのだから。
「でさ。お前、本当に女子に興味ないの? ムッツリよりはオープンスケベの方が、ウケが良いぜ?」
「現状、無い。僕はね……嫌なんだよ、そういう下世話な話」
「相変わらずお堅いことで。……男色ではないんだよな? そこは、俺達の友情に関わる部分だから確認させてもらうぞ」
「違う。……男だろうと女だろうと、興味はない」
「残念。じゃ、今回も合コン不参加? お前顔は悪くないから、勝算はあると思うんだがなぁ」
そして僕は、その馬鹿な友人と雑談にいそしんでいた。目の前でヘラヘラと笑っているこの男を含め、僕はこのクラスで数人の男子グループを作って親しくしている。
この男と別段趣味が合うわけではない。ただ、この教室内において、席が近く話す機会が多かっただけだ。放っておけばマシンガンのようにしゃべりだし、試験間際になればノートを貸してくれと媚びた笑みを浮かべるこの男と僕は、半年間も友人をやっている。
僕は、この男の事が嫌いではなかった。思春期であることを考えれば女性に興味を示すのは普通だし、彼のコミュニケーション能力の高さには目を見張るものがある。
彼と自分とは別の人種であると理解した上で、部分的に尊敬できるところも多い。
「ま、じゃあ月曜日に俺の武勇伝を聞かせてやる。この週末は、新たな彼女と一夜限りのアバンチュールだ」
「一夜限りでいいのか」
「いや、まぁ出来れば長続きしてほしいです、ハイ」
そう言って頬を掻くその男に、僕は苦笑いして突っ込みの手刀を入れた。
……月曜日。
「ー君は、交通事故で入院です。友人である生徒は、ぜひ放課後に見舞いに行ってあげてください」
その馬鹿は、合コン帰りに車に跳ね飛ばされていた。聞くところ、割と重傷だった。
あの男は、なんと女の子のお持ち帰りに成功していたらしい。それに浮ついていたバカは、紳士的に車道側を歩いて女の子をエスコートして、会話に夢中になり曲がったクルマの後輪に巻き込まれたのだとか。
性欲に飲まれた人間の最期は、哀れなものである。
「……死んでねぇって」
「うわ、お前の足グロっ」
いつもの仲良しグループで見舞いに行くと、男はふてくされた顔でベッドに横たわっていた。
「これ足大丈夫なのか?」
「リハビリ次第で歩けるってさ。全力疾走は出来ないらしいけどな」
「命が無事で良かったじゃん。お前運動部とかじゃないし、全力疾走する機会あんまないだろ」
「それはどうでも良いんだよ。せっかく、せっかく可愛い女の子とヤれそうだったのに、あの車の野郎……」
「そこか」
馬鹿はやっぱり馬鹿だった。自分の足が潰されたことより、女の子を抱く機会が失われたことを嘆いている。
「てか、お見舞いは男だけかよ。女子は? ちーちゃんとかアンズちゃんとか」
「部活行くからパスってさ」
「薄情な女子共め……。ショックで俺の入院期間が伸びたらどうしてくれる」
「お前の人気がないだけじゃね?」
「言うな」
そして僕は、少しだけ安心していた。思ったより、男が元気そうだったからだ。
少なくとも、以前の僕のようにふさぎ込んだりしているわけじゃない。いつものバカな話が出来る程度には、余裕がある。
「女子共に言っといてくれ。見舞いには生の使用後パンツを持ってこいと。それを活力にして怪我を治すから、女子高生のパンツさえあれば絶対に死なないから」
「ますます嫌われるぞ、女子に」
「見舞いに来てくれない時点で好感度なんかないに等しいわ!! お前ら、よく聞け。入院生活で疲弊した俺は悲嘆にくれて、自殺すら考えているとクラスで吹聴して回れ。それを引き留めるためには、女子高生のパンツが必要だと言ってパンツを集めてきてくれ」
「……引くわぁ」
「お前ら、姉妹とかいねーの? いるなら顔写真付けてパンツ持ってきてくれ、それでもいいぜ。約束だ」
「こんなヤツの見舞いに来てしまった事を、後悔してきた」
馬鹿は、そんな僕達の反応に、薄く笑って頬を掻いた。そんな彼の様子を見て、僕は少しだけ考え込む。彼はいつもより少し、下種な発言が目立っているように思える。
……やはり、強がっているのだろうか。いつもの様な馬鹿話をする余裕はあるようだが、裏を返せば彼は僕達にすら自らの弱みを見せていない。
きっと、痛くてつらいだろうに、その心の苦痛を吐露しない。やはりこの男は、部分的に尊敬できる。
「覚えとけ、お前ら。女子のパンツは、世界を救うんだ」
もしも本気で言っているなら、友達の縁を切るけれど。
次の日、クラスの女子は馬鹿を侮蔑した。
級友よ。丁寧に、彼の言葉をそっくりそのまま女子に伝えるのは、どうかと思う。悪魔か。
そんな、仲の良い友人が一人だけ減った、いつも通りのクラス。相変わらず平和に平凡に、時間は流れていく。
きっと、彼なりの冗談なのだと僕はあの男を庇っておいた。そしたら、相変わらず堅物だと僕はみんなに笑われた。
そして、僕たちは再び病院へと見舞いに行く。馬鹿の望み通り、女子たちには話をしておいたぞと。女子たちはお前の事をウジムシの如く嫌っていたぞと。
そんな、いつもの馬鹿話をするために。
「-さんは、緊急手術を行っています」
彼の病室に行くと、そこには誰もいなかった。
担当していた看護師さんに話を聞くと、昨日の夜間に彼の病態は悪化したのだとか。
「運悪く、傷の中にばい菌が入ってしまっていたみたいで。化膿して高熱を出してしまい、今足を切り落としています」
現実は、僕達が考えていた以上に残酷だった。
手術が終わる頃には、夜の九時を回っていた。下宿している僕に門限などはないため、僕は彼の家族と共に手術が終わるのを待っていた。
彼の家族にハンカチを渡して慰め、共に手術の成功を祈りながら、無音の病室で馬鹿を待ち続けた。
そして、やっと病室に現れた彼は、マスクを被せられて目を瞑っていた。体にはよく分からないコードが張り巡らされ、モニターがピコピコと彼の心電図を表示していた。
「今日明日が、ヤマです」
医者は、冷酷にそう告げた。
「患者は若いので、体力が持ってくれる可能性は十分にあるでしょう。ですが、普通であれば死んでいてもおかしくない重傷です」
淡々と、僕の顔すら見ずに医者は告げた。
「体の抵抗力が細菌に負ければ、彼は死にます。彼の、気力次第と言ったところでしょうか」
その医者の言葉で、彼の両親は泣き崩れた。
次の日。担任の声は、重かった。
彼が半死半生であると告げ、級友に動揺が走る。面会謝絶であり、家族以外は見舞いに行けないことも告げられた。
「……アイツ、そんなに悪い奴じゃないのにな」
担任の言葉に動揺した級友は呆然と、そう呟いた。
「何で、アイツはこんな目に合わなきゃいけないんだろ……」
僕はその呟きに、無言で首肯する。あの男は、冗談でゲスな事を言ったりするが、基本的には善人だ。
その日、授業はいつも通りに淡々と進んでいった。
授業中にふと空を見上げると、憎らしいほどに青かった。
「……それで?」
僕は、考えた。友人である彼を、何もせず見捨てるつもりはない。なんとかして彼の気力を、持たせなければならない。
「君の頼みなら、断るつもりはない。私にできる事なら、力になろう」
ならば。利用できるものは、何でも利用せねばならない。
何せあのバカは良いバカだ。あまり喋るのが得意でない僕に話しかけ、仲良く友人になってくれた、人の良いバカだ。
僕が憧れていた普通の学園生活を、そっくり実現してくれた恩人だ。
「……つまりその男の、見舞いに付き合えばいいのか? 何の関係もない私が?」
そんなバカは、事故に巻き込まれ重傷をおい、今や面会謝絶状態である。クラスメイトの身分では、見舞いにいっても門前払いを食らってしまうだろう。
ただし、僕だけは話が違う。
昨日、彼の手術が終わるまで僕は残っていた。彼の家族と共に、医者の説明を聞いた。
そして病院側には、僕は彼の友人だとは告げていない。ならばおそらく、僕は彼の家族であると病院側に勘違いされている可能性が高い。
そう、僕が見舞いに行けば、面会謝絶をすり抜けて彼に会えるかもしれないのだ。
「いや、まぁ。貴方の言うことを断るつもりはないが……。生徒会に休むと伝えたいから、少しだけ時間をくれ」
だから、僕は決心した。自分のトラウマだった過去すら利用して、彼を元気づけに行こうと。
栗色の髪の毛の幼馴染みを連れて、僕は病院へ赴いた。
「今、彼は一人なんですか?」
「ええ。ご両親は一晩中付き添っておられてお疲れの様子で、今は病院内の家族用ベッドでお休みされています」
老練な看護師は、真剣な顔で僕にそう告げた。
案の定看護師は僕を親戚か何かだと勘違いしたらしい。面会を申し出ると、僕達は面会謝絶をすり抜け彼の病室へと通された。
そして幸いなことに、彼の両親は病室にいないらしい。徹夜で看病した彼の両親は疲弊し、今は仮眠室で休んでいるという。
「ごゆっくり」と声を掛けられ、看護師は病室の戸を閉めた。彼の病室に、僕と彼女が二人取り残された。
彼の顔色は、昨日よりずっと悪くなっている気がした。
「噂には聞いていたが、重傷なのだな。……私でよければ、共に快復を祈ろう」
目の前の男とはなんの接点もない、良くわからないまま病室に連れてこられた次期生徒会長様は、痛々しげに彼を見つめ静かに祈ってくれた。
だが、とうの馬鹿は目を瞑ったままピクリとも動かない。せっかく望みの女子の見舞いだというのに、最重症患者の部屋に入れられたその馬鹿は人工呼吸器につながれて静かに眠っていた。
この男が生き延びられるかは、本人の気力次第だと医者は言う。ならば僕が彼にしてやれることは、殆ど無い。
強いて出来ることがあるとすれば、この程度のことだけだ。
「別に、快復を祈らなくていいから。とりあえずお前は、今はいてるパンツを脱いで僕に渡してくれ」
「……えっ?」
彼は、性欲の強い男だった。中でも、パンツに偏執的な興味を示していた。
もしかしたらだけど、こんなおまじないでも効果があるかもしれない。そう思い立って、僕は栗色の幼馴染みを連れて見舞いに来たのだ。
僕にはいつでもパンツをもらえる女子の知り合いがいる。これを利用しない手はない。
「……えっ?」
「良いから、早く」
「あっ……ハイ」
意味が分からない。彼女の顔には、そう書いてあった。
だが、僕が無言で手を差し出すと、チラリとドアを気にした後に彼女は観念して下着を脱いだ。羞恥よりも、当惑の方が強い様子だった。
まぁ、彼女にどう思われようと構わない。これが少しでも、彼の力になればいい。
静かに、僕は彼女のパンツを馬鹿の顔に被せた。
重傷な男の顔を覆う女子のパンティの間からは、人工呼吸器のチューブが生えている。
「戻ってこい、馬鹿野郎」
「……」
そして、彼の手を握って。僕は声を震わせて、必死で呼びかけた。
何でこんなに、必死になっているのかは自分でもわからない。ただ、この男に死んでほしくなかった。
趣味も合わない、人種もちがう、そんな男の為に僕は必死に祈り続けた。
幼馴染みは、何とも言えぬ変な顔をしている。
「聞けよ、バカ野郎。お前が退院したらさ、そのパンツはお前にやるよ。嬉しいだろ? 念願の女子高生のパンツだぞ」
「……え!?」
「ほら、見ろ。ちゃんとした美少女の、生脱ぎパンツだ」
それは、きっと無駄なあがきなのかもしれない。僕だってこんな布切れ一枚に、生死を左右するほどの力は生まれないとは思う。
でも、僅かでも可能性があるなら。どうせ死ぬにしたって、この男の望みを少しでもかなえてやりたかった。
「どうだ、嬉しいだろう? だから戻ってこい、馬鹿野郎」
そして。そんな、僕の悪あがきは。
────奇跡的に、この馬鹿に届いていた。
「……あ、彼の手……!」
「……なっ!!」
幼馴染みに言われ、気づく。
なんと彼の右手は、親指を上に立て、サムズアップを作っていた。
なんとこの男、眠り続けているように見えてちゃんと意識があったのだ!
「聞こえてたんだな、馬鹿野郎。……がんばれよ」
応援。それが、僕に出来る最大の援護。僕にはがんばれ、と言ってやることしか出来ないけれど。
僕の気持ちが伝わってくれたら、きっとその言葉には意味がある。
『もちろんだ』
────それは、幻聴か。それとも、心と心で、何かが通じたのか。
僕には、はっきりと聞こえた。彼からの、その力強い肯定が。
「お前の親が帰ってきたら仰天するだろうから、今はそのパンツは今は回収しておく。退院して、元気になって、その時に改めて取りに来い」
『約束だぞ。……ありがとよ。あんな冗談真に受けて、わざわざ女子高生のパンツを持ってきてくれて。相変わらず堅物だぜ、お前』
「堅物なつもりはないんだがな。ま、この程度でよければ、いつでも力になるよ」
『ああ。頑張んなきゃな、せっかくJKのパンツが貰えるってのに死んじまったら、悔やんでも悔やみきれねぇ。何としてでも、俺は生き延びる』
「その意気だ」
人工呼吸器につながって一言も発せられない彼との、心の奥底での会話。僕たちはこの日、親友になれた気がした。
男同士の友情。一枚の女子高生のパンツを介して、僕は生涯の友を得たのだった。
「あ、えー……? えぇ……?」
一方。パンツを奪われ、恥ずかしげにスカートを両手で押さえている僕の幼馴染は、困惑した声を上げてそんな僕らを見つめていた。
男と男の約束なので、パンツはしっかりと僕の鞄にしまい込んだ。
「その、何だ。私は何のためにパンツを剥かれたんだ?」
「あの男の命を救うためだ。アイツは言った、女子高生のパンツさえあれば絶対に生き延びると」
帰り道。
半年ぶりに僕は、栗色の幼馴染みと会話を交わしていた。
「……いや、その。あの男と貴方は仲が良いのか?」
「今までは普通だった。だけどお前のパンツのお陰で、さっき親友になれた気がする。ありがとう」
「いや、うん。貴方が感謝してくれるなら、まぁ」
歯切れが悪そうに、彼女は目を反らした。少し、納得がいってなさそうだ。
身の知らずの他人に自らのパンツを売り飛ばされた訳で、彼女にも思うところがあるのだろう。チラチラと視線を僕に向けては、黙りこんでいる。
そして何やら、意を決した表情になり。栗色の髪を風に揺らしながら、その女は遠慮がちに僕に語りかけてきた。
「その、私からも貴方に聞きたい事があるんだけど」
「いいよ、何?」
「……今日は、久しぶりに貴方に話せて嬉しかった。でも、貴方は私が怖いんじゃないの? 入学してから半年も口を聞いてくれなかったから、怖がられてると思ってたんだけど」
「……いや。単に、お前と話す理由がなかっただけだ。だって、お前と僕とは赤の他人だろ?」
「……そっか」
彼女は、そんな僕の言葉を聞いて、少しだけ頬を弛めた。
それはどこか、安堵した顔に見えた。
「じゃ、じゃあさ。また、同じ学年の生徒として、私は貴方と仲良くなっても良いのか?」
「……中学の時のような真似をしないならな」
「うん、もう二度とあんな真似はしない。そうか……うん、そうか」
────それを見るのは、何年ぶりだろう。
情欲に支配されている訳ではない。僕の目の前にあるのは、屈託ない心の底からの幼馴染みの笑顔だった。
「待っていてくれ。私はまた、君と仲良くなりにいく」
満面の笑みで僕にそう告げた。凛とした鈴の音の似合う美少女が、僕の手をとってそう告げた。
「もう、二度と私は間違えない────」
僕は、不覚にも。そんな目の前の美少女の笑顔に、見惚れてしまった。