『あ、こいつの背部ラックにもう一挺あるじゃない……貰うわよ』
イーフェイはそう言って、クリスカが撃破したファイティングファルコンの背部ラックから一挺の複合突撃砲をもぎ取り
『んじゃ、行ってくるわね! ちょっと隠れてなさい!』
「お前もか!?」
跳躍ユニットを噴かし、出撃していった。何人かの整備士は、衝撃波で転んだらしい。
「ちくしょう、あいつら……! 自分達のハンガーじゃないからって……!」
ヴィンセントは文句を言いながらも、今度はアルゴス小隊の確認をした。先に出撃したクリスカやイーフェイと同じように、機体のロックと推進材補給用のパイプは外れているが、キャットウォークは開かない。
そして、推進材の量を確認し
「よし、行けるぞ! もう好きに行け!!」
と半ば自棄になりながら、出撃を促した。
それを聞いて、先にユウヤとタリサがキャットウォークを破壊してハンガーの外に出た。
この時点で既に、クリスカとイーフェイの二機により、RLFが差し向けたファイティングファルコンの中隊は8機にまで減らされていた。
そしてクリスカからの通信では、どうやらファイティングファルコンの中隊は殆どが無人機だとわかった。
恐らく、有人機は最低で二機のみ。他は、戦術データリンクを使った自律戦闘モードだと。
確かに、RLFの戦闘員の人数は不明だが、衛士を易々と用意出来るとは思えなかった。
各国の軍や国連軍の衛士達は、厳しい訓練と審査を乗り越えてなっていて、幾らRLFが何処かで軍事訓練を受けているとはいえ、そう易々と用意出来るとは思えなかった。
『だったら……有人機を特定すれば……!』
ユウヤはそう言って、機動を開始。相手の動きから、有人機の特定を開始した。
模擬戦や演習、新型機の試験等で何回も対人戦闘を経験した。そんなユウヤからしたら、無人機と有人機の判別など、容易かった。
数十秒後、ユウヤは8機の中から有人機を見つけた。
『見つけた! あいつだ!!』
その情報を、直ぐ様データリンクで共有すると
『逃がさない!』
クリスカが、36mmを斉射し一機を撃破した。その直後、相手の動きが変わった。どうやら、残ったもう一機が撤退を選択したらしい。残った7機は、素早く身を翻して離れていった。
それを、イーフェイが追おうとしたが
『追うな! 恐らくは、伏兵が居る可能性が高い!』
と唯依が止めた。確かに、まだ相手の方が数の理が有ったのに引いたのは、後方にまだ戦力が居る可能性が高い。
いくら腕の差が有るとはいえ、武装が貧弱な状態では不利なのは否めない。
『少し待て、私と神田少尉も直ぐに機体を出す! それに、長刀と短刀も回せる』
動かせる戦術機と近接戦闘用とはいっても、武装が増える。それは重要なファクターには違いなく、イーフェイは追撃を止めた。
それを確認した唯依と尚人は、近衛のハンガーに向かった。それから数分後、唯依の武御雷と尚人の隼鷹が出てきた。その後、長刀と短刀を受け取り、現状の把握を始めた。
『戦術機は、二個小隊だが……武装面が心配だな……』
武装は、撃破したファイティングファルコンから奪った複合突撃砲が計6に長刀と短刀が望んだ機体に配備されている。だが、ユーコン基地に配備されているファイティングファルコンの機数は、全部で36機の一個大隊。
そこに、もしかしたらソ連側の警備用の戦術機を合わせたら、全部で二個大隊の72機。
そして最悪なのが、一部の試験機も奪われていると考えると、戦力差は激しいにも程がある。
その面を考える唯依だが、その時不意に
『篁中尉……すまないが、私は自隊のハンガーに戻りたいのだが……』
とクリスカが発言した。
『あんた、こんな時に何を言って……』
『頼む……イーニァが心配なんだ』
『心配する気持ちは分かるが、ビャーチェノワ少尉。今は戦力の分散という愚を犯すわけには……』
『だが、私は……!』
『待った……クリスカ。確か、お前の隊のハンガーの近くには、ソ連の警備部隊のハンガーがあったよな?』
『む? ああ、確かにあるが……』
ユウヤの問い掛けに、クリスカは不思議そうにしながらも答えた。実は、国連側の警備戦術機部隊のハンガーの場所は正確な場所は非公開となっている。
これは、非常事態を想定してのことだと言うが、結局はRLFに制圧され、戦術機を奪われた。
しかし、ソ連側の警備戦術機部隊のハンガーは公開されている。その場所は、クリスカとイーニァが所属するイーダル小隊のわりと近い位置なのだ。
『篁中尉、一度そこに向かって、弾と推進材の補給をしないか? そうすれば、万全の態勢で挑める筈だ』
『む……』
『中尉、ここはブリッジス少尉の提案に乗りましょう。今我々は、あまりに武装面に不安があります。公開されてない国連の警備戦術機部隊のハンガーを探すよりも公開されてるソ連のハンガーに向かい、補給した方が堅実かと判断します』
ユウヤの判断に乗り、尚人も唯依に進言した。もしかしたら、道中で無事な試験機部隊を見つけることも出来るかもしれない。
『……確かに、そうかもしれないが……』
唯依が危惧しているのは、ソ連側ハンガーのカメラや機器使用による機密情報の漏洩だった。
実は今まで、アメリカだけでなくソ連の諜報員が帝国内に潜り込んでいたことが分かっており、何度も間一髪のタイミングで機密情報の漏洩を防いだことがあったのだ。
唯依はそのことを、一度巌谷中佐から聞いていた。そして何よりも、カムチャッカ半島での電磁投射砲のこともあり、ソ連軍に関してかなり懐疑的になっていたのだ。
『つっ!? 中尉、新たに接近中の戦術機部隊を確認! 機種、ファイティングファルコン! 数は一個中隊!』
悩んでいる間に、第二波が来たようだ。そしてその接近を、その場に居た全員がレーダーで気付いていた。
『また来やがったな!』
『つっ!? MLRSを装備してるぞ!?』
『あんな物まで、国連軍のハンガーには配備されてたのか!』
多目的ミサイルランチャー、本来なら対BETA用の装備だが、どうやら国連軍のハンガーには対人仕様の物が配備されていたらしい。
『来るぞ!』
『散開、回避!!』
先頭機のMLRSの蓋が開いたのが見えて、一同は回避機動を始めた。だが、対人仕様のミサイルは高い誘導性を有している。しかも、今居る場所も悪かった。
周囲には、盾として使える建物があまりにも少ない。
最悪、被弾する機体も出るかもしれない。そう思った時、地上からの射撃で数発が爆発した。
下を見ると、装甲車上部の機銃をアルトリアが撃っていた。そしてその隙を、ユウヤは見逃さなかった。
ユウヤは一気に急速反転させて、二発のミサイルを回避。36mmを短連射した。
勿論デタラメに撃った訳ではなく、ユウヤが撃った弾はMLRS装備機に直撃し、爆散した。
その後を追うように、今度はイーフェイ機と尚人機が一気に反転。不用意に近付いていた機体を交差する一瞬に長刀で斬り捨てた。
仮にも、彼らは試験部隊に選ばれる精鋭衛士。幾ら相手が対人仕様機とはいえ、戦術機運用の素人に、負ける訳がなかった。
更に、シン達歩兵部隊の援護も合わさり、一同はRLFの撃滅に成功した。
だがその中で、敢えて一機だけ残していた機体があった。
有人機の最後の一機だ。
両足を撃たれ、バランスを失った瞬間を狙って短刀で頭を破壊し、墜落させた機体だ。
『さて、こいつから情報を得られないか……』
『それは、私に任せてもらおう』
イーフェイが突撃砲を指向していると、不意に新たな声が聞こえた。
『サンダーク中尉!? いつの間に!?』
ふと気付けば、アルゴス小隊ハンガーの前に、サンダークが乗った高機動車が停まっていた。
『なに……まだ生き残っている部隊が居る筈だと思い、砲撃音がする方に来たまでだ……まさか、アルゴス小隊だとは思わなかったがな』
サンダークはそう言うと、スタスタとファイティングファルコンに近寄り、クリスカ機の手に乗って自身の端末とコクピット付近の整備用コンソールを有線接続した。
『ふん……なるほど……やはり、司令部棟は完全に制圧されたか……その手段は……なるほど、国連軍警備部隊の歩兵と衛士、整備士の中に紛れ込ませていたか』
『なっ……!?』
『それに、歓楽街にもシンパが居て、定期的に情報を送らせていたか……中々の手際だな……国連のザルな警戒網も合わせて、いい判断だ……なるほど、配送の会社もRLFのペーパーカンパニーの物にすり替えておいて、歓楽街各地に武器や強化外骨格を隠したか……』
『貴様……! 何処まで……!?』
サンダークがツラツラと上げる情報に、相手衛士は動揺していた。どうやら、大分核心的な部分を突いたようだ。
『だが、その目的は別にありか……それは……』
『……主よ、今そちらに……!』
サンダークが新たに言おうとした時、生き残っていた跳躍ユニットが甲高い音を上げ始めた。どうやら跳躍ユニットを使った自爆を狙ったようで、それに気付いたクリスカは素早くサンダークを守るために手を引いた。それと同時に
『キリスト教では、自殺は罪の筈では?』
尚人がそう言って、長刀をコクピットに突き刺した。
それにより、コクピット部分からはオイルが噴き出し、跳躍ユニットは機能を停止した。
『サンダーク中尉、先ほどの情報は……』
『なに、少し前までは私も司令部棟に居てな……その時に得ていた情報と擦り合わせた私の推論混じりだ……どうやら、当たっていたようだな』
今日は試験部隊の隊長達が集まり、会議する予定だった為に、サンダークだけでなくドーゥルも司令部棟に行っていた。
サンダークとドーゥルは何とかRLFの兵士から逃げると、一度隠れて話し合った後に別行動を開始した。
ドーゥルは単独でだが、少しでもRLFの戦力を削るために破壊工作を開始。
サンダークは司令部棟から脱出し、生き残った部隊との合流を目指したのだ。
『篁中尉、先ほどの貴官らの会話も聞いていた。我が方の警備部隊のハンガーから弾や推進材の補給を受けるべきだろう』
『サンダーク中尉……』
『もし、機密情報の漏洩を恐れているのならば、後程私が記録の抹消を行うことを確約する……それならばどうだ?』
サンダークの提案を聞いた唯依は、少し黙考してから
『分かった、サンダーク中尉……貴官の提案に乗らせてもらう』
そう答え、一同はソ連軍側の警備部隊ハンガーに向かったのだった。