煌武院家との会談から数日後、その煌武院家から夕呼との会談の準備が出来たと連絡が来た。
それを受けてスピリッツから、武、マーク、ゼノン、束の四人が夕呼と会談をするために向かった。
指定されたのは、帝都大学のある一室。
そこが、今夕呼に与えられた研究室だった。
オルタネイティヴ第四計画。通称オルタネイティヴ4総責任者にして天才量子物理学者、香月夕呼の研究室だ。
「さて、アンタらがアタシに会いたいっていう傭兵部隊ね?」
「傭兵部隊スピリッツ総責任者、ゼノン・ティーゲルじゃ」
「実働部隊総隊長、マーク・ギルダーだ」
「隊員兼科学者の篠ノ之束さんだよー」
「隊員、白銀武です」
夕呼の問い掛けに、四人は各々で名乗った。
そして、武が
「初めまして、世界最高峰の天才にして救世主の夕呼先生」
と呼び掛けた。
すると夕呼は、怪訝な表情をしながら
「生徒は持った覚えはないんだけど?」
と返した。
しかし武は、スッと指を天井に向けて
「アメリカさんの予備計画……進んでますよね……今なら、二隻目が建造中ですかね?」
と問い掛けた。その直後、夕呼の目尻がピクリと動いた。
それを見た武は
「10万人のみを逃して、残りの人達で生き残るかも分からない総特攻……使えば最後、地球は大規模な重力変動で人が住めるのは極一部だけ……香月レポート、出したのに信じて貰えなかった……」
と告げた。
その直後、夕呼が立ち上がり
「アンタ……何者……?」
と武を睨み付けた。
すると武は、ニヤリと笑みを浮かべて
「貴女の共犯者にして、曰く青臭い英雄……並行世界で、第四計画の主目標たるオリジナルハイヴを攻略した男です」
と答えた。
「……つまり、並行世界のアタシは……やり遂げた?」
「ええ……多大な犠牲を払って……具体的には、Aー01部隊の生き残りは……3人……」
Aー01部隊。正式名称は、国連軍オルタネイティヴ計画直轄部隊、Aー01連隊だ。
最大編成人数は、108人。武が覚えているのは、一個中隊の12人のみだった。
それが最後の作戦では武のみが生き残り、後の作戦に参加したのは3名のみ。
それを武は、変えたいのだ。
その時武は、俯いていた夕呼がフルフルと震えていることに気付いた。
「あ、少し離れたほうがいいかと……」
武はそう言って夕呼から離れ、他の三人も離れた。
その直後
「あはははははははは! やっぱり、アタシの理論は完璧だったわけよ! 見たか! 上層部のスケベ爺共!」
と高笑いを始めた。
「あー……やっぱりか……確か、夢物語だとか、非現実的だ、とか、金食い虫とか、散々言われまくったみたいだしな……」
未だに笑っている夕呼を見て、武は頭を掻きながら呟くように言った。
そして武は、小躍りしている夕呼に対して
「けど、夕呼先生……00ユニットの開発、全然上手くいってないんでしょ?」
と言葉を投げ掛けた。
その直後、夕呼の動きがピタリと止まり
「00ユニットまで知ってるのね……」
と武に鋭い視線を向けた。
すると武は、肩を竦めながら
「そりゃまあ、共犯者でしたからね……大変でしたよ、色々と……そして結論ですが、00ユニットは確かに成功で、失敗でした」
と告げた。その直後、夕呼は武に肉薄し
「成功はともかく、失敗ってどういうことよ!?」
と詰め寄った。
「情報が漏れたんですよ、00ユニットを介して」
「なん……ですって……?」
夕呼が固まっている間に、武は夕呼から離れて
「今BETAの情報伝達方法と言われてるのは、オリジナルハイヴを頂点に、近くのハイヴ、遠くのハイヴってことになってますよね?」
とホワイトボードに図を書いた。
それに夕呼が頷くと、武はそれを消して
「ですが、実際はこう。オリジナルハイヴを頂点に、全てのハイヴがその直轄として繋がっているんです」
と新たな図を書いた。
「そして、どこか所属のBETAが情報を得て生還すると、オリジナルハイヴに情報を送信。それをオリジナルハイヴの重頭脳級が精査し、分析。二週間程して対策を送ってきたハイヴに返信し、効果が上がったら、それを各ハイヴに送信する……これが、BETAの情報伝達構造です」
「……つまり、00ユニットがBETAと認識されて……こっちの情報がBETAに渡った?」
夕呼の問い掛けに、武は頷き
「そして、BETAの情報の送信方法はコアからエネルギーの補給時なんです……BETAはコアからエネルギーを補給するんですが、その時に情報をコアに送り、コアが重頭脳級に送るんです……」
武の言葉に、夕呼はギリッと歯を鳴らした。
「00ユニットに使われるグレイ物質に、ODL液……これらが、BETA各種のバッテリー兼頭脳と電気ということになります」
「……詰みに等しいわよ? それらが使えないなんて……」
夕呼がそう言うと、武は
「その為に、彼女を連れてきたんです……スピリッツに居た夕呼先生と同等かそれ以上の天才の束博士を」
と束を見た。
すると束が、夕呼に近づき
「武君に聞いたけど、君が欲しいのは、掌サイズの量子コンピューターってことだよね? それも、自己思考力を持つ」
と言った。
それに夕呼が頷くと、束は何処からともなく、一つの物を取り出した。
正に、掌サイズの不思議な色合いの球体だ。
「それは?」
「束さんが作ったコアでね……これ自体が思考し成長するし、意志を持ってる……しかも、量子通信による並列演算すら可能なんだ」
束の説明を聞いて、夕呼は物。ISコアを見た。
そのスペックは、正に夕呼が欲しかったものだった。
「……対価は?」
「俺が呈示するのは、戦術機用の新しいコンピューターの開発です」
武の呈示した条件に、夕呼は思わず片眉を上げた。
すると武は
「戦術機の新OSを作り搭載するには、現行のコンピューターではスペック不足なんです……その新OS……XM3も、オルタネイティヴ4の産物として出せる……」
そう聞いた夕呼は、黙考した。
そうすれば、第四計画の優位性も上がるかと。
そこに
「2001年12月24日」
と武は、年月日を告げた。
「その年月日は?」
「……期限ですよ。第5に移る」
武のその言葉に、夕呼は目を見開いてカレンダーを見た。
今は、1998年の11月頭。後3年あると安堵すべきか、後3年しかないと不安になるべきか。
しかし、夕呼にとって選択肢は決まっている。
「分かったわ……そちらの条件を飲みましょう」
「ありがとうございます」
夕呼の言葉に、武は頭を下げた。
こうして、スピリッツと香月夕呼の協力が決まったのだった。
なお、武は内心で
(よっしゃぁぁぁぁぁ! 夕呼先生に勝った!)
と歓喜していた。