その日、直哉は帝国軍技術研究厰に来ていた。
その理由は、新しく改修された99式電磁投射砲に関する意見と、MSによる試験運用だった。
運用事態は良好に終わり、更には新型機の間宮の試験も見学。今は機体に推進材を補給しているのを待つ為に、基地から出て歩いていた。
のだが
「……気付くのが遅れたな……
直哉は自分が尾行されている事に気付いた。
今居るのは、基地から少し離れた街。そこで、少々時間潰しをする為に歩いていたが、何時から尾行されていたのか分からない。
(考えられるのは、アメリカの各諜報機関だが……今のアメリカにそんな余裕があるのか?)
直哉はそう考えて、ある結論に至った。
そして、少し歩いてから狭い路地に入った。すると、僅かに遅れて一人の少女がその路地に駆け込んできた。
その少女がある程度進むと
「動くな」
その少女の背後に直哉が現れて、後頭部に拳銃を突き付けた。
「どうやって……!?」
「上見てみ」
その路地は非常に狭く、どうやって直哉が背後に現れたのか分からなかった少女は驚いていた。
少女は両手を挙げながら問い掛け、直哉の言葉に頭上を見た。頭上には、固定された室外機がある。
「まさか……固定された室外機で!?」
「正解」
直哉は答えながら、片手で軽く身体検査をして、隠し持っていた小型拳銃を見つけた。
「この拳銃……アメリカの……やはり、アメリカ軍か」
ひとまずその拳銃を後ろに放り投げ、直哉は
「ゆっくりと振り向け……妙な事をしたら撃つ」
と少女を振り向かせた。
膝辺りまで伸ばした黒髪に、灰色みがかった青い瞳。そして、整ったプロポーションの美少女だった。
(この顔、何処かで見たな……)
「私の名前は、マーヤ・ディゼル……」
美少女。マーヤが名乗った姓に、直哉は聞き覚えがあった。
「ディゼル……カストール・ディゼルの娘か?」
カストール・ディゼル陸軍少将
アメリカが一方的に日米安保条約を破棄する前、日本駐屯軍の総司令官の地位に就いていた親日の軍人で、撤退する際にもクゼ提督と共闘し、ギリギリまで共に戦ったアメリカ軍人だった。
実はスピリッツは、何度かこのカストールに会談しようかと考えた事もあり、少し前にはカストールが反G弾派ということを知り、G弾に関するレポートを送った相手だった。
実はカストールには日本人の奥さんが居て、二人の子供が居る事も把握している。
その内の一人が、目の前のマーヤ・ディゼルだ。
「しかし、何故日本に居る……今の日本での反米感情の高さは知っているだろう」
「知ってる……けど、私は……貴方達。スピリッツに会いに来た……」
まさか、自分達に会いに来たとは予想外だった直哉が驚いていると、マーヤは涙を滲ませ
「私は……アメリカが憎い! 自分達の国益にそぐわないからって、今まで忠誠を誓った父を……父さんだけじゃない……兄さんと母さんを殺したアメリカが憎い!!」
と叫んだ。その様子から、直哉はマーヤが嘘を言っていないと判断し
「……流石に、基地内部には連れていけない……だから、この二つを持って、山の中か海岸付近に居ろ」
と自身の端末と通信機を差し出した。
「え……」
「連れていってやる……俺達の母艦に」
直哉はそう言って、その場から離れた。
それから、約一時間後。
「……という訳で、今そのマーヤを連れて帰還している最中です」
『なるほどな……アメリカめ……まさか、有能な将軍すら始末するか……』
カストールだが、豪腕カストールと呼ばれていて、地上軍の指揮では並ぶ者無しと言われた名将だった。
まさか、そんな名将を殺害するとは、スピリッツとしても予想外だった。
『確かに、こちらにも責任の一端はありそうだな……』
「そう考えまして、連れてきました。もうすぐで着艦します」
そう話している間に、直哉の隣に居たマーヤは海面に二隻の白亜の巨艦を見つけた。
「綺麗……」
「これから着艦する。掴まっていろ」
直哉の言葉を聞いたマーヤは、シートに半ば抱き付いた。その直後、強い衝撃に襲われた。そして、少しすると
「これから降りる……妙な事はしないように」
と直哉が言って、コクピットハッチが開いた。
直哉に促されてコクピットから出ると、数人がマーヤに銃を向けていた。
そこへ
「君が、マーヤ・ディゼルだな?」
と一人の男性が問い掛けてきた。
「はい、そうです……私が、マーヤ・ディゼルです」
「私は、このエウクレイデスの艦長を勤めるカムナ・タチバナだ。着いてきなさい」
カムナがそう言って背を向けると、直哉が何やらハンドサインを出した。すると、周囲に居た他のメンバーは一斉に銃を下ろした。
その後、カムナを先頭にエウクレイデス艦内の会議室の一つに入り
『モニター越しで二度目だが、名乗ろう。スピリッツ実働部隊隊長のマーク・ギルダーだ』
『ワシは初めましてだな。スピリッツ総隊長、ゼノン・ティーゲルだ』
「マーヤ・ディゼルです……」
正面の大型モニターに、マークとゼノンの姿が現れ、マーヤは名乗りながら軽く頭を下げた。
『さて、君は我々に会いに来たという話だったが……』
「……何があったか、話します……」
そして、マーヤは語った。
マーヤは親日のアメリカ軍人のカストールと日本人の母の間に産まれた日系人で、兄のキオ・ディゼルも日系人だ。
カストールは母もだが、マーヤとキオを愛して育ててくれた。しかしその最中に、アメリカが一方的に日米安保条約を破棄。カストールは最初、安全の為に一人でアメリカに帰国しようとしたが、母が自ら選んで一緒にアメリカに帰国。
カストールの活躍もあった為に、母もアメリカ国籍を得られた。差別はあったが、過ごせていた。
しかしある日、カストールはあるレポート。G弾に関するレポートを入手し、G弾推進派を糾弾した。
聞いていた話と違うと。カストールや反G弾派が聞いていたのは、核とは違って副作用は軽微で支障なんてない、という物。しかしそのレポートには、G弾が原因の重力異常の事が細かく書かれてあった。
そして何より、ハイヴに一斉投下すれば、地球が壊滅するとも書かれてあった。だからカストールや反G弾派は、G弾派を糾弾し、G弾派の不正の証拠を入手し、勢いを削いでいた。
そんな中、カストール達は買い物に行こうと車に乗っていて、マーヤが乗る直前に鍵を回してエンジンを入れた。
その直後、車が大爆発を起こして、マーヤ以外が全員死んだ。
マーヤが生き残ったのは、偶然に過ぎない。
その後マーヤは、親戚をたらい回しにされながらも同じ親日の軍人だった人物の手助けを得て日本に来た。
自分の家族を殺したアメリカが許せなかったからだ。
何故アメリカだと分かったのかと言えば、件の親日の軍人。クゼ提督が、マーヤに
『今回のカストールの死に、CIAが関与している。君も狙われている。君は日本に逃げて、なんだったら日本に居るという傭兵……スピリッツを探しなさい。彼らならば、受け入れてくれる筈だ』
と語り、マーヤに一つのUSBを手渡していた。
マーヤはそのUSBを、近くに居た直哉に差し出し、受け取った直哉は、そのUSBをエレンに手渡した。
エレンはUSBをパソコンに接続し
「開きます」
サブモニターに表示されたのは、反G弾派の排除計画書と書かれた物だった。その発案者には、現在の国連アメリカ代表とG弾推進派の筆頭人物。ビクター・トランプ中将の名前が書かれてあった。
「嘘だろ……ディゼル少将が……」
「あのキナ臭い噂が多かった、トランプ中将がか……やりそうだ」
マーヤの話を聞き、計画書を見た裕也とヴィンセントが困惑と納得の表情を浮かべている。
『……まさか、アメリカ軍がそんな強引な方法で排除してくるとは、予想していなかったな……』
『すまない、マーヤ嬢……君の家族が殺された一因は、我々にもある……』
カストール達にG弾に関するレポートを送ったのは、スピリッツだ。だから、カストール達が暗殺された一因は間違いなくスピリッツにある。
「いえ……私は、アメリカ人でもあるが、日本人です……その日本にG弾を落としたアメリカを、私は許せない……ましてや、私から一方的に家族を奪ったアメリカを……絶対に許さない! だから……アメリカに復讐する……! アメリカの企みを邪魔して、アメリカに覇権を握らせない……!」
だが彼女は、アメリカ人よりも日本人という血を選んだ。マーヤはアメリカに復讐すると宣言し、周りも沈黙するしかなかった。
国家の陰謀で、一人の少女が復讐者になってしまった。
『……我々は、日本の計画を推進する為に、アメリカの計画を阻止するという形をとっているが……それでも構わないか? 君の復讐に添うとは限らないが』
「構わない……! どんな形であれ、アメリカに復讐出来れば、それでいい……!」
マーヤの話を聞いたマークは、少しばかり目を閉じてからゼノンに
『俺は構わないと判断するが、ゼノンは?』
『ワシは良いと考える……それに短時間だが、直哉に気付かれずに尾行した点も高く評価する……直哉』
「はっ」
ゼノンからの呼び掛けに、直哉が一歩前に出た。
『彼女の世話は、お前に任せる。適性検査と医療診断をして、後程報告』
「了解」
ゼノンからの指示に、直哉は敬礼した。
『さて、マーヤ・ディゼル嬢』
「いえ、私は……
マークが名前を呼ぶと、マーヤ。否、真弥がそう告げた。マーヤ・ディゼルの名前は一度捨てて、偽りの身分で行動するつもりだろうか。
『分かった……真弥嬢、我々スピリッツは君を受け入れよう』
『どうするかは、君が決めなさい』
スピリッツに、一人の復讐者が入った。