流点
横浜ハイヴ攻略戦後、スピリッツは一度大湊の秘匿ドッグに帰航した。
「まず、第一関門だった横浜ハイヴはクリア……だな」
「ですね……あー……疲れた」
マークの言葉に同意しながら、一夏は背伸びした。そこに、簪が
「作った一人だけど……もう、使いたくない……」
と呟いた。簪が言ったのは、あのワームホール発生装置だ。
「作った本人が言うか」
「あの感覚は、もう嫌」
一夏が振り向くと、簪は真顔でそう言った。
すると、箒が同意したように
「確かにな……あの自分が消えそうになる感覚……二度とやりたくないな」
と頷いた。気付けば箒だけでなく、トライアド隊全員が頷いていた。そこに、マークが
「実際、お前達は最も難しいところをクリアしてくれた。よくやった」
とトライアド隊を誉めた。
そもそも、なぜトライアド隊だったのか。それは、数にあった。
トライアド隊は、不規則ながら中隊編制。その数は、スピリッツでは最も多い。そしてハイヴ内では、BETAの数は正に圧倒的。それに対抗するには、同じく数を送るしかなかった。
だが、外でも何が起こるか分からなかった。だから、送れるのは一隊のみ。つまり、トライアド隊しかなかったのだ。
後程、下層まで至ったトライアド隊のデータからハイヴ内シミュレーターのデータが作られることになる。
「取り敢えず、今はゆっくり休むぞ」
『了解』
マークの言葉の後、パイロットは休みに入った。
その後、奪還された横浜に国連軍の基地が建設されることに決まったのだが、そのことに一度会議は紛糾。
曰く
『あの地は元々、帝国軍の基地があった場所。なぜそこを、国連軍に明け渡さねばならないのか』
ということだった。
国連議会はアメリカ寄りであるために、そこに国連軍の基地を建設する=アメリカ軍の駐留を認めると考えたのかもしれない。
しかし、新たに政威大将軍となった悠陽の鶴の一声で建設は決まった。
建設は急ピッチで進められ、2000年初頭には極東国連軍横浜基地として稼働を開始した。
そして時は経って、ある場所。
「外国機の導入など、もっての他です! 我が帝国には、培ってきた運用と技術が……」
「くはははっ! 相変わらずだな、唯依ちゃんよ!」
そこでは、巌谷中佐からの言葉を聞いて中尉となった唯依が激昂したが、すぐに自制。それを見た巌谷中佐は、豪快に笑った。
「お、おやめください、中佐。今は任務中です……」
「いや、すまんすまん……さて、篁中尉。長々と会議の話を聞かせたのはな、訳がある」
巌谷中佐がこの話をする数時間前、陸軍はあることで紛糾した。
それは、次期主力戦術機の配備であった。
スピリッツが改修したが、今帝国陸軍に配備されている撃震は言い逃れが出来ない程に旧式だ。
その撃震は改を含めて、未だに半分近く配備されていて、主力戦術機の不知火に交替していっているが、そもそも、その不知火に多数の改修要請が来ていた。
その最たるものは機動性に関するもので、そういった意味では不知火一型甲がある。
しかし、その基本は不知火のままと言っても過言ではない。
その不知火の改修要望は多く、最前線の日本帝国にその要望に答えられる開発リソースはなかった。
そうなると、スピリッツを頼ればいいという案もあったが、スピリッツは既に様々な依頼を複数同時に進行しており、これ以上は頼りすぎになると思われた。
新任衛士への機動教育、強化外骨格の強化改修、戦術機用新型兵装の開発、技術者達の教育等々。
スピリッツの存在により、僅か二年で帝国軍は驚く程に強化された。
艦隊は新型の対レーザー装甲を採用し、耐久性の大幅な向上に成功。兵装も新しいレーダーや通信。艦艇用のレールガンの採用、対地留散弾頭、新しい自動装填装置の採用等々、挙げたらキリが無い程になっている。
それもあり、スピリッツに頼るのは躊躇われた。
そんな中、一つの案として外国産機体の導入という案も出された。
それを聞いた唯依は、激怒から声を荒げたのだ。
その行いがまるで、散っていった先達や開発に携わっている者達を否定しているように思えてしまったからだ。
そこで、巌谷中佐は一つの案を提案したのだ。
「篁中尉……君には、アラスカに行ってもらう」
「つっ!?」
北アメリカ大陸、アラスカ。
そこは、国連軍にアメリカが貸している地であり、そこで国連軍はある計画を遂行していた。
その名前は、プロミネンス計画。旧式機体を最新の技術を導入して改修する計画である。
「そして今回の不知火改修計画に……アメリカのボーニング社が協力を立候補。アメリカ軍から、腕利きの衛士がテストパイロットとして転属してくる……篁中尉には、日本側からの計画主任として赴いてもらう」
その命令に唯依は、目を見開いた。