宇宙での戦いから、数週間後。
軍病院のある個室
「……う……ぁ……」
その日、神田尚人少尉は数ヶ月振りに意識を取り戻した。
その時たまたま見舞いに来ていた唯依は、尚人が意識を取り戻した事に気付き
「待っていろ。今医師を呼んでくる」
と一言断り、個室から出た。それから十数分後
「あれから、既に3ヶ月以上……」
「ああ……傷自体はスピリッツのおかげで塞がったが、それでも血を失い過ぎた……だから、何時意識が戻るかは分からないと……」
「……ご心配をお掛けしました……」
尚人が頭を深々と下げると、唯依はそんな尚人の頭に手を置き
「少尉のおかげで、私は助かった……礼を言う……」
と告げた。それを聞いた尚人は、一度頷いてから
「中尉……XFJ計画はどうなりましたか?」
やはり、気になっていたのだろう。尚人はXFJ計画の事を、唯依に聞いた。
「……いいか、落ち着いて聞け……」
そして唯依も、撃たれてから起きた事を尚人に教えた。
「くそっ……アメリカめ……!」
顛末を聞いた尚人は、怒り心頭という表情を浮かべながら、乱暴に机を叩いた。
「少尉の気持ちも分かる……私も腸が煮え繰り返る思いだった」
ユウヤすら利用していたアメリカに唯依も怒っていて、もし件の諜報員が目の前に居たら、国際問題になっていても斬り殺していただろう。
「……弐型とブリッジス少尉は、どうなりましたか?」
その問い掛けに唯依は、一度シーとジェスチャーをしてから、ドアを開けて廊下を確認し、誰も居ないのを確認し
「……今から話す事の一部分は、非常にデリケートな話になる……これを聞けば、少尉も退けなくなるが……」
「構いません……元よりXFJ計画の完遂の為に、全身全霊を捧げていました。覚悟は決まっています」
尚人のその言葉に、唯依は一旦目を閉じた。
そして
「まず、弐型だが……少尉が知る弐型……フェイズ2が跳躍ユニットの仕様を決める為に二個連隊で試験運用中だ……現時点で、既にスピリッツから得た技術の導入も決まっている……制式採用時には、生産性と整備性の大幅な向上が見込める」
まず、弐型の事を話し始めた。
跳躍ユニットの違いの仕様の決定は、本来だったらアラスカ基地で決まっている筈だったのだが、アメリカの横やりで出来なかった為に、帝国で行っているのだ。
「次に、フェイズ3……計画本来の弐型だが……実機は今現在、スピリッツで改修作業中だ」
「スピリッツで?」
「ああ……アメリカが仕込んだ発信器や盗聴器の排除と同時に、性能向上と生産性と整備性の向上が目的だ」
「スピリッツの皆さんには、頭が上がりませんね……」
尚人のその言葉に、唯依も頷いて同意した。
特に、技術研究厰で開発中の補給専用小型機。これにも、スピリッツから得られた技術の全てを投入している。
「そして、少尉が知りたかったブリッジスだが……今、極秘裏に帝国の新型機の開発に協力してくれている。ローウェルと共にな」
「軍曹も一緒に?」
尚人からしたら、完全に装いだったらしい。目を丸くしている。
「ああ……」
頷いてから、何故ユウヤが帝国に居るのかを尚人に教えた。
「ビャーチェノワ少尉とシェスチナ少尉の治療……」
「ああ……スピリッツの医官殿……エターナ殿の話だと、二人はかなりの強化施術の影響で、全身に様々なダメージと薬物の副作用があるらしい……それを治療出来るのが、現状スピリッツしかないらしいからな……」
イーニァとクリスカはソ連の計画で度重なる強化施術により、全身に様々な症状が出ていた。特に酷い副作用だったのが、指向性蛋白質だった。
これは定期的に与えないと体がボロボロになり、生命活動にも支障が出てしまうという物だった。
現在はその治療に一番時間が掛かる事が分かっているが、スピリッツは二人を確実に助けるつもりだ。
「そうでしたか……」
「今は、お前もリハビリに専念する事だ……退院したら、忙しくなるぞ」
「はっ……」
尚人が頷くと、唯依は
「……先行して教える形になるが、少尉……復帰したら、お前は中尉になり、お前が率いた部隊は私の指揮下に入る」
「自分が、中尉に……?」
尚人の言葉に、唯依は頷いた。そして
「そして私は……大尉となり、崇司になる」
「しかしそうなったら、篁家は……」
今現在崇司家は、新潟西巷攻防戦の最中に当主だった崇司恭子が戦死。今は先代当主が代理で持たせているが、先代当主は高齢な老人で、恭子も跡継ぎを産まずに戦死してしまったので、最悪は御家断絶の危険すらあった。
そんな状況な為に、一度は恭子からしたら叔母に当たる唯依の母親。栴奈を当主にしよう、という案すら上がった。しかし、栴奈は唯依を産んだ直後に病気により子供が産めなくなってしまったので、一時しのぎにしかならない。
そこで、唯依を次期当主にする、というのが崇司家で決まり、先日通達されたのだ。
「大丈夫だ……ブリッジス……兄上が、篁家の次期当主になる」
「ブリッジス少尉が、中尉のお兄さん!?」
唯依の言葉に、尚人は驚愕していた。
実はつい先日、ユウヤが篁家に連れていかれ、篁家で裕唯に対して(文字通り)家庭裁判が開かれた。
詳細は省くが、結果を述べるならば
1、ユウヤを唯依の兄として認める
2、ユウヤが篁家の次期当主になり、それに伴って唯依が崇司家の次期当主になる
という事が決まったのである。
「ああ……兄上は、間違いなく篁家の直系……篁家の次期当主の資格がある」
「……分かりました……つまり僕は、大尉の直接の部下になる……ということですね?」
「ああ……XFJ計画での補佐役の手腕を買われた形になる……先任は雨宮だが、仲良くやってくれ」
「は……知らぬ方ではありませんので、大丈夫です」
ホワイトファング中隊で唯依の副官をしていたのは、雨宮薫少尉だ。なお、彼女も近い内に中尉に昇進する事が決まっている。
「さて……そろそろ私は帰る……復帰を待っているぞ、中尉」
「は……1日でも早く復帰出来るよう、努めます」
会話を終えると、唯依は尚人の病室から出て帰路に着いた。
翌日、尚人の病室に栴奈が訪れて、尚人に感謝の言葉を告げながら頭を下げた。その後、尚人からしたら驚きの話をする。
それから約1ヶ月後に、尚人は驚異の早さで原隊復帰を果たす。