「やってらんねぇ……なんで俺がてめぇみてぇな奴と一緒に、国連に出向しなきゃなんねぇんだよ、おい」
「知るか……」
高高度を飛ぶアントノフー225・ムリヤの中に居たのは、アメリカ陸軍から国連軍に出向することになった二人の衛士と整備士。
最初に問い掛けた、白い肌に金髪のマックス・カーツ少尉。
そんなマックスの問い掛けに無下に答えた、アジア系特有の黒髪に肌色の青年。ユウヤ・ブリッジス少尉。
そして、特徴的にはマックスと同じ白い肌に金髪の整備士。ヴィンセント・ローウェル軍曹。
「だけどよ、アラスカって何が釣れるんだろうな! それに、そこは俺達整備士だけでなく衛士にとっても天国みたいな土地だろうぜ! 世界各国の様々な戦術機が見れるんだぜ?」
ヴィンセントは努めて明るく話すが、二人は意に介していない。
二人にとって、国連軍に出向というのは納得していない命令だったからだ。
「てめぇはまだしも、なんで俺もなんだよ。狂犬やろうが」
「知るかよ、筋肉バカ」
(准将! なんでこの二人を一緒にしたんすかぁ!? ユウヤなら、まだコミュニケーション取る自信ありますが!?)
壊滅的に仲が悪い二人を一緒にした准将を、ヴィンセントは内心で恨んだ。
そんな間に、三人が乗った飛行機は着陸するために速度を落とし始めた。だがそんな時、警報音と共に速度が上がった。
「なんだ!? 再アプローチか!?」
「操縦士共は、何をしてやがる!?」
ヴィンセントとマックスはそう声を上げるが、ユウヤはそれがただ事ではないと気付いて、コクピットに駆け込んだ。
すると中では、二人のパイロットが
「くそっ! 何処のバカだ! こっちのコースに入ってきてるぞ!」
「管制塔! 早く二機を離れさせろ!!」
と怒鳴りながら、操縦悍を必死に動かしていた。
それを聞いたユウヤは、耳に意識を集中させた。よく聞けば、自分達が乗るムリヤのエンジン音の他に、甲高い音が聞こえた。
「この音は……ドッグファイト機動!? 後ろからか!?」
聞いたことの無いエンジン音だったが、かなり高い出力のエンジンを積んだ二機の戦術機が、後ろから近づいてきていると、ユウヤには分かった。
なるほど、操縦士達が慌てる訳だ。とユウヤは内心で同意した。
後ろから接近してくる二機の戦術機、それもドッグファイト機動をしてくるとなると、回避出来るかは操縦士達には運任せになるだろう。
「仕方ない! 高度を上げるぞ!」
「了解!」
機長の指示を聞いて、副機長も操縦悍を引こうとした。だが、ユウヤは
「ダメだ! そのまま、高度を下げろ! 滑走路に突っ込め!!」
と声を張り上げた。
その直後、高度を下げたムリヤのすぐ真上を二機の戦術機が複雑な三次元機動を描きながら飛び過ぎていった。
「……あんな機体を、開発しているのか……」
二機共に見慣れない機体だったが、その動きから機体と衛士の双方が凄まじいとユウヤには分かった。
すると、落ち着きを取り戻した操縦士達が
「すまない。助かったよ、少尉」
「エンジン音から、機動を予測したのか……流石は、アラスカに呼ばれるだけはあるか……席に戻ってくれ、安全に着陸する」
「あ、ああ」
感謝と着席を促す言葉にユウヤは従って、席に座った。
それから数分後に、ムリヤは無事に着陸。ユウヤはムリヤから降りると、滑走路近くに不時着している先の戦術機の内の一機に近づいた。
「Fー15系をベースに、機動性を大幅に向上させた機体か……」
その機体が、自分達には慣れ親しんだ機体の拡張した物だと推測しながら、ユウヤはコクピットブロックを開放させた。
そして、中を見ながら
「おい、大丈夫か!?」
とその衛士の肩を掴んだ。
(こいつ、小さい?)
と強化装備を装着しているのに、その衛士が小柄なコクピットに気付いた。その直後、その衛士はガバッと立ち上がり
「覚えてろ! この野郎!!」
と空に向けて、声を張り上げた。
ユウヤも上を見れば、先のもう一機の戦術機がフライパスしていくのが見えた。
そして、十数分後。
「なあ、さっきのはイーグルの発展機だろ? 凄い機体だな!」
不時着した戦術機の衛士を含めた四人は、基地施設の一つに入り、移動しながら会話していた。
「あ、なに? アクティヴイーグルを初めて見たの? あんたら、どんな田舎基地から来たの?」
件の衛士は、不機嫌さを隠すこともせずに話し掛けてきたヴィンセントを睨んだ。
「田舎ってな……俺達は、アメリカ陸軍のグルームレイク基地から来たんだよ。知らねえ?」
「知らねえよ、んなど田舎基地」
「てめぇだよな、さっきこっちのムリヤの軌道上に割り込んできた一人はよ? 言うことねぇのかよ、ああ?」
「ああ? こっちの事情も知らないのに、デカイ面してんじゃねぇよ。てめぇらみたいな田舎から来た奴等は、謙虚に居ればいいんだよ」
とマックスと衛士の雰囲気が悪くなった時、一つのドアが開き
「タリサ・マナンダル少尉!!」
と怒りを滲ませた声が響き、件の衛士。
どうやら、タリサ・マナンダルという名前らしい少女が、反射的に背筋を伸ばした。
見てみれば、ドアの向こうに褐色の肌に短く切り揃えられた髪に髭を生やした男が、タリサを睨んでいた。
「謙虚という言葉は、貴様こそが覚えるべき言葉だと、私は思うんだがな」
タリサ以外の三人は、その男性の襟に中尉を示す階級章と衛士を証明するウィングマークを見つけた。
だが、同時に納得した。その男性から発せられていたのは、間違いなくベテランの気迫だったからだ。
「まずは医務室だ、少尉……精密検査を受けてこい……」
「は、はい……」
「貴様を締め上げるのはその後だ! 精密検査を受けながら、反省文の内容と私への言い訳を考えてこい!!」
「り、了解!!」
上官の怒声に弾かれるように、タリサは脱兎の如く走り去っていった。
それを見たユウヤとマックスの二人は、思わず
(強化装備着てるのに、大した速力だ)
と内心で誉めてしまった程だった。
タリサが走り去ると、男性は深々と溜め息を吐いて
「アレでも、腕利きなんだがな……喧嘩早いのがな……」
と呟いた。
そして、三人を見て
「さて、貴様らがアメリカ陸軍から出向してきたという衛士二名と整備士だな?」
と問い掛けてきた。
「はっ! アメリカ陸軍グルームレイク基地から出向してきました、ユウヤ・ブリッジス少尉であります!」
「同じく、マックス・カーツ少尉であります!」
「ヴィンセント・ローウェル軍曹であります!」
三人が自己紹介しながら敬礼すると、男性も返礼しながら
「トルコ陸軍から出向してきている、イブラヒム・ドーゥル中尉だ。貴様らが所属することになるアルゴス試験小隊を率いている。つまり、先のタリサ・マナンダル少尉は同僚になるな」
と告げた。
どうやら、イブラヒム中尉が直属の上官になるらしい。
「詳しい話は、明日話すことになるが……これだけは言わせてもらおう」
イブラヒム中尉はそう言うと、手を差し出して
「最前線にようこそ」
と告げたのだった。