ユウヤが弐型を奪った事件を機に、XFJ計画は終了となった。しかも貴重な実機を奪われた日本は、ユウヤの祖国のアメリカを声高に非難しつつ、データから弐型を先行少数生産し、国内で試験することにした。
そこに、アメリカが横槍を入れてきたのだ。
弐型フェイズ3には、アメリカの秘匿技術が使われている為に、生産するのは一切認めない。
これに対し、日本は
『本当に秘匿技術が使われている確たる証拠もなく、機体を奪わせたアメリカに、止める権利は無い』
と主張し、量産の準備に入り、それに対してアメリカも、制裁の準備をしようとした。しかしその時に、ある筋から音声が流された。
それは、アルバートがユウヤと交わした会話(一部改竄)とアルバートと部下の会話内容だった。
特に問題となったのは、アルバートと部下の会話だった。アルバートとその部下は、弐型に推進材と弾薬を補充している間に、コクピット付近で会話していて、起動していた弐型を介して、ユウヤ機に繋がっていたパソコンに音声データが残されていたのだ。
その内容は要約すれば
1、ソ連が研究していたあるデータの確保
2、最新の実験機体たる不知火弐型・フェイズ3の奪取
3、用済みになったら、ユウヤを始末する
それが国連議会会場に流され、日本を中心に参加していた各国から非難の嵐を受けたのだ。
アメリカは事実無根のデタラメだと反論したが、国連側もアルバート・ウェスカーを知っていた為に言い逃れは出来なかった。
そして、アメリカ以外の国の賛成により、いくらアメリカ寄りの国連とは言え、アメリカに以下の制裁を課した。
1、先ほどの日本への弐型製造中止要求の撤回及び捜査で差し押さえた全データの即時提供
2、最前線への戦力派遣
3、世界各国への、無期限の物資の格安での提供
自国の利益を優先するアメリカにとって、屈辱的な内容の制裁だっただろう。
もしこの制裁を無視すれば、アメリカは国際的な信用を失い、孤立するのは目に見えている。故に、アメリカは飲むしかなかった。
そして、事件から少しして日本のある場所。
「よう、ユウヤ。お互い、アメリカを捨てたな」
「ヴィンセント! お前まで!?」
そこで久しぶりに再会したユウヤとヴィンセントだったが、ユウヤはヴィンセントまでがその場所。日本に居るとは思っていなかった為に驚いた。
そこに、マークとケイが近寄り
「初めましてだな。俺が傭兵部隊スピリッツの実働部隊隊長のマーク・ギルダーだ」
「アタシが、メカニックチーフのケイ・ニムロッドさ」
マークとケイが自己紹介すると、ユウヤとヴィンセントは敬礼して
「整備士のヴィンセント・ローウェルです」
「衛士のユウヤ・ブリッジスです」
と名乗った。アメリカ軍だと言わなかったのは、自分たちが脱走兵だという自覚があるからだろうか。
すると、マークが
「固くなる必要はない。俺達は傭兵。同じ母艦で行動するからには、家族同然だ。さて、ヴィンセントはケイに着いていってくれ。ユウヤ、着いてこい」
と指示を下し、歩き始めた。ヴィンセントはケイと一緒に歩き、ユウヤはマークの後に続いた。艦内だというのに、かなり広く感じる廊下を歩いていると、ユウヤが
「……なあ、あんたらは母さんから依頼を受けて俺を助けたんだよな……」
「まあ、一応そうだな……だが、我々は少数精鋭と言えば聞こえはいいが、人数が少ない。総数で30人少々といったところだ。だから、人員確保は常に行っている」
ユウヤからの問い掛けに、マークはそう答えた。
しかしユウヤは、スピリッツの人数の少なさに驚いていた。艦の運用を考えたら、最低でも200人は居てもおかしくはないのだ。
「さて……ここに、君を待っていた人物が居る」
マークはそう言って、一つのドアを開けて、ユウヤを手招きした。マークの言葉に、ユウヤは喉を鳴らしてから、ゆっくりと入った。
広い会議室らしい部屋の真ん中に、ユウヤの記憶より多少老けた母。
ミラ・ブリッジスが居た。
ユウヤが躊躇いからか、固まっていると、ミラが涙を浮かべて
「ユウヤ……」
とゆっくりとユウヤに歩み寄り、優しく抱き締めた。その声と匂い、そしてその抱き締め方は、間違いなくユウヤの幼い頃の記憶と一緒だった。
「母さん……」
「大きく、なったわね……」
最後に別れた時、まだユウヤはミラの胸元までの身長だったが、今やユウヤの方が高く、ミラの方がユウヤの胸元までの身長だ。
「母さん、スピリッツの人から聞いたが……なんで、居なくなったんだ?」
「……CIAに追われたのよ……」
そこからミラは、居なくなった理由を語った。
ミラは戦術機開発の第一人者たるフランク・ハイネマンに、アメリカが言うことを聞かせる為に。そして、軍事の名門家系たるブリッジス家の人間を使い易くする為に、CIAが捕まえるという情報を偶然に入手。
師匠たるハイネマンと家。何よりも、息子のユウヤと父親の裕唯と日本に迷惑を掛ける訳にはいかないと考え、逃走。
しかし、徐々に逃げ場が無くなり、とうとう崖付近にまで追い込まれ、自殺することを決意し飛び降りたが、偶々アメリカに調査に来ていたラナロウに助けられ、日本に来て、今はスピリッツで機体の改修や、設計をやっているらしい。
話を聞き終わったユウヤは、自国の利益のみを優先し、他人を何とも思わないアメリカという国に、怒りを覚えた。するとミラは、ユウヤの両手を握り
「今私は、世界の為にスピリッツと行動してる……けど、ユウヤは自分が正しいと思ったことをして……私と同じようにする必要はないから」
と諭した。
「母さん……それは、どういう事だ?」
ユウヤがそう問い掛けた時、マークが
「そこからは、俺が語ろう……今スピリッツは、日本が推進する計画。オルタネイティヴ4を援護し、アメリカがやろうとしている計画。オルタネイティヴ5への移行を邪魔している」
と説明を始めた。
「オルタネイティヴ4と5?」
「ああ……元々は、火星で見つかったBETAに対して友好的にコミュニケーションを取ろうと始めたオルタネイティヴ計画……だが、サクロボスコ事件を発端に、対BETA戦略となるオルタネイティヴ2に移行した。だが、2、3と抜本的にBETAに対する計画にならず、日本が主導推進する第4計画に変わった。それを即座に辞めて、アメリカは第5計画を推進しようとしていてな……その第5計画は……アメリカが開発したBETA由来物質を使った兵器。G弾を全ハイヴに対して一斉に投下し、BETAを撃滅しようという計画だ」
マークがそこまで説明した直後、ユウヤは頭を抱えて膝を突いた。
「あ……が……ぎ……!?」
「ユウヤ……!」
「大丈夫だ、ミラ女史……今彼は、並行世界からの情報を見ているんだ」
倒れたユウヤに心配そうにミラが駆け寄り、マークはかつで煌武院家で見た光景から教えた。数秒すると、ユウヤはゆっくりと起き上がり
「なん、だ……今の……人々が、倒れて……」
「今君が見たのは、並行世界の君が経験した第5計画の成れの果ての世界だろう……G弾は、落とした場所で重力異常を引き起こすんだが、たった二発のG弾で、横浜は常に重力異常が起きて、植生が壊滅した……二度と、草木が自然に生える事は無くなったんだ……ならばそれが、地球各地のハイヴに一斉に投下されたら、どうなるか……結果は、地球全土での重力異常……北半球に海が集まり、ユーラシア大陸と日本は海に沈み、アメリカ大陸も大部分で無酸素地帯や低酸素地帯なんていう危険地帯が出来上がった……君が見たのは、その一ヶ所だろう」
マークがそう言うと、ユウヤは拳を床に叩き付け
「……BETA由来物質を使った兵器だと……!? どう考えても、未知数過ぎる兵器じゃねぇか……! その結果が、地球の壊滅……!? 救いようがないじゃないか!!」
と憤りの声を挙げた。
そしてユウヤは、ミラの言葉に納得した。確かに、アメリカね計画を看過したら、世界が危機に陥る。
ならば、今の自分に出来るのは何か。ユウヤはそう考え
「……何をすればいい、マーク隊長さんよ」
とマークに問い掛けた。
「君の腕、試験機に活かしてもらおう」
そして、ユウヤはスピリッツと行動を共にする。