信じて送り出したド淫乱幼馴染みが真人間になって戻ってきた件 作:ナマクラ(18禁)
学園祭というお祭りは、能動的に楽しむものである。受け身の姿勢では、きっとつまらない一日になるだけだ。
場を盛り上げるために努力を惜しまず、自ら場の空気に身を任せてこそ楽しいのだろう。多少の恥を覚悟して、所謂「はっちゃけ」てみるべき日なのかもしれない。
「ねぇねぇそこのお姉さん!! 美人だねぇ、色っぽいねぇ!! 俺はここの生徒なんだけど、お薦めの店とか知ってから教えてあげようか!?」
「……急いでるんで」
……あそこで、鼻の下を伸ばして来賓に話しかけている親友の様に。
僕は取り敢えず幼馴染みと、音楽系部活のライブで盛り上がっている運動場へ繰り出してみた。さすれば、いきなり悪目立ちする親友が目に入って来たのだ。
凄いな、全然相手にされてない女性にテクテクついていって話しかけるあの胆力。明らかにウザがられているじゃないか。流石は僕の親友である。
迷惑行為以外の何物でもない。
「……彼とは、まだ仲良くやってるのか?」
「うん、僕の一番の親友だよ」
「私は他人で、あの男が親友か。納得いかない……」
栗色の幼馴染みは、よくわからない嫉妬をしていた。いやだってあの男、ゴミが服を着て歩いているような存在だが、距離感を保つの凄く上手いのだ。
グイグイと面倒くさい距離まで迫ってくる事もなく、それでいて僕が寂しくならない程度に気を使ってくれている。その距離感の上手さは対人関係のスペシャリストと言えるかもしれない。僕にとってはまさに、理想の友人だ。
というか、かつてのお前のようにガンガン距離を詰められるのは普通怖い。
「まあ、でもあの親友とは、君の下着なくして友情を深めることはなかっただろう。そこは感謝している」
「それは別に構わんのだが。いや、実は気にしてるけど我慢しているだけだが」
「奴は確かにパッと見クズだが、話してみると案外良いやつだぞ? 今度紹介してやろうか」
「……いや、悪いが遠慮しよう。彼と私は、かなり相性が悪いと思う」
「そうかもね」
幼馴染は、彼が気に入らないらしい。ま、僕としてはどっちでも良いのだけれど。
「私はあの男に絡まれたくない、模擬店に戻ろう。どうだ、ウチのクラスに寄ってかないか?」
「構わないけれど。お前のクラス、何をやっているんだ?」
「揚げパンだ。中々美味しかったぞ、少し割高だけど」
「ま、学園祭だもんな。ウチだってぼったくってるし」
パンを揚げて売るだけか。なら、余程の事をしない限りハズレにはならないか。
「なら行くか」
「ああ」
そして僕は深く考えることもなく、幼馴染みに色好い返事をしてしまった。
そう、気軽に返事をしたのが運のつき。彼女がソレを狙っていたかどうかは定かではないが、よくよく考えれば回避出来た筈の事態だ。
僕の中では、単なる変態発情魔である栗色の幼馴染み。だが、彼女は僕らの学年の首席であり、一年にして生徒会の書記を務めあげる、見目麗しく真面目で清楚な優等生なのだ。
僕はそれを、すっかり失念していた。
彼女の教室は、僕にとって地獄だった。
「えええ!? 嘘、書記ちゃん、ソイツと付き合ってんの!?」
「学園祭デート!? え、俺の誘いは生徒会忙しいからって断ったのに……」
「…………」
晒し者ですか。
「……書記ちゃんが男子連れてるとか予想外すぎて」
「あの、B組のおとなしい男子だよね? 名前なんだっけ」
「え、あの子男装してるだけで女子じゃねえの?」
晒し者じゃないですか。てか今僕を女子扱いした奴誰だ。
「彼はあまり注目されるのに慣れていない。そう騒がないでくれるか皆」
「いや気になるよ!! 今まで男の影無かったじゃん書記ちゃん!」
最悪だ。こんな悪目立ちするつもりなんてなかったのに。僕は必至で、平凡で普通で目立たないポジションを必死で守って来たのに。
ああ、さっきの僕の馬鹿。
「私は今はシフト外、普通の客だ。変に騒ぎ立てないでくれ」
「……ならせめて答えてよ? そこの彼と書記ちゃんとの関係は?」
「まだ友人ではないな。だが、今日から仲良くなる予定だ」
やめてよ。お前から距離詰めてる宣言じゃないか、ソレ。素直に『見知らぬ男子生徒がウチの店探してたから道案内してきましたー』とか言えば良かっただろ。
ああ。僕の学園生活、もうおしまいかもしれん。
「……生徒会の仕事は良いのか? 忙しいって聞いていたが」
「思わずポッカリと時間が空いてな。たまたま生徒会本部の近くに居た彼を連れて、学園祭を回ることにしたのだ」
「……ふぅん」
少し怖そうな男子の目が吊り上げる。先ほどの話を纏めるに、彼はこの駄幼馴染みに学園祭同伴を断られていたらしい。うわ、今メッチャ余計な恨みを買ってしまった気がする。
僕だって、回りたくてコイツと学園祭回っている訳ではないからな。
「ねぇ、書記ちゃん。先約は俺っしょ?」
「いや、約束した覚えはないが」
「でも先に誘ったのは俺じゃん。俺も今フリーでさ、時間空いたなら俺と回ろうよ」
……お?
そうか。この男からしたらそういう気持ちになるわな。先に誘ったのに、後からぽっと出の僕が一緒に回っていたら腹が立つのもわかる。
「すまない。今日はもう、彼と回ると決めたんだ」
「いや、良いじゃん。まだソイツと友達ですらないんでしょ?」
「今日、仲良くなる。そう決めた」
「いやいや、いやいやいや。そういうとこ、融通利かせた方が良いよ書記ちゃん。これ、アドバイスね?」
その男は、苛々とした感情を言葉の節々に滲ませながら幼馴染に迫っている。ふむ、コイツに気でもあるのかな?
中学時代の彼女を知らなければ、今のコイツの見てくれに騙されてコロリと行くこともあり得るか。
「……それ以上続けられると、私としても困るのだが」
「いや、困ってんの俺じゃん?」
「せっかくの学園祭の日だ、あまり揉め事を起こしたくはないのだ」
「だから、原因作ったのそっちっしょ?」
で、だ。何でこの場面で、お前は僕をチラチラとみてくるんだ、幼馴染よ。
この男が絡んできたせいで、僕は死ぬほど居心地が悪いわけで。何だこの状況、何がどうしてこうなった。僕にどうして欲しいんだ。
「……ちょっと! 書記ちゃん困ってるじゃん、あんたいい加減にしときなさいよ!?」
「うるせえよ、関係ない奴が入ってくんな!」
「私に不満があるなら謝ろう。だが、ここは穏便に引いてくれないか」
「……んだよ書記ちゃんまで! 俺を悪者にして楽しいかお前ら!!」
流石に見かねたのか、彼のクラスメイトであろう女生徒が幼馴染を庇うべく割って入って来た。
ほ、良かった。コレで事態は収束するかな。そう、僕が一安心して油断したその瞬間だった。
「そこでさっきからずっと突っ立ってるお前もだよ!! 何ボケっとしてやがるんだ!!」
「え、僕?」
彼の怒りの矛先は、突如として僕に向いた。鈍い衝撃と共に、僕の制服の胸倉を掴み上げられる。
「……やめろ!! 彼に手を出すな!!」
「さっきからずっと女に守って貰ってやがって、恥ずかしくねぇのか? さも自分は関係ありませんよ、みたいなすました顔しやがって」
いや、実際関係ないだろう。
だが、彼にとってはそんな僕の態度がたいそう気に入らなかったらしい。無粋にも僕の胸倉に手を当てたその男は、僕の顔面に肉薄し大声で怒鳴った。
「やめろ!! それ以上彼に何かしたら、生徒会の権限を使って君を拘束する!」
「やれるもんならやってみろ! ……おいお前、お前はどう思う? 自分みたいなヘタレたチビが、書記ちゃんと釣り合ってると思ってるか?」
そのまま。その男は、右腕をゆっくり掲げて拳をきつく握り込んだ。その拳の正面には、僕の顔がある。
「言えよ。お前と俺、書記ちゃんが学園祭を一緒に回ったとしてどっちが楽しいと思う?」
「ちょ、先生呼べ!! あいつマジで殴るぞ!」
「揚げパン店で、男装した女生徒が襲われてるぞ!! 教師を早く!!」
「襲われてるほうの男装ちゃん、めっちゃ可愛いぞ!!」
……今、僕を女生徒扱いした奴は誰だ。
「何黙ってんだよ。言えよ!!」
「もうやめろ! お願いだ、その人だけは傷つけないでくれ!!」
「うっせえんだよ、書記ちゃんも何でそんなマジになってんだよ!! ぶっ殺すぞ!」
やがて、その拳に力が入り。激高したその男が、僕を地面に叩きつけながらその拳を振り下ろしたその瞬間。
僕は嘆息して、小声で助けを呼んだ。
「助けて、親友」
「あいよ」
にゅっと人込みの中から、筋肉質な手が伸びる。その手は男の拳を止めて、逆に関節を極め取り押さえてしまった。
「あだだだだっ!!」
「気持ちはわかるが、冷静になれよお前。そんなんで誘ってデートしてもうまく行くわけないだろ、アホか」
呆れた声で、親友は男を説教する。
そう、ナンパを失敗したのであろう僕の親友が、先ほどからずっと遠巻きに僕達の様子を見守っていたのだ。目が合った後ウインクしてくれこの男は、きっと助けに入るタイミングを伺ってくれていたのだろう。
「な、何事ですか!?」
「先生、喧嘩でーす。俺は、殴られそうになった親友を助けに入っただけでーす」
「やめろ、折れる!! 離せ、離せってば!!」
「は? 誰の親友に殴り掛かったと思ってんだテメェ。簡単に許してもらえると思うなよコラ」
「き、君も落ち着きなさい。事情は、生徒指導室で聞きますから」
こうして。やはり、受け身で流されるままに学園祭を過ごしていた僕は、全く楽しめないままに午前の時間を指導室で事情聴取されて過ごしたのだった。
しかし、持つべきは友である。僕の親友は、本当に良い奴なのだ。
「颯爽とナンパに出かけた俺は見事に空振りして、特にナンパする気のなかったお前は女捕まえて学園祭デート、か。流石親友、やるじゃねぇか」
「僕は捕まえたんじゃない。捕まった側だ」
「……ただ、よりによって捕まえたのがこの堅物そうな我らの首席様か。いや、逆にお似合いなのか?」
指導室から解放された後。僕と親友と幼馴染は、3人並んでベンチに腰掛け焼きそばを食べていた。
「先日はどうも。私の自己紹介は必要か?」
「いや、いらねーよ。お前超有名人じゃん、次期生徒会長と名高い学年首席様だろ? 俺の親友と、どういうつながりでデートしてんだ?」
「彼は運営本部である図書館に、独り寂しく読書に来たのでな。企画した側として学園祭を楽しんでもらうべく、学園祭同伴を申し出た」
「だっはっはっは!! 流石親友だ、行動がすべて裏目に出てやがる。超ウケル」
「笑うな」
幼馴染の説明を聞いて、親友は噴き出した。何がそんなに面白いんだ。
「でもよ親友。俺としちゃ、さっきのアレはちょっと頂けないぜ?」
「アレ? 何の話だ」
「さっき絡まれてた時だよ。お前、だんまり決め込んでたろ? 折角俺と目が合ったんだから、強気に言い返せばよかったじゃねぇか。助けが入るのは確定してんだぜ?」
「……ああ、あの時か。あんな状況、何か言い返すだけ労力の無駄じゃないか?」
「そんな訳ねーだろ。な、首席様?」
親友はからかうように、僕と幼馴染を交互に見据えて笑った。……むぅ、親友の考えが読めない。
「私は、別に……」
「ほら、コイツもこう言ってるじゃないか」
「女心が分かってねえな親友。男ならあの場面、『彼女と約束したのはこの僕だ。君は引っ込んでいてくれないか』と言いながら華麗に矢面に立った女を庇い。そして『彼女にふさわしいのは、この僕だ』と高らかに宣言して見せるべきだろ!?」
「頭が湧いてるんじゃないかお前」
どこの安っぽいドラマだ。
「えー? いや、それが正解だろ。どう思うよ、首席様」
「……」
「え、何で黙ってるの。まさか本当に、このバカの言ったとおりにした方が良かったの?」
「え、いや、いや!? でも、確かにそんな事言われたらちょっと……」
栗毛の幼馴染は、なにやらゴニョゴニョと言い淀んだ。まじか、そんなのがいいのか、そしてそんな期待してたのかお前。
「……あの場面。僕が口を開いたとしたら、間違いなく『そうだね、君の方がふさわしいね。じゃ、僕はこれで』なんだが」
「おい」
「と言うか、僕を女子扱いした奴が居て、気が逸ちゃって黙り込んだけど。気が逸れてなかったら、僕はコイツ置いて逃げ出したぞあの時」
「それは流石に人間性疑うぞ親友……」
いやだって。他の女子ならともかく、コイツにそこまで肩入れする理由は何もないんだが。
「…………」
「ほら、めっちゃ怒ってるじゃん彼女。お前のことマジ睨みしてるぞこれ」
「怒ったならどうぞ、生徒会に戻ればいいじゃないか。親友もフリーになったみたいだし、この後一緒に学園祭回らないか?」
「いや。いや、お前本気でそれ言ってる? 首席様、わざわざ寂しいお前に付き合ってくれてんだろ?」
「頼んだわけじゃ────むぐっ!!?」
突如として、僕は後頚部に凄まじい圧迫感を感じた。それは、つまり彼女の掌が僕の首筋を背後から握りしめているからだった。
痛い、苦しい。何をするんだ。
「すまないな、君はもう暫くナンパにいそしんでいてくれたまえ。私は彼と、午後も二人で学園祭を回ることにするよ」
「お、おお。そうか、頑張れ」
「……助けてくれ、親友」
「悪いな、親友のお助けチャンスは一日一回までなんだ」
「では、行こうか。君のシフトの時間まで、たっぷり付き合ってあげよう」
「薄情者ぉぉ……」
こうして、無駄に怪力な幼馴染に首根っこを押さえられた僕は、引きずられるようにベンチを後にした。やきそばの容器を乱暴にゴミ箱に叩きつけて。
「……はぁ。俺もナンパ頑張るかぁ」
そんな、親友に突如現れた女の影に動揺しつつも。ナンパ少年は獲物を求めて、再び立ち上がった。
学園祭は、まだまだ続く。