直哉がシャルロットを慰めている頃
ある場所にて、一人の少女
唯依が一人の軍人と会っていた
その人物というのは、唯依の父親の知人にして帝国陸軍技術研究廂の責任者の一人
巌谷榮二中佐だ
額左側から顎辺りまで大きな傷があり、それが歴戦の風格を匂わせる軍人である
なお過去に、唯依は初めて会った時に怖がってしまったという逸話があったりするが、詳細は割愛させていただく
「お久し振りです、巖谷中佐」
と唯依が挨拶すると、巖谷は
「おいおい。何時ものように、巖谷の叔父様でいいのだぞ?」
と朗らかに言った
それを聞いて、唯依は
「ちゅ、中佐! 私は、軍人として……」
と狼狽えながら言った
すると、巖谷は
「分かっているさ……ただ、こうして会うのが久し振りだからな……」
と目を細めた
久し振りの再会
それは、唯依が近衛軍学校に入って以来となる
それを思い出した唯依は
「はい……」
と小さく頷いた
そして、背筋を正し
「一つ、直接報告したいことがあります」
と告げた
それを聞いて、巖谷は
「聞こう、篁少尉」
と軍人として、問い掛けた
「京都にて、BETA迎撃戦が起きたことはご存知かと存じます……当初自分は、嵐山基地から友軍の支援の為に出撃しました」
そこまで聞いて、巖谷は
「うむ……私も、途中まで報告を聞いている……大陸帰りで編成されたウルフ中隊に、危機を救って貰ったと聞いている」
と言った
巖谷の話を聞いた唯依は、無言で頷き
「その後、ウルフ1……真田大尉から京都駅で補給と簡易的な整備を受けられると聞き、京都駅に向かいました……しかし途中で、要塞級を含めたBETA群と遭遇……囲まれてしまいました……」
「なに?」
唯依の報告を聞いて、巖谷は思わず眉を潜めた
要塞級は、新人では撃破するのが難しいBETAである
最早、一種の登竜門と言っても過言ではない程だ
「そこに、彼等が現れたのです……傭兵部隊、スピリッツと名乗る者達が」
「傭兵部隊……この御時世にか……」
傭兵
最早、このBETA大戦が始まって以来聞かなくなった言葉の一つだった
何らかの戦う力を持つ者は、祖国や国連の軍隊に編入された
「その傭兵部隊は……帝国だけでなく、世界中の戦術機を遥かに上回る機動兵器を有していました……たった一個中隊で、要塞級を含めた数百体を瞬く間に殲滅しました……その機動兵器は、光の弾……ビームを撃っていました」
「ビーム兵器だと!?」
唯依の報告を聞いて、巖谷は思わず腰を上げてしまった
ビーム兵器
それは、BETAのレーザーを上回る威力を有する兵器だ
構想自体は、既にある
しかし、大きな課題が幾つかある
一つは、ビーム兵器を作る為の技術
そして何より、エネルギーが足りない
今の戦術機は、
その燃料電池も、年々改良していってるが、それでもまだまだ足りない
予想されているエネルギー量には、遥かに足りないのだ
「遠距離兵装だけでなく、近接格闘用のビーム兵器……ビームサーベルまでありました……それの運用を可能としていたのが、機体に内蔵出来るサイズの原子炉でした」
「機体に内蔵出来るサイズの、原子炉!?」
それは、発想すら無かった方式だった
まさか、原子炉を機体に内蔵するとは、と
「……こちらが、私が乗った機体……MSのOS起動時に表示された文字と、搭載された武装一覧です」
唯依はそう言って、一枚の書類を巖谷に差し出した
その書類を受け取り、巖谷は一読
目を見開いて
「ニュークリアドライヴ……核駆動だと言うのか!? まさか、第二次大戦直後にイギリスで発表されたという常温核融合という技術? いや、あれは技術が足りずに机上の空論とされた……ビームライフルにビームサーベル、腕部内蔵ガトリングに、腹部内蔵式の拡散メガ粒子砲?」
「それも、ビーム兵器でした」
巖谷が首を傾げると、唯依は補足説明した
それを聞いた巖谷は
「それに、400mm無反動砲だと? もはや、戦艦の主砲サイズだぞ……それらを、装備していたのか?」
と唯依に問い掛けた
すると、唯依は
「はい……恐らくですが、それですら一端に過ぎないと思われます……」
と言った
それを聞いて、巖谷は
「信じられん……」
と絶句していた
余りの内容に、嘘だと思いたかった
しかし唯依の生真面目さを、巖谷はよく知っている
そんな唯依が、嘘を言うとは到底思えない
ならば、真実なのだ
すると、唯依が
「中佐、彼等……スピリッツと話してください! 彼等は、この帝国……引いては、世界に現れた希望です! 彼等の力と技術は、必ずや人類の益になります! お願いします!!」
と頭を下げた
それを聞いて、巖谷は暫くの間を置いてから
「……分かった。何とか、彼等との話の席に私も参加出来るように話してみよう」
と言った
すると、唯依は
「是非とも、お父様もその席に連れていってください! 間違いなく、彼等の技術で試製98式は強化されます!」
と確信した様子で語った
「雅唯か……珠には外に出させないと、体に悪いからな」
巖谷はそう言いながら、頷いたのだった
スピリッツと帝国の会談まで、後数日