「っくそ……なんだ、あの機体……バランス悪すぎだろ……」
と悪態を吐いたのは、酷く疲れた様子でベンチに座ったユウヤだった。ユウヤは今しがた、
そこに、ヴィンセントが歩み寄り
「お疲れさん、ほれよ」
と飲み物を差し出した。
受け取ったユウヤは、一気に飲んでから
「これで、本当に第三世代機か? ただのFー15のデッドコピーじゃねぇか。こんな機体で戦ってるとか、信じられないんだが?」
と吹雪を酷評した。
すると、コクピット回りを整備していたヴィンセントが
「確かに、元々はFー15らしいがな、吹雪は間違いなく第三世代機だ。それに、国の情勢下を考えれば、機体特性も納得だ」
「あ? どういうことだよ」
「日本帝国は、対BETA最前線だ。それは知ってるよな?」
ヴィンセントの問い掛けに、ユウヤは頷き
「だから、こんな機体まで前線運用されてるんだろ? 使わされてる衛士もたまったもんじゃねぇだろうな」
と言った。だが、ヴィンセントは
「俺は前に、日本帝国のFー15J乗りと一緒の船に乗って作業したことがあるんだがな、同じFー15系に乗ってるアメリカ軍とは機体の消耗具合が違うんだよ」
と言った。
ヴィンセントは対日関係が悪化する前から軍に居たベテランの整備士で、一時期は海軍の空母に乗って日本帝国のバックアップをしていたことがあり、その空母に一度帝国陸軍の陽炎を運用する部隊が収容されたことがあり、日本帝国からの要請もあって、整備したのだ。
「アメリカ軍はジャンプユニットを中心にして機動するのに対して、日本帝国は腕のナイフシースや頭部のセンサーマストを使って機動するんだ。何でかは分かるか?」
「……知るか」
一瞬考えたユウヤだったが、すぐに諦めた。そんなユウヤに、ヴィンセントは呆れた様子で
「物資だよ。日本帝国じゃ、機体の部品から弾薬、推進材まで色々とギリギリなんだ。アメリカみたいに無尽蔵に物資は無いんだ。特に、アメリカは他の国々に比べたらハイヴが国内に無いからな。物資の生産性も桁外れだ」
と教えた。
確かに、アメリカの物資の供給量は桁外れである。一部の基地では、過剰供給になった物資が民間に流れることもあると、ユウヤは聞いたことがあった。
「それを考えると、日本帝国の機体運用は自然なんだよ。少しでも物資の消耗を抑えるために、空力特性を使うってのはな」
「空力特性……」
ヴィンセントの話を聞いたユウヤは、再度吹雪を見た。
そして、翌日
『それで、自分と模擬戦……ですか』
「引き受けてくれて、感謝するぜ。神田少尉」
ユウヤは尚人に模擬戦を申し込み、演習区画にて相対していた。
そこに
『これより、JIVESを起動します』
とアルゴス試験小隊のオペレーターの一人。リダ・カナレスが告げた。
すると、荒野だった一帯が市街地に変わった。どうやら、市街地戦を想定したらしい。
CGによる再現だが、ぶつかればダメージによる動きの制限が機体にされるようになっている。それが、JIVESである。
『では、神田少尉対ブリッジス少尉……模擬戦、開始!』
とカナレスが言った直後、二機は同時に動き始めた。
その二機の動きを、唯依は司令部で見ていたのだが
「動きが……変わっている……」
と驚きと共に呟いた。
以前までユウヤは、ジャンプユニット中心の動き方をしていた。それにより、幾度となく倒れそうになっていた。しかし今は、頭部や腕部を動かして空力を活かして機動している。
流石にまだぎこちないが、以前より遥かにマシになっていた。
「神田少尉機、突撃砲発砲開始」
「ブリッジス少尉、回避。120mm発射……神田少尉、回避」
カナレスと共にオペレーターを勤めているのは、ニイラム・ラワヌナンドだ。彼女が、尚人側のオペレーターをしている。
「篁中尉、そちらの新型機……中々の運動性のようだな」
「は……我が国でも最新の技術を有している者達が開発しました。主力機にも勝るとも劣らぬ性能を得たと聞いております」
ドーゥル中尉の褒め言葉に、唯依は出発前に聞いたことをそのまま話した。
隼鷹に採用されている跳躍ユニットにもスピリッツから得た技術が積極的に採用されていて、最高速度は現主力機の不知火と同等の推力を得ることに成功。
それだけでなく、推進材の消費量の大幅な減量に成功。更には、整備性の大幅な向上も獲得した。
正に、帝国が欲する性能を獲得した機体だった。
場所は変わり戦域
そこでは、二機が激しく砲弾と刃を交わしていた。
「中々やるな、神田少尉!」
『これでも、近衛ですので!』
ユウヤが砲撃を放つが、尚人はビルの側面を蹴って回避。反撃に、36mmを斉射した。しかしユウヤは、その36mmの雨を機体を左右に振って回避。ビルの影に隠れて残弾が無くなった36mmの弾倉を交換した。
そして、ユウヤは
「悪いな、
と吹雪の評価を改めていた。吹雪は不知火の出力低下機とも評価出来る機体だと、ヴィンセントから聞いていた。ヴィンセントは唯依から使われる不知火。
正確には、数少ない不知火一型丙の資料をヴィンセントに渡しており、ヴィンセントはその資料と吹雪の整備に参加した際のデータから、吹雪を確かに、練習機だと認識し不知火の下位互換機だと導き出していた。
流石に資料は見せなかったが、ヴィンセントは日本機の特性をユウヤに教え、ユウヤはそこからシミュレーションを繰り返した。
流石に一晩では完全にはいかなかったが、手応えは掴んだつもりである。
「つっ! 来るか!?」
ユウヤはレーダーが捉えた隼鷹の動きから、回避行動を開始。同時に、対人装備の一つたるチャフスモークを展開。距離を離そうとした。
だが、次の瞬間
「なに!?」
気付けば、目の前に隼鷹が迫って長刀を振り上げていた。それを見たユウヤは、咄嗟に左手に短刀を保持し長刀の一撃を受け止め、右手の突撃砲を向けた。
だがそれは、尚人も同じだった。
尚人も突撃砲を向けていて、互いにコクピットを狙っていた。
すると
『状況終了、互いに撃墜と認める。帰投せよ』
とドーゥルから告げられた。
こうして、突然の模擬戦は幕を下ろしたのだった。