※この作品はR-18です。

信じて送り出したド淫乱幼馴染みが真人間になって戻ってきた件   作:ナマクラ(18禁)

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その6

 その日、生まれて初めて僕は女子制服というものに身を包んだ。

 

 シフト開始の10分前。僕は、前のシフトで厨房を担当していた僕に似た体格の、クラスの中でも一際小柄な女子から綺麗に畳まれた制服を受け取った。

 

「ちゃんと洗濯済みだから、気にしないでね」

「ああ、ありがとうちーちゃん」

 

 僕は制服を受け取ると、まず男子制服のままスカートを身に付けてブラウスを羽織った。このまま着付けを行えば、最後に制服のズボンを脱ぐだけで下着姿にならずとも着替えられるのだ。

 

 手際よく女子制服に身を包んだ僕は、そのまま接客に移ろうとすると厨房担当である女子に呼び止められた。

 

「待って、ついでにちょっとメイクもしたげる。シフト終わったら顔洗ってね、それですぐ落ちるから」

「……そこまでする必要ある?」

「こういうネタは中途半端じゃ逆に恥ずかしいのよ。男子なら吹っ切りなさい」

「そんなもんか」

 

 その後、僕は手際よくクラスの女子に化粧を施され、あまりネタになりそうのない女装少年へと変貌を遂げた。目の前の女子は、何やら達成感溢れる顔で僕を見つめている。たかが学園祭によくここまで本気になれるもんだ。

 

「悪ーりぃ、ギリギリだ!」

「あ、来たか親友」

 

 そして、交代時間ギリギリにクラスに駆け込んできた男が居た。言わずもがな、ナンパに夢中になりすぎて時間を忘れていただろう親友である。

 

「うお!! やば、やっぱお前すごく女装似合うじゃん」

「そいつはどうも、嬉しくないお世辞をありがとう。早く着替えてこい、もう時間だぞ」

 

 親友は時間ギリギリの到着だと言うのに、悪びれる様子も無く僕のスカートをめくりあげ笑っている。男子だからと言ってスカート捲っていいわけじゃないからな、ぶっ殺すぞ。

 

「遅い! 10分前は基本でしょ!?」

「悪かったちーちゃん、思わせぶりな女がいて手間取ってたんだ」

「で、成果はどうだい?」

「あのアマ、結局彼氏いやがった」

 

 どうやら、結局女の子を捕まえることはできなかったらしい。これは、僕にとって非常に好都合である。

 

「良かった。じゃあ、君は今夜空いているんだね」

「ん? まーな、残念ながら」

「なら、お願いがあるんだ」

 

 彼が女子の制服を受け取り、いざ着替えようとしているその瞬間。女装した僕は思わせぶりに彼の手を握り、伏し目で顔を見上げて。

 

「今夜、僕のウチに泊まっていかないか?」

 

 そう、お願いした。

 

 

 

 

 

「え、何で?」

「ん、後で話す。どうせ暇なんだから、良いだろ?」

 

 ちーちゃんの目が物凄く輝いて、親友は凄まじい顔をした。どうかしたのだろうか。

 

「……え、あんたらってそう言う関係? マジで?」

「違うからなちーちゃん!! おい、何か理由があるなら今言えよ! 変な誤解が広まるだろうが!」

「え? その、何というかだな……」

 

 変な誤解ってなんだろう。だが、これは幼馴染みに関わる案件だ。彼を家に招きたい理由をこの場で明言するわけにはいかない。どうしたものか。

 

「えっと、つまり僕は」

「おう、つまりどうした」

 

 仕方ない、当たり障りのない適当な理由で誤魔化すか。

 

「……今夜は一人になりたくないんだ。僕と一緒に寝てくれないか、親友」

 

 その直後、何故か親友からチョップが飛んできた。痛い、何をするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────何故、僕が急に親友を家に誘っているのか。その話は、昼に親友と別れた後の学園祭での出来事が大きく関わっている。

 

 あの生徒指導室での事情聴取の後、あの空気の読めない幼馴染によって僕は首根っこを掴まれ、そこら中の模擬店へと引きずり回された。あれをしよう、これを食べよう、それを見に行こうと彼女の誘いは尽きることがなかった。

 

 だが、彼女のその行動自体はそこまで苦痛ではなかった。言うなれば……成り行きとは言え、僕は彼女の同行を承諾した時点でこの展開を予想していたからである。

 

 彼女がまだ、才気溢れる神童であった頃。彼女は常にクラスの先頭に立ち、そして周囲の人間を導き続けた。とにかく人の上に立つのが好きなのだ、この女。

 

 いつの間にか皆を巻き込んで、非凡なリーダーシップを発揮し何かを成し遂げる。それが、彼女が神童たる所以であった。

 

 だから、彼女に捕まってしまった以上、今日はこうなるものだと覚悟を決めていた。僕の薄弱な意思では、頑強な彼女の押しを退けられるはずがないのである。

 

 それに、苦手なものから目を背け続けていては人間は成長しない。女性に対する苦手意識を抱え続けたまま社会に出るのは不安が残る。僕も、いつかは彼女を乗り越えないといけないのだ。

 

 まぁ、本音を言えば目立つから学園祭デートは勘弁して欲しいところだったが。

 

「……どうだ、少しは楽しめているか?」

「まぁまぁ」

「お祭り騒ぎが苦手だとしても、こうやって楽しそうに騒いでいる連中を遠目に眺めるだけでも愉快だろう。祭りの空気に触れる、それだけで祭りに参加しているようなものなのさ」

「そうかい」

 

 全く、こうも嬉しそうな幼馴染の顔を見ると気が抜ける。彼女は僕に嫌われている自覚はあるのだろうか。

 

 ……でも昔は。僕がまだ幼い子供の頃は、彼女のこういうところに惹かれていたんだっけ? どうしてこんな粗暴者に憧れてしまったのか、幼い僕は。全く嫌な思い出だ。

 

「じゃあ、次は軽音楽部のステージに────」

 

 人気のない廊下で一休みしながら、そんなかつての自分の黒歴史に頭を抱えていると。突然に嬉しそうに笑う幼馴染の顔がブレ、大きな衝撃音が僕の耳を切り裂いた。

 

 バシン。

 

 それは、鼓膜を突き破らんばかりの衝撃だった。右の後頭部に激痛が刻み込まれ、バランスを失った僕は廊下に叩きつけられる。 

 

 口の中に血の味が広がって、視界が真っ白になる。

 

 

「……なっ!?」

「なぜお前がここにいる」

 

 どうやら僕は、何者かに不意打ちで殴られたらしい。グラグラと頭が揺れ、目眩が大地を揺らす。そんな僕の頭上から聞こえたのは、氷のように冷たい声色の男性の声だった。

 

「何故、お前がこの学校にいる。答えろ、下郎」

「な。何をやっている!!」

 

 咄嗟に、幼馴染が僕とその男性の間に割って入って来た。ぼんやりと体を起こしながら、僕はゆっくりと頭を上げて襲撃者の正体を目視する。

 

「……久しぶりだな、下郎」

「貴方は……」

 

 そこに立っていたのは、中年の男性だ。シワが顔に刻まれた、そのやせっぽっちの眼鏡の神経質そうなその男の顔に僕は見覚えがあった。

 

「何をしてる!? 人にいきなり殴りかかった上に、その態度は何だ!」

「お前は下がっていなさい。俺は、そこの男と話をしているんだ」

「下がってなんかいられるか! 言い分によっちゃ、例え父親だろうと許さないぞ!!」

 

 その、男は。神童と名高かった幼馴染をド淫乱に育て上げた、彼女の血のつながった実の父親。数年前の別れ際、僕に「娘をキズモノにされた」恨み節を僕の家までネチネチ言いに来た暇な男。

 

 この世で最も会いたくない人間の一人が、そこにいた。

 

「そんなに娘を食い物にするのが楽しかったのかお前は。調べ上げてわざわざ県外の学校まで来るとは……、どれだけ異常なんだ」

「……違う! 彼は、たまたまこの学校に来ただけだ!! それに、異常なのはいきなり殴りかかる父さんの方────」

「たまたま来た? この広い日本で、お前がいる高校にピンポイントで? そんな訳がないだろう、人が良いのもいい加減にしなさい。……で、お前は何故ここにいる。なぜここの高校の制服を着ている。まさか、学園祭に乗じて侵入してきたのではなくこの学校に入学しているのか?」

 

 嫌悪感を隠そうともしない、中年の男の目。ああ、反吐が出る。

 

 誰のせいで、僕は地元に居られなくなったと思っている。この女の育て方を間違えた、お前の所業だろうが。

 

「父さん。……彼に謝って」

「お前は下がっていろ。どうせ後で目が覚める、今は父さんに任せなさい」

「人に手をあげておいて、一言も謝らないのが親の見せる姿なのですか? ……謝れよ、父さん」

「お前はよく出来た娘だが、まだ若いし世間を知らない。男がどんな醜い生き物なのか、どんな悪辣な手で女性を食物にしようとするか知らない。ここは、父さんに任せるんだ」

「違う!! 何もかも間違ってるのは父さんの方だ!!」

 

 ぐ、ぐぐ。たっぷり恨み節を言い返したいところだが、頭の鈍痛と目眩でまだ頭が回らない。

 

「謝れよ! いくらなんでも非常識が過ぎるだろう!」

「早く目を覚ましなさい、そんなチンチクリンの情けない男のどこがいいんだ。お前の男の趣味は悪すぎる、何を言われて口説かれたのかは知らんがどうせ体目当て────」

「このっ!!」

 

 バシン。

 

 再度、最悪のコンディションの僕の耳を大きな音が刺激する。キーンとした耳鳴りが、僕の平衡感覚を苦しめる。

 

 見れば、父親の頬には赤い紅葉が咲いていた。

 

「……お前!!」

「それが親の態度か! それが何十年も生きた人間の所業か! 恥ずかしいとは思わないのか!!

「父親に手をあげたか? 親に手をあげたな!? 誰に似た、どうしてこんな馬鹿に育った!?」

「少なくとも、お前にだけは似ていると言われたくないな父さん!!」

 

 うーわ、ガチの親子喧嘩だ。幼馴染の方も見たことがないほど怒っているし、父親の方も顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。

 

 一気に、この中年に関わる気が失せた。面倒ごとしか持ってこないのか、この親子は。

 

「……何度も言っただろう!! 悪かったのは私の方だと!!」

「いい加減にしろ!! お前は今の自分を客観的に見れないのか!? 屑に入れ込むバカ女でしかないと、何故分からない!」

「少なくとも貴方よりかは遥かに客観的に見ている! 屑はお前だ、耄碌親父!!」

 

 うむ、ここに割って入って罵詈雑言を返しても益々面倒くさい事になるだけだ。出来れば自分できっちり言い返したかったが、ここは堪えて様子を伺おう。

 

「親に向かってなんたる口の利き方だ!! お前の学費は、服は、食べ物は誰の金で賄われていると思ってるんだ!?」

「それは今は関係ないだろう!! 何故、いい歳した大人が自分の間違いを認めない!」

「間違っているのはお前の方だ、まだ16のくせして何が分かる!!」

 

 そのまま、二人の醜い言い争いはヒートアップしていく。僕は、徹頭徹尾その二人に関わらず事態を傍観していた。

 

 ────やがて。

 

「お前のような女は娘と思わん!! 勘当だ!!」

「上等だ!! 貴方みたいな親なんか、私から願い下げだ!!」

 

 結局、折り合いを見つけることが出来なかったその親子は、真っ向から縁を切ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、だ。親友、本当にどういう理由で俺を部屋に呼んだんだよ。俺、本当に女が好きだぞ? 女以外には興味ないぞ?」

「そんなもの、見ていれば分かる。今日はたまたま、君の好きそうなものが家に有ってね? 御裾分けでもしようかと君を呼んだのさ」

 

 学園祭初日の夜。僕は、暗くなった通学路を親友と二人並んで歩いて帰っていた。

 

「そうだったのか。変な誤魔化し方するから勘ぐっちまったぜ……、で、その俺の好きそうなものってなんだ?」

「それは、来てのお楽しみさ」

「ほー、さてはエッチなビデオでも入手したのか? ま、お前に限ってそんなことはねーんだろうけど……」

「いや、殆ど正解だよ」

「え、マジ!? 何だ何だ、お前もやっぱり興味あるんじゃんか!! そっか、そういうノリで俺を呼んだのね、だからちーちゃんの前では誤魔化してたのね。納得納得!!」

 

 何としてもこの男を部屋に呼びたかった僕は、土下座せんばかりの勢いで拝み倒して何とかお泊り会の了承を得た。ちーちゃんの不気味な笑顔が、何故か印象深かった。

 

 親友は何やら凄く悩み警戒心をむき出しにしていたが、僕の話を聞くと納得してくれた。良かった、本当に助かった。持つべきものは、やはり親友である。

 

「あ、このアパートの1階。一番手前の部屋が僕の部屋ね」

「へぇー、そういやお前の家に来たの初めてだな」

「フリマで衣類売っててよかった。君の明日の着替えも問題ないし」

「あー、それだけど良いのか? 服とか全部奢って貰って」

「今日、何としても君に泊まって貰わないと困るからね。これくらい安いもんさ」

「……やっぱお前、なんか隠してねぇか?」

「隠してないとも」

 

 ち、親友め。無駄に勘が良い。

 

「さぁ、到着だ。呼び鈴を鳴らそう」

「いや、お前の家だろ。何で呼び鈴鳴らすんだよ」

「……僕の家の鍵は、預けてるからね」

「はぁ? 誰に?」

 

 ピンポン、と機械的な音が玄関に鳴り響く。合わせて間もなく、僕の部屋の扉が開き一人の少女がドアの隙間から顔をのぞかせた。

 

「……お、おかえり」

「ただいま。迷わなかったんだな」

「今は、スマホに便利なマップがあるからな。……で、その、君一人ではないのか?」

「お前と二人きりで一泊を明かせるわけないだろう。今日は親友も泊まりだよ」

 

 そう。勘当されて家に帰れなくなってしまった栗色の髪の幼馴染は、今夜泊まる場所が無かったのだ。しかもあろうことか、この女は僕の家に泊めてくれと戯言を吐いたのだった。

 

 断固拒否だ、他のお前の女友達の家に泊まれ、とそう言いかけたのだが……。間違いなくその女友達に根掘り葉掘り事情を聴かれるだろうし、その結果僕と彼女の過去が拡散されてしまう可能性があると気づいた。ならば、一日くらいなら僕の家に匿ってやる方が良いと決断したのである。

 

 頭も冷えるだろう明日には、彼女には速やかに自宅に戻っていただく。今日一日だけの特別サービスだ。

 

「……俺は、ナンパに失敗。誰にも相手にされず、寂しい学園祭……」

「ん? どうした親友」

「コイツはただ図書館に行っただけで、学園祭デートを楽しんで。その挙句に、首席様を即日お持ち帰り……」

「し、親友?」

 

 だが、どうしたんだろう。部屋から出てきた幼馴染を見るなり、いきなり親友の目がドンヨリと濁り始めたではないか。今日のナンパで、何か辛い事でもあったのかもしれない。

 

 

 

「……俺程度が親友などとおこがましい。今後は師匠と呼ばせてください」

「本当にどうしたんだ!?」

 

 

 

 そして、彼はそのまま速やかに玄関先で僕に土下座を決めた。正気に戻れ、親友。

 

 

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