南の島での耐環境試験は、ある意味で順調だった。耐環境試験の要は、整備士達にあり、衛士達は広報部からの任務を消化しつつ、バカンス気分を味わっていた。
しかし、中には問題も起きるもので
「確かに後方の南国だけどよ、気分までバカンスになってないか? ここの軍人達?」
「そうね……物資の不手際、連絡の不備……挙げたらキリが無いわね」
タリサとステラは、この二日間で起きたトラブルを思い出して、深々とため息を吐いた。
食料品の配達ミス、衛士への確認不足、物資の遅配等、挙げたらキリがなく、その何れもが初歩的なヒューマンエラーで、通常ではあり得ないことだった。しかも、この基地の軍人達は然程気にした様子すらないことから、もう常態化してしまっているということを示唆している。
確かに、一切戦闘も起きない後方の南国基地ではあるが、違う基地の人員が来る時位は少し気に掛けてほしいところだ。
そして今現在、アルゴス試験小隊は、タリサ以外はほぼ全員が水着姿で、タリサは強化装備を身に纏っている。
そして驚いたことに、唯依が水着姿であった。とは言うものの、それは任務としてである。
クリスカとイーニァの二人はタリサと写真撮影が終われば、次は唯依との写真撮影が行われる予定になっている。
とは言え、その写真撮影までまだ間が有るので、唯依を含めた一行は余興に興じていた。具体的には、ビーチバレーやボートレースになる。
そんな中、ユウヤは隣に居たVGに
「VG、その顔は何があった?」
と問い掛けた。VGの顔は、一部が赤くなっている。まるで、その部分だけが火傷を負っているように見える。
「いや何な、ちょっとシャワーの温度調整をミスってな」
VGはそう言うが、ステラが深い笑みを浮かべている。
(流石だ、ステラ……あれだけの忠告で、効果的な迎撃をしたようだ)
実はつい先日、ユウヤはVGが女性陣のシャワーを覗き見ようとしていることを知った。知ったのだが、それが誰だか分からなかったので、取り合えず忠告出来る女性陣全員にしていたのだ。
そしてどうやら、VGはステラのシャワーを覗き見ようとしたが、事前にユウヤから報されていたステラは、シャワーの温度を一気に上げて迎撃に使った。ということのようだ。
そうこうしている間に、タリサとクリスカ・イーニァ達の写真撮影が終わったらしく、三人が水着に着替えて現れた。
ここから、唯依達の写真撮影まで少し待つことになるので、その間は体を動かす一行、それにクリスカとイーニァの二人も加わったのは、彼女達の上官。イェジー・サンダーク中尉の意向らしい。曰く、彼女達は少し、コミュニケーション能力面に不安があるので、少しでも緩和したい。ということらしい。
まあ、この基地に居る間は度々広報関連の任務が入っており、それはアルゴス試験小隊も深く携わるので反論の余地は無かった。
「しっかし、こう見ると美人ばっかりだな」
「ヴィンセント、整備は終わったのか?」
「おうよ、一段落したからな。俺も息抜きだ」
ユウヤの問い掛けに、ヴィンセントは答えるとカメラを取り出した。そして気付けば、ヴィンセントの腕には撮影係という腕章があった。
「撮影係?」
「おうよ! 我等がアルゴス試験小隊の活動を記録する役割を、ドーゥル中尉から仰せつかったのよ? いやぁ、ドーゥル中尉もそういう欲があったって証拠だな!」
ヴィンセントはそう言って、ビーチバレーに興じているステラ、タリサ、唯依を次々と撮影していく。恐らく、ドーゥルはそういう考えで命じた訳ではないだろう。
(後で、こいつは呼び出しかな……?)
ユウヤは半ばそう確信しながら、交代として呼ばれたビーチバレーに向かった。
事が起きたのは、それから約一時間後のことだった。
その時ユウヤは、ヴィンセント、VGと一緒にボートを漕いでいた。しかし、天候が悪くなってきていたので、砂浜に戻ろうとしていた。だがその時、クリスカ、唯依、尚人の三人が乗っていたボートが少し可笑しいことに気付いた。
「なんだ? あっちで、何があった?」
「なに?」
ユウヤの声に気付いたVGが、ユウヤと同じように三人の乗ったボートの方を見た。しかし、少し距離が開いていたのと、徐々に荒れてきていた波のせいで、上手く分からなかった。
「仕方ねえ……おい、俺はあっちに行く! 二人は戻れ!」
「なに!?」
「おい、ユウヤ!?」
ヴィンセントが呼び掛けてくるが、ユウヤは無視して海に飛び込んだ。そして、三人のボートに取り付くと
「中尉! 何が起きた!?」
と唯依に問い掛けた。
「ブリッジス少尉か!」
「それが、ビャーチェノワ少尉が急に具合が悪くなったんです!」
尚人の説明を聞きながら、ユウヤはクリスカの顔を見た。確かに、顔面蒼白だ。
「今からじゃ、基地に戻る前にボートが転覆する……あの島に行くぞ!」
ユウヤは近くに別の島を見つけると、唯依と尚人にそう言って、オールを掴んだ。その後、何とか大時化になる前に何とかその島に到着し、四人はその島に上陸し、嵐が収まるまで待つことにしたのだが
「クソっ!! ここまでバカかよ!!」
ユウヤはボート据え付けの緊急用ビーコンを起動させようとしたが、電池切れが壊れているかで一切反応しないビーコンを叩いた。
そういったビーコンは、国際規定で約一ヶ月毎に点検・整備することが義務化されている。だというのに壊れているとなると、ちゃんと点検・整備がされていない証券になる。
「ブリッジス少尉! ボートを繋ぎ停めましょう!」
「そうだな!」
激しくなる嵐に負けないようにと、尚人とユウヤは大声で示し合わせてからボートを運ぼうと押し始めた。そこに
「私も手伝おう!」
と唯依が駆け寄ってきた。
「中尉! ビャーチェノワ少尉は!?」
「少し行った所に、手頃な洞窟を見つけて、そこで休ませている! 問題ない!」
尚人の問い掛けに、唯依はそう答えながら二人と一緒にボートを押し始めた。それにより、少しずつだがボートが動き始めた。そして、どうにか木の近くまでボートを押し、後少しという距離になった時、唯依がガクッと姿勢を崩した。どうやら、砂に足を取られてしまったらしい。
「中尉!」
「私は大丈夫だ! ロープを!」
唯依の言葉を聞いたユウヤと尚人は、二人でボートのロープを結んだ。そして簡単に解けないのを確認し
「よし、その洞窟に向かおう!」
「はい……中尉!?」
ユウヤと尚人の二人は、唯依が踞っていることに気付いた。二人が歩み寄ってみれば、唯依が押さえている右足首が、赤く腫れているのが分かった。どうやら、先程挫いたようだ。
「神田少尉!」
「はい!」
二人は短く会話すると、唯依に肩を貸して立ち上がった。
「お、おい。私なら、一人で」
「今は、時間が惜しいんだ!」
「それに、洞窟の場所を知っているのは中尉だけです! 案内をお願いします!」
「……分かった。一時の方向、距離約800だ」
二人は唯依の告げた方向に向かい、歩幅を合わせて歩き続けた。少しすると、確かに人が数人入れる洞窟を見つけた。そこに着いた時には、雨は激しく、横殴りで降ってきていた。間に合って一安心だった。
こうして、四人の遭難が始まった。