つまり、心折任務()
「丁度良かったわ、白銀。新OSのシミュレーション、手伝いなさい」
「もう出来たんですか」
ある日、確認のために横浜基地に訪れていた武は、夕呼に邂逅一番にそう言われた。
「ええ。私を誰だと思ってるのよ」
「人類でもトップランクの天才ですね」
「分かってるじゃないのよ」
武の言葉に返答しながら、夕呼は武に新OS。XM3のことを説明した。
「あんたの要望通り、キャンセル、先行入力、コンボが出来るようにしたわ」
「流石は夕呼先生」
夕呼を賞賛しながら、武は受け取った詳細な設定が書かれた書類を一読し
「それじゃあ、着替えてシミュレーションルームに行きます」
と夕呼に告げて、退室した。この時、武は気づくべきだったのだ。夕呼の口元が、ニヤリと笑っていたことに。
同時刻、武が使うのとは別のシミュレーションルームにて
「それで、少佐。次のシミュレーションはどういった内容で?」
「私も詳しくは聞いていないが……なんでも、試作の新しいOS設定を試したいそうだ」
「なるほど……つまり、結果如何によっては、私達がその新OSの試験をするかが決まる……そういうことですね?」
「恐らくな……」
少佐と呼ばれた人物は、部下の質問に答えた後、腕組みして
(しかし、あの副司令のことだ……一筋縄ではいかないだろうな)
とこの先起こるだろうことを、予想した。しかしまさか、その予想を上回るとは思いもしなかった。
『全機のシミュレーターの起動を確認。ステージは、廃都市……シミュレーション開始!』
通信将校たる
今は過去の作戦により二個中隊しか残ってないが、全員が紛れもなく精鋭だ。
そのAー01連隊は、一気に動き始めた。
一糸乱れぬ動きで、レーダーが捕捉している敵機に接近していく。
「アストレア1より総員に通達する! 敵は単機だが、油断するな! セオリー通り、半包囲で攻める! 陣形は、
碓氷佳代子がそう言って、視線を前に向けた時、遥か先で放火が一瞬瞬いた。それを見た佳代子は、背筋に悪寒が走って
「風間、避けろぉぉぉ!!」
と怒号染みた命令を下した。
『え?』
呼ばれた
『ば、バルキリー8、被弾! 大破と認定!』
『嘘だろ!? まだ約8000は離れてるんだぞ!?』
いきなり一機撃墜されたことに、味方が浮き足だった。だが
「動きを止めるな! 狙撃されるぞ!!」
『り、了解!』
佳代子の号令により、部隊は即座に態勢を建て直した。だが、ほんの僅かな間、意識が敵機から離れた。その間に、敵機は
「慌てるな、レーダーと熱探知に切り替えろ!」
『了か……』
『慎二!?』
新たな指示を下した直後、佳代子機の右隣に居た平慎二機が、砲弾の直撃を受けて爆散。
「つっ!? どんな化け物だ!?」
敵の離れ業に、佳代子は思わず言葉を漏らした。敵の戦い方は、佳代子からしたら予想不可能としか言えなかった。
「見えた! 全機、兵器使用自由! 撃ちまくれ!」
『了解!』
『慎二の仇だ!』
様々な角度から、敵機。白銀色の不知火に砲弾や自律誘導弾が放たれる。だが次の瞬間
『なっ』
『よ、避けられた!?』
放たれた砲弾の悉くが、避けられた。佳代子は、自分の目が信じられなかった。白銀の不知火は、砲弾の間をすり抜けるように回避したのである。
「この機動性は!?」
『このぉ!』
『よせ、速瀬!?』
一機の不知火、
『バルキリー2、コクピットブロックに致命的損傷! 機能停止!』
『うっそだろ!?』
鳴海隆之は驚愕の声を上げながらも、白銀の不知火に向けて突撃砲を撃ったのだが、既に居ない。
『何処に!?』
『バルキリー11、上だ!』
隆之機は周囲を見回すが、別の機体。
それだけでなく、120mm滑空砲の
「バルキリー1、合わせろ!」
『了解!』
佳代子は生き残ってるメンバーの中では、佳代子に次ぐ腕前の
しかし、敵は普通じゃなかった。
白銀の不知火は、普通では有り得ない機動で二機の波状攻撃を回避。
そして、短刀を投擲して伊隅機のコクピットブロックに命中。佳代子機は連射された榴散弾が避けきれずに命中。二人はほぼ同時に撃破された。
その後、残った部下も一分と経たずに撃破された。
たった二分程で、二個中隊はたった一機の不知火に全滅させられた。
時は経って、夕呼の部屋
「夕呼先生……今回の相手……Aー01連隊でしたね……?」
「そうよ? 別に隠してるわけじゃあるまいに」
武の問い掛けに、夕呼は確信めいた笑みを浮かべながら返答した。確かに、武が問わなかったから答えなかっただけで、夕呼は別にAIが相手だなんて、一言も言っていなかった。
「それで、新OSはどうだったかしら?」
「……文句なしでした」
武はそう答えながら、やっぱり夕呼には勝てないと思ったのであった。