機体を隠したユウヤは、DIAから受け取ったカードキーを使って施設に侵入。クリスカが閉じ込められている部屋に向かっていた。耳を澄ませ、静かに向かっていく。
そして、何とか見つからずにクリスカが閉じ込められている部屋に到着し、メモに書いてある通りにパスワードを打ち込んだのだが、エラー音が響くのみで開かない。
「つっ!? 何でだ!? まさか、偽物のパスワードでも渡されたのか!?」
ユウヤは再度パスワードを入力したが、やはりエラー音が響くだけで開かない。どうすればいい、と考えていた時、足音を聞いたユウヤは近くの部屋のドアを開けて、中に誰も居ないのを確認してから隠れた。
すると来たのは、白衣を着た一人の男だった。胸元にネームプレートが有ることから、どうやら研究者らしい。
その男がパスワードを打ち込むと、エラー音が鳴り
「ん? ……ああ、少し前に変えたんだったな」
と言って、再度パスワードを入力すると、今度は開いた。そして、男が開いたのと同時にユウヤは飛び出し
「テメェのせいかよ!」
「がっ!?」
男の首筋に一撃入れて気絶させると、中に入った。
殺風景な部屋にはベッドがひとつだけあり、そこにクリスカが寝かされていた。
「クリスカ……クリスカ!」
「うっ……ブリッジス……?」
ユウヤが声を掛けると、クリスカが起きた。その声音から、確かに弱っていることが伺える。
「何をしに……来た……」
「お前を助けに来たんだよ……強化装備に着替えられるか……?」
「私を助けて……お前に、何の徳がある……」
「助けたいから助けるんだ……行くぞ」
戦術機で脱出する予定な為に、病人服では保たない。だから強化装備に着替えさせる必要があるのだが、その場所に関してはDIAから渡された地図にあった。
ユウヤは少しでも発覚されるのを遅らせる為に、先ほどの男を部屋に入れて、縛ってからドアを閉めた。
「よし、しっかり掴まってろよ」
ユウヤは地図を頼りに、ロッカールームに向かう。そして、ロッカールームに入ると
「クリスカのロッカーはどれだ」
「……右から、三番目だ」
クリスカから場所を聞いて、そのロッカーから強化装備を取り出すと、クリスカの着替えの手伝いを始めた。
そこら辺は軍人としての訓練にあったので、恥ずかしがる事はなかった。
問題は、そこからだった。
ロッカールームから出ると、近くの窓から外に出た。そしてクリスカを背負って走っていたら、施設の方から甲高い警報音が鳴り始めた。
「ちっ!! 気付かれたか!!」
「ブリッジス……今からでも遅くはない……私を置いて、逃げろ……」
「冗談抜かせ!」
ユウヤは全速力で機体まで走ると、クリスカをハーネスで固定し
「行くぞ、クリスカ……堪えろよ!」
弐型を発進させた。
その時、アルゴス隊のハンガーでは
「だから、ユウヤが何であんな事をしたかなんて、俺が知る訳ないだろうが!」
「嘘を吐くな! 貴様が協力しなければ、機体がなんで補給されていたんだ!」
ユウヤ機の機付き整備士のヴィンセントに対して、DIAの一人が激しく尋問していた。
しかしヴィンセントの返答が気に入らないのか、大分殴ったらしい。ヴィンセントの顔は、アザだらけになっている。
それをマジックミラー越しに見ながらも、アルバートは端末を見た。実はユウヤ機にはDIAが発信器を取り付けており、その行動を見ていたのだ。
「ウェスカー捜査官……彼はやるでしょうか……」
「彼は、アメリカ人であることを殊更意識していた……やるだろう」
アルバートだが、ユウヤが出向する前にどんな言動をしていたか調査していた。ユウヤは度々日本人は日本に帰れとバカにされる度に、アメリカ人だと激昂し、喧嘩していた。
確かに、その時だったらアルバートからの指示に従い、行動していただろう。だが、彼らはこのアラスカでの心境の変化を知らないでいた。
「……む、機体の動きが変わったな……ソ連側の部隊に捕捉されたか……」
「もしや、アルゴス隊かもしれません」
今回の真相を知るのは、アルバートをとその補佐官のみになる。他のDIA要員は何も知らない。
「……彼を信じて、待つしかあるまい」
アルバートはそう言って、補佐官と一緒に合流予定ポイントに向かった。
その時ユウヤは、ソ連側の機体だけでなく、唯依以外のアルゴス隊と遭遇していた。
「クソッ……最悪だ……どうすれば……」
ユウヤが悩んでいると、ソ連機がユウヤ機に突撃砲を向けた。その直後
『なにしようとしてるんだよ、薄汚ぇ赤がよ!!』
どうやらアクティブイーグルに乗っているらしいタリサが、ソ連機に対して砲撃した。それに合わせて、もう一機のアクティブとストライクイーグルもソ連機に対して砲撃を開始した。
「なっ……」
『今は離れろ、ユウヤ! 訳は後でキッチリ聞くからな!!』
タリサは秘匿回線でそう言って、ソ連機に突撃。VG機とステラ機もタリサ機に続いて突撃していく。どうやら、今はソ連機を優先するようだ。
「ブリッジス……」
「……タリサ達の気持ちを、無駄には出来ない」
ユウヤはそう言って、その場所から離れた。
しかしその先には、一機の赤い機体が待ち構えていた。
「なんだ、あの機体は……チェルミナートルによく似てるが……」
「あれは……我が国の最新鋭機……SUー47、ベルクートだ……しかもあの機体は……」
クリスカの言わんとしていることは、ユウヤにも分かっていた。ベルクートのIFFは、イーダル1。つまり、イーニァが乗っているのだ。恐らくもう一人は、マーティカだろう。
「クリスカ……お前の方から、イーニァに繋げられないのか?」
「……ブリッジス、今すぐ逃げろ」
「なに?」
「今のイーニァは……あの能力を発動している……!」
クリスカがそう言った直後、ベルクートが動いた。その動きに、既視感を覚えたユウヤは
「あの時のか!?」
今のイーニァが、以前のユーコン事件の時の状態だと分かった。
場所は再び変わり、アルゴス隊のハンガー。
「ち、役に立たない整備士だな! ここで大人しくしていろ! 処分は追って通達する!」
「クソッ……痛ぇな……好き勝手殴りやがって……」
尋問が終わったヴィンセントは、自室に軟禁されていた。何度説明しても信じなかった捜査官は、何度も手加減無しにヴィンセントを殴った。
痛む体を労りながら、ヴィンセントは自分で治療しようとした。その時、ドアが開いて国連軍の警備兵らしい兵士が三人程入ってきた。
「なんだよ、今度は国連軍が尋問か? だったら、先に治療したいんだが?」
ヴィンセントはイライラを隠すこともなく、怒った声音でそう言った。すると
「……今回の件は、DIAが発端よ」
と女の声が聞こえた。よく見ると、三人共に女だった。
先ほどのはどうやら、水色の髪の女が言ったらしい。
「……どういうことだ?」
「ユウヤ・ブリッジスにDIAがクリスカ・ビャーチェノワを助けたいか、と取り引きを持ち掛けたのよ。対価に、彼の階級を約束するって言ってね」
ヴィンセントの問い掛けに、水色の髪の女。楯無は説明しながらボイスレコーダーを取り出して、再生した。
その声は確かに、あのアルバートとユウヤの声だった。
「つまり何か? ……今回の事は、全部DIAの自作自演ってことか!?」
「そうなるわね」
楯無が肯定した直後、ヴィンセントは椅子を思い切り蹴飛ばした。
「ふざけんなっ!! あのDIA共!! 結局は、テメェらの利益優先だろうが! そのために、XFJ計画まで潰す気かよ!!」
ヴィンセントは怒り心頭という様子で、悪態を吐いている。すると、楯無は
「今はどうやら、DIAの予想とは違う動きをしてるみたいだけど……貴方はどうするのかしら?」
とヴィンセントに問い掛けた。
「どういう意味だ」
「今回の件で、最悪貴方は降格させられるでしょうけど、問題なくアメリカには帰れるわ……けれど、ユウヤ・ブリッジスは最悪……」
「DIAに、殺されるかもしれない……か……」
そう、DIAはクリスカを助けたいとは言ったが、DIAが欲しいのはクリスカに使われている技術。
クローニング技術や、ポールザイナトミィ計画に関する技術だろう。それらと最良ならばイーニァも貰い、更には機体も奪った挙げ句にユウヤを殺す。
「悪名高いDIAなら、平気でやりそうな事だぜ……」
「まあ、そうさせない為に、私達が動いてるんだけどね」
「そういやぁ……お前らは、何者だ?」
「……傭兵部隊、スピリッツ」
その名前に、ヴィンセントは目を見開いた。
日本帝国に現れた規格外の兵器を持つという、世界最強の傭兵部隊。アメリカ軍上層部は一度雇おうとしたが失敗したとヴィンセントは聞いていた。
そのスピリッツの兵士が、目の前に居る。
「まさか……国連軍のセキュリティーを突破したってのか?」
「私達には、容易いことよ……さあ、どうする? ヴィンセント・ローウェル軍曹。今貴方には、2つの選択肢があるわ」
楯無はそう言って、手を差し出した。
今ヴィンセントに提示されている選択肢。
アメリカ軍軍人としての忠誠を果たし、DIAの好き勝手を見逃して帰国するか。
はたまた、今ここで楯無の手を取るか。
ヴィンセントの答えは