明星作戦が始まり、約一時間後。
作戦は、第四段階に移行。帝国軍と国連軍の
既に降下兵団を含めた一部部隊が、ハイヴへの突入に成功。後は、ハイヴ内部を制圧するだけ
の、筈だった。
『畜生、どうなってやがる! BETA共の波が、止まらねぇぞ!?』
『言ってる暇が有ったら、もっと撃てよ!!』
『04、
明星作戦は、当初の想定以上の数のBETA群との交戦により、状況は悪化しつつあった。
まず、ハイヴにはフェイズというものがある。
そのフェイズが進むごとに、ハイヴ攻略は難しくなるのだ。
その理由が、BETA総数の多さと、ハイヴの要たるコアのある部屋の深度だった。
横浜ハイヴのフェイズは2。今現在、地球上では最も若いハイヴで、この横浜ハイヴを攻略することで更なるノウハウを得て、次に繋げるという意図もあった。
なお、当初の想定では横浜ハイヴのBETA総数は約10万。
その過半数以上は、約三割の被害と引き換えに撃破出来ている。
だというのに、BETA群の突撃が止まらない。
『しまっ……ガアァァァァァ!?』
『02!?』
その時、ある小隊の2番機が突撃級の突撃を受けて、爆散。それに動揺して固まった隙を突かれて、更に一機に数体の戦車級が飛び付いた。
『クソッ! 離れろ! この下等生物共が!?』
衛士はそう叫びながら、短刀で戦車級の排除をしようとするが、それより早く戦車級の歯が撃震改の装甲を破砕し
『ぎゃばらあばがぁぁぁぁぁぁ!?』
『来るな来るなぁ!?』
最早、その小隊の全滅は時間の問題だった。
しかしそこに、救いの手が差し伸べられた。
『な……え……?』
隊長機は、BETA群が閃光で消し飛んだことに、呆然とした。そこに現れたのは、赤い装甲の鳥を彷彿させる機体。スピリッツ実働部隊隊長機のフェニックスだ。
『ここは、我々が引き受ける。下がって、部隊の再編を受けろ』
『り、了解!』
マークの力強い言葉を聞いて、その隊長機は生き残った味方と共に後退を開始。
それを見送り、マークは
『フェニックス1より、スピリッツ全機に通達する。あの化け物共に、俺達の力を見せ付けろ! 蹴散らせ!!』
と号令を下し、突撃した。
場所は変わり、紀伊艦橋
「第二戦術機甲連隊、損耗率50%を突破。スピリッツ並びに帝国近衛第16大隊が緊急展開。戦線の押し上げ並びに、攻勢に出ました」
「……動いてくれたか、スピリッツ……」
オペレーターの報告に、小澤は思わずそう呟いた。
そして小澤は、オペレーターに
「アメリカ軍はどうしている」
と問い掛けた。
「……依然動きは有りません」
「……何をやっている……出撃要請はあった筈だ……クゼ提督」
オペレーターの報告を聞いた小澤は、後方戦力として来ていたアメリカ軍が動かないことに、苛立ち混じりにそう呟いた。
既に全体損耗率は、看過出来ない比率にまで来ており、国連上層部から戦力の投入が要請されている筈だが、アメリカ軍に一切、動きは無かった。
今回派遣されてきたアメリカ海軍第7機動艦隊の提督、ラウル・クゼ提督は日系アメリカ人で、日本人の血に誇りを持つ親日の軍人である。
以前アメリカが日本から全軍撤退を指示した時も、最後まで残り、出来うる限りの支援をしてくれた軍人だ。
それを考えると、幾ら何でも動きが無いというのはおかしかった。
「……嫌な予感がする……」
小澤は長年の経験から、嫌な感覚がしていた。
再び場所は変わり、アメリカ海軍第7機動艦隊旗艦、ジョン・F・ケネディ艦橋。
「……どうか?」
「以前変わりません……戦力はまだ投入するな……Gを投下した後に、戦術機甲部隊を投入せよ……と」
オペレーターの告げた内容を聞いて、クゼ提督は
「……軍人なのだから、上からの命令には従う……だが……何を考えている……あのような兵器……」
帽子を目深に被った後、そう呟いた。
クゼ提督は実直な軍人であり、命令には従う。それが例え汚れ任務だろうが、実行する気概はある。だが、G弾だけは話は別になる。
クゼ提督はG弾の実験に立ち会ったことがあり、その威力を知っている。
(確かに、凄まじい威力だった……だが、アレだけは使ってはいけない兵器だ……威力は、核の比ではないだろう……だが……)
とクゼ提督が黙っていると、オペレーターが
「提督! 本国から、全周波通信が!」
と報告がされた。
「内容は」
「は……現在、作戦参加中の全軍に通達する……アメリカ軍は、現状ではBETAに勝つことは不可能と判断し、二発の新兵器の投下を決定した。大至急、指定範囲内より退避せよ……以上です!」
オペレーターがそう言った直後、モニターの戦況図にその指定範囲かオーバーラップされ、更に到達時間が表示された。
「……全機の完全退避は、無理だ……」
その指定範囲と時間を見たクゼ提督はそう呟いた後、椅子に深々と座った。
(すまない、同胞達よ……私一人の気持ちで、許されるとは思わん……だが……許してくれ……)
三度場所は変わり、最前線。
『畜生、アメリカの腰抜け共が!』
『自分達は巣穴から出てこねぇで、何が勝つことは不可能と判断しただ! ただ、死にたくねえだけじゃねえか!?』
『愚痴を言わないで、全力後退を続けろ! 巻き込まれるぞ!』
帝国軍と大東亜連合軍は、G弾に巻き込まれないように全速力で後退を開始。そんな中、青く塗装された二機の不知火が、真反対にハイヴの方に向かっていた。
帝国軍の最新機たる不知火を装備する国連軍は、ある一部隊しか存在しない。
極東国連軍オルタネイティヴ第4計画直属部隊、Aー01連隊だ。
『うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
進む二機の内の一機の衛士は、腹の底から咆哮を上げながら次々と現れるBETAに36mmと120弾を撃ち込んでいった。
『止まれ、デリング04! 止まれ、孝之! 死ぬつもりか!?』
もう一機の衛士、
『ここで……横浜で……俺達の故郷で……もうこれ以上は……死なせたくないんだぁぁぁぁぁ!!』
しかし孝之は、そんな慎二の忠告を無視するように叫んだ。
スピリッツと帝国軍の奮戦により、横浜に住んでいたかなりの人数は助けられた。
しかし、少なからず犠牲は出ていた。
その中には、孝之の知り合いも多く居て、今回の作戦にも帝国軍として参加しているだろう。
それを思うと、孝之は止まれなかった。理不尽に奪われる命が、どうしても許せなかった。
ハイヴに突入した同じAー01の仲間達も、何人が生きているのか。
『その意気やよし。つまり、お前も死ぬ訳にはいかないだろ?』
『なっ!?』
気付けば、孝之機のすぐそばに黒い装甲の一機のMS。ミコトガンダムが居た。ミコトガンダムは、素早く孝之機の前に割り込むと、孝之機の両手と両足を切断。そして、肩に担いだ。
『何を!?』
『なに……自ら死にに行くバカを助けただけだ……』
千冬はそう言うと、離脱を開始。気付けば、遥か上空に二発の光が見えた。その二発を迎撃しようとレーザー級が照射しているが、意味を成さない。
『レーザーが……曲がって!?』
『03が言うには、重力変動らしい……03
、ハッキングは出来たか?』
『ダメだね……一度起動したら、スタンドアローンになるみたい……外部からの制御は受け付けない……』
千冬の問い掛けに、束は悔しそうに呟いた。
しかし、やることは変わらない。今は、一刻も早く範囲内から離脱すること。それが、最優先事項になる。
『……あいつらは、無事なのか……?』
千冬は、ハイヴ内部に突入した直哉達の無事を祈った。