「帝国近衛、武御雷……中尉か!?」
『おい、お姫様……どういうつもりだ!?』
ユウヤが驚いている傍らで、タリサが犬歯を剥き出しにしながら呼び掛けるが、お姫様こと、唯依は答えずに長刀を保持した。
その直後、タリサ機は短刀を抜いて突撃した。
「よせ、タリサ! 交戦規程は満たしていないぞ!?」
『なに寝言言ってんだ! あのお姫様が先に抜いたんだ! だったら、先に潰す!!』
ユウヤが制止するが、タリサは聞かずにアクティブイーグルを最高速度で飛ばした。
しかもまっすぐ突撃するのではなく、細かく機体を左右に振って接近すると、唯依機の周囲をグルグルと回り始めた。どうやら、隙を伺っているようだ。
そして、唯依機の背後に回った時
『貰ったぁ!!』
と声を上げながら、唯依機に短刀を突き出した。短刀は模擬戦仕様だが、当たった場所によっては衛士も無事では済まない。しかし唯依は、タリサ機の攻撃を機体をクルリと回して回避させて、タリサ機の腕を掴み
『なっ……うわぁぁぁぁぁ!?』
自機を中心にしてグルグルと独楽のように振り回した後に、一歩背負いの要領で地面に叩きつけた。
叩きつけられたタリサ機は立ち上がろうとするが、唯依機に踏まれた為に阻止された。
『ちっくしょう……放しやがれ……!』
タリサが暴れるが、唯依機は足を退けない。しかも、持っていた長刀を逆手持ちにしてタリサ機に突き立てた。
『なっ!?』
『中尉、あんた正気かよっ!?』
ステラとVGはタリサを救出しようと、タリサと同じように短刀を構えて突撃した。しかし、唯依機はまさに神速で新たな長刀を抜刀。瞬く間にステラ機とVG機を無力化した。
ここまで、約一分。たった一分で、ユウヤからしたら手練れ揃いだったアルゴス小隊の三人が無力化された。
(こんなに強かったのか……これが、近衛軍の実力……)
ユウヤはアメリカ軍での近衛軍の教育を思い出した。
帝国近衛軍、帝国軍の中でも特に近接戦闘能力が秀でた部隊で、格闘戦に関しては世界でもトップクラス。
(……やるしかねぇか)
そう判断するとユウヤは少しでも不利を無くすために、一つを残してあらゆる兵装を投棄した。残したのは、事前に重量の関係という形で変更された長刀だった。
ユウヤはそれを装備すると、唯依機の前に立った。
「アメリカ軍じゃ、格闘戦はオマケ程度にしか習ってないんだが……やるしかないか……」
アメリカ軍では、徹底した砲撃戦技能を叩き込まれた。これは、アメリカ軍の新しい戦術方針にある。G弾を落とした後に、一気に侵攻。BETAを撃滅するということになっている。それにより、格闘戦は中々起きないとされており、そこにアメリカ軍の潤沢な補給を重ねて、徹底的な砲撃戦技能の底上げを図ったのだ。
「けどよ……やるしかねぇよな……なにせ、
そして、先に動いたのはユウヤだった。ユウヤ機は跳躍ユニットを噴かして、一気に肉薄。長刀を振り下ろした。だが唯依機は、これに素早く対処してきた。
唯依機も長刀を振り下ろしてきたのだが、ユウヤの長刀に合わせることで、受け流したのだ。
「つっ! 今のを……くおっ!?」
受け流されたことでバランスを崩しかけたユウヤだったが、直ぐに立て直して振り向いた。しかし気付けば、唯依機が振り向きながら長刀を左から右に振っていた。
それを間一髪で回避するとユウヤは、先程と同じように長刀を振り下ろした。それにも、唯依は素早く対処。今度は振り上げてきた長刀で、ユウヤ機の一撃を弾いた。
「なんつー動きだ……これが、中尉の実力ってことか!?」
侮っていたつもりは毛頭無かったが、改めて唯依の実力を知った。
「成る程な……その機体の開発は、間違いじゃなかったってことか……」
ユウヤは日本の戦い方を信じられなかったが、戦ってみて、強さを実感した。そして何より
「継戦能力は高そうだな……」
アメリカ軍の徹底した砲撃戦技能の向上だが、一部の衛士からは補給が出来ない場合での継戦能力の低さを指摘されていた。これは、実戦を経験した衛士からは特に指摘されており、その衛士達の言い分を纏めると、戦闘中にBETAにより破壊されたり、損傷した味方機が激突したりで補給コンテナが使えなくなり、補給が出来なくなって、戦えなくなるというものだった。
その為には、最低でも短刀による戦闘技能の向上は必須だと、実戦経験者の衛士達は指摘していた。
それに対するアメリカ軍上層部の解答は、更に濃密な補給コンテナの配置ということだった。確かに、補給が潤沢なアメリカ軍ならば出来ることだろう。
しかし、一部の衛士からは猛反発の声が上がっている。
『参る!』
「来るか!」
唯依の声が通信で聞こえてきた直後、今度は武御雷が動いた。唯依機は素早く踏み込んできて、長刀を振り下ろした。ユウヤはそれに合わせて、同じように長刀を振り下ろした。激突する長刀、それに合わせて散る火花。それが、夕日が沈みかけて周囲が暗くなっていた一帯諸とも二機を照らした。二機は長刀を滑らせて離れると、ほぼ同時に機体を旋回させながら長刀を振った。二機の攻撃は生憎と互いの長刀を弾くのみだったが、その時ユウヤは、今まで体感したことの無い一体感を感じた。
(なんだ、今の一体感は……今まで感じたこと無かったぞ!?)
初めて覚えた感覚だったが、ユウヤは何か確信を感じた。その感覚の先に、自分が求めた何かがあるに違いないと。
「……今の感覚……掴ませてもらうぜ、中尉!!」
ユウヤはそう声を上げると、長刀を振り上げた。唯依はその一撃を回避すると、ユウヤ機に長刀を振り下ろしてきた。今の状態では、回避はほぼ不可能。ならば
「合わせりゃ、いいんだろ!?」
ユウヤは跳躍ユニットと機体のカーボニックアクチュエータの連結力を使い、機体を独楽のように回転させながら長刀を振った。その結果、轟音を伴いながら一本の長刀が吹き飛んで、地面に突き立った。
その長刀は、唯依機のマニュピレーターから弾き飛ばされた長刀だった。
そこに
『状況終了。各機は現在地にて待機せよ』
とドーゥル中尉の声が、通信機から聞こえてきた。更に
『篁中尉、満足しましたか?』
と尚人の声も聞こえた。こうして、唯依対アルゴス小隊の模擬戦は終了したのだった。