ユウヤと尚人の下に来たのは、ラトロワ中佐率いるジャール大隊だった。ジャール大隊は卓越した連携により、次々とBETA群を撃滅していく。
そうして、一先ずの安全を確保すると
『あの数を相手に、よく生き残ったな。坊や』
とユウヤに告げた。
『中佐……なんでここに』
『何故とはな。先に救援信号を打ち上げたのは、そちらだろ?』
ユウヤの問い掛けに、ラトロワ中佐は軽く返答した。実は脱出を始める前に、救援信号弾を打ち上げていたのだ。期待していなかったために、救援が来たのが意外だった。しかも、ジャール大隊というのは完全に予想していなかった。
『しかし、ラトロワ中佐。こちらの通信が聞こえていたのですか? ジャミングは……』
『ああ。それならば、通信塔諸ともへし折って黙らせた。何処ぞのバカが、離脱する際に間違えてジャミングを発したのか……まあ分からんが、面倒だったからな。少し前に砲撃してやった。いや、耳障りだったノイズが無くなって、セイセイしたさ』
尚人の問い掛けに、ラトロワ中佐はそう告げた。それを聞いた尚人は、改めて気付いた。相当距離が離れた筈の唯依と先程まで通信出来ていたことに。
『さて、そちらはどうやら弾薬が残っていないようだな……第3中隊、この二機の離脱を支援。他は、全周警戒だ』
『了解!』
ラトロワ中佐の指示を受けて、9機が尚人機とユウヤ機の周りに集まった。だが、ユウヤが
『待ってくれ、中佐! 俺はまだ!』
と抗議しようとした。恐らく、まだ接近戦をしたいのだろう。しかし
『ダメです、ブリッジス少尉。機体の損傷度が危険域です……それに、推進材ももう……』
と尚人が止めた。どうやら、戦術データリンクでユウヤ機のコンディションを確認したらしい。実際問題、ユウヤ機のコンディションは真っ赤に染まっており、機体からは即時脱出が促されている。
『くっ……』
『それに、震動計が新たに接近するBETA群を捕捉しました……種類は不明ですが、軽く数千は接近してきてます……自分達を護衛しながらジャール大隊が戦うと、犠牲が出る可能性が高過ぎます……』
『つっ……』
幾らユウヤでも、友軍に犠牲を強いるのは不本意だ。尚人の言葉に押し黙り、動きを止めた。そこに、ジャール大隊の内の二機がユウヤ機の肩を掴んだ。
ユウヤ機は跳躍ユニットの片方が既に機能停止しており、最早まともな機動すら出来なくなっている。
そんなユウヤ機を素早く安全域まで動かすとなれば、二機で運んだ方が速いのである。
『いいか、大人しくしろよ?』
『俺達だって、死にたかないからな』
ユウヤ機を掴んだ二機の衛士は口々に、ユウヤにそう言った。確かに、下手にユウヤ機が動けば、二機もバランスを失って、最悪は墜落してしまう。尚人機は飛べるが、推進材が保つかどうか不安なので、念の為に運ばれることになった。
その護衛に、二個小隊が就いた。
そうして、中隊の護衛が就いた二機は戦域を離脱した。
そして
「篁中尉……」
「この……バカ者!」
機体から降りた尚人を、唯依が叩いた。
「軽々しく、命を捨てるな……!」
「は……申し訳ありません……」
「特にお前は、試験機の衛士であり、更には私と同じ次期当主……お前が死ねば、神田家は後継ぎ不在になり、最悪はお家断絶だ……そんなこと、お前も望まないだろう」
「その通りです……」
唯依の言葉に、尚人は頷くことしか出来なかった。確かに、尚人としてもそれは望んでいない。だが、出発前に会った、さる御仁から言われた言葉。
『この計画は、この日本を照らす光明になりましょう。そなたの力に期待します』
それを聞いた尚人は、全身全霊で挑むことにした。当初の心情は、何故アメリカの企業の協力を得なければならないのか、と憤りもした。だが、その御仁からの言葉を聞いた時に尚人は、歓喜に奮えた。
自分のような白の家でも、日本の、この御方の役に立てる。ならば、自分の心情など二の次。全身全霊を尽くし、粉骨砕身の気構えでこの計画を成就させよう。そう誓った。
それが、日本の為になると信じて。
それから、約二週間後。アラスカの地にて、新型機が発表された。
その名前は、不知火・弐型。白・黒・赤に塗装された鉄の巨人が、威風堂々と立っている。それを見たユウヤは
「……中佐……俺は必ず、この弐型の試験を成功させて、世界に貢献してみせる」
と呟いた。アラスカに帰ってきた際に、ソ連軍軍人のサンダーク中尉が、あのBETAの大規模侵攻に関して、報告したことのひとつに、ジャール大隊、全機未帰還というのがあった。
つまり、ジャール大隊は全滅したということになる。
あれほどの精鋭部隊が、全滅。それが、最前線なのだと、ユウヤに認識させた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し前。ある場所
「……こんなことをして、お前達に何の得がある?」
「なに。俺達は、依頼で動いただけでね。仕事ならやるだけって話だよ。んじゃな。新しい地で、頑張ってくれや。氷の魔女さん」
約二十数名の部隊が、ある場所に運ばれていた。