ユウヤ機とイーニァ・マーティカ機の戦闘は、熾烈を極めた。互いに相手を撃破する為に動き回り、攻撃を繰り返した。しかし、互いに凄腕衛士。互いの攻撃を紙一重で回避し、また攻撃を繰り返す。
一進一退の攻防戦が繰り広げられるが、転機が訪れたのはクリスカからの呼び掛けだった。
クリスカがイーニァに呼び掛けた直後、ベルクートの動きが鈍くなり、その隙を見逃さずにユウヤはベルクートを無力化。機体から降りて、ベルクートのコクピットを開けて、困惑した。
二人乗り仕様のコクピットは前と変わらず、前の席にはイーニァが居るのだが、二人目が座っているべき後部席には、見たことのない機械があり、マーティカの姿は無かった。
「なんだ、これは……マーティカはどこに……?」
「……それが、マーティカだよ。ユウヤ……」
「イーニァ……って、これがマーティカだと!?」
ユウヤはイーニァが無事な事に安堵したが、すぐに驚愕した。まさか、その半円形の機械がマーティカだとは思えなかったのだ。
「うん……私と繋がる為だけに、体を無くして……機械の部品になったマーティカ……」
「こんな……こんな計画をしているのか、ソ連軍は!?」
余りにも常軌を逸した計画に、ユウヤは憤って拳をコクピットの機材に叩き付けた。
「ユウヤ……マーティカ、その姿を見られたくないみたいだから……」
「ああ……今、楽にしてやる……」
ユウヤは泣きそうな表情を浮かべながら、拳銃を構えて、引き鉄を引いた。
その後、ユウヤはイーニァも自機のコクピットに入れたのだが、レーダーに高速接近する反応を捉えた。
「このIFF……まさか!?」
ユウヤ機の前に現れたのは、ダークグレーを基調としたカラーリングの不知火・弐型。タイプ2だった。
ユウヤ機とは機体としての造りは一緒だが、跳躍ユニットがより大出力の物になっており、ユウヤ機のタイプ1とデータ比較していた機体だ。
しかし、タリサはADVイーグルに乗っていた。
ならば、考えられる人物は一人だけ。
「篁中尉か!!」
『ブリッジス少尉……今投降するならば、命は保証する。しかし、抵抗するならば』
唯依はそこまで言うと、右手に長刀を構え、左手に複合突撃砲を構えた。
ユウヤ機は既に一戦した後だが、ユウヤ機に隠されていた機能。JRSによって推進材はベルクートから回収した。だが、クリスカとイーニァの二人が乗っているので、不利は否めない。
(どうする……どうすれば……!?)
とユウヤが悩んでいた時
『動かないでください、ブリッジス少尉』
と声が聞こえたかと思ったら、二機の間に砲弾が着弾し、爆発により視界が塞がれた。
「今だ!」
それをチャンスと捉えたユウヤは、機体を一気に反転させて、離脱した。
『待て! くぅっ!?』
唯依の声が聞こえたが、どうやら横槍により動けないらしい。ユウヤは振り返らずに、その場から離脱を優先し、当初の予定とは違う場所に向かう事にした。
最早、DIAも信用出来ないと判断したからだ。
雪煙自体は機体の爆風で晴れたが、唯依は暫くの間何処からか飛んでくる砲弾の回避により、ユウヤ機を追えなかった。
『36mmでも120mmでもないが……! これは……!!』
連射速度と威力が高かった為、唯依はその攻撃主に反撃する事も出来なかった。
そして攻撃が止まった時、ユウヤ機はかなり離れており、更には攻撃主も居なくなった様子だったが、唯依は動いた。
少し時は経ち、ある山小屋にユウヤはイーニァとクリスカと共に避難していた。
だが、クリスカの体調は悪くなる一方だった。
コクピットから持ってきた医療キットの鎮静剤により眠っているが、顔色はかなり悪い。
アルバートが言っていた指向性タンパク質というやつが、やはり必要なのか、とユウヤが考えていた時、山小屋のドアが乱暴に叩かれて、ユウヤは拳銃を構えた。
だがそれを、イーニァが優しく止めて
「大丈夫だよ、ユウヤ……外の人、害意は無いよ」
と教え、ユウヤは警戒しながらドアを開けた。
外に居たのは、宇宙服のようなスーツを着た小柄な女性。麻揶だった。
「ユウヤ・ブリッジス少尉ですね?」
「あんたは、誰だ……」
「傭兵部隊、スピリッツの者。とだけ……これを、持ってきました」
麻揶はそう言って、アタッシュケースを肩の高さまで持ち上げて
「そちらの方……クリスカ・ビャーチェノワ少尉を助ける物……指向性タンパク質です」
「……それが、偽物じゃないって証拠は……?」
「信じてもらうしか、ありませんね……」
麻揶のその言葉に、ユウヤは暫くアタッシュケースを見詰めた。そして、意を決して拳銃を仕舞い
「それを、貰う」
とアタッシュケースを掴んだ。
クリスカの下に運び、ユウヤはアタッシュケースを開いた。中には、無針式の注射器とカートリッジが2つあった。
ユウヤはカートリッジを注射器に装填すると、強化装備を脱がして、腕に当ててから引き鉄を引いた。すると、カートリッジの中に満たされていた液はあっという間に無くなり、それまで荒かったクリスカの呼吸が落ち着いてきて、顔色も良くなった。
それを確認したユウヤは、麻揶の方に向き直り
「ありがとう……あんたらのおかげで、クリスカは助かった……」
と頭を下げた。
すると麻揶は、手を左右に振って
「いえいえ……私達は、仕事でここに来たんです。気にしないでください」
と返した。
するとユウヤは
「一つ聞きたいんだが……どうやって追ってきたんだ?」
と麻揶に問い掛けた。
実はユウヤが乗っていた弐型には、JRSの他にアクティブステルスという機能が備わっていたのだ。
その機能は、ユウヤも試験に携わったFー22A。ラプターに備わっている機能で、レーダーに反応しにくくなるだけでなく、戦術データリンクを介して偽の情報を流す事も出来るのだ、
ユウヤはそれをオンにしていたが、唯依と麻揶は簡単にユウヤ達を見つけている。それが気になったようだ。
「……そちらは気付いていなかったようですが、実は最初から貴方の機体を追跡させてもらってました」
「なに!?」
信じがたい事を聞いて、ユウヤは驚いた。最初から追跡していたというが、レーダーにそれらしい反応は一切無かった。だとすれば、スピリッツにはラプターを超えるステルスが有るとユウヤは考えた。
「それと、篁中尉が追い付いた理由ですが……あの刀です」
「え、あの刀が?」
麻揶が指差した刀は、尚人から受け取った篁中尉の刀だった。
「実はあの刀には、発信器というような機能があるんです」
「だが、発信器は無いのは確認したんだが……」
「正確に言うと、ある金属同士が当たる際に発生する微妙な電磁波……それを追い掛けてきたんです」
「この刀が……だが、なんでそんな機能が……」
ユウヤが不思議そうにしていると、麻揶はその刀を持ち上げて
「この刀の銘は、緋焔白麗……篁家次期当主が持つ刀なんです」
と説明した。
「なに!? じゃあ、俺がこの刀を持っていたら、中尉は……」
「……最悪、次期当主の資格を失い、御家断絶という可能性もあります」
「クソッ! 何とかして、中尉に返さないと……!」
ユウヤが慌てていると、麻揶がユウヤの肩に優しく手を置いて
「いえ……
「……どういう意味だ」
麻揶の言葉に、ユウヤは困惑した。すると麻揶は、胸元から一枚の紙を取り出して
「ブリッジス少尉のユウヤ、というのは漢字だとこう書きます」
祐也、と書かれた紙を見せた。
「あ、ああ……」
「そして、篁中尉の唯依」
祐也の字の下に、今度は唯依の名前を書いた。その祐と唯を丸で囲み
「この二文字で、祐唯と読むんです……ブリッジス少尉のお父さん。篁祐唯の名前になるんです」
「な……待て待て……ってことは、俺と中尉が兄弟だってのか!? それが本当だとして、なんで知ってるんだ!?」
ユウヤが混乱していると、麻揶はその紙を燃やしてから
「この方から聞きました……私達に、ブリッジス少尉を助けて、と依頼してきた依頼人です」
と言って、胸元から新たに一枚の写真を取り出して、裏向きでユウヤに差し出した。
「一体誰が……おい、何の冗談だ」
写真を見たユウヤは、麻揶を睨んだ。
何せ、その写真に写っていたのは、ユウヤの記憶より少しばかり老けた母親だったからだ。
ユウヤは麻揶の肩を掴み
「母さんは死んだ! なのに!?」
「いえ……ミラ・ブリッジスさんは生きてます……お葬式もしたでしょうが、その遺体は恐らく難民キャンプで亡くなった背丈とスタイルがよく似た別人です」
そこまで言うと麻揶は、ユウヤに何かを耳打ちした。それを聞いたユウヤは、目を見開き
「それは、母さんしか知らない筈……」
と呟いた。麻揶が耳打ちしたのは、幼かった頃のユウヤとミラの約束とでも言うべき内容だった。
「これでも、まだ信じられないですか?」
その言葉にユウヤは、暫く黙考して
「……信じるしかないだろ……だが、母さんはなんで身を隠したんだ……」
「正確には、自殺しようとしたのを助けたんです。CIAがミラさんを捕まえようとしたようで」
「DIAの次はCIAかよ……」
アメリカの誇る二大諜報機関の名前が出て、ユウヤは唸った。ここまで来ると、最早アメリカという国を信用出来なくなってきていた。
「それで……俺達をどうする気だ?」
「私達に任せてください。悪いようにはしませんから」
麻揶は自信たっぷりに断言した。
それから十数分後。その小屋に唯依が来て、小屋の真ん中にある机の上に刀が置いてあるのを見つけ、その刀の下に手紙を見つけた。
内容は、以下になる。
『先ほどは失礼しました。一応直撃しないようには攻撃しましたが、大丈夫でしょうか? 早速ですが、本題に入ります。貴女のお兄さんのユウヤ・ブリッジス少尉は一度我々、スピリッツが匿います。同時に、イーニァ・シェスチナ少尉、クリスカ・ビャーチェノワ少尉もこちらで匿います。時が来ましたら、機体共々お返ししますので、ご心配なく。アメリカに関しましては、こちらにお任せください。決して何もさせません』
それを一読した唯依は、その手紙を仕舞った。
「……兄上は、日本に来るか……父様に関しては……まあ、自業自得として自分でどうにかしてもらうしかないか……」
ユウヤの正体を巌谷中佐から聞いていた唯依は、そう呟いた。父親の一夜の過ちとユウヤが異母兄だという真実に、実は一晩中混乱していたりした。
その矢先に今回の事態になり、少し前にヴィンセントが姿を消したと聞いた。そちらも、スピリッツが動いたのだろう。
今、ヴィンセント程弐型に精通した整備士は現状居ないだろう。
「……現状、任せるしかないか……」
唯依はそう結論付けると、どう報告しようか考えながら小屋から出たのだった。