RLFによるテロが始まり、数十分。国連軍ユーコン基地は、ほぼ完全にRLFに占拠されていた。試験部隊は、衛士・整備士問わずに殆どが殺され、無事だったのは本当に一握りのみだった。
その内の一つ、暴風小隊のハンガーでは
「どうだったアルか?」
「ダメネ……司令部だけでなく、全域で通信はジャミングされてるし、色んな所で煙が上がってるネ」
「それと、最悪の連絡だ……どうやら、警備部隊は全滅したみたいヨ……さっき、警備部隊所属の戦術機が二機、実弾を撃ってるのを確認したヨ」
とイーフェイの部下三人が会話していた。周囲では生き残り何とか合流した整備士達が、強化外骨格を使ってあらゆる出入口にバリケードを造り、抑えている。
しかし、相手が戦術機を投入してきたら、長くは保たないのは確実だ。
さてどうするか、と三人は悩んでいた。その時、副隊長が
「そういえば、確か77式が運ばれたネ?」
と一人の整備士に問い掛けた。
「え、あ、はい……8型での運用試験のために実剣が配備されましたが……」
「私が責任を取るから、それを装備するネ。それと、機体に火を入れておくネ」
「し、しかし!」
「構わないネ。今姐さんが居ない状況下では、最善を尽くすしかないネ」
「わ、分かりました! すぐに!」
副隊長の指示を受けて、その整備士は走り去った。
同時刻、アルゴス試験小隊ハンガー
「ヴィンさん! こちらに向かってくる装甲車です!」
「数は!?」
「一台だけです! あ、止まって……中から、マナンダル少尉とブリッジス少尉が降りてきました!」
「開けて、中に入れろ!」
ヴィンセントの話を聞いて、数人の整備士が警戒しながら僅かにドアを開けて
「皆さん、早く中へ!」
と一行を中に入れた。そして、全員が入ると
「……まあ、イーフェイ中尉は予想してたが、なんでビャーチェノワ少尉まで居るんだ? それに、そっちの警備兵は……」
とヴィンセントは、首を傾げた。実はアルゴス試験小隊のハンガーに到着する少し前に、一行はRLFから逃げていたクリスカを発見。装甲車で擦れ違い様に、後部ハッチを開けてクリスカを回収し、ハンガーに来たのだ。
「つまり、その警備兵は生き残りか……」
「ああ……司令部棟周りは、完全に制圧されただろうな……」
ユウヤの話を聞いて、ヴィンセントは腕組みした。
はっきり言って、状況は最悪に近いだろう。近くの基地は、アメリカ軍の物になるが、ただ資源の受け入れの中継地に過ぎないためにそんなにやり取りは無い。
しかも、通信すら出来ないのでは救援はジャミング範囲から出てするしかないが、今は戦力の分散は得策ではないだろう。
全員が悩んでいた、その時
「つっ!? 下!」
とタリサが、マンホールを指差した。その直後
「だあ! 臭かった!!」
「まあ、予想通りに居なかったけれどね……」
とマンホールを開けて、VGとステラが現れた。どうやら、地下下水道を通ってきたらしい。整備士が、念のためにマンホールの蓋を戻し、更にその上に重量物を置いた。これで、よほどの事が無い限りマンホールは開かないだろう。
「一応、機体は何時でも行けるように準備してる所だ……問題は……」
「武装か……」
「一応、近衛には話を通して、長刀と短刀を回して貰える予想はしてもらった……ただ問題は……」
「武装の受け渡しか」
クリスカの言葉に、ヴィンセントは頷いた。アルゴス試験小隊のハンガーと帝国近衛軍のハンガーは真正面だが少し離れているのだ。今はまだ大丈夫だが、もしその途中でRLFと遭遇した場合、非武装で交戦することになる。
「だが、やるしかないな……」
「ああ……じゃないと、ナタリーの犠牲が無駄になっちまう……」
ユウヤの言葉に、タリサは泣きそうな声で言いながら手を握った。その時、窓から外を見ていたシンが
「一台の高機動車が接近中! あれは……篁中尉と神田少尉です!」
と声を挙げた。
「開けます!」
シンの報告を聞いて、エレイシアとアルトリアがドアを開けた。そして、外に出ると
「お二方、早くこちらに!」
と二人を呼んだ。呼ばれた二人は、高機動車を乱暴に止めて、急いでハンガーに入った。中に入ると、ドアを閉鎖し
「状況報告!」
と直ぐに状況把握のために、全員を呼んだ。そして、全員の報告を聞いて、状況を把握すると
「ローウェル軍曹の判断は正しい……問題は、戦術機に推進材の補給が間に合うかだが……」
と腕組みした。そこに
「篁中尉、予備機の貸し出しを申請するわ」
「私もだ」
イーフェイとクリスカの二人が、そう告げた。すると、ヴィンセントが慌てた様子で
「何言ってる! あれは、軍事機密だぞ!?」
と拒否した。
「だけど、今は一機でも多くの戦力が必要な筈よ?」
「だがな……」
「構わない、ローウェル軍曹……私が許可する」
ヴィンセントが躊躇っていると、唯依がそう言った。
「篁中尉……」
「実は少し前に、ドーゥル中尉とほんの僅かですが通信が出来ました。現場での指揮権は、篁中尉に一任すると」
ヴィンセントが振り向くと、尚人がそう説明した。実は二人が到着する少し前、どうやら司令部棟に隠れているらしいイブラヒムと通信が出来たのだ。その内容は
『現場での指揮権は、全て篁中尉に一任する。責任は、俺が取る』
であった。そこで通信は途切れたが、これで唯依が今現状の最高指揮官になったのは事実である。
それを聞いたヴィンセントは、頭を掻いてから
「分かりました……ただ、機体には何人ものデータが残ってるから、操縦するのに違和感を覚えるだろうが、文句は言うなよ?」
と二人に告げた。すると、シンが近寄り
「警戒は、我々が引き受けます。衛士の方々は今のうちに強化装備に着替えてきてください」
と促した。それを聞いた衛士一同は、ロッカーに向かって走り出した。だが、唯依と尚人は近衛のハンガーに向かう必要がある。二人が使う強化装備は、近衛の物のためにそちらのハンガーのロッカーにあるのだ。
しかし唯依と尚人は、ある程度話し合うと頷いた。
それから、数分後
「よし、着替え終わった!」
「敵に動きは!?」
「今のところありません!」
ユウヤの問い掛けに、アルトリアが返答。そこに、ヴィンセントが
「推進材は、全機が約8割ってところだ! なんなら、今はここで推進材の補給を止めるか?」
と問い掛けてきた。
確かに、約8割ならば全力戦闘しても支障は無いだろう。
「そうしたほうが良さそうです! 2時の方向から、戦術機部隊を確認! あれは……Fー16、ファイティングファルコン!」
「緊急搭乗! イーフェイ中尉はストライクイーグルの5番機に! ビャーチェノワ少尉は同6番機に!」
唯依の指示を受けて、一斉に愛機に走り出す衛士達。
アルゴス試験小隊だが、タリサはアクティヴイーグルから不知火弐型の試験二番機が完成したので、そちらに乗り換え、二機のアクティヴイーグルはVGとステラが搭乗することになった。そのために、二機のストライクイーグルが余った状態だった。
そこでその二機は、新武装の試験用に割り振られることが決まり、仮的に5番機と6番機という風にしたのだ。
そして、次々と搭乗していた時
「つっ!? 一機が突撃砲を指向……撃ってきます!!」
とシンが大声を挙げた。
「総員、衝撃に備えろ!!」
唯依の怒声が響き渡った直後、ハンガーを激しい振動が襲った。どうやら、敵が砲撃を加えたらしい。
しかし、試験小隊のハンガーは何らかのトラブルが起きても大丈夫なようにと、内外ともに堅牢に作られている。数発の砲弾で破壊は出来ないのだ。
「被害報告!」
「つっ!? 警備隊、怪我人は居ません!」
「整備士も大丈夫です!」
「篁中尉、不味いです! キャットウォークに異常発生! 開閉出来ません!」
唯依が報告を求めると次々と報告がされたが、ヴィンセントの報告が不味かった。
整備士達や衛士が機体に搭乗する際に通るキャットウォークが、動かなくなったようだ。
「ロックアームは!?」
「そちらは問題ありません! 解除済みです! 推進材補給用のパイプも外してあります!」
「こうなったら、仕方ない! 施設の破壊を許可! キャットウォークを破壊し、各機出撃しろ!!」
唯依がそう指示を出した直後、クリスカが乗ったストライクイーグルが、キャットウォークを腕で振り払う用に破壊し、前に出た。その時
「再度敵が接近! もう一度、砲撃きます!!」
と今度は、9時方向を見ていたエレイシアが報告した。その数秒後、再びハンガーを激しい振動が襲い、ハンガー正面のハッチの右半分が破砕された。
「不味い!?」
尚人が慌てた直後、そのハッチから一機のファイティングファルコンが侵入してきた。だが
『はあぁぁぁ!!』
先に前に出ていたクリスカ機が、キャットウォークを棒のようにして、敵機の胸部に突き刺した。その一撃で、そのファイティングファルコンは停止。クリスカ機は、一挺の複合突撃砲を拾うと
『整備兵達、物陰に隠れていろ! ジャンプユニットを噴かす!』
と警告してから、姿勢を低くした。クリスカの言葉を聞いて、ヴィンセントが
「ちょっ!? お前、ふざけんな!?」
と悪態を吐きながら、パソコンを掴んで物陰に隠れ、他の整備士達や唯依、尚人も物陰に隠れた。その直後
『クリスカ・ビャーチェノワ……出撃する!!』
そう言って、ハンガーから文字通り飛び出した。
こうして僅かな戦力だが、反撃が始まった。