ユウヤが訓練を始めて、数日後。
「機体が、組上がった?」
「ああ。これが、その機体の資料だ」
唯依はそう言って、ユウヤに書類を手渡した。不知火一型丙に関する資料だ。
それを受け取ったユウヤは、ペラペラと軽く読んでから
「……原型機より、バランス性と燃費が悪くなってるのか……」
「ああ……それ故、帝国では約100機程で生産は終了。持ってきたのは、その内の貴重な一機だ」
「なるほどな……」
唯依の説明を聞きながら、ユウヤは頷いた。
「今の貴様なら、多少は手こずるだろうが扱える筈だ」
「流石に完璧とは言えないが、やってみる」
それを聞いた唯依は、ユウヤを信じることにした。そして、翌日
『おいおい、大丈夫かよ。トップガン?』
『機体に振り回されてるじゃねぇか』
「分かってたつもりだが……
タリサとVGの問い掛けに、ユウヤは深呼吸してから答えた。今日は組上がった不知火一型丙に乗ってJIVESを使った実機訓練をしていた。
想定は、ハイヴ攻略。だがユウヤは、吹雪以上の出力と悪いバランス性の不知火一型丙に終始振り回されてしまった。
何回か胆を冷やしながらも、何とか訓練を終えた。
「しかし、本当にあんな数で来るのか? BETAは?」
ユウヤが思い出したのは、通路を埋め尽くす程に侵攻してくるBETA群だった。アメリカ軍でも対BETA戦のシミュレーションはするが、それより遥かに数が多かった。
『あんな数、ユーラシア大陸じゃ普通だぞ?』
『欧州でもな』
『そうね、普通ね』
ユウヤの問いかけに、三人は何ら気負いなく答えた。それだけで、三人が対BETA戦を潜り抜けた言がうかがえる。
それにユウヤが軽く驚きながらも受け入れていると
『ん? レーダーに感アリ……なんか近づいてくるな』
とタリサが呟き、それと同時にユウヤもレーダーに反応があることに気付いた。レーダーの反応があった方向を拡大すると、三機の無人機が飛んでいた。
『あー……隣の区画で、
「紅の姉妹?」
VGが呼んだ名前が気になったユウヤは、ユーコン基地のデータベースにアクセスし、紅の姉妹のことを軽く調べた。
紅の姉妹というのは通称で、本名はクリスカ・ビャーチェノワとイーニァ・シェスチナ。ソ連のイーダル試験小隊に所属しており、搭乗機はSUー37UB。複座仕様のチェルミナートルと記載されていた。
「この機体は……あの時の……」
それは、ユウヤ達がムリヤで飛んでいた時にタリサ機とドックファイト機動で割り込んできた機体だった。
しかしその動きは、前よりどこか鈍く見えた。
『なんだ、調子悪いのか? ありゃ、確実にこっちの演習エリアに入ってくるぞ』
『知るか。とっとと戻るぞ』
VGの言葉を突っぱねるように、タリサは機体を基地の方向に向けた。しかし、ユウヤは
「そうだよな……無人機相手じゃ、やる気なんか出ないよな」
と獰猛な笑みを浮かべた。そして
「こちらアルゴス1、無人機がこちらのエリアに入ってきた時の為に、移動する」
と告げて、演習エリア端に向けて移動を始めた。
その時、ソ連側は
「イーダル1よりCP。無人機が数機、演習エリアから出ようとしているぞ」
『CPよりイーダル1。その無人機群は、こちらの制御下に無い。速やかに撃墜せよ』
「イーダル1、了解」
CPと通信していた衛士、イーダル1の片割れたるクリスカが視線を下に向けると、もう一人のイーニァが不安そうにこちらを見ているのが見えた。
「早く撃墜しろだってさ、イーニァ。少し、速度を上げるよ」
「わかった、クリスカ」
短く会話を終えると、二人は機体の速度を上げて無人機の後を追った。
ソ連製第三世代機チェルミナートル。
前身機たるジュラーブリクを改修強化した機体で、ソ連としては第三世代機と喧伝しているが、アメリカは準第三世代と判断している。
そんなチェルミナートルだが、ハイヴ内部での密集近接戦闘を考慮されており、機体各所に固定のブレードベーンを配置し、更には両手首と両足にチェーンソーが内蔵されているので、非常に高い近接格闘戦能力を獲得している。
そうこうしている間にも、二人は二機の無人機を撃墜。最後の一機に狙いを定めて、引き金を引こうとした。正にその時、高い
それを見ながらクリスカは、もう一発のペイント弾を撃った相手を見つけた。
「あれは……」
「ユウヤ……?」
「ユウヤ?」
クリスカはイーニァが告げた名前が気になり、ユーコン基地のデータベースにアクセスし、見つけた。
「これは……機体を乗り換えたのか」
クリスカが知っているのは、吹雪に乗っていた時だった。その時のユウヤは、機体を動かすのも苦労していた時で、特には気にもならなかった。
しかし今は、普通に動かしている。
「……何が起きたのかは、分からんが……」
前より、機体を上手く扱えるようになっていた。そう判断し、帰投しようとした。しかし
「ユウヤ……迷ってるの……?」
とイーニァが呟いた。
「イーニァ?」
その呟きが気になったクリスカが呼び掛けるが、イーニァは反応しない。
これが、運命の出会いとなるとは、誰も分からなかった。