「どうなっている! 帝国に潜入させた諜報員達からの連絡が、一斉に途絶えただと!?」
「はっ……考えられるのは、特定されて対処されたとしか……」
アメリカ軍のある会議室
そこでは情報省からの報告に、集まっていた将校達は頭を抱えていた。アメリカ軍が帝国各軍に潜入させていた100人近くの諜報員達が、一斉に連絡を断ったという。通常では有り得ない報告だった。
「極東の猿共に、そんな情報収集能力が有る筈がない!」
「だが、連絡が無いのは事実だ。ならば、対処されたと考えるしかあるまい」
「新しく、諜報員を潜り込ませるしか……」
「しかし、ただでさえ日系は少ないんだ……優秀な衛士も多い……無為に消耗する訳にもいくまい」
会議は紛糾するが、その時一人の将官が
「ならば、あの国に計画遂行能力が無くなればいい」
と告げた。
それから、数日後
「間違いないのか!?」
「間違いありません! 二機のHSSTが爆薬満載で、横浜基地と……帝都城に向かってきています!」
「すぐに横浜基地と帝都城に報せろ!」
帝国軍と横浜基地に、激震が走った。
本来ならば、海上輸送が原則の高性能爆薬を満載した二機のHSST。無人の再突入型駆逐艦が、制御を外れて横浜基地と帝都城への落下軌道に入っていた。
もし対処出来なければ、間違いなく横浜基地と帝都城は瓦礫に成り代わる。
しかし、赤熱化気流を伴いながら落下してくる二機のHSSTを撃墜するとなれば、生半可な兵器では出来ない。
しかも、最近は対BETA兵器ばかり開発していて、高高度迎撃システムの開発は出来ていないのだ。
「ミサイルでの迎撃は!?」
「ダメです! IFFは国連軍の物で友軍と認識されており、IFFをカットしたらミサイルの照準装置は使えなくなります! 熱源誘導も赤熱化気流により出来ず……」
「直接砲撃するしか、ないというのか……」
一人の将官が項垂れた時、通信で
『帝都城は、こちらに任せてもらおう』
と聞こえた。その声を、その将官は知っていた。
「マーク殿!?」
帝都城、その一角。そこは本来、帝都城に駐屯している帝国近衛軍の戦術機部隊のハンガーと滑走路なのだが、そこに一機のMSが居た。
スピリッツでも、有数の狙撃手。トライアド隊所属のセシリアとその機体。ケルディム・アンダインだった。
ケルディム・アンダインはハロに機体の制御を預けると
「TRANSーAM」
小さくキーワードを唱えて、機体の能力全開をさせると現れたホロスクリーンで落下してくるHSSTを発見し、照準を定めた。
チャンスは短時間のみで、TRANSーAMも考えると一度きりになる。
自分が失敗すれば、帝国の象徴とも言える帝都城に住む悠陽が死ぬ。そのプレッシャーに苛まれながらも、セシリアは確かにHSSTを精密照準すると
「撃ちますわ」
短く告げると同時に、トリガーを引いた。空を走る閃光は真っ直ぐにHSSTに迫り、船体を穿った。一瞬姿勢を崩したかと思えば、次の瞬間にはHSSTは爆散した。
セシリアはTRANSーAMを解除すると、荒く呼吸を繰り返した。撃ったのはたった一発だが、プレッシャーが尋常ではなかったからだ。
ふとその時、いつの間にかハンガーから出てきていた近衛軍の軍人達が拍手喝采していることに気付いた。
その事にセシリアが笑みを浮かべていると
『感謝する、マーク殿。しかし、横浜基地の方は……』
『そちらも問題ない……あちらには、極東一の狙撃手が居るからな』
横浜基地に居る極東一の狙撃手。
それは、国連にて事務次官を勤める
何故。日本帝国の要人の娘が国連軍の横浜基地に居るのか。簡単に言ってしまえば、人質になる。
日本帝国は第四計画を全面的に支援する、という意志表示の一環である。そして、横浜基地に居る要人の子は彼女だけではない。
現帝国首相、
元帝国陸軍中将、彩峰秀閣の娘。
い
帝国情報省外務二課課長、鎧衣左近の娘。
そして何より、現政威大将軍。煌武院悠陽の双子の妹。
これらの怱々たるメンバーが、横浜基地に所属している。
そして彼女達は、今現在国連軍オルタネイティヴⅣ直属部隊、Aー01連隊に所属している。
それはさておき、壬姫が乗る不知火は、肩装甲を外された状態でマスドライバー最上部で戦術機に匹敵する全長を誇る巨大な砲を構えていた。
試製98式1500mmOTH砲である。
最大射程約50kmという化け物火砲で、HSSTを撃墜する。
しかし、未だに試作兵器な為に欠点もあった。
それは、砲身が三発までしか耐えられない事にある。
あまりにも大口径なために、発射の際に生じる爆発の威力が凄まじく、その衝撃に砲身が三発までしか耐えられないのだ。
つまり、三発外せば横浜基地は吹き飛ぶ。
そのプレッシャーに、元来あがり性の彼女は緊張し、身体が強張る。
だが
『大丈夫よ、珠瀬さん』
『そうだ。自分を強く信じよ』
『……私達は、貴女を信じてる』
『だから、自分を信じて。壬姫さん!』
厳しい訓練を共に乗り越えた仲間達から、激励の言葉が投げ掛けられ、彼女は頷き
『うん……撃ちます!』
その宣言の直後、初弾が放たれた。
この1500mmOTH砲だが、発射された後に砲弾の中の火薬で二回までなら弾道を強引に変更出来るように作られていた。
その要となるのは、偵察衛星から得られるデータ。そして何より、戦術データリンクで得られるデータだった。
その二重に得られるデータにより、砲弾は目標に向けて弾道を二回変更し、直撃した。
『凄いですね……スピリッツさん達から得られるデータは……様子見のつもりの初弾で、撃破出来るなんて』
実は彼女は、初弾は砲弾の軌道を読むつもりで撃っていたのだ。しかし、スピリッツのアークエンジェルとエウクレイデスから送られてきたデータは衛星一基から得られるデータとは比較にならない程に正確だった。
だから、初弾命中となったのである。
『香月副司令、我々はこれで』
『ええ、ありがとう。スピリッツ』
横浜沖合いに展開していたスピリッツは、TRANSーAMも用いて帰還したセシリア機を収容すると、海に潜ったのであった。