「またな、霞。会えてよかったよ」
「はい……また、です……白銀さん……」
霞と別れた後、武は再び基地の中を歩き始めた。
今武が居る深層は、非常時以外は歩ける人物が限られる場所で、横浜基地に所属する過半数の兵士は入れない。
そうやって幾多にも厳重なセキュリティーを掛けている為に、横浜基地は無菌室と呼ばれているのだ。
そうして武は、一人の人物を見つけ
「まさか、こんな所で会えるとは思っていませんでしたよ……パウル・ラダビノット司令」
そう言いながら、褐色の肌に白髪の男性。横浜基地司令官のパウル・ラダビノット准将に敬礼した。
インド亜大陸で対BETA戦を指揮した猛将であり、前の世界でも見事な指揮をしていた。
ラダビノット司令は、武を見て
「ふむ……その見事な立ち姿……相当の訓練をした軍人のようだが……ああ、君が香月博士が言っていた協力者か」
と武の正体を察した。流石の観察力である。
「はっ……傭兵部隊、スピリッツ預かりの白銀武です」
「……帝国と協力関係にあるという最強と名高い傭兵か……」
武の説明を聞いて、ラダビノットは顎髭を撫でながら何やら考え始めた。そして、少しすると
「なるほど……少し前に、帝国軍からこの横浜基地に新型機が回されたのはそれもあるか」
「新型機……もしや、撃震・改ですか?」
「それもだが……Fー15J型もだ」
「陽炎型!?」
スピリッツが撃震を改修したのは知っていたが、陽炎は知らなかった。しかもそれだけでなく、それを横浜基地に回した。
恐らく、悠陽の差配も大きいだろう。
「型式Fー15J2……機体名は蜃気楼……聞いた話では、Fー15Jから約2割強の性能向上が為されていたようだ」
「2割強も……」
そこまでの性能向上となれば、別物と呼べる位だ。
恐らく、その改修とデータ収集はブリッジス親子が大きく貢献しているのは間違いないだろう。
「それに、博士の研究も飛躍的に進んでいる……近い内に、この横浜基地に配備されている戦術機のメインコンピューターとOSの換装が行われるようだ」
「いよいよ、XM3が……!」
次世代戦術機用OS、XM3。
今の戦術機でも、OSを既存の物からXM3に換装するだけで、約3割近い機動性の向上が計れる。
まずAー01連隊が試験運用し、データ収集。そのデータで改良した先行量産型を横浜基地の全戦術機に配備し、それで更にデータ収集し、改良した制式量産型を日本を始めとして世界中に配備する。
特に、対BETA最前線国には優先的に回す。
そうする事で、国連での帝国の発言力を強める。それが、武と夕呼が話し合った策になる。
着々と、帝国軍の力は強まりつつある。副次的に、横浜基地の戦力も上がりつつあった。
明らかに、前の世界よりも状況は良い。
しかし、油断は出来ない。BETAの学習能力を侮る事は、敗北に繋がる事を前の世界で体験している。
「ふむ……良き覚悟の籠った目だ……」
「ラダビノット司令……」
ラダビノットは短く呟くと、武に背を向けて
「頑張りたまえ、若人よ……我らが故郷……地球の為に……」
「はっ!!」
そう言って、ラダビノットは何処かに歩いていった。
それを武は、その背が見えなくなるまで敬礼しながら見送ったのだった。