遭難するという予想外のアクシデントに見舞われ、多少の遅れにより予定日数は超えたが、無事に耐環境試験と公報任務は終了。アルゴス、イーダル両試験小隊はユーコン基地へと帰投した。
それから暫く、アルゴスとイーダル両試験小隊にある任務が通達された。
それは、対BETA最前線の一ヶ所。カムチャッカに於ける対BETA実戦試験だった。
「カムチャッカっていやぁ、確か……」
「少し前に、ガルーダが行ってなかったか?」
ガルーダ試験小隊。Fー4Eの改造機を運用する試験小隊で、アルゴスとイーダル両試験小隊と入れ替わる形で、カムチャッカに派遣された試験小隊だ。
すると、ドーゥル中尉が
「そのガルーダだが、小隊のほぼ全員がシェルショックになってしまったらしい」
「なんで……」
「あー……そうだった……インド軍じゃあ、人道的にって理由で戦術薬物も後催眠暗示も使わなかったな」
「それでシェルショックになってりゃ、世話ないわ」
ドーゥル中尉の言葉にユウヤは疑問を覚えたが、タリサとVGはすぐに納得し、頭を掻きながら苦い表情を浮かべた。そんな二人の言葉を聞いてか、ドーゥル中尉が
「そして、今回の派遣に踏み切った理由だが、カムチャッカに大規模侵攻の兆候を感知したからだ。このユーコン基地では、対BETA戦はJIVESかシミュレーターを使うしか出来ない。しかし、何より実戦試験はやはり重要。ソ連軍からの情報提供もあり、今回の派遣を決定した。何か質問は?」
ドーゥル中尉が問い掛けるが、誰も手を挙げない。それを確認したドーゥル中尉は、隣に立っていたサンダーク中尉と入れ替わった。
「今回の派遣任務。船でカムチャッキー基地に寄港し、そこからГ04基地に移動する」
サンダーク中尉が説明を開始すると、正面モニターにデータが表示された。
「当基地は補給基地だが、同時に観測拠点も兼ねている。その観測所から連絡を受けたら、試験を開始する形となっている……その護衛には、カムチャッキー基地から戦術機大隊が行う……何か質問はあるかね?」
サンダーク中尉が見回すが、誰も挙手しない。それを見たサンダーク中尉は、表情ひとつ変えずに退室。それを受けて、全員も会議室から出た。
それから、数分後
「繋がりました、篁中尉」
「感謝する、神田少尉」
尚人があるモニターの前から退き、唯依がそのモニターの前に立つと同時に、そのモニターに巖谷中佐の姿が映った。
「お久し振りです、巖谷中佐」
『元気そうで何よりだ、篁中尉。それに、神田少尉』
巖谷中佐がそう言うと、尚人は返礼のために敬礼した。それを待ってか、唯依が一拍置いてから
「巖谷中佐、ひとつお願いがあります」
『言ってみろ』
巖谷の先を促す言葉に、唯依は一度深呼吸してからその言葉を告げた。
「こちらに、試製99式を送っていただけませんか?」
『アレをか?』
流石にそれは予想外だった巖谷は、思わず片眉を上げた。試製99式というのは、唯依の部隊が試験運用していた兵器で、スピリッツを除けば世界でも最強級の携行用兵器である。
しかし、その機密性は非常に高くされており、知っているのは試験した唯依達を含めて僅か一握りのみ。
『……どういうつもりだ?』
「実は……」
巖谷の問い掛けに、唯依は理由を語った。カムチャッカへの派遣任務を。
『カムチャッカへの派遣か……確か、
「は、その通りです。しかし、試験に対する真摯な態度は評価出来る人材であり、最近では剣術指南を頼まれました」
それは数日前、耐環境試験が終わった直後のことだった。尚人と唯依が、スケジュールを確認していた際に、ユウヤが現れて、嘆願してきたのだ。
『94セカンドの完成のために、剣術を教えてほしい』
そして、その理由は
『94セカンドは、帝国軍機だ。そして帝国軍では、剣術が実戦で使われてると聞いてる。だけど、アメリカ軍じゃあ使ってもナイフ。それも、緊急時のみを想定していて、装備は義務でもない。それは、ナイフの構造からも明らかだ』
と告げた。アメリカ軍が採用しているナイフだが、最近採用されたものは、折り畳み式になり、耐久性が他の国のナイフと比べて半分近くに落ちているのだ。
このナイフの採用に至って、対BETA実戦経験のある衞士達からは、反対意見が多く上がっていて、特に補給が確実性を欠く戦場では、アメリカ軍がドクトリンとして採用した射砲撃戦重視は機能しなくなると指摘。他国、特に最前線国家と同じように一体型を採用し、近接戦闘能力の向上をすべきだと。
しかし、一方的にその指摘は無視された。
ユウヤも最初は気にしていなかったが、以前の唯依や尚人との模擬戦。更に、タリサやVG達の近接戦闘能力の高さを目撃。
それが、ユウヤの意識を変えた。
射砲撃戦だけでなく、格闘戦闘能力も重要だと。特に、不知火弐型は対BETA最前線の一角の日本帝国軍の次期主力機。射砲撃戦だけでなく、格闘戦もこなす機体にしなければならない。
だからこそ、中途半端には出来ない。
『なるほど……そのような衞士は、貴重だな……失う訳にはいかないか……』
「はい……どうか、お願いします」
そう言って、唯依は深々と頭を下げた。そこから暫く間を置き
『……大伴中佐の説得がネックだが、何とかしよう』
「感謝します、巖谷中佐!」
唯依が感謝の言葉を言ったのを最後に、通信は終わった。通信棟から出た唯依は、空を見上げた。