尚人とユウヤの二人が洞窟から出ていくと、唯依はクリスカに視線を向けて
「それで、ビャーチェノワ少尉。意識を失った理由は分かるか?」
と問い掛けた。唯依からしたら、いきなり意識を失った理由が、少しでも分かればいいな。位の気持ちで聞いていた。するとクリスカは、少し俯いて
「…………だ」
と小声で、何やらボソボソと言った。クリスカのその態度に、唯依は少し面食らいながら
「すまない、よく聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」
と再び問い掛けた。するとクリスカは、頬を染めながら
「海が怖かったんだ!」
と言った。
「な、なに?」
流石に予想外だったために、唯依ですら思わず困惑してしまった。まさか、海が怖かったから意識を失ったというのは、完全に予想外だった。
「しかし、戦術機で見ただろう……」
「確かに見たが、直接見るとなると違う。戦術機で見た時は、まだ機体越しだった……しかし、ゴムボートに乗ってた時、凄まじい
「ふむ……」
クリスカの話を聞いた唯依は、顎に手を当てて黙考し始めた。クリスカの所属する、中央戦略軍団となっている。つまりは、ソ連軍本部の直轄部隊の一つなのだ。それにより、アラスカから殆んど離れたことがなく、海はかなり離れた距離を戦術機のカメラで見るか、JIVESででしか見たことがなかった。その結果、クリスカは海に不慣れだったから、初めて海を直に見て、恐怖から意識を失ってしまった。これが、真相ということだ。
「すまない、篁中尉……私のせいで、迷惑を掛けたようだ……」
「いや、どちらにしても嵐に遭遇し、この島に避難せざるをえなかっただろう。気にするな」
唯依はそう言いながら、火が弱くなった焚き火に薪を数本投げ入れた。残り僅かな薪だが、ユウヤと尚人の二人が薪を見つけると信じて、使うしかなかった。
そして、暫くの間沈黙が続いたのだが
「篁中尉、一つ聞きたいのだが……」
とクリスカが、唯依を呼んだ。
「む、どうした?」
「貴官は、ブリッジス少尉をどう思っているのだ?」
クリスカの質問の意図が分からず、唯依は思わず首を傾げてしまった。するとクリスカは
「アルゴス小隊に配属されてからのことを、失礼だが調べさせてもらった……ブリッジス少尉を少々扱いかねてるように感じた……」
と語った。つまり、唯依本人がユウヤをどう思っているのかを聞きたいようだ。
「そうだな……確かに、当初はブリッジス少尉を扱いかねていた……だがある日を境に、こちらの話を聞いてくるようにもなったし、機体の操縦も見違えた……今では、アルゴスに必要な人材だ」
「なるほど……」
唯依の意見を聞いて、クリスカは何やらコクコクと頷いている。その時、唯依は
「しかし、ビャーチェノワ少尉は何時ブリッジス少尉を知ったのだ?」
と問い掛けた。
「最初は……ドローンを使った訓練の時か……あの時は、機体に随分と振り回されていた印象だったが、イーニァが酷く気にしていてな」
「シェスチナ少尉が?」
唯依からしたら、何故イーニァがユウヤを知っているのかが気になった。
「ああ……どうしてイーニァが知っていたのかは、私にも分からないが……」
「そうか……」
会話していた時、唯依は風が弱まってきていることに気付いた。その時
『クリスカー!!』
とイーニァの声が聞こえた。まさかと思い、二人は洞窟から外に出て、空を見上げた。すると上空に、チェルミナートルが飛んでいた。そのチェルミナートルの肩の色は、紅く塗られている。つまり、クリスカとイーニァの機体に他ならない。
「イーニァ!?」
『クリスカー!』
こうして、短時間で四人の遭難は終わりを告げた。