ユウヤ達が帰還し、弐型が発表された約1ヶ月後。ユーコン基地は、ある熱狂の中にあった。その理由は、通称ブルーフラッグと呼ばれる各国の試験部隊による模擬戦が行われている。
このブルーフラッグの意図は、各国試験部隊の状況を確かめる為にとなっている。
各国は自国と他国の技術を投入し、旧式戦術機を改修。それでもって、自国戦力の強化を図っている。
今回のブルーフラッグは、その性能評価からくる更なる性能向上を目的にしていた。
「あ、やっぱり、中華統一戦線が勝ったな」
「まあ、孅8型は機動と格闘能力の強化が主体の機体だからな……機動と砲撃強化とはいえ、Fー4の強化機体じゃ勝ち目は低いさ」
今アルゴス小隊の面々が見ているのは、中華統一戦線対インド軍の試験部隊の模擬戦だった。
中華統一戦線が運用しているのは、第二世代のFー16の改修機、
それに対し、インド軍試験部隊が運用しているのは、第一世代のFー4Eの改修機だ。幾ら準第二世代並の性能を得ているとはいえ、結局は第一世代機のFー4。
第二世代改修機の孅8型に、勝つ確率は低い。
結果、中華統一戦線が勝った。
「あのケルプ、中々のやり手なんだな……」
「ケルプって、あの中尉のことか?」
ユウヤが言ったケルプというのは、中華統一戦線試験部隊。
実は今から数日前、歓楽街で飲んでいた時に、突如としてイーフェイ中尉が現れ、ユウヤに抱き付いたのだ。
そして、いきなり
『ユウヤ・ブリッジス! 私と付き合いなさい!』
と告げたのだ。そこからは、最早怒濤。イーフェイは(言葉)で暴れに暴れて、アルゴス小隊を混乱させた。結局その場は、唯依と尚人の介入により解散になった。
その矢先に、ブルーフラッグが始まった。
「けどよ、聞いた話だとアメリカ軍がこのブルーフラッグに参加するってよ」
「は? アメリカ軍が? アメリカ軍が参加する理由は無いだろ?」
VGの話を聞いて、タリサは眉を潜めた。確かに、今アメリカ軍がこのブルーフラッグに参加する理由は、一切無い。なにせ、今アルゴス小隊が運用しているアクティヴイーグルがアメリカ軍の改修機だからだ。
それを考えると、アメリカ軍がブルーフラッグに参加する必要は無いのだ。
「……参加する部隊は分かるか?」
「確か……第65教導団だったか?」
「インフィニティーズだと!?」
VGが告げた部隊を聞いて、ユウヤは驚きの声を上げた。
「知ってるのか、ユウヤ?」
「……第65教導団は、最新鋭機のFー22EMDラプターを運用する対人戦闘のエキスパートだ……」
「あの噂の人狩り機運用部隊か!? なんで、そいつらが参加するんだよ!?」
流石にFー22のことを知っていたタリサは、驚いた。
Fー22、機体名ラプター。アメリカ軍が配備を開始した第三世代機で、ステルス機となっており、アメリカ側はBETAの探知対策と言っていたが、世界各国は対人仕様と判断しているし、実際対人仕様機である。
アメリカは、BETA大戦が終わった後を見据えて開発したのがラプターである。
そんなラプターを、ブルーフラッグに参加させる。
どう考えても、何らかの意図があるのが考えられる。
(まさか、インフィニティーズが来るなんて……予想外にも程がある……これは、試験部隊の模擬戦だぞ……既に実戦配備されてる機体を参加させる……そういやぁ、インフィニティーズは後ろ暗い任務も遂行するって聞いたことがある……つまり、このアラスカで何か起きる……?)
ユウヤがそう考えていた時、歓楽街のある一ヶ所のバー。
「ふん……気楽な奴らだな……潜入がいとも容易い……」
そう言っているのは、軍服を着た大柄な男だった。左の米神から頬辺りまで大きな傷痕があり、歴戦の風格を漂わせている。
「仕方ありませんよ、少佐……ここは後方地なのですから」
そう言って、少佐と呼んだ男の前に酒が注がれたコップを置いたのは、バーテンの服を着た一人の女だった。
少佐と女で共通しているのは、何処かに深い青の布を巻いていることだ。
「ふん。この基地の連中は、最前線国の現状を知らないんだろうよ。避難民がキャンプでどんどん死んでることなんざよ……んで、こっちの工作員はどうなってる?」
「はっ……既に、警備戦術機部隊に衛士と整備士として潜入済み。警備部隊にも、一個中隊規模が入り込めました。後、各地に強化外骨格を隠したコンテナを配置中です。予定日までには、全て準備完了します」
少佐の問いかけに、女は淀みなく答えた。それを聞いた少佐は、上機嫌に酒を飲み干して
「よしよし……さあ、祭が近付いてきたぜ……今度こそ、人形共も捕まえないとな……!」
とその目に、闘志を滾らせた。
今アラスカに、暗雲が立ち込める。