ラダビノット司令と別れた後、武は更に移動。
場所は一転し、今度は地上の戦術機ハンガーに来ていた。そこに並んでいるのは、協定により日本帝国軍から供与された戦術機。
Fー4J2、撃震・改とFー15Jの陽炎。そして新型機のFー15J2の蜃気楼だ。
武は特に、蜃気楼を見た。
「見た目はほとんど変わってないが……」
しかし、随所にスピリッツから得た技術が使われていることを、武は気付いた。
「手首装甲内部に、短刀射出機構に……機体各所にアタッチメント機構……それに、ブロック構造だ!」
性能は、アメリカ軍が主力機として運用しているFー15E、ストライク・イーグルに匹敵するだろう。
それだけでなく、Fー15シリーズ共通の欠点だった、ナイフを所持していると持てる弾倉数が少なくなる要因たるナイフの収容場所を手首装甲内部にする事で、膝部分の収納機構は弾倉に特化。
更には、新たに腰部装甲内部に弾倉収納機構を追加。それにより、Fー15シリーズでは破格の経戦能力を獲得。
そして機動性の要たる跳躍ユニットだが、大きな形状変更はせずに出力向上と推進材消費量の大幅な軽減を実現。
そして何より、この世界では初めて最初からブロック構造を採用した。それにより、蜃気楼は非常に高い整備性と生産性を獲得した。
機体全体で言うと、胴体、頭、右腕、左腕、右足、左足と分割出来るようになっている。
爆圧ボルトを採用している為、何処かが破損したら直ぐにパージ可能で交換も容易だ。
「けれど、まだ高い機体だからな……HI担当だな」
これは、Fー15シリーズの共通性だが、Fー15は第二世代機の中では高コストの機体に分類される。
幾ら生産性を改善したとはいえ、まだまだHIーLOWミックス構想のHI側になる。
その証拠に、今いるハンガーには蜃気楼より撃震・改の方が多い。
恐らく、隊長機だろう。
「……確実に、帝国は強くなってる……」
武が知るどの並行世界より、大幅に戦力は向上している。新型機に新しい兵装。そして、早く開発出来たOSのXM3。
「これなら……BETAに……!」
まず、近い内に行われる佐渡島ハイヴ攻略作戦を成功させる。それが、第一歩だ。
武がそう意気込んだ時
「武だー!!」
と声が聞こえて、武はその場で90度右に振り向いた。
その先から、まるで男に見える女の子。
武が腰を落とした直後、美琴が飛び掛かってきた。
だが武は、それを巴投げの要領で投げ、美琴は空中で体を捻って着地した。
ここまで、約10秒以内だ。
あっという間の展開だったが、武は立ち上がり
「こらぁ! 美琴! 俺じゃなかったら……って、なんで俺の事を知ってるんだ……?」
と美琴が、自身の事を知っている事に首を傾げた。
すると、背後に気配を感じ
「鎧衣だけではないぞ」
と懐かしい声を聞き、振り向いた。
そこに居たのは、この世界で何度も同じチームを組んで共に切磋琢磨した仲間達が居た。
煌武院悠陽の双子の妹、御剣冥夜
日本帝国首相、榊是親の娘。榊千鶴
国連事務次官、珠瀬玄奘斉の娘。珠瀬壬姫
元日本帝国陸軍中将、彩峰秀閣の娘、彩峰慧
そして、日本帝国情報省外務二課課長、鎧衣左近の娘、鎧衣美琴
しかも着ているのは、Aー01連隊所属を示すBDUだった。
「え……まさか、全員俺を……?」
「ええ……知ってる……というより、覚えてる……表現が難しいわね……」
武の言葉に答えながら、千鶴は首を傾げた。すると、壬姫が
「んー……ある日いきなり、武さんの事を思い出したって言った方が正しいかな……」
と言葉を漏らした。
それを聞いて、武は悟った。それはつまり、並行世界の本人達から記憶が流入したという事だ。
「……けどそのおかげで、総戦技演習を越えれた」
着ていたBDUで分かっていたが、やはり総戦技演習。
正式名は、総合戦闘技術演習を乗り越えて衛士訓練課程も卒業し、無事に任官していたらしい。
全員の様子から、恐らくは歩み寄ったのだろうと思う。
207B訓練部隊は全員がかなりの身分の出身者で、その意味は日本帝国からの人質だ。日本帝国は、オルタネイティヴ4を裏切らないという人質。
それ故か、全員がお互いに干渉しないというスタンスであり、それ故に部隊の和はお世辞にも良いとは言えなかった。
しかし武の事を思い出してからは互いに歩み寄り、話し合い、協力しあったのだろう。
「しかし武よ……そなた、何処に居るのだ?」
「そうね……副司令に聞いても、横浜基地には居ないとしか言われないし」
冥夜と千鶴の問い掛けに、武は懐からスピリッツの
「傭兵部隊、スピリッツに居る……横浜基地には、連絡役兼協力者ってことで出入りしてる」
と説明した。
それを聞いて、美琴が
「あ、ボク知ってる! 日本帝国に協力してる世界最強の戦力を持つ傭兵部隊って!」
と言いながら、武の背中に飛び付いた。
「……世界最強の傭兵部隊……」
「噂には聞いてましたが……」
「そんなに強いのか?」
冥夜の問い掛けに、武は
「強いぞ。俺なんか、手も足も出ない。シミュレーターの一対一でも勝てた試しがない」
と断言し、それを聞いた全員が驚いていた。
彼女達の記憶の限り、武がシミュレーターで負けたというのはあまり無かったからだ。
「それ程の戦力を有した傭兵部隊が、どの国家にも帰属せずにいるのか……」
「あー……けど、日本帝国の害になる事は絶対にない……彼らは、地球を助ける為に行動してる」
冥夜が危惧しているのは、日本帝国の敵になる事だろう。それは、日本帝国が敵対行動を取れば裏切り行為と判断し、スピリッツは敵に回るだろう。
しかし、日本帝国はスピリッツの戦闘力の高さを知っている為に敵対行動を取ることは無い。
そしてスピリッツは、アメリカの計画が地球を壊滅に追いやると知っているから、日本の計画を全力で支援するし、何よりスピリッツの気高さを知っている。
だから武は、スピリッツが裏切る事はないと断言した。
「……断言するってことは、信頼してるんだ……」
「ああ……スピリッツの隊員達は、全員が誇りある傭兵だ……ここだけの話、日本帝国に居たアメリカの諜報員はスピリッツが全員狩り尽くした」
「全員!?」
「何人居たんでしょうか……」
武の言葉に、美琴と壬姫は驚いた。
「さあな……だが、第四計画はいよいよ動く……佐渡島ハイヴ攻略作戦……」
「甲21号作戦……」
「この間、近いうちに行われるとは聞いたが……」
武の言葉に、千鶴と冥夜が唸った。
前の世界では、伊隅大尉と柏木晴子が死んだ。
今度は、誰も死なせない。武はそう誓っている。
「武……久方ぶりに会えて、良かった」
冥夜はそう言って、武に手を差し出した。
「ああ……俺もだ」
その手を武は、力強く握った。