2001年6月、ユーコン基地アルゴス試験小隊ハンガー。
「だから、ここはNOだ!」
「げっ、ヴィンさんまで!?」
ある一角では、整備士達が集まって何やら盛り上がっていた。それは、次の試験任務地。南方の島にて、戦術機の耐環境試験を行うのだが、その島で唯依が水着を着るか否かを賭けているのだ。
しかし今のところ、誰も着る方に賭けてはいなかった。
まあ、唯依はかなり生真面目なので、分からなくもなかった。そこに
「いや、俺はYESだと思うぜ?」
と新たな声。
「ジアコーザ少尉!?」
「アタシも着ると思うな」
「マナンダル少尉まで!?」
VGだけでなくタリサまで着ると予想したことにヴィンセントが驚いていると、タリサが
「ついでだ。レートを上げたらどうだ? 10倍まで」
「10倍!? そんなことになったら、俺破産しますよ!?」
「おいおい、若いのをあまり苛めてやるな? 苛めはカッコ悪いぞ?」
流石に可愛そうだと思ったのか、ヴィンセントが涙目になった若い整備士の助けに入り、その日は何だかんだで解散になった。
そして次の日、アルゴス試験小隊のブリーフィングルームにて
「というのが、今回の耐環境試験の概要だ。なにか、質問はあるか?」
説明を終えたドーゥル中尉が問い掛けると、タリサが手を上げた。そして、ドーゥル中尉が発言を許可すると
「耐環境試験は分かりましたが……なんで、自分がまた広報任務なんですか?」
と問い掛けた。そう、今回の耐環境試験任務の最中に、またタリサが広報任務をすることが盛り込まれていたのだ。
その問い掛けに、ドーゥル中尉が答えようとした時
「ドーゥル中尉、私から説明しよう」
とサングラスを掛けた男性が、ドーゥル中尉を制止した。彼の名前は、ディック・オルソン大尉。国連軍ユーコン基地広報部の責任者である。
「マナンダル少尉……今から約1ヶ月前の広報任務を覚えているかね?」
「はい、覚えています」
オルソン大尉の問い掛けに、タリサは少し気まずいという表情を浮かべながら答えた。オルソン大尉が言ったのは、ユウヤが着任するために来た時のことだ。
「あれから、何回も機会を伺い続けたが、ソ連側の都合が付かず、約1ヶ月も過ぎてしまった……この遅れは、些か無視出来ない……その遅れ、どう責任を取るつもりだね、マナンダル少尉?」
「うぐ……それに付きましては、申し訳なく思います。ですが、それならば自分よりジアコーザ少尉やブレーメル少尉の方が良いと判断しますが」
せめて自分を外させようとしたのか、タリサはそう反論した。しかしオルソン大尉は、サングラスの位置を直してから
「それは、ソ連とアジア諸国出身という立ち位置からだ。それも、マナンダル少尉が搭乗するのは、アメリカの試作機のアクティヴイーグルだ……以前は敵対した東側と西側の国同士の機体……それも、ユーラシア大陸とアジア諸国の生まれの衞士が共に並んで飛ぶ……その絵こそが、人類が一致団結して対BETA戦をしている。そう喧伝出来る絵ではないかね?」
その説明に、タリサは反論する余地を失ってしまった。そして、不承不承という表情を浮かべながらも、タリサが座ると
「納得してくれたようだ……では、諸君の健闘に期待する」
オルソン大尉はそう締め括り、アルゴス試験小隊はソ連のイーダル試験小隊と耐環境試験を行うことになったのだった。
そして、数日後
「いやぁ……白い砂浜、青い海……最高のリゾート地じゃないの!」
両小隊は、ユーコンから遥か南。南米のある島に来ていた。
「いや、VG……お前、幾らなんでも気を抜きすぎだろ」
「そうね……そのアロハシャツは戴けないと思うわよ?」
VGの姿に、タリサとステラは思わず突っ込みを入れていた。しかし、それも仕方ないだろう。今のVGは、夏季仕様軍服ではなく、アロハシャツと短パン、それとサングラスという出で立ちだった。
「いや! むしろ、お前達の方が分かってない! ここは、確かに耐環境試験地だが、同時にリゾート地でもあるんだぞ!? それなら、リゾート地に相応しい格好をするべきだろう!?」
VGはそう熱弁するが、むしろVGの方が浮いている。そこに
「ジアコーザ少尉」
「あ……」
ドーゥル中尉が、VGの肩に手を置いた。
「気を緩めるなとは言わん……だがな、時と場合を考えろ」
「……うっす」
ドーゥル中尉が指差した先では、整備士達が汗を流しながら機体の搬入をしており、ヴィンセントが何やら深い笑みを浮かべながら、バインダーをヒラヒラとさせていた。
「ローウェル軍曹が、お前の機体に関して、聞きたいことがあるらしい……さっさと着替えて行ってこい!!」
「イエッサー!!」
ドーゥル中尉の怒号に、VGは脱兎の如く、宿舎の方に駆け出した。それから十数分後、何処からかVGの悲鳴が聞こえたが、アルゴス試験小隊一同は無視したという。
そして、小一時間後
「お前らも薄情だよな……俺の悲鳴を無視するなんてよう」
「自業自得だ、バカ」
「擁護出来ないわね」
VGが不貞腐れた表情で抗議するが、タリサとステラは同情の余地なしという感じで、見もしない。なおVGの頭には、見事なたん瘤が鎮座している。
「……何をした?」
「いやね、機体をムリヤのカーゴに入れるために移動させる時に、
「バッカじゃね? 歩行させてこいって言われてただろう」
「余計な整備の手間を増やすからよ」
ユウヤの問い掛けにVGが答えると、タリサとステラはあきれ果てたのだった。
こうして、南方にて耐環境試験が始まったのだった。