横浜から離れて、数時間後
「えっと、その……大丈夫か、少年?」
と直哉が問い掛けた先には、一人の少年が腹を押さえながら倒れていた
「はい、大丈夫でーす」
と答えたのは、少年
武の口から出ていた、半透明の存在だった
「魂で返事するな、戻れ」
イーリスが突っ込みを入れると、魂は口から戻った
なぜ、こうなっているのか
簡単に説明すると
1、離脱後に母艦に帰還
2、武を怒ろうと、直哉が一歩踏み出した
3、その直後に、純夏が見事な踏み込みと体裁きで、左拳を、武の腹部に直撃させた
4、会議室で、話を聞いている⬅今ここ
となる
なお、純夏が左拳を叩き込んだ時のことを、一夏は
「いやぁ、見事な左だったわ」
と感心していた
閑話休題
「さて、少年……いや、白銀武君……」
「はい」
何とか立て直した武に、艦長たるカムナが呼び掛けた
「君が乗ったのは、我等スピリッツの重要機密の一機……テスタメントガンダムに無断で乗った。それは確かだな?」
「はい、間違いありません……」
カムナの問い掛けに、武は素直に頷いた
するとカムナは
「本来ならば、身柄を拘束。しばらくの間、監禁することになるが……気になるのは、この稼働率だ」
と言って、横にいたエレンに視線を向けた
するとエレンは、手元の端末を操作して、壁面のモニターにあるデータを表示させた
そこに表示されたのは、武が操縦したテスタメントの稼働率データ
「初起動、初操縦で稼働率80%を越えていた……はっきり言って、これは異常だ……君は民間人のはずで、軍事教練は受けていない筈だ……何か、隠しているな?」
カムナのその問い掛けに、武は暫く間を置いて
「信じてもらえるかは、分かりません……」
と前置きしてから、語りだした
それは、一人の青臭い英雄の物語り
最初は、ただの学生だった
少し特殊な環境になったが、ドタバタの中で生きた一人の学生だった
しかしある日、気付けば自分の住んでいた街が廃墟になっていた
異世界に渡ったのだ
最初はその現実が受け入れられず、武は家に籠っていた
そんな矢先に、その家に軍人が押し掛けてきて、武を拘束
国連軍横浜基地に連行した
そこで武は、初めてこの世界の状況を知った
人類が、滅びに向かっていることに
そして、今国連軍が行っている作戦
オルタネイティヴⅣが、世界を救う作戦だと
だから武は、自分に出来ることをすると決めた
そして、訓練生として、かつての同級生達の班に所属
足を引っ張りながらも訓練を続け、衛士候補生となり、また訓練を続けた
しかし、2001年12月24日、オルタネイティヴⅣは突如として終了を迎え、オルタネイティヴⅤに移行
それに平行して、武達訓練生も、繰り上げ任官が決まった
そして武は、宇宙に行く人々を見送り、アメリカ軍の行ったバビロン作戦に参加
その後は、地獄の世界を生きた
G弾によって、生き残ったのは極僅かな地球を
そして気付けば、初めて自分がこの世界に来た日に戻っていた
その時は、何故だかは分からなかった
しかし、やることは決まっている
だから武は、自ら横浜基地に向かった
そして、横浜基地の副司令
香月夕呼に接触
また訓練生として、かつての仲間達と訓練をした
今度は、仲間達を引っ張る形で
そして、総戦技演習をクリア
衛士訓練課程に進んだ
その中で、夕呼と新しいOSを開発
それにより、戦術機の性能の底上げをしたりしながら、訓練を乗り越えていった
しかしその時、帝都守備連隊がクーデターを勃発
武達訓練生は、帝国の政威大将軍を横浜基地まで逃がす任務をなんとか成功させた
それの報酬も含めて、任官
武達は、正規軍人となった
その後、横浜基地で大規模演習が行われた
新OS、XM3の比較試験が
だがその時、横浜基地をBETA群が奇襲
武は、軍事薬物により半ば錯乱状態でBETAと交戦
撃墜されたが、何とか生き残った
撃墜されたことに落ち込み、武は機体の前で座っていた
それを、恩師が励ましてくれた
その恩師の方を見た時、恩師は生き残っていた闘士級に噛み殺されていた
それが受け入れられず、武は夕呼に懇願した
自分を、かつての世界に逃がしてくださいと
それを可能としていたのは、夕呼が発明していた平行世界への移動装置だった
武はそれを使い、この世界を救うための論文を元の世界から入手していたのだ
それを使い武は、元の世界に逃げた
しかしその世界でも、悲劇が起きた
その世界の恩師がストーカーに惨殺され、純夏が瀕死の重傷を負った
そしてその原因が、武に有ったのだ
武は、因果導体になっていたのだ
武が、この世界の恩師と純夏の因果の元の世界に持ち込んだことがわかった
そこで、武は覚悟を決めた
もう逃げないと
だから武は、この世界に戻った
自分を因果導体にした原因を、無くすために
そして武は、オルタネイティヴⅣ直属部隊に配属となった
そして参加した、佐渡島攻略作戦
その中で、尊敬する上官と同僚を失った
その僅か後に、佐渡島の残存BETA群が、横浜基地目指して進軍開始
その攻防戦の最中、また尊敬する上官を失った
その直後、人類は窮地に立たされたことを理解した
もう、一刻の猶予も無いと
それは、BETAの情報態勢
情報を得た個体が生還して二週間すると、対策を講じてくると
しかも、世界中で
だから、速攻で攻めた
地球の最大拠点
オリジナルハイヴを攻めた
余りにも多くの犠牲を払った
国連軍宇宙艦隊、アメリカ軍、仲間達を
生き残った突入部隊は、武を入れてたった二人
世界中で多大な犠牲を払って、オリジナルハイヴは攻略された
そして武は、この世界での役割を終えて、消えたはずだった
しかし、納得出来ていなかった
今度は、もっと上手くやってやると
だから、願った
最後のチャンスをくださいと
そして気付けば、この世界に居た
「以上です……」
「つまり、君は……何回もやり直していた……そういうことか?」
武の話を聞き終わり、カムナはそう問い掛けた
すると、武は頷き
「はい……最低でも、数回……年数は、主観では最低でも五年は兵士でした……」
と答えた
武の話を聞き終わり、殆どのメンバーは絶句していた
余りにも、壮絶な話に
嘘だと否定出来なかったのは、武の口調に様々な感情が籠っていたからだ
一人の少年が背負うには、余りにも重すぎるその運命に
ナターシャに到っては、涙すら流している
「……武君。君を偉大な兵士と見込んで聞きたい……バビロン作戦……G弾が引き起こしたのは、なんだ?」
カムナがそう問い掛けると、武は
「通称、バビロン災害……G弾によって偏った重力が原因で、北半球は海に沈みました……しかも、海に沈まなかったアメリカ大陸の殆ども、無酸素地帯になり、人が住めない地域になりました……」
と告げた
すると、祐輔が
「まさか、帝国も……?」
と問い掛けた
すると、武は
「……海に沈みました」
と告げた
それを聞いた元帝国近衛の一同は、言葉を失った
帝国も、海の底に消えたと
そして、隊長陣は確信した
やはり、アメリカ軍のオルタネイティヴⅤは危険だと
すると、モニターにマークとゼノンの顔が映り
『その情報……活かさぬ道理は無い……なんとしても、オルタネイティヴⅣを成功させるぞ!!』
『総員、何としてもアメリカ軍の思惑を挫かせるんだ!』
と号令を下した
その号令に、スピリッツは一斉に敬礼した
すると、ゼノンは
『武君……君にも、所属してもらうぞ……テスタメントは、君に与える』
と告げた
それを聞いた武は
「俺に出来ることなら、やります」
と力強く返答した
今ここに、英雄達が手を結んだのだった
BETAに勝つために