「ふー……」
その日、ユウヤは一人で歩いていた。アルゴス小隊の他の面々は知っているバーに向かったが、ユウヤは行く気にならずに一人で歩いていた。
アラスカの冷たい空気が、ユウヤの体を吹き付ける。
「……なんで、俺が……」
そう呟くが、ユウヤには理由は分かっている。
ユウヤはグルームレイクで、ある戦術機のテストパイロットをしていたのだが、その試験中に事故が発生。
その事故で、上官が死んでしまった。
「すまねぇ、ヴィンセント……」
そんなユウヤを庇っていたから、ヴィンセントもグルームレイク基地で孤立しそうになり、更には襲撃しようという動きすらあったとか。
はっきり言ってしまえば、ヴィンセントはユウヤに巻き込まれた形になる。
腕はいいが、よく周囲と衝突していたユウヤ。そして、そのユウヤとよく行動していたヴィンセント。
どっちが悪いかなど、考えるまでもない。
基地司令だった准将は、ヴィンセントを守るためとユウヤを扱いきれなくなったから、二人をアラスカに送ったのだ。
マックスは、以前から問題行動ばかりしていたから、ついでだろう。
「ちくしょう……」
ユウヤは金網に背中を預けて、夜空を見上げた。
その時
「迷子なの?」
と声が聞こえた。その声にユウヤは、慌てて声が聞こえた方を見た。気付けば間近に、長い銀髪が特徴の少女が居た。
(何時の間に!?)
確かに気落ちしていたが、いくらなんでも近くに来られるだけでなく、声を掛けられるまで気付かないとは。よほど注意力が散漫になっていたようだ。
すると、再び
「お兄さんも、迷子なの?」
と少女が問い掛けてきた。
その問い掛けからユウヤは、その少女が迷子なのだと推測した。
基地か
ある意味、ここも運命の分岐点だったのかもしれない。
その少女、イーニァ・シェスチナとの出会いは。
「まあ、そうだな……ある意味、迷子だな……」
ユウヤがそう言うと、イーニァは笑みを浮かべて
「私もね、ミーシャとはぐれちゃったの! 一緒に行こう!」
と言って、ユウヤの手を掴んだ。予想外の事態に対処を迷っていると、イーニァはその小柄な体躯からは予想出来ない力強さでユウヤを引っ張り始めた。
「お、おいおい!?」
ユウヤが驚く間に、イーニァはグイグイとユウヤを引っ張っていく。
「こっち!」
(まあ、ここまで来たら、付き合うか……)
ユウヤがそう考えている間にも、イーニァはユウヤを引っ張っていく。そして、ユウヤは気付いた。イーニァは、少しずつだが東側の施設に向かっていると。
(……この髪の感じからして、ロシア人か?)
アラスカ基地は、東西問わずに機体と人材が集まり、試験に取り組んでいる。
イーニァは、その中の一人の関係者かと、ユウヤは考え始めた。そして、どれ程歩いたのか。イーニァはあるひとつの施設の前に立つと
「ここ!」
と簡単に、ドアを開けた。
(おいおい……セキュリティはどうなってんだ? この娘の親に言っておくか……しかし、なんの施設だ? 感覚的には、まるで……医療?)
とユウヤが眉を潜めていると
「えっと……こっち」
とイーニァが、静かに方向転換。そして、ひとつのドアの前に立つと
「ここだ!」
とまたドアを開けて、ユウヤと一緒に中に入った。
その部屋には、巨大な二つの機械と簡素な二つのベッドが置いてあった。
「なあ、お前……ここ、流石に不味いんじゃ……」
とユウヤが問い掛けたタイミングで、イーニァは駆け出し
「居た、ミーシャ!」
とひとつのベッドの上にあった熊のぬいぐるみを抱き上げた。どうやら、それがミーシャらしい。
本当に嬉しそうに、イーニァはぬいぐるみを抱き締めている。
(さて、どうするか……)
とユウヤが悩んでいると、イーニァがハッとした表情で
「クリスカ! 駄目!」
とユウヤ。否、ユウヤの背後を見ていた。
(後ろ!?)
「動くな!」
ユウヤは振り向こうとしたが、制止の声にゆっくりと両手を挙げた。声の感じから、拳銃を向けられていると察したからだ。
「クリスカ!」
「イーニァ、何処に行ってたの? 探したのよ?」
イーニァが抱き付いたらしく、後ろの少女が優しくイーニァに語りかけた。そしてユウヤは、二人が告げた名前に覚えがあった。
「イーニァ……クリスカ……
「貴様……ユウヤ・ブリッジス!? なぜ此処に居る!?」
「クリスカ! ユウヤは、私が連れてきたの!」
クリスカはユウヤに拳銃を向けているが、それをイーニァは必死に制止。ユウヤは、両手を挙げ続けていると、そこに騒ぎを聞き付けたらしいソ連の警備兵が到着。
ユウヤを拘束し、営倉に閉じ込めた。そしてこれが、ユウヤと彼女達の運命の出会いになった。