帝都城と横浜基地へのHSST墜落未遂事件から、少しして
「いよいよ、XGー70シリーズが横浜基地に回されるんですね」
「ええ……あの二機のHSSTの事を黙ってあげる代わりに、無償で貰ったわ」
横浜基地、そのある部屋で武と夕呼が話していた。XGー70。それは、アメリカのHIーMERF計画で造り出された対BETA大型機である。
開発されたはいいが、結局計画は頓挫してモスボール保管されていた。しかしそれを、夕呼は外交で入手した。
機体名は、以後スサノヲとなる。
「それで、00ユニットの方は……」
「束博士とあんたが見せてくれた論文で、もうすぐで完成よ」
00ユニット。それが、第四計画の重要な要因である。
そして論文というのは、並行量子力学理論である。
束が見せたというのは、龍閃の秘匿領域から見つけた亡き直哉の父親、神埼直隆が残していた論文。
そして武が見せたというのは、廃墟になっていた武の実家の自室から見つけた論文。並行世界の夕呼が書いた論文である。
なぜ、それが武の部屋に有ったのか、それは、同じ場所に有ったメモに書かれていた。
どうやら、並行世界の夕呼が武の部屋が一種の特異点ではないか、と考えて賭けではあったが論文を置いたようだった。
そしてその賭けに、夕呼は勝った。
予備含めて複数あったようだが、一つ分だけ残って世界を渡った。
その論文を、何か使える物がないかと考えて来た武が発見し、夕呼の所に持ってきたのだ。
「本当、向こうの世界の私、ギャンブラー過ぎる賭けをしたわね」
「その賭けに勝ったのは、相当な強運ですよね」
確かに、ギャンブラーで強運だろう。しかし、それがあったからこそ、オルタネイティヴ4は次の段階に入った。
「ここからは、アメリカの介入は一切許す訳にはいかないわ」
「分かってます」
今居る横浜基地は、無菌室と呼ばれる程にアメリカの諜報員は一切居ない。基地に居る要員は、殆どが日本人になり、たまに国連が出した難民キャンプ出身者になる。
そこから、更に厳選した人物のみが横浜基地に居る。
今のところ、アメリカの諜報員が入ったことは無い。
「まずは、佐渡島でスサノヲ弐型の実戦試験を兼ねた攻略作戦……で、その後は」
「横浜基地に来るBETAの防衛戦になります」
武が成功した世界で起きた、横浜基地防衛戦。
佐渡島ハイヴ攻略作戦が終わった後、生き残っていた佐渡島ハイヴのBETAが横浜基地に侵攻してきたのだ。
その目的は、横浜基地の最深部にあるコアによるエネルギー補給と恐らくは横浜基地の再ハイヴ化。
勿論だが、横浜基地は防衛線を展開し、戦闘を開始した。しかし、BETAが二重三重の陽動をした為に防衛線は瓦解し、BETAの基地侵入を許した。その後も奮闘するも、地上設備は打ち上げ用のカタパルトと一部ハンガーのみが残り、戦術機部隊は壊滅。
戦闘部隊はほぼ全滅し、肝心のコアは破壊するしかなかった。
そこまでして、得たのは何か。それは、BETAに関する重要な情報だった。その世界で00ユニットだった純夏が、BETAの情報伝達機構をリーディングで得て夕呼に教えた。
それにより、夕呼は作戦の大幅な繰り上げを決定。本当だったら次は朝鮮半島にある20番目のハイヴ。鉄原ハイヴの攻略作戦だったのを、一気に飛ばしてカシュガルハイヴ。オリジナルハイヴ攻略作戦に変更したのだ。
横浜基地から奪われた様々なデータ、オリジナルハイヴのコア。重頭脳級は、二週間以内に対策を講じるだろう。その中には、スサノヲのデータもあった。つまり、二週間以内にオリジナルハイヴを攻略しなければ、人類に勝ち目は無くなってしまうのだ。
「……まさか、コアがエネルギーの補給だけじゃなく、情報伝達機構も兼ねていたなんてね……」
「そして、更に驚きなのは、BETA……いえ、重頭脳級は人類を生き物と見ていません」
「なんですって!?」
武の言葉に、夕呼は驚愕した。
重頭脳級は、人類を生き物と認識していない。
「重頭脳級にとって生命体なのは、ケイ素で体を得た存在のようです。どうやら、BETAを作った上位存在は一応BETAには、現地に生き物が居れば接触を計れ、という感じの指示は出しているようですが、重頭脳級にとっての生命体の定義はケイ素によって体を構成してる存在だけのようです」
「ケイ素……じゃあ、私が作ろうとしてる00ユニットは」
「まさに、重頭脳級にとって生命体と呼べる存在になります。しかし、重頭脳級に俺達人類が生命体だと認識させるのは難しいでしょう。重頭脳級にとって、人類は再利用可能な資源程度にしか認識していません」
「再利用可能……まさか、一番新しいBETA……兵士級は」
「……人類の死体を再利用したかと思われます」
「重頭脳級曰く、炭素は容易に加工出来る為に生命体になるのはありえない、との事でした」
「……恐らく、上位存在とやらがそう考えているからでしょうね……つまり、重頭脳級にとってBETAは生命体ではなく、機械ってことかしら」
「多分、そうなんだと思います。それに、人類との戦いは戦闘とすら認識していない。重頭脳級にとって、資源採掘の邪魔になる自然災害と同じ認識なんです。だから、それを無くす為にBETAを差し向ける」
「……本格的に、全滅させるしかないのね」
武の話を聞いた夕呼は、ガリガリと頭を掻いた。
まさに、全滅戦争するしかないのだ。しかも、現実的は人類が圧倒的に不利。
しかし、希望はあった。
一つは、オルタネイティヴ4を成功させた武。そしてもう一つは、異世界から来た規格外の兵器を運用する傭兵部隊、スピリッツだ。
「スピリッツからの技術提供で、スサノヲ弐型を強化出来るわ」
「本当ですか!?」
それは、スピリッツから帝国軍に新たに開示したデータの中にあった兵器だった。幸いにも、スサノヲ弐型はそれをするだけの開発余剰があり、エネルギーに余裕もあった。
「メガ粒子砲……荷電粒子砲を更に強化させた兵器よ。それに、550mmレールガン」
「す、すげぇ……! そんな兵器が!」
夕呼の説明に、武は興奮した。スサノヲ弐型の荷電粒子砲は、一撃でハイヴのモニュメントを破砕する威力を誇っている。それを強化させた兵器というのは、武からしたら想像すら出来ない兵器だった。
「弐型の欠点だった、自衛も出来るようになるし……良いことだらけよ。他にも、自動機関砲を追加する予定よ」
「なるほど……」
スサノヲ弐型には、今まで荷電粒子砲しか搭載しておらず、自衛能力が無かったのだ。それを補えるようになるのは、非常に有り難かった。
「さて、私はこれからまた研究で缶詰めになるわねー」
「お疲れ様です。俺は……」
「このIDカード上げるから、基地を好きに回りなさい」
武が立ち上がろうとした時、夕呼は無造作に武に一枚のIDカードを投げ渡した。
「とっとと!?」
「どうせ、会いたい人が居そうだしね。いってらっしゃい」
それを何とかキャッチした武に、夕呼はそう言ってパソコンに向かった。確かに、会いたい人達は多数居る。
「ありがとうございます、夕呼先生」
武はそう言って、夕呼の部屋から出たのだった。